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ジーナ  作者: 伊藤 克
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三十三 新しい仲間達・旅芸人の少女(四)

 サイラスの説明は齟齬が多く、アモスが縛られている事の説明もついていない。誰にでも分かる嘘だ。殺されては堪らないと思ったアモスが大声でわめいている。

「何を言いやがる、魔術師のサイラス様よ。お前がこの若者の財布を盗むようにと俺に頼んで来たんじゃないか。それがばれてこのざまだ。魔術師様の癖に、女子供に負けて失神させられるとは魔術師会も大した事はないぜ。」

 これ以上この男に話させてはいけないと思ったサイラスはダガーを持ってアモスに襲いかかった。サイラスにのしかかっていたハンスは思わずアモスの上から転がり落ちた。

 体が自由になったアモスは近くに落ちていたダガーを拾った。

「このやろう、魔術師会を侮辱しやがって。死刑だ。」

 アモスの腹にサイラスのダガーが突き刺さる。しかしサイラスも同時に倒れ込んだ。一瞬の出来事だった。

「俺だけ死刑になってたまるか。」

 そう呟いてアモスは事切れた。サイラスはすでに死んでいる。すぐ近くにいたハンスは呆然と死んだ二人を見ている。

 誰も話さない。シンディは青い顔をしてジーナの手を力一杯握っている。

 やや間があってヴァルは静かに兵士に命じる。

 荷車を借りてこい。この二人を魔術師の館まで運ぶのだ。


 兵士一人がテント村へいった。

「荷車をかしてくれ。」

 近くにいた子供が言う。

「兵隊さん、頭領が帰るまで待って下さい。そうでないと後で俺たちが怒られます。」

「頭領のアモスなら死んだ。魔術師のサイラス殿と相打ちになった。」

 テント村は騒然となった。

 荷車二台を引いた数人の旅芸人と兵士が山へ向かった。


 旅芸人達が引いてきた二台の荷車にアモスとサイラスの亡骸を乗せさせたヴァルは全員に指示する。

「ここにいる者は全員ついてこい。逃げようとした者はその場で罰を下す。」

 魔術師の館へ向かう途中、ジーナはフーゴに話しかけていた。

「私の事は良いわ、自分でなんとか出来るから。でも、シンディは助けてあげてね。」

 ジーナは指輪を嵌めたままでランダルと対面する自信は無かった。魔力を持たない普通の女性として対面するには、魔力を持つ異界の指輪を体から取る必要があると思ったのだ。大魔術師長のランダルの実力は侮りがたいものがある。異界の指輪であるアルゲニブに話しかけた。

『アルゲニブ、難しい状況なの。一度あなたを指から外すけどごめんね。』

 ジーナはアルゲニブの返事を待つ事なく、異界の指輪を外しポシェットにしまった。暗い中に放り込まれたアルゲニブだったが、ジーナとケルバライトが同一人物である事がランダルに知られてはならない。アルゲニブはポシェットの中で眠る事にした。

 一台の馬車に倒れていた二人を乗せ、馬車を借りてきた兵士が手綱をもって魔術師の館へ向かう。全員無言だった。途中で芸人キャラバンのテントから出てきた者たちが馬車をのぞき込む。

「こら、お前ら、あっちへ行け。」

 兵士達が彼らを遠ざけようとしても無駄だった。この出来事の噂はすぐにガエフ中に広まりそうだ。


 魔術師の館の三階にある会議室に関係者が集まった。

 ランダル大魔術師長が正面の席についていたが、円卓にはだれもいない。ヴァル、見習魔術師の二人、そしてジーナとシンディの五人はその部屋の入口近くに立っていた。

「誰か状況を説明したまえ。」

 ランダルが説明を求めた。

 フーゴが前に出る。

「魔術師の昇進試験を受けた後、私とハンスは広場の旅芸人の出し物を見に行きました。その時、私の財布が盗まれたのです。」

 そのフーゴの言葉にハンスが一歩前に出ようとした。

 嘘をいっているフーゴを見て、本当に奪われたハンスが反論しようとしたのだ。フーゴは睨んでそれを止め、次にシンディを指さす。

「その女の子が盗んだ男を見ていた様なので、私とハンスはその女の子が見たという男を追いかけて山へ行きました。その男はサイラス様と会っていました。会っていた事情を私達は知りません。私達が盗みを働いた男を縛っている時、通りかかったその女性とサイラス様が揉め始めたのです。気がついたらサイラス様は倒れていました。魔力の指輪が奪われたのは私一人の責任で、ハンスに落ち度はありません。あとの事はヴァル様がご存じです。」

 フーゴが話し終わるのを待ってジーナが話した。

「薬草取りから帰る途中、争っているのに出会いました。通り抜けようとしたらもみ合いになって、気づいたらその方が倒れていました。足を滑らしたところへ私の杖がぶつかったのかも知れません。」

 当たり障りのない言い方をした。

 ランダルはジーナの杖を見た。立派な彫刻に見覚えがある。ケルバライトの杖だ。注意して見ると背格好も体格も似ている。しかしこの娘は声も体も女性だ。ケルバライトの様な魔力も感じない。この女性はケルバライトの兄妹か、従者なのかも知れないと思った。

 このままではフーゴが処罰されてしまう、と思ったハンスは目に涙を溜めて泣くのをこらえていた。シンディは硬く口を結んで相変わらずジーナの手を握っている。

 ランダルは皆の顔を一人ずつ見た。ジーナはランダルと目があった瞬間、魔術の触手が心に忍び寄る事に気づいたが何もせず立っていた。

 ランダルには人の心を読む能力があった。読むといっても鮮明に分かる訳ではなく、魔力の種類や隠し事を関知するなどであるが、特に嘘を見破る力は現在の地位に就くのには役だった。

 ハンスとフーゴは隠し事をしているが、おそらくフーゴが罪を被ろうとしている為なのだろう事は判った。子供のシンディの頭は恐怖で一杯になっていて何も読み取る事ができない。ジーナからは何も感じない。魔力の影も見えない。

「ヴァル、続きを説明したまえ。」

「私がその場所についた時、旅芸人の男は縛られて転がっていて、サイラス殿は失神していました。サイラス殿を起こすと、突然旅芸人の男に剣を刺したのです。その時、旅芸人が持っていたダガーがサイラス殿の胸に刺さり、相打ちとなりました。」

 ヴァルは見たままをランダルに説明した。

「調査会を開く。主立った魔術師を集めてくれ。」

 命じられたヴァルは会議室を出た。


 部屋に兵士が一人入ってきた。

「ランダル大魔術師長様、町で火事が起こったようです。」

「警備隊長は知っているのか。」

「はい、いま出動の準備をしています。」


 魔術師の館の左隣の建物の前では警備兵が集まり騒然としていた。魔術師の館の北の方から煙が上がっているのが見える。近い所で火事が起きた様だ。

 コリアード王国では、消防専門の兵隊はおらず、非番の兵隊が中心となって消火活動を行うのが一般的になっていた。警備中の兵士が消火活動を行ってしまうと、火事の間に敵や賊に襲われた時、対応が出来なくなるからだ。

 警備隊長が大声をあげている。

「非番の班はどこだ。」

「第三班と四班です。」

「班長のアランはどうした?」

「隊長、アラン殿は魔術師サイラス殿の命令で北にある港町ギロへ出かけました。」

「なぜ、大魔術師長でもないサイラス殿が兵隊を動かす事ができるのだ。素直に従ったアランもどうかしている。私が指揮をとる。四班は先行して消火用の大樽に水を入れて集めておけ。剣と盾はいらないぞ。」

 十数人の兵士が館を出て行った。

 警備隊長のルイスは、アランが一般の兵士とは違う事を知っていた。アランは秘密にしていたが、彼はガエフ公国の領主であるロッド・ブランデルの末息子なのだ。魔術師ごときの命令に従わなくても良さそうなものだ。

 その事を知っているのは警備隊長の自分だけだった。何故かアランは自分の出生を秘密にしたがった。アランは、『領主の館は自分の叔父であるティム・ブランデルが実権を握っていて、館には自分の居場所がない。』とも言っていた。秘密にしたがるのは、その辺に事情があるのかも知れないとルイスは思っていた。

「三班は火消し道具を持ってこい。」

 火消し道具といっても水をかける為の柄杓、家を壊す為の鎚や鎌が殆どだ。いずれも鉄製の長い柄がついている。残っていた十数人がそれらを担いで走り始めた。

 火事は商人であるフレッドの屋敷だった。

 殆どが木造である民家で火事が発生した時は、近所の者が水樽を持ち寄って消火活動を行うが、駆けつけた警備兵は隣接する家を壊して延焼を防いだ。燃えなくても家が壊されてしまうため、どんな小さい火事でも被害が数軒に及んだ。火事は大変迷惑なものだった。

 しかし、フレッドの屋敷は敷地が広く、建物が全焼しても隣家に燃え移る可能性は無かった。従って隣家が被害を受ける心配は無かったのだ。

 先発隊は隣家の人達と共に四輪の荷車に積まれた大きな水樽を集めていた。

 五,六人の兵士が水を被り、建物の中へ入っていく。この屋敷の使用人や荷役人が水樽を担いでその跡に続く。

 消火といっても原始的なもので、燃えている所に水をかけて火を弱め、火消し道具で弱まった部分を壊していくのだ。

 土台が石造りの屋敷や館では、建物自体が崩れ落ちないので、燃えかすを屋敷から掻き出す事で鎮火していくが、全てが木造の民家の場合は燃えるにまかせるしかなかった。

 屋敷は、母屋の半分が燃えたところでようやく鎮火した。倉庫は無事だった。

 火事の跡特有のきな臭さが漂っている。

 辺りには消火の為に集められた大きな水樽が散乱しており、消火活動をした警備兵が後片付けを始めた。


 紙商人の隠れ蓑をきている盗賊のエドモンドと部下のラルフは、火事が起きている紙商人アレックスの屋敷前に立っていた。

 屋敷は、中央二階にある書斎を中心に半分焼け落ちている。

「ラルフ、倉庫の商品は私が貰うことにする。気の利いた物にアレックスの借用書を持ってこさせてくれ。それから旅芸人の所にいた、ナイフ投げの老人の様子を探ってくれ。そこに居ないはずだ。」

 ラルフが去って暫くするとエドモンドの部下が書類を持ってやってきた。

「この書類には、死んだアレックスに貸し付けた金の事が書いてある。これを持って警備隊の所へ行ってくれ。そうすれば焼け残った物全てが私の物となる。荷物は今日中に私の倉庫へうつしてくれ。長引いて面倒な事になっても困るからな。」

 部下の男は魔術師の館へ向かった。

 暫くしてラルフが帰ってきた。

「ラルフ、どうだった。」

「火事が起きた時、例の老人は芸人のテント村にいたそうです。」

「間違いないのか。」

「煙が上がった時には、それぞれのテントにあるランプに油を足して歩いていたようで、多くの芸人達が見ています。」

 アレックスの殺しを、旅芸人に紛れていた暗殺者の老人に依頼したのはエドモンドだった。偶然に火事が起きるなんて都合が良すぎる。この火事は間違いなく老人が起こしたものだとエドモンドは確信していた。あの暗殺者である老人は、自分が疑われないために何らかの仕掛けを施したに違いない。

「兵士達は燭台の蝋燭が倒れたのではないかと言っている。しかしこの火事は私があの老人に依頼したものなのだよ。ラルフはどう思う。」

「彼に部下がいた様子はありませんでしたがね。」

「ところで、死んだアレックスが殺そうとしていた商人のフレッドは生きているらしいぞ。」

「たしか、魔術師のサイラス様に殺しを依頼したのでしたね。」

「ダルコの宿で一緒に食事をした時にはそう言っていた。あれが彼との最後の食事となった。彼には可哀想だったが、私の身を守る為だ。仕方がない。」

「魔術師のサイラス様はアレックスの依頼を受けなかったのでしょうかね。」

「そんな事はなかろう。ラルフ、フレッドが優秀な傭兵を雇っていたとしたらどうだ。」

「襲撃したが失敗した、という事ですか?」

「興味がある。明日、フレッドは北にある港町ギロに帰るらしい。コルガかダルコの村でたむろしている破落戸共を雇って襲ってみてくれ。」

「破落戸どもが失敗したらどうします?もう一度おそいますか?」

「放っておいて構わんよ。北の町に関心はないからな。だだ、私の知らない勢力があるとしたらその方が問題だ。早く知っておきたい。私達の事を他の者に悟られるなよ。」


 魔術師の館では、魔術師達がサイラスの件についての調査会に参加する為に、魔術師達が会議室へ入ってきた。その魔術師達を見たシンディは声を出して泣き始めた。芸人のテント村へ出入りしていた魔術師がアモスと同じ様にシンディを虐めていたのだが、その虐めの魔術師が大勢集まってきて、自分をいじめるのではないか、とパニックに陥ってしまったのだ。

「ごめんなさい。」

 ジーナは誰へとも無く謝ってからシンディを抱き上げ、赤ん坊をあやすようにジーナの腕の中であやす。ジーナは、シンディが大きい赤ん坊だと思う事にした。この子はきっとお母さんの慈愛を知らないに違いない。母親がジーナを抱きしめてくれた様に。ローゼンと別れてから時々妄想する幸せな記憶。ジーナにはローゼン以外の人の記憶は無いはずなのに、抱きかかえられた時の母の体温の記憶、懐かしい母の体臭の記憶が蘇る。妄想で済ませたくない幸せな妄想。

 シンディはジーナの肩で声を殺して泣き続ける。小さな背中を撫でながらジーナが部屋を出ようとするとランダルが止めた。

「部屋を出てはいけない。皆、幼い子の事だ。許してやってくれ。ヴァル、経緯を説明するように。」

 ヴァルがフーゴやジーナの説明、自分で見た事をかいつまんで説明した。

 魔術師の一人が疑問を挟む。

「所詮見習魔術師の言う事だ。嘘かも知れぬな。サイラス殿がその様な無謀な事をするとも思えないが。」

「どなたか、サイラス殿の執務室へ行って今回の事件に関わりのある証拠の品が無い事を確認して欲しい。重要な事であるので三人で行くこと。鍵は壊して良いぞ。本人が死亡しているのでな。」

 ランダルの指示に従い魔術師三人と兵士二人が何処かへいった。魔術師が命令行動を行う時、必ず兵士が付きそう事は習慣になっていた。魔術師が魔力を行使する為に古代語を唱えている間は無防備になるので、兵士が護衛をするのだ。

 ジーナは重たいシンディを抱き上げたままだった。

『アルゲニブ、力を貸して。』

 そう言ってから異界の指輪を外していた事を思い出した。最近は無意識にアルゲニブに頼ってばかりだ、とジーナは少し反省した。シンディを抱えた腕はもう少し持ちこたえられそうだ。毎朝のダンとの鍛錬がこんな役立ち方をするとは思わなかった。

 窓が開け放しになっていて、秋風が冷たい筈だが、大勢の人が集まっている会議室は汗ばむ様だった。


 やがてサイラスの執務室にいっていた魔術師三人が帰ってきた。手には何通かの手紙を持っている。

「ランダル様、残念ですが証拠の手紙が見つかりました。」

「何処にあったのだね。」

「サイラス殿の机の引き出しです。兵士が机の引き出しを斧でたたき割って開けました。」

「読み上げてくれたまえ。」

「サイラス殿、盗み聞きのための使い魔としてネズミ一匹借用の事。金貨一枚。紙商人アレックス。」

「大した中身ではないな。よくある普通の取引だ。」

 ジーナはダルコの村の北にいる紙職人、クリフの作業場で見つけたネズミの事を思い出していた。

「サイラス殿、魔力の指輪買い上げの事、金貨二十枚。なお、この事で裏切り行為があった場合は当方で預かっている例の書類を世間に公開する準備がある。紙商人アレックス。」

「アレックスなる商人との手紙や書類がまだ他にもありますが。」

「もう良い。部外者のこの者達に聞かせる訳にはいかない。」

「サイラスが悪巧みをしていたのは本当の事のようだ。皆にいう、ここにいる、魔術師になったばかりの若い二人には罪はないと思われるが意見があれば挙手をするように。」

 一人が手を挙げた。

「サイラス殿の罪は明らかですが、魔力の指輪を盗まれた二人も無罪というのでは示しがつきません。」

 その問いにランダルは答えた。

「二人には罰としてガサの町にある魔術師の塔で下働きをする事を既に命じてある。しかしそなたがいう様に、それだけでは足りないかも知れないな。」

 少し考えてからランダルは二人にいった。

「魔術師試験に合格した二人だが、ガサにいるレグルス殿が許すまで見習い魔術師に降格する。二人ともレグルス殿から許可をいただけるよう、頑張るのだな。レグルス殿の許可が下りない限り、一生見習い魔術師のままになるのだ。わかったか。」

 魔術師全員が頷いた。レグルス師の性格からして、見習いであろうと、中級であろうと、魔術会が持つ魔術師の階級にランダル師はこだわらないに違いない。きっと若い二人を正しく指導してくれるだろう。

「サイラス殿の件は微妙な問題を含むので、部外者の若者たちが去ってから議論する。異議が無ければこれで閉会とする。」

 ランダルは若い二人に向き直って言った。

「今日から正式の魔術師となったのだ。正式のマントを買うがよい。勿論、見習いに降格された事は忘れるなよ。」

 その時、若い兵士が息を切らして入ってきた。ランダルがたしなめた。

「魔術師会が開く調査会に許可なく入室してはならん。」

「申し訳有りません。ガエフの町で火事騒ぎがありました。」

「火事の事なら先ほど聞いたぞ。」

「警備隊長へ『商人のアレックスの屋敷が火事だ。』と伝えましたら、急ぎランダル様にお伝えしろ、との事でしたのでこちらへ来ました。商人のアレックスは焼け跡から遺体で発見されました。」

「火事の規模はどうなのだ。隣の建物は大丈夫なのか?」

「はい、商人の書斎を中心に焼けたようです。商人の屋敷は敷地が広かったので助かりました。」

「原因はなんだ。」

「部屋の蝋燭が倒れて火がついたようです。外から放火された形跡はありませんでした。」

「分かった。今日の調査会は閉会とする。商人アレックスとサイラスの件については詳細を確認してから改めて調査会を開催する。」

 異議を唱える者は誰もおらず、閉会となった。魔術師達は部屋を去った。

「シンディ、よかったね。私と一緒にガサの町に行こう。」

 ジーナはシンディに話かける。

 最後までいたランダルは去り際に小さな声でジーナに言った。

「ケルバライト殿によろしくな。」

 ジーナは一瞬体が硬直したが、同一人物と思ったのではなさそうだ。ケルバライトと自分に何らかの関係がある事をランダルはどうして知ったのだろうか。持っている杖の紋章を見られたとは思っていなかった。


 フーゴとハンスは部屋の隅で静かにしている。会議室は四人だけとなった。

「明日の朝、私はガサの町に向かうのだけれど護衛をしてくれないかしら。朝、道草亭の前で集合してね。」

 二人は無条件で頷いた。

「でも支払うお金はないわよ。シンディに取られたままだからね。」

 笑いながらジーナに抱かれたままのシンディの顔を見た。涙で目を真っ赤にしたシンディも笑っている。何処かで聞いた事がある商人の名、アレックスについては忘れる事にした。


 魔術師達が部屋からいなくなるとシンディはジーナの腕から降りた。涙は乾いていた。

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