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ジーナ  作者: 伊藤 克
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九 魔術師の塔・ビルと魔法陣(二)

 ジーナはバウをビルの所に残して、ダンが鍛錬に使っている広場へいく。出来立てのダガーを使って剣舞をする。十センチ程長くて重い筈なのに重心の感触が今までのナイフとそう違わない。一通りの動作のあと、ゆれる木の葉に向かって斬りつけてみる。今までのナイフと違い、切れ味が鋭い。しかし大きさに慣れるまで時間がかかりそうだ。杖も試してみたが重さに振り回されてうまくさばけない。杖の方は明日、ダンに教わってからにしよう。

 鍛錬の後、バウを連れ、薬草探しをしながら川まで歩き、その川で泳いだ。どちらが目的なのか、判らなくなっていた。立ち泳ぎをしながら、落ちる滝の水に当たると心が清々しくなる。バウがジーナを鼻でつついた。草をかき分けて人の降りてくる気配がする。

 バウを抱いて、流れ落ちる滝の裏へ回った。幸いな事に、水に削られて出来た、隠れられる程のくぼみがある。表からは滝の流れ落ちる水がカーテンとなってみえないだろうが、隠れている内側からは水を透かして外側の様子が見える。

 男は小走りに滝へ近づいてくる。ジョンだ。ジーナは裸で鎖鎌以外の武器は持っていないので戦う事はできない。脱いだ衣類や荷物はそのままだったので、少し不安になった。


 ジョンは洞穴の奥に荷物を隠しながら呟いていた。

「畜生、あいつら俺から金を取っておいて逃げてしまうとはな。俺もぬかったぜ。しかし魔術師の塔にあるルロワの部屋に入ったはいいが、たいした金はなかった。それとも部屋をまちがえたか、最近ツキの無いことばかりだぜ。」

 ジョンには、あの小柄な女が影で邪魔をしている様に思えてならなかったが、過去に目の敵にされる程の事を起こした覚えもなかった。たかが町の女一人の誘拐ぐらい、何処の町にでも有りそうな事だし、これほど手こずるとは予想していなかった。

 この洞穴はひと月前、滝の上にある小道から足を滑らせて川に落ちた時に偶然見つけたもので、港町ギロの破落戸連中でも知っているものはいない。足の付きそうな盗品などを隠す為に時々利用していた。

「もう一度ルロワの塔へ盗みに入ってやる。絶対どこかに金目の物があるに違いない。」

 まさか目の敵にしているる女から見られているとは予想だにしていないジョンは、盗品を置いたまま洞穴を出た。

 滝に近づいたジョンの姿は滝の脇で一度熊笹に隠れたが、間をおかず出てきて再び滝の上の道を走り去った。

 ジーナは体が冷えてきたが、時間をおいてから滝の表側に出た。

 川から上がり、服を置いた所へ戻って素早く着替えをすませ、小道を滝へ向かった。草をかき分けて河原へ降りる。

 ジョンが消えた訳が分かった。茂った竹とクマ笹をかき分けると滝のそばにジョンが入ったと思われる洞穴があった。何度も滝にきているが、今まで気づかなかった。中を覗くと人が屈んで入れる程度の小さな穴で、奥は暗くて見えない。

 腰に下げていた、ビルが作ったお守りを手にして魔石の粉末をかけると、お守りにより洞窟が照らされる。ランプの代わりになりそうだ。ビルの魔法陣も捨てたものでない。すぐに右に曲がり、行き止まりとなった。意外と浅い洞穴だ。ジョンが隠したのか、荷袋が置いてある。

 あのジョンの事だ、どこかへ盗みに入ったのにちがいない。袋はそのままにしておいた。お守りのランプが次第に暗くなってくる。良く見ると、木製のお守りに古代文字で書かれた魔法陣に沿って光りが出ている。その魔方陣は時間と共に、燃え落ちる様に形が崩れ、変形していく。木ではなく金属で作れば長持ちするのではないだろうか。


 日暮れ近くなってから宿に帰った。

 今日もビルが先に席についていた。テーブルの上には革の切れ端が山積みしてある。

「こんなに沢山の革、どうしたの?」

「貰ってきた。タダだから安心して。」

 確かに細かい革の断片ばかりだ。中には細長い紐状のものもあった。

「ちょっとバウと待っていてね。」

 革の山を部屋へ運び、使えそうな切れ端数辺と、インク、ペンを持って下に降りた。

 ビルはすでに食べ始めていた。

 ビルのテーブルマナーを注意しながら食事を進める。音は相変わらず立てているが、テーブルはあまり汚さなくなった。

 食事が終わってから文字の練習を始める。

「ビル、この革になにかの絵を書いてちょうだい。」

「え、なんで?」

「まぁ、いいから。」

 ビルが日ごろ魔方陣を書いていた為なのか、器用にバデの身を書いた。ジーナはその絵の下にその名前をきれいなつづりで書き足した。

 ビルに革の切れ端へ絵を描かせ、ジーナが絵の下にその名前を書く。こうすれば描かれている絵と文字を見て一人で練習できるだろう。その文字を、ボードを使って繰り返し真似させる。バデの身の他にいくつかの動物の絵も描かせた。

 自分の描いた絵を使うのが良かったのか、今日は意外にはかどった。


 勉強が終わる頃エレナがテーブルに近づいてきた。

「ジーナ、この前はありがとう。」

「もう大丈夫なの?」

「平気、夜帰るときはお爺さんと一緒に帰る事にしたの。」

 エレナはテーブルの革の切れ端を見て聞いた。

「装飾品を作っているの?」

 文字の勉強をするのだ、とビルが答えるとエレナも欲しいという。

「私も文字の勉強をしたいのだけれど、その絵と文字が描かれた革、私にも分けてくれないかしら?」

「革に絵や文字を書き入れた後で透明な仕上げ材をぬる必要があるの。ビルが作ってくれるから明日にでも貰ってくれるかしら。」

「ありがとう。ビル、明日頼むわね。」

 ビルに作る様に言うとビルは喜んで絵を描いた。ジーナは文字を付けた後再びビルに渡し、仕上げ加工をする様に言った。


 コリアード王国の主要な町、公国では、貴族の子供が魔術師会の開く学校へ通っているが、庶民は学校へ行くことが許されていなかった。教育されていないと、王家が発行する文書も発令内容も正しく理解する事が出来ない。また契約書類も一部の貴族商人が有利な様に作られてしまう。特権階級の者達が民衆を意図的に文盲にしているとしか思えない。ケリーランス公国でもそうだった。

 教育を受けさせない事で差別と権力を強固なものにしているのだ。

 ガサの町の様に辺鄙な所では学校すら開かれていない。

 そういった訳でこの町には文字を読み書きできる人はまだまだ少なかった。

 今は王国の方針には逆らえない。堂々と文字を教える事は難しいにしても努力はしよう、とジーナは思った。


 エレナが厨房に入ったのを確認してからビルが作ったお守りをテーブルに乗せた。魔法陣の形に焼けた跡が付いている。


「ビル、不思議なものを見せてあげる。」

 魔石の粉末をごく少量振りかけるとお守りが淡い光を出した。ビルが凝視する。ジーナは光るお守りを手で隠し、当たりを見回す。気がついた者は誰もいないようだ。手の下でまだ光っているが、粉末が微量だったため徐々に暗くなる。

「明日、付き合ってくれないかしら。ダンには私から薬草取りの手伝いを頼むと言ってお願いしておくから。今の事はダンにも内緒ね。」


 翌朝、日の出前にジーナは目覚めた。鍛錬用の杖と新しいダガーを持ってダンの鍛冶屋裏の小山へ向かう。

 まだダンは来ていない。ジーナはバウを散歩に行かせると、いつもの瞑想を始めた。次に剣舞を始める。ダンが来た気配を感じたが一通りの動作をこなす。

「新しいダガーには慣れたか?」

「まだまだね。」

 ジーナはダガーを腰に戻し、杖を手に取った。

「体は温まっているわ。」

「目で覚えてくれ。いつもついて教える訳にいかないからな。」

 ダンは以前に持っていたのと同じボウスピアを持ち、使い方をジーナに教える。

「剣を持った敵が前にいる事を想像するのだ。」

「両足を肩よりやや広めに開き、右足を後ろへ引いて構える。腰を落として重心の移動を意識しながら体を動かす事が大切だ。どのような構えでもこれが基本形となる。両足でしっかり地面を踏みしめると体が安定するぞ。」

 ジーナはダンの隣でその形を真似る。

「敵の目から視線を外さず、スピアの先は敵の喉元を狙って構える。単純な付き技はこうだ。体を後ろへ振ってから狙いを定めてスピアの柄をしごきつつ一気に前へ体ごと突き出す。この時、体重をスピアに乗せる事が大切だ。ジーナは体重が軽いから思い切り良く、そして素早く動かないと敵の剣に受けられてしまうぞ。」

ジーナはダンの動きをなぞって体を動かした。

「次の攻撃に備えて素早く元の位置に体を戻し、重心を安定させる。そして次の技だ。」

 ダンは槍先を胸の位置に構える。

「スピアで敵の胸を突くがこれは牽制で、スピアの先を敵に剣ではじかせてから、スピアを半回転させて石突き側で敵の次の剣を受ける。こうして敵に気づかれずに半歩近づくのだ。そしてもう半回転させた槍先で敵の鎧の隙間を狙って突き刺す。喉元を狙うのも良い。」

 他にもいくつかの型をジーナに見せた。

「ジーナ、一人でやってみろ。」

 個々の型はチャンが教えてくれた剣舞に似ている。剣舞に置き換えれば覚えられそうだ。ジーナはダンの動きをチャンの剣舞に乗せながらなぞる。

「ちょっと待て。」

「ナイフやダガーなら手先で扱えるが、重量のある武器は小手先だけて扱うと手首を痛めるぞ。肩から肘、手首へと連動して筋肉を動かす事だ。それと重たいスピアや杖の場合は守り、攻撃によって武器の重心位置を意識して変えて握る事も必要だ。もう一度やってみろ。」

 ジーナは一連の動作に修正を加えつつ繰り返す。

「初めてでそこまで出来れば上等だ。理にかなった体技を身につけている様だな。体の重心移動もなめらかだ。体力が付けばスピードも増すだろう。毎日鍛錬するといいぞ。」

 もう一度ダンと並んで動作を繰り返す。日が少しずつ上ってくる。

「俺は仕事があるから帰るぞ。」

「ダン、お願いがあるの。探している薬草があるのだけど、ビルに薬草取りに付き合って貰ってもいいかしら?」

「ビルが薬草に詳しいとは思えないぞ。」

「違うの。道案内をしてもらうの。私、この辺の地理に詳しくないから。」

「明日は鍛冶屋の仕事が暇だから明るいうちに帰ってくるなら構わないぞ。」

 ジーナはダンが帰った後も二時間ほど丹念に復習を行った後、バウを呼び寄せて共に宿へ帰った。


 宿へ帰ると、エレナが何枚かの革の切れ端を持ってジーナに渡した。ジーナの部屋にある革とは別物のようだ。

「どうしたの?」

「ビルが町の人に頼まれたんだって。詳しい事はビルに聞いて。」

 部屋に戻り、革の切れ端を広げた。雑に描いたのか、下手な絵もあれば中にはきれいな花の絵もある。

 ジーナは絵を何枚か書き足した上で一枚一枚、丁寧に文字を書き込む。皆の手本になると思うと雑には書けない。下手な字を書くと、町中の人の字が汚くなる。子供の頃、読み書きをソフィーに教わっていて良かった。どこで何が役立つのか分からない。

 文字を初めてソフィーに教わるとき、面倒に思ったジーナが、「なんの役にたつの?」とダンに聞いたら、

『役に立つから覚えるのではない、覚えているから役に立つのだ。』

 といった。そのダンの言葉を思い出した。剣技も、目の前に敵が現れてから鍛錬したのでは間に合わない。


 夕方、ジーナは食事と文字の練習が終わったあと、出来上がった革の切れ端をビルに渡した。

「誰に頼まれたの?」

 ビルが街道沿いで店番をしながら文字の勉強をしていると、町の人達が寄ってきて、自分達も勉強をしたいと言うらしい。

「お金を取ってはだめよ。それと王国の警備兵に見つからないようにとみんなに言ってね。それから明日薬草取りに出かけるから道案内お願いね。」

 帰りかけるビルに釘をさす。

 ビルはいつもより熱心に勉強して遅めに帰った。

 ビルは文字をだいぶ覚えてきたが、数字を表す文字はよく書き間違えた。数字が読めて計算ができるからいいんだ、とビルは言い訳をした。

 書き間違えた文字がキーラに教わった古代文字に似ている事に思い至った。魔法陣が専門でなかったキーラだったが基本的な事は教えてくれた。しかしジーナが何回魔法陣を描いても、中央に僅かな煙が出る程度の効果しか出なかったので途中でさじを投げた事も併せて思い出した。キーラ自身も魔法陣は苦手だといっていた。


 ジーナがバウをつれてダンの鍛冶屋の前を通ると、ビルが厚手の服を着て待っていた。

「待ってたよ。薬草取りに行くんでしょ?」

「裏山の向こうに滝が有るのを知っている?」

「うん。」

「そこへいくわ。」

「夕べ板が光ったのは何だったの、ジーナは魔法使いなの?」

 ジーナの横を歩きながら話しかけてくる。ビルはジーナに母親の様な暖かさを感じていた。ジーナもお母さんと同じように古代文字を知っているのだろうか。


 ビルとジーナが薬草取りに出かけてしばらくした頃、ウイップのゼルダがダンの鍛冶屋に顔を出した。

「今日は留守番のチビ助は居ないのかい?」

「ジーナと薬草取りに出かけているよ、二時間位で戻るだろう。」

「あの娘は薬草の知識を持っているとは若いのに感心な事だね。」

「ビルと一緒だから子供の遊び程度だろう。一緒に遊んでくれるだけで十分さ。」

 ゼルダはジーナがテーブルに置いていった小柄な投げ矢を何気なく目に留め、手でもてあそぶ。

「そういえば白い狼には投げ矢を得意とする小柄な東洋人がいると聞いた事があるわ。一撃で人を殺せたそうよ。」

「この辺で東洋人の噂など聞いた事がないぞ。それに彼らが使う武器ならそんな小さなものじゃないだろう。」

「そうね。この辺に居るのは他所から来た破落戸ばかり。私の顔を知らない者が随分増えたわ。明日から北の方へ行ってみようと思うの。」

「北サッタ村へ行っても何もないぞ。おかしな噂も入ってこないし、お前の本拠地の首都へいった方が良いんじゃないか。」

「あら、私をこの町から追い出そうというの?」

「それより何しにここへ来たのだ。今日はビルがサボっているから俺は忙しいのだがな。」

「よく言うわ、自分からビルを遊びに出しておいて。もう行くわ。」


 ジーナ達は滝へやってきた。洞穴は丈の長い草で覆われていて遠目には存在が分からない。

「この前来た時に見つけたの、何もない洞穴よ、昼でも人目に付かないし暗いから良いと思ったのよ。」

「すごいや、良く見つけたね。」

 二人で中に入る。バウもついてくる。

「バウ、入り口で見張りをしていてね。」

 バウは洞穴の入り口に陣取る。

 洞穴の入り口付近、土が乾いている場所に二人は座った。入り口の草を通して明かりが差し込むが薄暗い。


 ジーナはビルから貰ったお守りを取り出す。

「ビル、この板に古代文字で魔法陣を描いたでしょ。誰に教わったの。」

「お母さんだよ。その板に描いたのは明かりの文様、でもジーナ、なぜ分かったの。魔術師じゃないってこの前いっていたじゃないか。」

「私は魔術師じゃないわ、旅をしている途中に出会った魔術師から教わったの。その人は何でも知っていたわ。私にも教えようとしたけど、素質がなかったみたいね。」

 ケリーランス公国で会ったキーラの優しい目を思い出す。もし、自分に母親がいたらキーラ位の年齢なのではないだろうか。僅か数ヶ月の付き合いではあったけれど、戦いさえ無ければ慈愛に満ちた日々だった。

「ビルはこの使い方を知っていたの?」

「いや、お母さんが遊びながら教えてくれたけど使い方なんて言ってなかったな。」

「見ていてね。」

 ジーナはポシェットから魔石の微量の粉末を取り出し、板に振りかけると魔法陣が描かれた板が光り出した。

「すごいや、その粉は何なの?」

「魔法の粉。」

 やがて魔石の粉末が燃え尽き、板は光を失い、魔法陣の形に燃え後が残った。

「本当は魔法の力を持っている人が古代語で魔法陣を読み上げる事で魔力を発揮するのよ。」

 この事を教えてくれたのもキーラだった。ジーナはキーラに教わった古代語を思い出しながら読み上げる。板は暖かみを増したが光を発するには至らない。心の中で失笑する。

「ビル、板を持ってみて。」

「暖かくなっている。」

「古代文字を読む事ができるでしょ。」

「うん。」

「板を持って古代語で読み上げてごらん。」

 ビルが読み上げると板が光り始めたがすぐに効果が失せた。魔法力が弱い為だろう。

「あなたはお母さんから魔法の力を受け継いだのよ。今はすごく小さい力だけど。でも気をつけてね。コリアード王家の魔術師は魔法を使える人を見つけ出しては殺しているの。だから決して他の人に知られてはだめよ。分かってくれた?」

「うん。」

 ジーナに返そうとビルが差し出した板と手にジーナが触れた瞬間、板が強い光を放ち燃え尽き、ジーナの頭の中に無数の魔法陣が飛び込んできた。ビルはその光に驚いている。ジーナもこんな経験は初めてだった。光に気づいたのかバウも振り向いてジーナを見つめている。

 今の光、そして無数の魔法陣は何なのか、ジーナには判断がつかなかった。その魔法陣がビルの覚えていたものである事をジーナが知るのはずっと後になってからだ。

 突然、もう一つの意識がジーナの頭に飛び込んで来た。気配、人か動物か分からないが、ビルでもバウでもない別の者の気配だ。その気配は板が燃え尽きると共に消えた。この場所に長くいないほうが良さそうだ。

「帰りましょう、この場所の事も内緒よ、それとならず者がこの辺りをうろついているから一人でこの洞穴に近づいてはだめよ。」

「まがい物の兵士の事だね。見かけたら逃げるようにするよ。」


 それは突然だった。闇の中で疲れ果て、失われつつある自我意識に突然正体不明の何かが触れた。ランプ一つない闇の中で一つの魔法陣が一瞬浮かんで消えた。実際の空間にではなく心の空間にだが。魔法陣の力が何処か近くで使われたのを感知したのだ。かつて自由に魔法陣を扱えていた頃を思い、涙を流す。闇に閉ざされてからどの位の時間が立ったのか、当初は過ぎた日を数えようとしていたが所詮闇の中、今では何日、何ヶ月過ぎたのかも定かではない。

 今の魔法陣は、瞬時に光の効果だと分かる簡単なものだった。しかし、その瞬間のパワーは上級者のものだ。西の果ての地、ガサの町に術者がいると言う噂を聞いた事はあるが、いざ到着してみると、上級の術者がいるような気配は全くなかった。そのようなパワーがある術者が十数年間も隠れ住んでいたとは思えないが何者なのか、自身を閉じこめた、あの、のろまでは無い事だけは確かなようだ。希望の光か、絶望の印かは分からないが新たな何かが起こりつつあるようだ。

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