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3_06_好戦的なAIたち

「じゃあ、この先には人の集落どころか、(きん)の採掘場があるのか?」

「はい。平原地下の金脈に向かって、秘密裏に坑道を掘り進めさせているようです」


 得られた情報を、俺へと報告するネオン。


「秘密の金鉱か。掘っているのは、もちろん、まっとうな坑夫じゃないんだろ?」

「全員が奴隷のようです。この子、ファフリーヤと同じく、西海を越えた大陸から連れて来られた砂漠の民でしょう」


 後部座席に座る俺の、その膝の上に、褐色の少女ファフリーヤはちょこんと乗っている。

 水を渡した時は震えていたのに、その後はずっと俺の傍から離れない。

 今は背中を俺にもたせかけて、ぎゅっと腕にしがみついている。


「詳細な場所は、捕らえた5人への脳波干渉と、ファフリーヤの証言から絞り込み、エリア・サーチで突き止めてあります」


 たいして時間が経っていないのに、もう本拠地を突き止めてしまったそうだ。

 それに、『ファフリーヤの証言から』っていうことは。


「もしかして、もう、この子の言葉も全部わかるようになったのか?」

「基礎文法と、日常会話に必要な単語の6割ほどまで解析が完了しています」


 ネオンは、前方座席から立ち上がり、ファフリーヤのほうを見向くと、異国の言葉で話しかけた。


「エシィ、ラ、フォーハ、テイレ?」

「……ケート」


 短く答えたらしいファフリーヤは、しかし、ネオンに背を向けて、俺に縋りつくように抱きついた。

 俺は、胸に顔を埋めたファフリーヤの頭を、ゆっくりと撫でてあげた。


「警戒はしていますが、会話は拒みません。敵ではないと理解しています」

「その割に、俺とネオンで反応に差がないか?」


 言葉の通じるネオンよりも、通じない俺のほうに懐いているというか……


「ファフリーヤはあなたに対して、子どもが父親に抱く(たぐい)の安心感を得ているようです」


 これも、脳波とやらでわかるらしい。

 俺とこの子じゃ、父親ってほどの歳の差はないはずなんだけどな……

 しかし、ネオンの分析結果を証明するかのように、ファフリーヤは頭を撫でられながら、すやすやと寝息をたてて眠ってしまった。


 ネオンは気遣いからか、少し声量を落とした。


「加えて、彼女に残虐な行為を働いていた者のリーダーが、女性でしたから」

「あの5人組のリーダー株の女だな」


 裸足で逃げるファフリーヤを、執拗に銃で追い詰めていたあの女。

 今も後部コンテナの中で、意識を飛ばしたまま拘束している。


「帝国の名のある事業家の娘であるようです。軍と提携し、奴隷船貿易を行っているフレッチャー商会。司令官もご存知でしょう?」

「軍属で、その商会を知らない奴はいないよ」


 奴隷貿易は、軍部も絡んだ利権事業だ。

 現地人を捕縛するために帝国の兵士が多数動員される。

 そして、その兵士を、さらには捕らえた奴隷を運ぶために、大型船を提供しているのがフレッチャー商会である。


「商会は、軍には内密に私兵を雇っている模様です。我々が拘束した4人の男も隣国の元兵士。その私兵を使い、極秘裏に奴隷も集め、金脈の採掘に手を出した」

「そんなに詳しいことまで、脳波ってやつでわかるのか?」

「5人も尋問対象がいますので、確度の高い情報が得られています」


 淡然と、なんでもないことのように告げるネオン。

 彼女は更に、とんでもないことを口にした。


「奴隷に金脈。さっそく、国民と軍資金が手に入りますね」

「……マジで?」


 ネオンは、金鉱を坑夫の奴隷もろとも奪取するつもりでいる。

 しかも、まだ、攻めこんでもいないのに、勝利を絶対的に確信しているようである。


『当たり前でしょ。このゴルゴーンが、未開文明の――それも軍隊ですらない寄せ集め集団に、負けるはずがないじゃない』


 シルヴィも自信満々に言ってのけている。


「相手が、奴隷たちを盾にしてきたら?」

「問題ありません。その程度の作戦しかとれないようであれば、むしろ制圧時間が短縮できます」

『まさかアンタ。後ろで拘束してる女を人質にして交渉しようだなんて考えてるんじゃないでしょうね?』


 ……少しだけ考えていたことを、シルヴィに言い当てられてしまった。


「良策だとは思ってない。でも、うまく使うことは――」

「不要です」

『却下よ』


 ふたりしてダメ出し。

 俺は少しだけしょんぼりした。


「良い機会です。我々の戦力がいかなる次元にあるか、司令官にお見せいたしましょう」


 意外にも好戦的なネオン。

 いや、軍事施設の管理人格なんだから、これで正しいのか。


『アンタはどっしり構えてればいいのよ。旧人類とアタシたちとじゃ、戦闘の概念が違うってことを教えてあげるわ』


 こっちはこっちでやる気に満ちているシルヴィ。

 戦闘兵器の管理人格だけあって、とにかく血気盛んである。


「……わかったよ、ふたりに任せる。見事金鉱を奪い取って、奴隷たちを国民1号として迎え入れてくれ」


 俺が折れたその瞬間、ネオンとシルヴィが、ニヤリと笑った、ような気がした。

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