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ジーナ  作者: 伊藤 克
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二十 異界の指輪・開かれゆく魔術師の塔(一)

 朝、バウを散歩に出してから鍛錬の広場に行く。

 魔術師の塔で入手した、ジーナが持っている杖にダンの目がいくが、ジーナはなにも説明しなかった。説明するには魔術師の塔で起きた全ての事を話さねばならなくなる。この杖は魔術師の塔の隠し武器庫で見つけた杖で、槍先が杖の中に仕込まれている。

 槍先を隠したまま杖として鍛錬を行う。鍛錬が一区切りついたところでジーナはダンに言った。

「ダン、一週間旅に出かける事になった。」

 数日前ゼルダが言っていたように、港町ギロではジョンが居なくなる等の不穏な動きがあった。それから数日と置かずに魔術師の塔での盗賊騒ぎだ。ダンにはジーナが何をしようとしているのか理解出来なかった。

「バウはどうするのだ?」

「連れていく。」

「危険は無いのか。」

「大丈夫。ビルに会えないのがちょっと寂しいけれど。」

「分かった。」

 ジーナは何処へ、何をしに行くかは伏せた。この前の様に救ってくれるのは有りがたいが、万が一の時、犠牲になるのは自分一人で十分だとの思いがあったからだ。

「魔術師の塔の手伝いなのだけどエレナではどうだろう。勿論本人次第だけれど。」

「何故だ。」

「以前、賊に襲われてからタリナの居酒屋への往復は辛そうだったから。居酒屋では帰りが夜遅くなるし。魔術師の塔なら住み込みで働けるし、安全だと思う。」

「得体の知れない魔術師がいる塔は逆に危険だと俺は思うがな。タリナにも相談して決めるよ。」

 エレナを雇っているタリナにも相談したほうが良いとダンは思ったのだ。

「エレナが塔で働くのなら、私は魔術師の塔に時々顔を出す事にするわ。では一週間後にね。」

「頼まれていた投げ矢、出来ているから行きがけに俺の店へ寄りな。」

「わかったわ。」


 宿に戻ったジーナは一階の居酒屋へいった。勿論、朝早い時間に居酒屋は営業していないが、タリナが店内の清掃をしていた。

「お早う、ジーナ。」

「タリナ、一週間ほど出かけて来るわ。部屋は鍵をかけておくので、そのままにしておいてくれないかしら。」

「いいわよ。また旅にでるのね。最近は魔術師の塔に盗賊が入ったという噂もあるし、気をつけてね。」

「魔術師の塔で使用人を探しているの。住み込みでも良いと言っているからエレナが良いと思うのだけれど。」

「今でもここへやってくるのにニコラさんが毎日送り迎えをしているからね。住み込みの仕事なら良いかも知れないけれど、あの魔術師の塔は危険だと思うよ。最近事件があったという噂もあるしね。」

 タリナは眉をひそめてそう言った。居酒屋には様々な噂が入ってくる。港町ギロでのいざこざも、魔術師の塔での出来事も、噂としては知っているに違いないが、ジーナがその中心にいるとは思っていない。

 

 部屋で旅衣装に着替える。ジャンビーヤ風のダガーを左腰にさげ、右腰にローゼンのダガーを下げる。腰に二本の鎖鎌を撒いて隠し武器庫にあった文様の杖杖を手にすれば『ジーナ風旅の正装。』が出来上がる。宿の人たちに正体が知れてはいけない。魔術師のマントは丸めて他の荷物と一緒に背負い、自分のマントを着て宿を出た。

 外へ出ると北風が強くなっている。歩きながら心でバウを呼び寄せる。レグルスの指示に従い、魔術師として旅をする事にしたジーナは、ダンの店にいく途中の木陰で魔術師の黒いマントを羽織った。小柄なジーナが魔術師のマントを羽織ると、裾が膝下まで隠れる。自分の外套は丸めて背負った。バウが現れるのを待つ。遠くから白毛のバウが走って来るのが見えた。黒い鎖帷子を着せると黒毛に変色している。

「バウ、便利な技を身に付けたわね。」

 分かっているかの様に尻尾を振って答える。

 黒緑色のマスクをしてからバウを連れて南へ向かう。

 ダンの店の前ではビルが石投げをしていた。

『アルゲニブ、声を変えてくれる?』

 ジーナの指にはまっている、異界の指輪であるアルゲニブはジーナの声を男の声に変えた。

「ダンはいるか。」

 アルゲニブの声で話しかける。ビルはジーナだとは気づいていない。

「親方、魔術師がきました。」

 黒毛に変身したバウはいつもの様にビルに尻尾を振る。寄ってくる黒い犬の頭をおそるおそる撫でながらジーナを見る。魔術師の黒犬が自分になつくのが不思議なのだろう。

 いくら毛の色が変わってもバウの良い性格は隠しようがない。

 ダンが投げ矢を手に作業場から出てきた。十本ある。

 ジーナは全ての投げ矢を向かい側の木に投げて軸の歪みを確認する。さすがダンの仕事だ。どの投げ矢もジーナが作っていたものより良い出来になっている。大切に使おう。

 全ての矢を一点に当てた技に感心しているビルに、その内の一本を渡した。

「投げてみろ。」

 ビルが投げると木には当たるが刺さらずに跳ね返された。

「練習するんだな。」

 そう言ってその一本をビルに預けたままジーナはダンの店を後にした。

 黒毛の犬を連れた魔術師はジーナに違いなさそうだが、声がジーナのものではないし、魔力がにじみ出る雰囲気は魔術師そのものとなっている。ダンは驚いていた。異界の指輪がそうさせている事をダンは知らない。

 ビルは貰った投げ矢を何度も木に向かって投げ続けている。


 昼下がり、ダンの鍛冶屋にウイップのゼルダが現れた。相変わらず両刃の大剣を背負い、腰に鉄の棘がついた鞭をぶら下げている。

 ビルが店の前で一本の投げ矢を、木に投げては抜いて、投げては抜いて、を繰り返しているのを見たゼルダは投げ矢に興味をひかれた。

「ビル、何を投げているの?」

 魔術師から貰った投げ矢をゼルダに見せる。

「どうしたの、この投げ矢。」

「その投げ矢は魔術師に頼まれて親方が作ったものだけど、一本だけ俺にくれた。」

 一般の矢についている矢羽は鳥の羽製が殆どだがこの投げ矢の矢羽は小さな鉄の板でできた、変わった小ぶりの投げ矢で、以前ダンの作業場で見たものだった。

「これだと的に当てるのが難しいから鉄の羽を鳥の羽に付け替えた方が良いわよ。」

「親方ならいるよ。もう泊まりにこないの?」

「あれは盗賊と戦ったあとで、ビルが服を洗濯しちゃったから仕方なく泊まっただけじゃないか。」

 大女のゼルダが頬を赤らめながらしどろもどろに答えてビルの作業場へ入っていった。ダンは魔術師の塔から持ち帰った不良品の武具を炉で溶かしていた。

「ゼルダ、俺は忙しいのだがな。暇つぶしならビルとやってくれ。」

「ビルが短い投げ矢を練習していたわ。魔術師から注文されたのね。ダンの知り合いに魔術師がいるとは知らなかったわ。」

「俺は客の事は言わんよ。口が硬いのでな。」

「ところで鞭用の棘、あるかい。」

 ダンがあごで作業場の隅を示した。ゼルダは座り込み、革製の鞭をほぐして棘を付け、編み直していく。」

「ゼルダ、首都ハダルへは帰らないのか。ハダルに仲間がいるのだろう?」

「もう少しここに居るわ。この辺での出来事が気になるし。それに目的の仲間捜しもうまくいってないしね。」

「この辺にはゼルダの仲間になる様な骨の有る奴はいないさ。」

「ビルの事は今後どうするつもりなの?」

「ジーナが読み書きを教えてくれている。もう少し大きくなったら他所へ修行にだすか、本格的にこの仕事を教えるかきめるよ。」

「ジーナはお金に困っていない様だけど、盗賊の仲間でもいるのかしらね。それともお金持ちの娘なのかしら。読み書きもできるし。」

「宿代と飯代は俺が払っているぜ。」

 ジーナのお金の事はダンも不思議に思っていた。今まで一度も金を借りに来た事はない。仕事をしている訳でもないのに、どうやって宿代や食事代を捻出しているのだろう。しかしジーナが盗賊だと思われるのも困ると思い、自分が生活費を面倒見ているのだと嘘をついた。

 ゼルダは鞭の編み上がりを確認して立ち上がった。

「さて、私はもう行くわ。これ以上仕事の邪魔をしてはビルに怒られそうだからね。」


 ゼルダに気をそがれたダンは仕事が一段落したところで、ジーナがいっていた魔術師の塔へエレナを手伝いに行かせる相談の為、ガサの町入口にいるニコラの家に行くことにした。

 炉の火を消して、暖炉の火を小さくしてから作業用の革製エプロンを外して店の外へ出る。ビルは相変わらず魔術師からもらった投げ矢の練習をしていた。ジーナはなぜビルに投げ矢を教えようとしているのか、ダンには分からなかった。勿論、ビルに魔術師の素養がある事も、魔法陣の訓練をさせようとしている事も知らなかった。

「ビル、俺は出かけてくる。炉の火は消したからな。暖炉の火はつけたままだ。火にだけは用心しろよ。陽が沈みかけたら店じまいして良いからな。」

「分かりました。親方、何処へいくのですか?」

 昼間から店を閉めるのは珍しい事だが、最近、塔で事件が起こったばかりだ。その事で何処かへ相談しに行くのかも知れないとビルは思った。

「投げ矢で遊んでばかりいないで読み書きの練習をしろ。大人になってから苦労するぞ。」

 ビルは一本だけの投げ矢を大事そうにしまうと、文字練習用の革切れと文字練習用の板を出した。


 ニコラは麦畑で刈り取った麦藁を束ねていた。麦藁は乾燥させ、屋根葺きに使用する他、縄や収穫作物用の袋を作ったりするのだ。また女用の靴の材料にしたりもする。女の靴は、足型に切った期の板に革の紐を括り付けたものや、なめし皮で足を包むように形作ったもの、エレナが時々履いている、麦わらを編んだものなどあった。麦わらのものは擦り切れるのが早いので、革の靴が出回っている最近は、履く人は少なくなり、売り物にはなりにくいのだが、材料がある事と、自分で作れる事から、エレナは普段使いに履いている事が多かった。

「ニコラ爺さん、元気か。」

「ダン、珍しいな。兵士の詰め所が嫌いでこの辺に近寄らなかったのではないか。」

 そういってカテナ街道の町入口にある建物を指した。


「エレナの事できたのだが。最近、魔術師の塔で騒ぎがあったのを知っているか。」

「噂では聞いているが、ルロワが魔術師の塔で謀反を起こしたとか、盗賊団をレグルス様が皆殺しにしたのだとか。祠祭師の跡取りであるルロワが謀反を起こす等、信じられない話だ。」

「ニコラ、噂に近い事が起こったようだ。ルロワは死んだらしい。」

「ダンは五年前にここへ来たから実感が無いだろうが、百年前コリアード軍がこの辺りまで来て家や畑を滅茶苦茶にしていった。その事をようやく忘れかけて生活が安定したと思ったら、今度はダンク王の命令とかで再び踏み荒らしに来やがった。俺たちはいつも我慢するだけだ。」

「ニコラ、それは大陸のどこの町でも同じだ。東側の村や町はもっと酷い事になっているらしい。」

「ところでエレナに何の用だ。」

「魔術師の塔には今二人しかいない。魔術師一人と、寝たきりのけが人が一人だ。そこで使用人を捜している。食事の世話や掃除をするだけで、住み込みでも良いと言っているのだが。エレナに頼めないかと思ってな。」

「無理だ。ルロワを殺した奴の所へ手伝いに行ける訳がない。」

「やはりそうか。」

 エレナが家の奥から出てきた。外出着に着替えている所を見るとタリナの居酒屋へ行く用意をしていたのかも知れない。

「お爺さん、私、魔術師の塔へ行ってもいいわ。」

「ルロワを殺した奴の所だぞ。どんな危険があるか分からないぞ。」

「私が子供の頃、突然ルロワのご両親が居なくなって、祠祭館も壊されてしまったのを覚えているわ。何があったのか、真相を知る良い機会だわ。」

「真相を知るだなんて、無駄な事だよ。コリアード家が人を不幸にするのに理由なんかありはしない。人の泣くのを見て喜んでいるだけなのだ。」

二コラはそう言った。

「住み込みならお爺さんに送り迎えをして貰わなくても良くなるわ。それに塔にはおとしよりと寝たきりの人の二人だけなのでしょう?せめて食事お世話くらいしてあげないとかわいそうだわ。」

 バリアン大陸では、料理洗濯は女の仕事で、男がそれをする事はまれだった。店や作業場なら別だが部屋の掃除をする男も殆どいない。ましてや、ある程度地位のあるものなら使用人の一人や二人は必ず雇っていた。

 ニコラは暫く考えてから、

「エレナがそこまでいうのなら一度魔術師様にお会いして見よう。俺も一緒に住み込む事が条件だ。」

「ニコラ、昨日ジーナが食事を作りに魔術師の塔へ行っていたのだが、今日旅に出たのだ。今日、食事の支度だけでも手伝ってやれないか。」

 

 三人で魔術師の塔へ向かった。

「ニコラ、俺が来た時には魔術師の塔にはコリアード軍の魔術師がすでにいたが、その前はどうなっていたのだ?」

「百年前までは魔術師と言われる人が住んでいたらしいのだが町の人達とは全く交流が無かった。逃げたのか殺されたのか分からないが、コリアード軍が荒らし回った頃から見かけなくなったらしい。それ以来、住むものもいなくて廃墟となっていたのだが、十数年前進軍してきたコリアード軍が一時本部に使っていたのを俺は見ている。町の外れにあって使いづらい建物だそうで、港町ギロへ引っ越したのだ。」

「じゃあ、前は荒れ放題だったのね。」

エレナは、自分が廃墟に住む事になるのだろうか、と心配になった。

「レグルス様が手を入れて住める様にしたそうだ。」

二コラのその言葉にエレナは少し安心した。


 三人で魔術師の塔へ向かった。ダンはジーナの事が心配だったし、エレナはこれからの生活について考えをめぐらしていた。二コラはもともと無口だった事もあって、道中三人は無言だった。

 魔術師の塔についた。辺りは雑草が伸び放題となっている。

 エレナは塔の左側にある竹林に興味を引かれたようだ。

「良い竹がありそうね。」

「エレナ、ここへ来てまで竹篭を作らなくても良いだろう。」

「でも私、竹細工が好きだから。それにお給金がいくら貰えるかわからないし。住むところはあっても、食べ物は自分で用意する必要があるかも知れないわ。」

 ダンが呼び出しの鐘を鳴らした。

 暫くすると正面にある大扉の隣にある小さな入口が開いた。ダンを先頭に三人が中に入る。

 昼間だというのに全ての窓が閉じられ、薄暗い大広間にダンに頼み事をした魔術師が立っている。じっくり向き合ってみると、痩せているかなりの老人で、ニコラよりも年寄りに見えた。

「私は目が悪いので中を薄暗くしている。ダン、手伝いの者は見つかったか?」

 ダンが答える。

「ああ、連れてきた。ただし、二人まとめて面倒を見て欲しい。住み込みだ。」

「魔術師様。私はニコラと言います。これは私の孫娘のエレナです。」

「ダン、この魔術師の塔は町の人から嫌われている事は知っている。その娘は承知したのか。無理矢理働かせるのでは可哀想だぞ。」

「レグルス、賄いの手伝いが欲しいと俺に頼んだのはおぬしではないか。おかしな事を言うな。」

 普通、町の人は魔術師に敬語で話しかけるが、ダンは対等に話をしている。エレナは驚いてダンの顔を見た。

 レグルスは、人が良さそうな顔をしている二人を見て問題はなさそうに感じた。

「これから塔の内部を案内するが、何処も薄暗くしてある。足下に気を付けるのだ。特に井戸は深いから、落ちたら助からない。」

 一階から四階まで三人を案内した。

 三階の食堂へ寄ったとき、レグルスは壁の石を一つ外した。魔法陣の束と金貨の袋が置いてある隠し戸棚と違って、組石を一つ外すだけの簡単な仕掛けの隠し戸棚で、中に金貨が二十枚ほど無造作に置いてあった。

「金は此処において置く。給金は三人で金貨五枚だ。」

 ニコラが不服そうに言う。

「三人が一年働いて金貨五枚では生活出来ません。レグルス様。」

 エレナは、自分の畑でとれた麦を売れば食費になりそうだし、住む場所があるのなら節約すれば生活できるかも知れないと思ったので、不満を言う二コラを不思議そうに見た。 二コラは、その金では今までの生活の方がましだと思ったのだ。

「一ヶ月で五枚だ。」

 金貨一枚は、質素な生活をする村人一人が一ヶ月暮らすのに十分な金だ。

 今度はダンが質問する。

「ニコラとエレナは良いが、俺は働けないぞ。二人分の間違いではないのか。」

「女一人では寂しかろう、昨日掃除に来た女の子を寄越すが良い。子供は通いで良いぞ。」

 ジーナは、レグルスが自分を子供だと勘違いしている事に気がついたがそのままにしておいた。一ヶ月で金貨五枚とは張り込んだものだ。使用人には食事の残り物を与え、小遣い程度のわずかな給金を渡すのが普通だった。仕様人もその事が分かっているので、主人に内緒で自分たち用の食材を残しておく事もあった。もちろん贅沢な食品ではなく、普段使いの食材だが。

「金庫に鍵をかけなくてもよいのですか、レグルス様。残金が合わないといって私とエレナがお叱りを受けても困りますので。」

 気にくわない使用人がいると、わざと罪を作り出してやめさせる事はよく聞く話だった。

「ダンの仲間が盗みを働く事はない。また間違いは誰にでもある事だが、その棚の金はニコラとエレナに任せたのだ。私がその金を数える等という事はしない。金が足りなくなった時は私に申し出るのだ。ただ、塔の中に金貨が置いてある事は他の者達には言わぬ方が良いぞ。盗賊を呼び寄せてしまう心配があるのでな。」

 ニコラは目を丸くしてしまった。今まで出会った魔術師は鼻持ち成らない者ばかりで、魔術師と軍人は特に農民を牛馬と同じ目で見るものが殆どだった。この魔術師は自分達を人として見ている。

「そなた達の都合もあろう。当面は食事を作りにくるだけで良い。私は三階の自室にいる。この塔ではどの部屋で呼んでも私に聞こえる。用がある時はこの鈴を鳴らしてから私の名を呼ぶがよい。シーツや食器類は自分達用のものを購入するのだ。」

 銀色の鈴と金貨数枚をエレナに渡して執務室へ戻った。

「この鈴、純銀製だわ。レグルス様は私達を信用しているのね。」

「ダン、あの魔術師の言葉を信用しても良いのか?金貨が無くなったといって、いきなりナイフで斬りつけてきたりしないだろうな。」

「ダン、昨日きた女の子って誰なの?」

「ジーナだ。あいつは小柄だから時々子供と間違われるのだ。」

「ジーナが来てくれるなら心強いわ。」


「窓を開けて空気の入れ換えをしよう。」

 ダンはそう言ってすぐ近くの窓を塞いでいる木戸を開いた。秋空が覗き、冷たいながらもさわやかな風が三人のいる大広間に舞い込んだ。

「魔術師の塔というのは殺風景で灰色一色ね。花を飾ったら怒られるかしら。」

「申し出てみるのだな。もめ事が起こるようだったら俺かジーナに言ってくれ。何とかしよう。」

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