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4_01_国は町から、町は家から

 イザベラの金鉱を制圧してから、一夜が明けた。


「……なんだこれ」


 昇りゆく朝陽が、昨日まで荒野だった(・・・)場所を燦々(さんさん)と照らしていく。

 徐々に明らかになっていくその光景に、俺の目は点になっていた。


「昨日解放した奴隷たちの住居です……いえ、もう彼らを奴隷と呼ぶのは失礼ですね」


 事もなさ気に述べるネオン。

 俺の眼前には、見渡す限りの、真四角な家、家、家。

 同じ形の横長の建屋が、縦横に列をなし、ずらり整然と並んでいる。

 昨日の夕方は、確かにただの更地だった場所が、一夜明けたら完全に町になっていた。


「夜通し作業してたとはいえ、一晩でこんなになっちゃうのか……」


 起きて早々、唖然(あぜん)呆然(ぼうぜん)となった俺は、昨日の金鉱制圧後の出来事を、走馬灯のように思い返していた。


***


「この場所なのか?」


 奴隷たちを解放した少し後。

 金鉱の穴から数10キロほど離れた地点に、俺とネオンはやってきていた。

 彼らの居住地を確保するためである。


「はい、真下を水脈が流れています。地盤も丈夫で、改良工事の必要もないほどに強固。ここであれば水を吸い上げても問題ありません」


 茫漠(ぼうばく)とした荒野の中、2台のゴルゴーン戦車と、40機のアミュレット兵が、広大な地面を(なら)している。

 ここに、仮設の兵舎を用意して、彼らの居住する家に改良するという。


「軍事力だけじゃなくって、工事の技術もとんでもないんだな……」


 辺りは石と岩だらけ。

 基礎工事にも相当な時間と労苦が伴うかと思いきや、2台のゴルゴーンの()くコンテナが通過しただけで、地面はあっという間にまっ平らになっていく。

 コンテナの下部で何かの装置が動いていて、地表を削っているらしかった。


「陣地構築用の造成コンテナです。今回は簡易堡塁(ほうるい)を築くための工作機械を数種類導入いたしました」


 ゴルゴーンだけでなく、アミュレット兵たちも、長くて太い鋼鉄の串のようなものを地面に突き立てている。


「こんな大規模に建築基礎を作るのを、簡易って言うっけ?」

「原始的な地均(じなら)しのことを、基礎とは呼びません」


 ネオンいわく、これはあくまで地面を平らにしているだけ。

 この地下に、色々な設備や装置を仕込んで初めて街と呼べるとかなんとか。


「衛生環境を整えるため、最低でも上下水道は整備します。地下水を組み上げるポンプ施設を設置し、地下に配水管を埋設します。本来であれば舗装や土壌改良も行いたいところですが、現状では保留せざるを得ませんね」


 例によって、難解な何かを言っているネオン。


「各家庭で新鮮な水をいつでも()めるようにし、排泄物も水で地下に押し流す、とだけ覚えていただければ」

「ああ、うん。それは便利そうで何より」


 わかってないけど、わかったことにしておこう。


「作業は夜通し行います。明日の朝には、それなりに形になっていることでしょう」


 ・

 ・

 ・


 で、翌朝出来上がっていたのが、これである。


「夜通し作業してたとはいえ、一晩でこんなになっちゃうのか」

「現地組み立て式の仮設平屋兵舎を、全部で100棟建設しました。1棟につき4部屋ありますので、ひと部屋に2〜3人で住めば、不足はしないでしょう」

「資材って、やっぱり基地から運んだのか?」

「ゴルゴーン8台でピストン輸送しました。組み立てはアミュレット兵によるものです」



 魔法のような奇跡的な芸当に驚いていたのは、俺だけではなかった。

 金鉱のある盆地から連れてきた奴隷たち、いや、西の大陸の民たちも、全員棒立ちになって与えられた住居を見つめていた。


『この便で最後よ』


 ゴルゴーン部隊を指揮するシルヴィが、隊長機から声をかけてきた。

 シルヴィは、8機のゴルゴーンに兵士移送用トレーラーなるものを複数台連結して、3度の往復で500人弱をこちらに運んでしまった。


「お疲れ様、シルヴィ」


 ちなみに、隊長機以外のゴルゴーンには、AI人格は搭載されていないそうだ。

 第17セカンダリ・ベースの保持戦力だけなら、戦闘指揮はシルヴィだけでも事足りるのだとネオンが言っていた。

 つまり、ネオンが戦況などの情報を収集して戦略を指示し、最前線でシルヴィが臨機応変に戦術を組み立てる、そんな役割分担がなされているらしい。

 これは、穿(うが)った見方をすれば、ネオンとシルヴィのふたりだけで、ひとつの大規模軍事拠点が制御しきれてしまうということでもある。


『向こうに残ってるのは、イザベラって女の私兵連中だけ。アミュレット兵とドローンに見張らせてるけど、従順なもんよ』

「暴れる奴はいなかったのか?」

『何人かいたけど、アミュレットが黙らせたら、他の連中も大人しくなったわ』


 きっと、赤子の手をひねるように、とんでもないパワーで鎮圧したに違いない。


『あと、リーダーの女は奴隷たちの慰み者になってるって嘘を吹き込んだら、いろいろと諦めたみたいよ』


 圧倒的な力を誇示され、雇い主が死ぬより酷い目にあっているとまで聞いて、無傷でいられるだけマシだと考えたのだろう。


「で、実際のイザベラは?」

『この便で一緒に連れてきたわ。部下と会えないように隔離しとくのも手間だったから。話でもする?』

「いや、いい。まずは西の大陸の民たちに、居住区について説明したい」


 抵抗できない人間に(むち)打つような趣味はない。

 それよりも、弾圧を受けてきた人たちの力になりたかった。


『そうね、ファフリーヤもあんたに(なつ)いてるし』

「ん? ファフリーヤ?」

『詳しいことはネオンに聞いて。物資とかの件で、部族のまとめ役たちと話をするそうだから』

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