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ジーナ  作者: 伊藤 克
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三十  新しい仲間達・旅芸人の少女(一)

「三章 見習魔術師」では若い魔術師の生活が中心となります。

 一章では暗く、禍々しかったガサの町にある魔術師の塔が、明るくて生気あふれるものに変わっていきます。

 ハンスは魔術師の館を出たあと、領主の館前にいる旅芸人を見に行くことにしていた。魔術師の証であるペンダントを、フーゴは首からかけて懐にしまったが、ハンスは魔力の指輪と一緒に財布に仕舞い、背の荷物の中に入れた。

 その様子を、毛皮を着た男が盗み見ていた事に二人は気づかなかった。

「フーゴ、港町ギロに帰ったら当分自由な時間がなくなるから今の内に楽しもうよ。宿の主人が、ガエフ公国の領主の館前に旅芸人が来ているといっていたよ。」

「俺はすぐにでも帰りたいのだけどな。もう見習いじゃないんだからさ。」

「今日だけ。いいだろう?」

 二人は連れだって領主の館へ向かった。


 魔術師の館の門で二人と別れたジーナは人気がない館の裏へ回った。女性の姿に戻り、バウの鎖帷子を外して白毛に戻した。魔術師を示すペンダントは服の内側にしまった。金属の冷たさが胸に当たる。

 フレッド親娘が宿泊している道草亭へ向かうと、昨日と同じ男がカウンタにいた。

「お嬢さん、今夜もお泊まりですか、お父さんにはあえたの?」

 カウンタの男は十五、六歳に見えるジーナが旅慣れているのを不思議に思っていた。その年代の女の子が一人旅をするなどあり得ないし、一人では食事もままならないのが普通だ。ジーナが居酒屋へ平気で出入りしているとは思っていなかった。

 当然近くに父親がいて、何らかの理由で一人だけこの宿へ泊まりに来ていると考えていた。

 男は相変わらず子供扱いをしてくるが、ジーナは無視をして宿賃を払った。外はまだ明るい。商人のフレッドは今頃商売相手の所へ行っているだろうが、夕べ気絶して運ばれた娘はおとなしくしているだろうか。

「今日は大通りの先にある広場に旅芸人が来ているよ。見てきたらどうだい。祭りにかぶる黒い帽子なら通り沿いの小間物屋でうっているよ。」

 百年以上前までは秋のこの時期、バリアン大陸のどの町でも祠祭館が主催するナンナの神に捧げる祭りを行っていた。ナンナの祭りとは、月の神へ捧げる祭りの事で、穏やかな冬への願いと、収穫できた事を神に感謝する祈りだ。

 地域によって黒いスカーフを巻いたり、黒い帽子をかぶったりしたがいずれにも星を表す五角形の飾りを付けていた。三日間の祭りが終わると、その飾りは取ってしまうが、黒い帽子は儀礼が必要な時に頭にする事が多かった。貧しい人々は衣装を着飾る余裕はなかったので、その黒い帽子だけが儀礼として意味を持つのだった。もちろん、お洒落着の一つとして普段使いする者も結構いた。

 しかし、コリアード家の魔術師会は、『この世に神はいない。世界を統治するのはコリアード王だけだ。』として、祠祭師館の行事を全て拒絶してきた。

 ガサの町へ来るまでの数ヶ月、ジーナは、逃げ回る盗賊の様に世間へ背を向けた生活をしてきた。祭りの様な、人が集まる場所には近づかなかった。良い機会だ。祭りの賑わいを覗いてみようと思ったジーナは荷物を背負ったまま、バウを連れて広場へ向かった。

 魔術師になったり、剣や杖の鍛錬をしたり、男と変わらない生活をしているが、どこかで、女の子の部分が顔を出す事もあるのだなと、異界の指輪であるアルゲニブは思ったが、余計な事だと思い、黙っていた。


 途中に、宿の男がいっていた小間物屋へ寄った。確かに表には様々な黒い帽子がつんであった。

「お嬢さん、旅の途中なの?」

 ビロードのエプロンを着けた店の女性が話しかけてくる。

「あなた、素敵な黒髪をしているわね。可愛いからどの帽子でも似合うわよ。」

 そういって鍔の広い、花飾りのついた帽子を進めてくれた。被ってみるが、どうも自分のイメージとは違う。

『ジーナ、可愛いぞ。その帽子を被れば少しは女らしく見えるのではないかな。』

 異界の指輪のアルゲニブは心の中で話しかけてくる。

『アルゲニブ、女の買い物に口を出すなんて失礼よ。黙っていてくれる?』

 本当に怒っているのでは無い事を知っているアルゲニブは、今度はまじめな口調で鍔のついていないバレット帽を勧めた。

『こちらの鍔無し帽子の方が旅の邪魔にならないのではないか?』

 ジーナは、上が平らになっている、丸いバレット帽子を手にとった。下側が折り返してある、薄いフェルト生地を使っているその帽子は簡単に折りたためた。旅には便利そうだ。緑がかった黒色を選び、被ってみる。

「それは男物の帽子よ。可愛い子なのに、男物が好きなのかしら。でも、真っ黒ではないから普段使いができるわね。」

 店の女性は不満そうに言いながら、奥からクリーム色のリボン生地を持ってきて帽子の折り返し部分に巻いてくれた。

「こうすれば、女の子らしく見えるわ。」

 店員は、五角形の飾りがついた帽子を被せた後で小さな鏡を貸してくれた。

 ガサの町で見かける鏡は銅板に銀を貼り付けてから磨き込んだもので、不鮮明な像しか映す事ができず、祭事の時に使用する程度であるが、この店にある鏡面の銀は滑らかに張り付いており、水面の様な鮮明な像を見る事ができた。

 鏡の中には、帽子をやや斜めに被った、黒い瞳の少女が映っていた。

「この鏡は何処で売っているのかしら。」

「最近発見された水銀という物を使っているのよ。今までの銀板の鏡と違ってよく映るでしょ。この店でも売っているわよ。高いけれど。」

 ジーナはリボン付きの帽子と、同じ長さの黒いリボン生地を二本買った。飾りボタンも合わせて買う。男の姿をする時には黒いリボン生地につけ換えれば良いと思いついたのだ。残り一本は今日の祭りにバウの首に巻こうと思った。鎖帷子以外の衣装や装飾品と無縁な雑種犬のバウにもお洒落をさせてみたくなったのだ。

「あなた、腰にチェーンを巻いているのね。飾りをなにか付けないとお洒落に見えないわ。」

 店員は鎖の上から巻いた帯から除く鎖に気づくとそういい、純金製の小さなメダルを持ってきた。花をモチーフにした模様が彫ってある。

 手にとってみるが偽物ではなさそうだ。

「いくらですか?」

「銀貨一枚ね。」

「もっと大きなのはありますか?」

「でも高いわよ。」

 そういって重さが三十グラムを超えそうなメタルを見せてくれた。

「これは貴族の方か、魔術師の方が購入されるわ、金貨五枚よ。子供のあなたには買えないわね。」

 コリアード王国で流通している金貨は純金ではなかった。二十年前まで大陸で流通していた金貨は純金だったが、ダンク・コリアードが王となってからの金貨は、見かけは同じだったが軽かった。

 商人達の間で噂となっていた金貨の混ぜ物の事は今では有名な話で、その為、金貨とは異なる、純金のメタルが売られるようになった。純金の塊を入手できない町の人達でも、純金のメタルは入手可能だった。飾り職人に渡せば、装飾品に打ち直してくれたのだ。

「お父さんと相談してからきます。鏡を下さい。」

 黒いビロードの袋に入った鏡を手にして店を出た。

 アルゲニブが話しかけてくる。

『ジーナの顔を初めてみたぞ。なかなか可愛いではないか。』

『あなた、今までご主人様の顔を知らずにいたの?』

『ジーナが今まで鏡をみる事がなかったからな。想像していたよりも良いぞ。』

『褒めても何もしてあげられないわよ。』

 確かに指輪のアルゲニブにしてやれる事はなかった。

 北サッタ村からケリーランスに出てきたばかりだった三年前は、棒の様に痩せて日焼けしていたジーナは可愛いとは言われなかった。店の女性の言葉は嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。ガサの町の女達が、黒髪を垂らしたジーナを可愛いと言ってくれたのは案外本心だったのかも知れないと思い返した。

 アルゲニブは、鏡に映った可憐なジーナを見て、どんな事があってもこの娘を守ろうと思った。それが父親の様な気持ちなのか、恋心なのかは不明だが。もっとも指輪の恋心は相応しくはないが。


 カテナ街道の突き当たりに小山が見えて来た。どうやら街道はここが終点らしい。

 想像していたよりも遙かに高い山の前には城とも言える大きな館が建っている。

 この山が、嘗てガエフの農民達が周辺の土地を平らにする為に削った残土を積み上げてできたのだとしたら、その年月と労力は計り知れない。

 その館の前には円形の広場があり、中央のポールにはコリアード家の紋章を刺繍した旗が風に揺れている。

 コリアード家の紋章は、最上部に二枚の楓をモチーフにした飾りが付き、盾の左右を虎が支えているもので、盾の上半分にはガエフ公国の紋章である牛をモチーフにした文様が描かれている。牛に似てはいるが巻き込むように生えている巨大な角が特徴となっている。ベース部分にはガエフ公国を表す銀杏の葉が描かれている。

 中央のポールを取り囲む様に、派手な昇り旗を立てた屋台やジャグリングをする旅芸人達がいる。更に外側に、それらを囲むように人だかりが出来ている。ジーナの様に荷物を背負った旅人らしい人も沢山いた。

 人々は皆、暗い色の帽子を被っていた。フェルト製の帽子、ビロードの帽子、鍔のある物、飾りがついたもの等形は様々だが、どの帽子も黒に近い濃い色をしている。


 バウとお祭りらしい気分を味わおうと思ったジーナはバウの首に黒いリボンを付けた。リボンが嬉しいのか、ジーナに構ってもらえるのがうれしいのか分からないが、さかんに尻尾を振って愛くるしい顔を寄せてくる。

 ジーナは広場の雑踏から離れた木立にもたれかかってバウの頭を撫でながら雑踏を眺めていた。

 梯子乗りの芸人。二メートル程の、なんの変哲もない木製の梯子だが、何処に寄りかかる事もなく立っている。最上部にいる芸人は逆立ちや、片手乗りをして芸を披露していた。

『魔力ではなさそうだわ。上手ね、よく梯子が倒れないわね。体技だけであれ程の芸をする事は私には無理だわ。』

『ジーナは背が低いからあの大きな梯子を上り下りすのは多変だろう?スカートでは下着が見えてしまうぞ。』

 アルゲニブのその言葉にジーナは不機嫌に返した。

『アルゲニブは無神経という言葉を知らないの?女の子にそんな風に言ってはだめなのよ。』

『無神経とはなんだ?精神攻撃の事か?そう言えば前のご主人様も精神攻撃を』

 そこでジーナはアルゲニブとの会話を打ち切った。アルゲニブは、今の会話の何が、今のご主人様であるジーナの機嫌を損なう事になったのか理解できなかった。

 不機嫌に会話を打ち切ったジーナだったが、友達の意味を知らなかったアルゲニブは不機嫌の意味もしらなかったのかしら?と後で思った。

 梯子乗りの隣では絵描きが三人家族の似顔絵を描いていた。

 結婚したときや子供を職人の家へ修行に出す時等は、記念となる家族の絵を、祭りに来る流れの絵師に描いて貰う事が習慣となっていた。必要とした時に似顔絵師を呼びつけ、色つきの絵を描かせるためには法外な金がかかったし、本職の絵師は大きな町にしかいなかった。そのため、色付きの似顔絵は、貴族や一部の金持のものだった。

 それに比べ、祭りの時にやってくる似顔絵師は、炭だけで描く為黒一色の絵だったが安く、一般の人も描いて貰う事が出来た。似顔絵師の中には全く似ていない絵を描く者もいたが、貧しい人達の記念絵画としては十分だった。

 逆に、貧しい服装を着飾った服装に変えたり、整った顔に描いてくれたりする絵師に人気があった。

『ジーナも描いてもらえ。』

『いやよ。恥ずかしいわ。』

『いつまでも若くは無いぞ。描いて貰うなら今だと思うがな。』

 うっかり口が滑ったとアルゲニブが気づいた時は遅かった。ジーナの怒りが指を通してアルゲニブに伝わってきた。今日のジーナは怒りっぽい。いつも以上に会話に気を遣う必要があるかもしれない、とアルゲニブは思った。

 火吹き男もいた。空き樽に乗り、口から炎を吐いている。口上を言っている様だが、此処までは聞こえてこない。

『炎は魔力を使っているわね。でもどうやったら目の前で火の玉にする事ができるのかしら。炎の矢なら物に当たるまで飛んでいってしまうわ。』

『ジーナ、あれは口から吐いた油に魔力で火を付けているのだよ。魔力が小さくても出来る芸だな。』

『アルゲニブは詳しいのね。』

『あの男、左手に壺を持っているではないか。良く見れば分かる事だ。』

『お金に困ったら私も芸で稼ごうかしら。』

『ジーナ、お願いだから人込みで火系の魔術を使うのは止してくれ。それより左を見ろ。ナイフ投げの曲芸をやっている。ジーナが曲芸をするならナイフ投げが良いのではないか?』

 木の板の前に女の子が立っていた。板には何本かのナイフが刺さっており、数メートル離れた所では上半身裸の男がナイフを構えている。

『あの子みたいに薄着になってナイフの的になるなんていやよ。六歳位かしら。寒いのに可哀想だわ。』

 ジーナの声が届いた訳でもないだろうが、ナイフを構えた男が芸を止めて小道具を片付け始めた。女の子もいつの間にか消えていた。


 広場の喧噪、笛やリュートの音が聞こえてくる。そして人形劇の声。過去にも聞いた事があるような気がする。

 高い部屋の窓越しに見える楽隊や人形使い達、派手な昇りを立てた屋台と行き交う人々、メイド達のたわいもないうわさ話。何処かで体験したのだろうか、幻想のような遠い記憶。

 顔を上げると幅三メートル程度の人形劇舞台が見えた。背景に城の絵が描かれ、主人公らしい女性の人形、召使いの人形が数体、舞台の上で演技をしている。隠された舞台の下には人形使いがいるのだろう、人形の体や腕には棒がついていてその先は舞台下に消えている。

 人形劇の前には見習魔術師のハンスの姿もあった。ガサや港町ギロには来ない劇が珍しいのかも知れない。

 屋台が沢山出ていた。どれも小さな荷車の木枠を派手な布で飾り、四隅に立てた棒の上に、これも派手な布を張り、屋根代わりにしている。荷台には果物やパン、菓子などを山積みにしている。

 ハンスとフーゴにとって百人以上はいそうな人混みと、屋台や旅芸人の出し物が珍しかった。


 農村といってよいガサの町では百人もの人が集まる事などあり得なかった。人が増えた港町ギロでも、百人以上の人が集まるのは軍隊が集合した時くらいのものだった。そんな辺鄙な町に旅芸人が来るはずもなく、目の前の光景はハンスとフーゴにとって初めてのものだった。

 ガサの町にも月の神、ナンナの祭りはあったが、ガエフ公国の様に派手で賑やかなものではなく、村人が集まって静かに神に祈りをささげた後、飲食する程度だった。

 ガエフの町で決まりとなっている黒い帽子を被っておらず、見習魔術師の短いマントを羽織った二人は祭りに来ている人の中でも目立つ存在だった。ジーナは物思いに浸りながら、意味もなく二人の動きを目で追っていたが、二人は屋台へ移動したようだ。ジーナは人形劇を見続けた。


 屋台の砂糖菓子に目がいったハンスがフーゴに話しかけた。

「ねえ、あの砂糖菓子欲しくないかい?」

「俺は小遣いが少ないからな。いらないよ。」

 ハンスは財布から小銭を出してフーゴに渡した。

「僕がおごるから買ってきてくれないかな。」

「君、また太るよ、魔術師らしくなくなるよ。」

「平気さ、サイラス様だった太っていたじゃないか。」

 小銭を受け取ったフーゴは露店へ砂糖菓子を買いにいった。

 フーゴが目当ての菓子屋台の行列に並んだ事を確認したハンスは、財布を握ったまま梯子乗りの芸に見入った。

 

 ジーナとは別にハンスの姿を目で追っている五、六歳の少女がいた。ナイフ投げの的になっていたシンディだ。芸で着ていた衣装は目立たない服に着替えていた。

 旅芸人に育てられている孤児のシンディは、老人がナイフを投げる出し物の的になっていた。大きなテーブルの上に立てられた板の前で、薄く派手な衣装で立つと老人が体すれすれにナイフを投げるのだ。この技は、数ヶ月前にナイフ投げ名人の老人が参加してから行われる様になった。

「薄い服は寒いし、恥ずかしいわ。」

 シンディがそう言うと、ナイフ投げの老人が言った。

「服が薄くないとお前の体の境が分からないだろう。だからといって裸で行う訳にはいかん。お前が厚手の服を着たらワシは手元が狂って傷をつけてしまうかも知れん。我慢しなさい。」

 こじつけだろうとは思ったが、子供のシンディは納得する事にした。少なくともそれまで首領のアモスにやらされていたスリや置き引きよりましな仕事だと考えていた。何回盗っても人の物を盗むのに慣れる事が出来なかったからだ。

 今日に限って老人は朝から姿を見せなかった。珍しい事だ。そのため、老人からナイフ投げの手ほどきを受けている男が代わりを務めていた。

 芸の途中で、観客に混じって見ていたアモスから中止する様、指示が出た。シンディがアモスの所へいくとスリを行え、と命令されたのだ。そして今、普段着に着替えたシンディはアモスが説明した獲物の後をつけていた。


 人形劇を見ていたハンスの足下で小銭の落ちる音がした。見ると粗末な格好をした女の子が屈んで泣いている。

「君、どうしたの?」

「お金を落としちゃったの。」

 貧しく汚れた服を着ている女の子は菓子をかう小銭を落としたのだろう。同情したハンスは小銭探しを手伝う事にした。

「じゃあ、僕も手伝ってあげるよ。」

 手にしていた自分の財布を背の荷物に押し込んだハンスは、女の子と一緒に屈んで小銭を探す。人が行き交う雑踏の中での小銭探しはなかなか難しい。何枚かの小銭を拾った時、屈んで地面を見ているハンスの頭の上でフーゴの声がした。

「ハンス、どうしたんだ?」

 両手に屋台で買った砂糖菓子を持ったフーゴがいった。

「フーゴ、この子がお金を落としたんだって。」

 ハンスが屈んでいた体を起こすと、お金を落としたといって泣いていた女の子がいなくなっていた。

「今、ここに女の子がいたでしょ?」

「俺が来た時にはハンス一人だったぜ。屈んで変な格好をしているなと思ったんだ。はい、おつり。」

 釣り銭を受け取ったハンスはその小銭を財布に仕舞おうとしたが、背の荷物の中に財布がみつからなかった。

「どうしよう、フーゴ。財布を落としちゃったよ。」

「もう一度荷物を確認しろよ。ひょっとしたら盗られたのかも知れないぞ。」

 暫く荷物や服を探っていたハンスが大声を上げた。

「ハンス、大変だ。盗まれたんだ。」

「いくら持っていたんだ?」

「お金じゃないよ。魔術師のペンダントと魔力の指輪だよ。魔術師の館でフーゴと今日貰ったやつだよ。」

「なんで身に付けていなかったんだ。」

 フーゴはそう言って、首からさげている魔術師のペンダントを懐から出して見せた。

「だって、大切なものは財布に入れるのが常識だろう?」

「しょうがないな。女の子をさがそう。そいつは君が小銭を探すのに夢中になっている間に財布を盗んだんだよ。」

「六歳くらいかな。赤い汚れたスカートをはいていて、短めの髪はぼさぼさだったよ。」

「他に特徴はないのかい。」

「まともに食べていないんじゃないかな。痩せてがりがりだった。」

 港町ギロで漁師をしていたフーゴの親は、十数年前に突然現れたダンク・コリアード軍に土地と漁場を奪われてしまい、食べる事も出来ないほど貧しくなった。まだ幼かったフーゴでもその貧しさは理解できた。

 その女の子は食べるのに困って盗みを働いたのだろう。お金だけならともかく、魔力の指輪やペンダントは取り戻さなくてはならない。


 二人は赤いスカートをはいた女の子を探し始めた。しかし、背の低い女の子を群衆の中から捜し出すのは難しい。なかなか見つからなかった。

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