十七 魔術師の塔・救出(三)
ルロワはバウの凶暴さに押されて、次第に魔法陣の中央へと移動してゆく。バウとルロワが魔法陣の中央で向き合っている。バウは、ジーナの心を読んで血みどろの戦いを避けている。そのため剣を振り回すルロワを攻めあぐねていた。戦斧を構えるジーナが魔法陣の外輪を跨いだその時、魔法陣の中央に移動したルロワは懐から何かの液体を出して床に撒き、古代語を唱え始めた。その様子にジーナは思わずその位置で立ち止まる。左側からレグルスが慌てて近づいてきた。
レグルスはルロワの行おうとしている事が理解できた。魔法陣を起動し、結界を作ろうとしているのだ。この魔法陣は現代の魔術師が作成したものではない。かなり古くからあり、古代語が複雑に入り組んだものだ。
レグルスはこの魔法陣を研究対象としていたが、未だに全容は解明できていない。
現代の研究では、異界の闇の気の実体を呼び寄せる可能性がある事が明らかとなっている。そのため、この魔方陣を起動する時は、中央に、異界からわき上がる闇の気の器となるオオトカゲを置き、異界の闇が実態化する事を防いでいる。この手法は、ダンク王の専属魔術師であり、レグルスが去ったあと魔術修練所の所長となったゴラン・メリコフが明らかにして魔術師会の幹部達に伝授したものだった。しかし、レグルスはそれ以外の効果も秘めているに違いないと思っていた。
しかし知識の乏しいルロワはそこまで考えが至らないに違いない。無知の者がこの魔方陣を起動したのでは、この世界に大きな災いを呼び起こし兼ねない。
レグルスはルロワに向かって止めるよう、身振りで示すが、通じていないようだ。
ルロワが古代語を唱え終わると、魔法陣の中央、立っているルロワの足下から黒い霞のようなものが生じ始めた。その霞は、やがて黒くて大きな左手の形に実体化してゆく。その薬指には禍々しい指輪まで見える。その手がルロワの右足を掴み、体を下に引きずり込もうとし始めた。精気をすいとられたのか、ルロワの黒かった髪は一瞬で白髪に変わり、体が一回り小さくなって見えた。
「だれか助けてくれ。」
バウが起きた事を理解できていないのかルロワの方を向いて動かずにいる。
ルロワがその黒い手に倒され、体が次第に中央部分へ引かれていく。抵抗して必死に床を掴もうとするが、石畳の床では無駄な行為だった。
「お前、助けてくれ。」
ルロワはほんの一瞬前まで争っていたジーナに助けを求めた。必死の形相である。
ジーナは思わず差し出されているルロワの左手を握り、引っ張る。床下から生み出された黒い左手の引く力は強力で、ルロワは右足が床に吸い込まれようとしている。とても非力な女の力では相手にならない。
レグルスを見ると、こちらへ近づこうとしているが、この魔法陣には結界を作り内側と外側を完全に隔離する力を持っているのか、魔法陣の外輪から中へ入れずにいる。ジーナの体は半分が魔法陣の外へ出ている。握っていた戦斧を床に置き、レグルスにも引いて貰うべく右手をレグルスへ向かって伸ばした。レグルスがジーナの手を握った瞬間ジーナの体が横切っている結界に周辺で火花が散り、ジーナの頭の中で複雑な魔法陣達が踊り狂った。しかし、必死にルロワの手を握っているジーナはそんな事にかまっている余力は無かった。レグルスはその事に気づいていないのか、ジーナを通じてルロワの体を引くが、とても黒い手の力に叶わない。ずるずると魔法陣の中心へ引きずられる。このままではレグルスまで引きずり込まれてしまう。
ルロワは相変わらずジーナの顔を見て泣き叫びながら助けを求めている。
「バウ、その手に噛みついてちょうだい。」
バウが黒い手首に噛みついた時、その手はやっとルロワを離した。ジーナはルロワの体を魔法陣の外へ出そうとするが、ルロワの体は結界を通過する事ができない。
魔法陣の中央でバウが黒い手首の周りで盛んに吠えている。良く見ると、手首が次第に伸びて今は肩が見えそうになっている。
ジーナは、レグルスが結界の外から魔法陣の一カ所をダガーの先で示しているのに気がついた。どうやら魔法陣のその位置に傷をつけろといっているようだ。ジーナはレグルスが指示した石畳に書かれた魔法陣のその箇所に、結界の内側からルロワの血がついた斧を打ち込んだ。
手がしびれる。魔方陣の中央で鈍い音がした。振り返ってみると、閉じる魔法陣から逃げ遅れたのか、薬指に指輪をつけた黒い左手が転がっていた。その者の血なのか、赤い液体が床に水たまりの様にとどまり、揺らいでいる。肘付近まである左手の実体が薄れ、黒い靄となって漂い始めると、手から外れた指輪が床に転がった。ジーナはその指輪を拾い、ポシェットにいれた。やがて黒い霧は消えてしまった。魔法陣の結界も消えている。
ジーナは失神しているルロワの体を部屋の隅に運んだ。
レグルスはルロワが失神した瞬間、ルロワの術に奪われた言葉が戻るのを感じた。
ジーナにダガーを返し、ルロワの様子を見る。命はあるようだが、髪は白髪に変わり、顔色はどす黒く変色していた。
ジーナがゼルダにその姿を見られる事なく階段を駆け上がった時からダンとゼルダは塔の一階にある大広間で塔の警備兵と戦い続けていた。二人は警備兵が魔族である事は知らなかった。
この警備兵達が付けているのは安物の鎧でそれも上だけなのだが、なかなかしぶとく、大剣を叩きつけるようにして斬りつけないと倒れてくれない。ゼルダの鉄の棘を編み込んだ鞭は全く効果がなかった。手が痛まないのか、警備兵達はゼルダの鞭を平気で素手で掴んだりした。その鞭は、今は大広間の片隅に放り投げられたままになっている。
警備兵の中に剣技に長けた者がいなかったが、倒す度に全力で剣をふるい続けなければならないのでは、こちらの体力も長く続かない。
「ダン、こいつら普通の兵士じゃない。きっと突撃兵だよ。このままじゃ二人とも体力が持たない。引き上げるかい?」
ゼルダは問いかけるが、戦いの喧噪の中で聞こえないのか、ダンは戦い続けている。
突然多くの武具が床に落ちる音がして警備兵達が消えた。警備兵の体が消えたのだ。床には彼らが付けていた鎧や剣、衣類までもがそのままの位置に落ちている。ここは魔術師の塔だ。魔術師の仕業に違いない。
ゼルダは、消えてしまった敵に対して大剣を振りかぶったまま固まっている。
「ゼルダ、剣を下ろせ、敵は消えたぞ。」
「ダン、どうなっているんだい、消えちまったよ。」
「おれにも分からん、魔術師の仕業ではないのか。」
ジーナは無事だろうか。ダンはジーナが上っていった階段を見つめるばかりだ。
ややあって黒いマントを羽織った二人の魔術師が階段を下りてきた。
魔法陣の力が消えて一息ついたジーナとレグルスは一階の戦いの結末が気になり、バウをルロワのそばへ残して下へ向かう。
途中でレグルスは階段脇の部屋へ入り、二枚の魔術師用マントを取り出し、一枚をジーナに手渡した。変装しろと言うことらしい。レグルスはマントの上から魔術師長を示す装飾鎖のついたペンダントを首に下げ、ジーナにも一回り小さなペンダントを手渡して首にかける様、身振りで示した。
一階では、真っ暗になってしまった大広間に携帯用ランプを手に提げ、抜け殻となった武具類を見つめているゼルダとダンがいた。魔族は倒したものも含めて全て消えている。
階段を下りてきた二人の魔術師に向かって、ダンが口を開いた。
「おい、どういう事だ。警備兵が全員一瞬で消え去ったぞ。」
会話が出来ないと思っていたレグルスが微かに聞き取れる程度の小さなしわがれた声で話し出した。
「町の人よ。私はガサの魔術師長であるレグルスだ。賊は私たちが始末した。今夜の事は全て忘れて立ち去るがよい。今の出来事を一言でも漏らしたら命はないと思え。」
ダンが質問する。
「盗賊がここにきた筈だが彼はどうした。お前が殺したのか。」
「賊は反乱を起こしたルロワと一階にいた兵士を騙る彼の仲間達だ。盗賊ではない。」
それでもダンはしつこく食い下がる。
「一人、小柄な盗賊が侵入したはずだ。どこへやった。」
「私は会っていない。速やかに此処を去らないと、お前達を盗賊として捕らえ、処刑するが、良いか。」
「俺の盗まれた斧がある筈だ。」
ダンが戦ってくれた事に感謝していたジーナはレグルスへ耳打ちする。
『要らなくなった賊の武具を鍛冶屋のダンに引き取らせて』
「お前は鍛冶屋か。」
「俺を知っているのか。」
「名は何と言う。」
「俺は鍛冶屋のダンでこの女はゼルダだ。」
「ダン、邪魔になった賊の武具を明日引き取りに来い。」
「買い取るような金はないぞ。」
レグルスは少し考えてから
「この大広間を清掃してくれるのなら、ただで持っていくが良い。鉄を潰せば農具になるだろう。」
ダンとゼルダが出口へ向かうと、更に一言付け加えた。
「騎士である事を港町ギロの魔術師に嗅ぎつけられるな。面倒な事になるぞ。」
ダンは無言で睨みつけたが、ゼルダがダンを説得し、塔外へでた。
レグルスは自身の手で大広間の外側にある鉄の扉を締め、鉄の落とし格子を閉じた。
現王のダンク・コリアードは己に意見を言う者は貴族でも騎士でもことごとく排除してきた。特に兵士を引き連れて反乱を起こしかねない騎士については徹底的に粛清をした。今は王家の魔術師会の一員であるレグルスもダンク王の非道な政策を良いとは思わなかったが、時の流れに逆らう事は出来ない。自分を救ってくれたのが、世を忍ぶ騎士であるのなら、救う事は出来ずともそっとして置いてやりたい。
「もう一度上の部屋に行こう。」
レグルスとジーナは、静かになった大広間の階段を上り、最上階の魔法陣の部屋へ戻った。ルロワは気を失って倒れたままだ。ダンの戦斧が魔法陣の描かれた床に突き立ったままとなっている。
ジーナは、今は機能していない魔法陣の内側に入り、戦斧を抜いてから変わり果て、倒れているルロワを見る。
「ルロワは死んだ事にしよう。可哀想なので名前を変えて生きる道を選ばせようと思う。そうしないと魔術師会に殺されてしまう。二階に兵士用の寝室がある。そこへ運ぼう。」
レグルスがランプで階段を照らし、ジーナが軽くなったルロワを抱え、階段を下りた。二階の一室にルロワを寝かせるが、起きる様子は全くない。
レグルスは自分の後継者について思いを巡らせていた。優しさも持ち合わせているこの魔術師なら適任ではなかろうか。しかし、レグルスが提案しても断るのは目に見えている。とりあえず塔の内部に不審な所がないか確認をしよう。
「安全には万全を期した方が良さそうだ。塔内の見回りをしておこう。」
レグルスが提案し、レグルスとジーナは塔内の探索をすることにした。ルロワにはバウをつける。
『バウ、ルロワをお願いね。なにかあったら呼びにきてね。』
二階の残りの寝室と武器庫、兵士用の食堂を見て回る。
武器庫の分厚い木の扉は全周を鉄で補強され、取っての下にはこれも厚い鉄でできた錠が取り付けられていたが、その錠は外されたままだった。中に入ると魔族が使っていたのと同様な質の悪い武具が乱雑に重ねてあった。レグルスは剣を手に取り、思案げに言った。
「此処にはもっとましな武具が置いてあった筈だが不良品と入れ替わっている。ルロワが金に換えてしまったに違いない。この出来損ないの武具は何処で入手したのだろう。」
レグスルが住居代わりに使っていた三階へ上がる。階段を上がったところが食堂となっており、中央の突き当りには竈が作られていて、その斜め上には黒い仮面が飾られていた。調理台だろうか、その前には分厚い木の板でできた大きめのテーブルが設置され、そのテーブルの上は食器が散乱していた。食堂の中央に設置されている。左右の壁に扉があった。
丸テーブルをよけ、左の扉を開ける。壁際に大き目のベッドがおかれ、ベッドの四方に建てられた小さな柱の上につけられた横木には高級な布が垂れ下がり、ベッドを目隠ししている。その布を開いて除いたが、シーツが乱雑に乗っているだけで不審な様子は無かった。
食堂へ戻り、左側の扉を開けた。寝室より一回り広い部屋となっており、壁に向かって机と書棚が並んでいた。ルロワはこの部屋を使っていなかったのだろうか、寝室と違って、部屋の中は整然としていた。
「ここは執務室だ。あまり乱れてはいないな。」
そう呟きながら、レグルスは書棚一つに手をかけて手前に引いた。奥にもう一部屋あった。隠し部屋だ。この人は塔の秘密を隠す気はないのだろうか、とジーナは思った。レグルスにしてみれば、不思議な実力を持つ、名も知らない若い魔術師を心から信用していた。場合によっては自分の後継者として、この塔の長になるかも知れないのだ。隠し事をする等という考えは浮かんでいなかった。
目的の判らないものが床に散らばっていたり、小机の上に羊皮紙が散乱していたり、寝室とおなじ様に、部屋は散らかっていた。
「ここにある調度品は以前には無かったものだ。私が囚われている間にルロワが何処からか運び込んだものなのだろう。」
四階の三つの小部屋を覗く。その中の一つでレグルスは隠し戸棚を開けた。中には羊皮紙の束と、多くの金貨の入った袋がしまわれていた。羊皮紙の束を確認して言った。
「やはり無事だったか。これは現存する魔法陣を私が書きためたものだ。ルロワには魔法の素質が無かったようで、この隠し扉には気づかなかったらしい。最も彼がこれに興味を示すとは思えないが。」
そういってジーナに束を見せてから再び隠し棚に入れ、棚の仕掛けを戻しながら言った。
「私はこの研究の後継者を育てる事ができなかった。」
ジーナの頭にビルの姿が浮かんだ。ビルには魔法陣の素養がある。落ち着いたらビルをレグルスの所に通わせてみようと思った。
二階でバウと合流して一階へ下りる。
一階の大広間は消えた魔族が残した武具、衣類が散乱したままだ。
大広間の奥にある貯蔵庫を覗く。食料がおかれた棚はところどころ空になっている。床には空き袋が散乱していた。
「この食料庫は外から開く扉があって、商人が補充してくれるのだよ。勿論、金を払っての事だが。」
大広間の隣にある使用人の住居らしい部屋、会議室の様な、大きなテーブルだけが置かれた部屋。どこも人気がなく、塔全体が静まりかえっている。
掃除道具がおいてあって、地下への隠し階段があった部屋の反対側の壁にレグルスは触れた。ここに隠し扉がある。その仕掛けをジーナに説明してから入口となる石積みの壁をを開ける。奥行二メートル、横幅数メートルの小さな部屋だ。
「ここから外に出る事ができる。」
ルロワはそういって、部屋の入口と同じような仕掛けのある壁を触った。塔の外へ出る事ができた。
「この仕掛けは私しか知らない。正面の扉に鍵がかかっていても塔の出入りは自由にできる。」
レグルスは二つの仕掛けを順次戻し、大広間へ戻った。
塔の安全が確認されたところで再びルロワがいる二階へ戻る。
ジーナがバウの頭を撫でてやると軽く鼻を鳴らして答える。
「レグルス殿、闇に長らくいたその目は昼間の光に気を付けた方が良いと思う。」
「ありがとう。」
塔の裏口を開けて見送ってくれたレグルスは最後までジーナの正体を聞こうとしなかった。
ルロワがレグルスを裏切り、魔術師の塔を乗っ取った事は隠してもやがて噂となって広まる。また、とかく悪い噂のある港町ギロの魔術師長、シャロン・ベイトンに騒がれては後の始末に困る。
先手を打って、出来事を報告した方が良い。ガエフ公国の大魔術師長であるランダル・バックスに連絡をとるのが良いだろう。数少ないレグルスの味方である彼ならうまく立ち回ってくれるに違いない。
ルロワへ別の名をつける必要があるが、気絶している彼に言い含める事もできない。ルロワの件はもう少し様子をみるしかないとレグルスは思った。
疲労困憊していたダンとゼルダは夜道をダンの店へ向かって歩いている。戦いの後には感情が昂揚するものだが、ダンはなぜか虚脱状態にあった。ジーナの安否が分からない為かもしれない。それでも留守番をさせてビルも心配している事だろうと思い、道を急ぐ。
あの兵士達は手甲や手袋をしていなかったと思うのだが、ゼルダの鞭に編み込まれた鉄の棘は警備兵に握られる度に、棘が取れたり、先が折れたりした。修復する必要がありそうだ。
「ダン、この鞭を見て、棘がみんな役立たずになってしまった。この棘を頼めるかい。」
ダンは上の空でうなずいた。あの小柄な盗賊は間違いなく男物の服を着たジーナだった。塔の階段を上ったきり降りては来なかった。塔の壁には各所に弓兵用の覗き穴がある。そこから逃れる事が出来ただろうか。それともあの兵士達の様に魔力で消されてしまったのか。ダンは戦斧の事はすっかり忘れていた。
ジーナがたった一人で魔術師に戦いを挑むほど無謀な事をするとは思わなかった。もう少し思慮深くあって欲しい。
ジーナにも漏らしていない、ローゼンと二人きりで交わしたジーナのもう一つの秘密。いま、ジーナを失う事になってしまったら。すでに死したローゼンに詫びの入れようがない。
ダンは不機嫌だった。
「ダン、魔術師が最後に言った意味は何だったのだろうね。」
「港町ギロの魔術師の事か。俺はもともと騎士でもなんでもないから良いが、盗賊のゼルダは気を付けな。」
二人は再び無言で歩き始めた。
レグルスは魔術師長執務室の椅子に座っていた。隣にある隠し部屋はルロワが模様替えをしたのですっかり様変わりしてしまっていた。
小柄な魔術師はルロワが魔法陣を動かそうとするや、素早く中に入り、彼を救った。あの時、対処していなければ魔法陣を通して異界の者が侵入して来た可能性もある。
普通の人間は一度魔法陣の結界が張られると、その中へ入る事も、出る事も出来ぬ筈なのだが、いとも簡単に結界を出入りしていた。
レグルスは不思議に思ったが、ジーナは魔方陣の外輪をまたぐ位置にいて、結界の内側と外側に同時に存在していた。魔石の腕輪がなければジーナの体は結界の力によって裂かれていたかも知れない事は、ジーナもレグルスも気づいてはいなかったのだ。
レグルスは地下で起きた事を思い出す。メタルに描かれた魔法陣を唱える事をせずに光らせる事もできた。彼は高度な技量を持っているにちがいない。
レグルスが一番驚いた事は正当な王家の者だけが身につける事を許される紋章が彼のダガーに秘められていた事だ。
そして突然現れた二人の戦士。出来損ないとはいえ二十体近くいた魔族へたった二人で立ち向かっていた。目的もなく命をかけて行える事ではない。いずれかの主人に忠誠を誓った騎士であるに違いない。戦士と小柄な魔術師は見知らぬ他人の振りをしていたが、偶然に三人が塔に侵入する等ありえない。きっと陰で連絡を取り合っていたのだろう。レグルスはガサの町に来て十数年、その様な者達がいる事に気が付かなかった。
自分が闇の中から救われたように、冷徹な専制君主であるダンク・コリアード王からこの世界を彼が救い出してくれるかも知れない。淡い期待ではあるが。
あの魔術師を、情報をなにも与えずにガエフ公国のランダル大魔術師長に会わせて見よう。彼があの魔術師と先入観無しで会ったとき、どんな印象を持つだろうか。
一章 魔術師の塔での主な登場人物
ジーナ………………………旅の少女
バウ…………………………ジーナの飼い犬、狼との雑種犬
ローゼン……………………ジーナの保護者
ダン…………………………ガサの町の鍛冶屋
ビル…………………………ダンの鍛冶屋で働く子供
エマ、エレナ………………タリナの居酒屋の使用人
ニコラ………………………エレナの祖父
ダミアン、ジョン、
トッシュ……………………盗賊、港町の破落戸
ウイップのゼルダ…………女盗賊
レグルス・アバロン………魔術師の塔に住む魔術師長
ルロワ………………………祠祭師の一人息子
アルファルド・
ランプリング………………ガサの町の祠祭師長、ルロワの父
マリス………………………ルロワの母
「ジーナ 一章 魔術師の塔」が終了しました。
「二章 異界の指輪」へと続く予定です。
誤記、表現の不備等含めましてご意見がございましたら、お寄せ下さる様、お願いいたします。