表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/310

3_07_敵地制圧

「これが、金の採掘場か」


 偵察用ドローンが送ってきた高空からの映像を、俺は、走行中のゴルゴーンの席上で確認した。


 遠大なターク平原の一角に、地面が広く落ち窪んで盆地になっている場所がある。

 その真ん中に、大きな穴が空けられていた。

 この穴の下で、奴隷たちが強制的に金の採掘作業に酷使されているという。

 かなりの深さまで掘らせているとみえて、穴の隣には、大量の土砂がうず高く堆積(たいせき)していた。


「ファフリーヤの話によれば、奴隷たちは昼間は金鉱で坑道を掘り、夜は手狭な建屋に押し込まれているそうです」


 画面をズームアップする。

 盆地の(ふち)べり近くに、木組みのあばら屋が数棟と、少し離れた場所に丈夫そうな石の家屋、それに、背の高い(やぐら)が建造されていた。


「木の家が奴隷の飯場(はんば)。石の家が私兵団の宿舎。櫓は監視小屋のようですね」


 異国の言葉で、俺の膝上のファフリーヤに確認するネオン。

 ファフリーヤは、ネオンの言葉にしっかりと頷いた。


『外を見張ってる奴はいないわね』

「完全に油断しています。射程距離まで静音走行で接近しましょう」


 ・

 ・

 ・


 金鉱を視認できる距離まで近づいた俺たち。

 ネオンの指示で、ゴルゴーンの外に出た。

 ファフリーヤも一緒だ。

 流石に裸足で歩かせるのは酷なので、俺が背中におぶっている。


「乗っていなくていいのか? これから戦闘を始めるんだろ」

「戦闘機動の戦車内は、少々騒がしいですから」


 呑気にも聞こえる台詞を、ネオンはいつも通りの淡然さで口にする。


「では、一帯をスキャンしてしまいましょう」

BF(ビー・エフ)波レーダー【クレアヴォイアンス】、起動するわ』


 ゴルゴーンから、シルヴィの声。

 それを受けて、ネオンの赤い瞳が(ほの)かに光った。


「解析完了、結果を表示します」


 ネオンの手のひらが輝いて、立体映像が立ち上がった。

 映像には、向こうに見える宿舎と監視小屋、それに、地面の下の坑道らしき構造が、色分けされて表示されている。


「この金鉱の3Dマッピング・モデルです。坑道は最も深いところで地下73メートル、総距離は1683メートル」


 坑道は、いびつな螺旋状だった。

 傾斜をつけて穴を掘り下げながら、そこから幾つもの横穴が、木の根のように伸びている。


「地下の様子が、こんなに精細に掴めるんだな」


 常識を超えた現象にも、もはや、驚きもしなくなってきた自分がいる。

 むしろ、そのことに驚かされた気分だ。


「ゴルゴーンに搭載された【クレアヴォイアンス】は、障害物に阻害されない高精度のエリア・サーチが可能です」


 見えない場所までしっかり見渡せる……ってことなんだろう。たぶん。


「金が採れるところは地層が固いって聞いたことがあるけど、そういうのもおかまいなしに?」

「全く問題ありません。岩盤層程度であれば、BF(ビー・エフ)波エネルギーは阻害されることなく通過します」


 そのBF波とやらについて、ネオンの説明はこんな感じだった。


「BF波は障害物通過の際に微弱な反射波を返し、その反射波も大部分が障害物を通過してくることから、これを受信して内部の様子を知ることが可能です。また、通過できなかった反射波は、乱反射してノイズとなりますが、むしろそのノイズを検知し解析することで、内部構造のみならず、障害物の組成まで、高精度、高解像度で知ることができます」


 当然、全く理解できない。

 わかったのは、とにかく物凄い技術なんだろうってこと。

 そして、敵対者には逃げ道なんてないであろうこと。


「検知した動体を表示します。骨格と着衣の違いにより、奴隷とそれ以外を判別しました」


 立体映像上に、赤と緑、2種類の光点が大量に分布した。

 緑色のほうが、赤色よりも数がずっと多い。


「赤が134、緑が462です」

『赤いのが敵よ。全員ホーミングしたわ。いつでもやれるわよ』


 再びゴルゴーンからシルヴィの声。

 ネオンは、彼女に一時待機を命じて、代わりに俺の考えを聞いてきた。


「参考までに、司令官。あなたなら、今知っている情報で(・・・・・・・・・)どんな作戦を立案しますか?」


 これは、敵の情報という意味だけではないのだろう。

 味方の戦力も考慮したうえでの正解を試されている。

 従軍学校でも、よくこうやって教官にしごかれた。


「夜を待って宿舎を奇襲する。アミュレット兵たちをふたつの部隊に分けて挟撃する」


 俺は、立体映像の光点を指さしながら説明する。


「赤い光点、つまり商会の私兵団は、現在、坑道に満遍(まんべん)なく配置されてる。でも、一部は宿舎の一室に集中していて動かない。おそらくは昼夜交代で奴隷を見張っていて、今は夜勤組が寝ているんだ。言い換えれば、深夜に見張りに立つのはこの人数だけってことになる」


 大多数の日勤組が寝静まっている隙をついて、迅速に彼らを拘束、ないし殺害する。

 異変に気づいた夜勤組が駆けつけてくるだろうけど、アミュレット兵の膂力(りょりょく)と統率のとれた団体行動を見た限り、少人数の軍人崩れに遅れを取ることはないだろう。


『アンタの文明だったら、きっと100点満点の作戦なんでしょうね』

「やっぱり、もっといい戦術があるんだな」


 シルヴィの反応に、俺は、やはりそうかと得心(とくしん)した。

 敵の情報はほぼ完璧にわかっている。

 ならば、足りないのは味方の情報だ。


「司令官を(おとし)める意図はございませんが、そのような前々時代的な作戦は、我々の軍には不要です」


 ゴルゴーンが唸りを上げて起動した。

 正解を目に刻めとばかりに、車体を揺らしている。


『アミュレットを動かすまでもないわ。座標登録、ネルザリウスにデータ装填』


 ゴウンという低い音が、重厚な装甲の奥から響いている。

 これは、さっきの――


連続射出(シュート)!』


 ガチンという衝撃音を4度伴って、ネルザリウスが発射された。


『敵の密集地点4ヵ所に着弾。計14人が意識消失。異変に気づいて他の奴らが集まってきたら、第二射でまとめて気絶させるわ』


 生き生きと戦果を語るシルヴィ。

 3Dモデル上では、坑道の4ヵ所で赤い光点が動きを止め、そこに別の赤い光が集合している。

 彼女はそいつらも仕留めるつもりでいる。


「ネルザリウスって、地面の中も狙えるんだな」

「クレアヴォイアンスと同様に、BF波を用いる兵装ですから」


 再びガチンと射出音。

 第二射が放たれ、そして、すぐにゴウンと三射目が準備されている。


「シルヴィが言ってたとおりだ。戦闘の概念が全く違ってる」


 瞠目している俺に、ネオンが静かに頷いた。


「この索敵性能と攻撃特性の前には、隠密行動など意味がありません。BF波兵器は、従来のステルス機能を過去の遺物に追いやりました。ジャミング技術も、少なくとも終焉戦争勃発時点では確立されておりませんでした」

「じゃあ、ネオンの時代の戦争って、純粋に先手必勝だったのか?」


 先に探し当て、先に撃ったほうが勝つ。

 そんな戦いだったのだろうか。


「ある意味では間違っていません。撃たれる前に撃つのは大原則。仮に撃たれても、被害が出ぬよう防御する。逆にこちらは、防御などされない攻撃手段を選択する。これらの準備を、平時のうちに完了しておくことが最も肝要(かんよう)です」

「相手には殴らせず、こちらが一方的に殴れる条件で戦う……いや、そんな条件を確立したなら、もはや戦闘が起こらないんじゃ?」

「理屈の上ではその通りです。戦いは始まる前に終わっている。戦争のための軍備ではなく、戦争を起こす心を折るための軍備。いわゆる抑止力という概念です」


 思わず身震いしそうになった。

 彼女たちのいう軍事力は、俺の思ってる軍隊と根幹から異なっている。


『盛り上がってるとこ悪いけど、最後のひとりを倒しちゃったわよ』


 シルヴィの声。

 満足そうに、戦いの終わりを告げている。

 ネオンとしゃべっていたわずかな間に、金鉱の制圧作戦はあっさりと完了していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「ファフリーヤの話によれば、奴隷たちは昼間は金鉱で坑道を掘り、夜は手狭な建屋に押し込まれているそうです」 坑道の中までどうせ太陽の光が届かないのに、昼間しか働かせていなかったんや。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ