十二 魔術師の塔・ルロワの秘密(二)
アルファルドがルロワに声をかけた。
「よし、出かけよう。」
二人は手ぶらでガサの町へ向かった。町の中程に建っている大きな家の扉を開けた。大きいといっても祠祭館の半分以下だ。町に行事が有る度に父親に合いに来ていた男の家だった。
「マルコブ、よろしく頼む。落ち着いたら迎えに来るよ。」
「分かった。気をつけて行ってくれ。」
「ルロワ、俺はこれで去る。おまえと会うのはこれが最後だ。幸せになれよ。」
アルファルドの目は涙で光っていたが、涙の本当の意味をルロワが知る事はなかった。
なんでお父さんはあんな事を言うのだろう。ルロワはあてがわれた部屋に入り、泣いた。部屋は狭く、天井も低い。隙間があるのか、外から風が吹き込んでいる。
「こんな狭い部屋で、町の人たちと過ごすなんて耐えられない。仕事もしなきゃいけないなんて。」
深夜、マルコブの家を抜け出し、祠祭館の自分の部屋に戻った。その時からルロワの一人暮らしが始まった。
「ルロワ、いるのか? 迎えにきたぞ。早くしないとコリアード軍がこの町に攻めてきてお前も殺されてしまうぞ。」
「いやだ、ここが俺の家だ。俺はここから動かないぞ。」
「ルロワ、本当に軍隊はすぐそこまで来ているんだぞ。祠祭館は魔術師に占領されてしまうんだ。」
「そんなのは嘘だ。みんなでお父さんを騙しているんだ。」
「お前、食事を作る事もできないだろう。誰か来させるが、早くこの館を出ないといけないぞ。」
マルコブは戻るよう毎日説得に来たがルロワはこの大きな祠祭館を出る気は無かった。
ある日、マルコブは女を一人連れてきた。近くで農業を営んでいたエミリーがまだ幼いエマと共にやってきて、食事の世話や洗濯、掃除をしてくれた。まだ甘えん坊だったエマは、母親のエミリーが忙しくて相手をしてくれない時はルロワの後をついてまわり、広い祠祭館を物珍しげにながめては祠祭館の事や前に広がる墓地の事などルロワに質問をしてきた。汚れた服でうろつくこの少女をうるさいと思いながらも、他に話し相手のいないルロワは相手をして暇をつぶした。
エミリーが来られない時は隣にすむ農夫のニコラがやってきて世話をした。ニコラは寡黙で、ルロワに話しかける事は殆どなかった。何が気に入らないのか、ルロワをにらみつける様に見る事もあった。エマの事を、今までは汚らしい農家の子供だと思い、相手をしてこなかったが、家族がだれもいず、話し相手もいない今は来るのが待ち遠しかった。
そのように町の人たちはルロワの世話をやいてくれたがある日、コリアード軍が到着してからは本当の一人となった。
コリアード軍は突然やってきて町を破壊し、大量の兵隊の為の施設を作っていった。祠祭館も例外ではなく突然壊し始めた。ルロワは部屋を飛び出して兵隊達にさけんだ。
「やめろ。ここは俺の館だ。」
大柄な兵隊が大剣を振りかざしルロワの頭めがけて叩きつけようとした。
「待て、お前達下がれ。」
「これはレグルス様、このガキがうるさいので黙らせようかと。」
レグルス魔術師長はルロワの瞳をのぞき込んだ。首をひねりながら暫く考え込んでいる。
「お前はランプリング家の召使いか?」
「馬鹿な事を言うな。おれはランプリング家の跡取りだ。」
「アルファルドも苦労しているな。お前の父親は何処へいった。」
ルロワは無言で睨みつける。
「私はガサの町の魔術師長となるレグルス・アヴァロンだ。親からは何も知れされていないようだが何かの役には立つだろう。おれに付いてこい、弟子にしてやる。」
その日以来、魔術師の塔でレグルスの身の世話をする事となった。由緒あるランプリング家の跡取りが、弟子とは名ばかりの、召使いとしてのつらい生活が十数年続いた。
そのルロワがレグルスの目を盗み、かつて盗まれた、父の思い出がつまった椅子と絵画をとり戻したのは二年前で、塔の空き部屋に隠しておいた椅子に堂々と座れる様になったのは二ヶ月前、仮ながらも事実上塔の長となってからだ。
この二つの思い出の品を取り戻すために相当な労力と時間を費やしたが、祠祭師の館から調度品を盗み出した町人への復讐は果たす事ができた。
父のアルファルドは、ルロワがここまで勘違いをする用な子だとは想像もしていなかったに違いない。子供に対してもう少し親身になって応じてあげていれば、町人の無駄な犠牲を生むことはなかったのかも知れない。だが、ルロワはそのような隠された事情を知る機会は無かった。
ルロワは、取り返した椅子に座って、過去の良き日の思い出に浸る事がないと、毎日間抜けな魔族を相手にしている自分が人間性失っていく気がする。
まともな人間の話し相手が欲しくなったルロワは居酒屋のエマに白羽の矢を立てた。身よりがない、居酒屋のエマならば、司祭師の跡取りであったこの俺にかしずいてくれるだろうと思い、つれて来るようにジョンに依頼したが、なかなか成功していない。金は払ってあるのだ、明日にでも呼びつけてやろう。
ルロワは、家族を裏切った母への復讐と、父が手放さざるを得なかった祠祭館の再建を実現しようとしていた。そういえば、あのレース編みの布はどこへいったのだろうか、いつの間にか無くなっていた。
隣の部屋、魔術師長の執務室に人の気配がする。執務室の壁に飾られている仮面でカモフラージュされたのぞき穴から見ると、ジョンが荷袋を持って部屋をうろついている。ルロワは隠し部屋の天井からぶら下がっている、兵士呼び出しの紐を引いた。魔族の控え室にある鐘が鳴り、彼らは執務室にやってくるはずだ。
この部屋から塔の各所に伸びているそれぞれの空気穴から魔族達の移動する足音が聞こえてくる。塔の各所と曲がりくねりながら通じているこの空気穴はどうやら塔が作られた時からのものらしく、隠し部屋にいて塔全体の状態を把握する目的が当時からあったらしい。魔術師が、この様な物理的な手段に頼っていたのも滑稽に思えるが、魔術力を持たない今のルロワには大変役立っていた。
レグルスが魔術師長だった時、ルロワはその控え室で待機し、鐘の呼び出しにおびえたものだ。
石の階段を駆け上がってくる魔族の足音が遠くに響いている。ジョンも気がついたようだ。袋を抱えで出て行く。魔術師の塔入り口は常に魔族数体が警備している筈なのに、ジョンはどうやって入ってきたのか、執務室の位置をどうして知る事ができたのか追求する必要はある。しかし今はジョンを始末する事が先決だ。彼はこの塔に入って見てはいけない物を見た可能性がある。
ルロワは素早く隣の執務室に移動した。魔族が部屋にきた。
「今、ジョンがここにいた。あいつをこの塔へ入れた奴の処分は後でするが、すぐ追いかけて始末しろ。お前達は塔の外を確認にいけ、残りは塔の中を捜索しろ。」
入口の警護をしていた兵士二人には外へ賊の捜索にいかせた。
魔族達は一斉に部屋を飛び出した。
数日前に塔の一階広間から小銭と、純金でできた小さな置物が消えた事があり、大切なもの、術に必要なものは全て隠し部屋に移動しておいた。盗まれた被害はたいした事はないだろう。
魔族どもが裏切ったのかと思っていたが、ジョンが裏切り者だったとは気がつかなかった。処分しよう。
ジーナがいつもの草原で鍛錬を行っていると、川の方から争う人の声が聞こえてきた。その場所へ向かう。バウもついてきた。上流側でジョンが誰かと争っていた。
ジーナは川沿いの細い道を上り、見つからないように屈んで草に隠れながら近寄る。
いた。
右手にナイフを持ち、大きな荷物を背負ったジョンが竹林の中を走ってくる。すぐ後ろから魔族が一体、両刃の大剣を抜いてジョンを追いかけてくる。
「俺はいままでルロワさんの言うことを聞いてきたじゃないか。それなのに小銭しか呉れないなんて。少しくらい餞別をくれてもいいだろう。」
どうやら魔術師の塔から何かを盗んできたらしい。
胴だけの鎧を着けた魔族がジョンのすぐそばまで迫っている。服の下から尻尾が見え隠れしているところを見ると数日前倒した魔族と同類らしい。
ジーナが隠れている目の前の坂道でジョンが足を滑らせ転んだ。魔族が追いつく。
「ルロワ様がお前を始末しろと俺にお命じになられたのだ。」
ジョンがあとずさる。よほど未練があるようで、それでも荷物を離そうとしない。
「お前は魔術師の塔に入ってはいけなかったのだ。秘密を知った者は殺せとルロワ様がおっしゃった。」
「秘密とはなんだ?俺は何も知らないぞ。ただ、金が欲しかっただけだ。」
「お前は『ルロワ様によばれた』、といって俺をだまして塔の扉を開けさせ、中に入った。おかげで俺はルロワ様に殺されるところだったぞ。お前は塔にはいった事がないはずなのに、どうやってルロワ様の居室を知っていたのだ。」
「お前の仲間さ。こんなへたくそな絵に銀貨二枚もとりやがって、間違いだらけじゃないか。」
ジョンは絵が描かれた羊皮紙の切れ端を魔族に放り投げた。
「死ね。」
魔族が大剣を振りかぶった。
ジーナは隠れている草むらから、ダンから貰った杖を突き出して魔族の足を払った。
「うわ!」
一体の魔族はその場で転んだ。打ち所が悪かったのか、頭から血を流しており、起き上がる様子はない。
ジョンはその隙に荷袋を持ったまま立ち上がり、転がるように坂道を逃げていく。
「バウ、ジョンの後を付けてちょうだい。」
ジョンが去った事を確認してからジーナはバウにそう言い、残りの魔族へ立ち向かう。自分が魔族と戦う姿を他の者に見せたくなかった。魔族を殺した事が分かると、王家の魔術師会全体を相手にする事になりかねないからだ。
逃げるジョンの後ろ姿が消えたところで残った魔族の前に立ち、杖を構えた。魔族の腕前がさほどでない事は数日前の戦いで感じていた。まだ使い慣れていない杖だが、ダンとの鍛錬結果を試して見る気になったのだ。
「小娘、おまえはそんな杖でおれと戦おうというのか? ちょうど良い。女好きのルロワ様への土産にしよう。ジョンを追いかけるのはその後だ。どうせあの荷物では遠くへ行けまい。」
魔族は大剣を振りかぶり、ジーナの杖にたたきつけてきた。三キロの鉄の杖の方が剣よりも頑丈だと思ったジーナは足を踏ん張り、杖の中ほどで受けた。衝撃で手がしびれる。ダンと鍛錬していなければきっと杖をおとしてしまっただろう。再び構え直す。
杖が折れ飛ぶと思っていた魔族は杖が鉄製だとは思い至らないのか、不思議そうに自分の握っている大剣を見る。
「なぜ杖が折れない?」
体重を込めて一気に押し込まれたら、ジーナの体力では持たなかったろうに、かっとなった魔族は伸びた腰のまま、手先だけでひたすら杖に剣を叩きつけてくる。ジーナは常に剣の同じ所、先三分の一に杖が当たるようにしながら耐えた。人間と違って魔族は頭の回転が悪く、融通が利かないのだ。
さすがに杖を手で握っていられなくなってきた。杖を手放そうと思ったその時、突然魔族の剣先が折れて川へ飛んでいった。魔族が驚いて後ろへ下がる。ジーナはその機を逃さず、右手で杖の端を握り、急所の首を狙って自分の体重をかけ目一杯突き出した。チャンが教えてくれたナイフ技の応用だ。骨が折れる音がして魔族はそのまま倒れた。
このままではまずい、見つかった時にジョンが倒した様に見せかける必要がある。河原の大きめの石を頭の下に置き、魔族後頭部をぶつける。転んで頭を打った様に見せかける。魔石のかけらの指輪はそのままにしておき、近くに落ちている羊皮紙に書かれた魔術師の塔の図を拾う。
倒れている兵士の頭を石で殴るなど、とても年頃の娘が行う行為ではないが、しかたがない。ケリーランス公国の三年間では仲間達がもっと酷い殺され方をされていた。だからといって仇討ちをしようと思っている訳ではない。罪は魔族にされた動物にあるのではなく、魔族を作り出している魔術師にあるのだから。
川沿いの道を下り、ジョンを追いかけるが道沿いにその姿がない。道の下、川のほうからバウのうなり声が聞こえる。草をかき分けて河原へおりた。バウが洞穴の前で立ちはだかり、中に向かってうなっている。
「ジョン、いつまでも隠れていられないわよ。」
ジョンが袋を下げて出てきた。バウが咬んだのだろう。荷袋や服の裾が裂けていた。
ジーナがジョンの前に回る。
「なんだ、お前か。」
ジョンはほっとして体の力をぬいた。
「お前、ルロワの仲間だったのか。この前は油断して負けたが、お前には殺されないぞ。」
ジョンはナイフを構えて立ち上がった。口の割には手が震えている。
「ジョン、あの兵士達なら向こうで死んでいたわ。」
ジーナは杖の先でジョンのナイフを払い落とした。重さの分だけスピードが出る。
「素手では私を倒せないわよ。」
ジョンは信じられないといった顔で、ナイフがはじき飛んだ手を見つめている。
「川沿いを散歩していたら、あなたとあの兵士の会話が聞こえてきたの。少しして行ってみたらあの兵士達は頭を石で打って死んでいたわ。あなたが殺したのね。」
「俺は殺してなんかいないぞ。お前、あいつらの仲間じゃあなかったのか。」
「あんたを追いかけて滑って転んだのだからあんたが殺したのも同じね。早く逃げなくて大丈夫なの? そんな荷物を持っていたらすぐに捕まって殺されるわ。」
「俺はこの町を出るんだ。」
「魔術師会の回状が回ればあんたは大陸中の魔術師から追われる事になるわよ。どうするの?」
ジョンは破れた袋の口を開け、中身を物色し始めた。
金貨や銀貨、貴金属などを腰にぶら下げた革袋に詰めている。
残り物が入った袋をジーナに向かって投げた。
「お前が欲しいなら売ってやるぞ。」
「好きにするのね。でも生きていたいなら、塔へ泥棒に入った事も塔の兵隊を殺した事も忘れるのね。名前も変えた方が良いわ。」
「おい、俺の事を塔の人間に言ったら承知しないぞ。」
ジョンはそう言って南の方へ走っていった。自分が去った後でジーナが何をしても居なくなったジョンでは仕返しも出来ないだろうに。ジーナはそう思って思わず失笑した。
魔術師の塔から兵士が様子を見に来るかもしれないと思ったジーナは道を戻り、草むらに隠れて気配を探った。どうやら新たな追っ手はまだこない様だ。
ジョンの荷袋だけがのこった。
「バウ、見張っていてね。」
袋の中身を確認する。
もちろん、金貨や銀貨は残っていず、小さな空箱が数個と、がらくたが残っているだけだ。
空箱の一つに見慣れた文様が刻まれている。思わず手にとって良く見ると、祠祭館の墓標に刻まれていた文様にそっくりだった。確かめたくなったジーナはその箱を自分のポシェットに入れ、残りの品を元の様にジョンの荷袋に戻した。
洞穴を覗いてみる。ジョンが落としたのだろう、銀貨が数枚見えていた。
洞窟の壁のどこかに小さな穴でもあるのだろうか、ほおを生臭い風がなめている。かすかに人の気配もするが、気のせいなのか、魔術師の塔からの追っ手なのか判断できない。
数日前、ビルと魔法陣を発光させた時の事をおもいだした。あの時感じた気配に似ている。この気配はなんなのだろう。
川沿いの坂を上り、魔族が倒れている脇にジョンの荷袋を置いた。もし魔族兵士が探索にきたら犯人はジョンだと思うだろう。
村人が入り込む事のなさそうな脇道だ、この道に倒れている魔族兵士達はルロワの手下が見つけるに違いない。ここに留まっていては面倒になりそうだ。ジーナは宿に帰る事にした。
魔族達を探索に出して三十分立った頃、塔内部を探索していた魔族二体が帰ってきた。意外に早い。
「ルロワ様、塔の内部にジョンはいませんでした。大丈夫です。」
「お前達、盗まれたものは無いか、壊された物はないか、確認したか?」
「いいえ、先ほどルロワ様はジョンの探索を我々に命じたのだと思いましたが?」
「なぜ気を回さないのだ。異常がないか確認するのは当たり前だろう。」
「でも、いつもは余計なことはするな、とご命じになられていましたので、探索以外の事はしていませんが。」
「壊された物がないか、盗まれたものがないか、もう一度見回って確認してこい。」
二体の魔物は再び部屋の外へ出て行った。
さらに一時間後、二体の魔族は再び帰ってきた。
「ルロワ様、異常ありません。」
「外へ出た奴は帰ってきたか?」
「いいえ、塔の中にはいません。」
「お前達、すぐさがしてこい。ジョンでもお前達の仲間でも、どちらでも良いから見つけたら戻ってこい、町中へは出るなよ。」
魔術師会の大魔術師長が生み出した魔族が警備兵に混じっているとの噂をルロワは聞いている。彼らは人間とは区別が付かない。実際にルロワはガサの町では魔族を見分けた事がない。しかし、ルロワが生み出した魔族は動作も鈍く全く融通が利かない。普通の人でもそののろまな兵士に違和感を与えてしまいそうだ。恐ろしくてとても町中には出せない。盗賊をするよう命じていた二体は数日前から戻っていない。町中で魔族の噂を聞かないところを見ると、魔術師会の何者かに指輪ごと消された可能性もある。
彼らを活動させられるのはこの薄暗い塔の中か、人気のない森の中だけだ。
この塔で自分が生み出した魔族は町の人に疑われそうなほど出来が悪い。レグルスが再生した魔法陣が問題なのか、見様見真似で魔族を生み出している己の術に欠陥があるのか、ルロワは誰にも相談する事ができなかった。
さらに三十分後、一体の魔族が仲間の死体を抱えて戻ってきた。もう一体の手には破れた袋が握られていた。
「どうしたのだ?」
「こいつ、死んでいました。」
「ジョンにやられたのか?」
「そうだと思います。頭から血を出して倒れていました。金を盗られた様です。」
「この袋がそばに落ちていました。」
もう一体の兵士が、拾った袋をルロワへ渡した。
ルロワは渡された袋を覗いた。金目の物はジョンが抜いたのだろう、がらくたばかりだ。
「お前達、その死体とこの袋を塔の上の部屋に運んでおけ。」
これ以上の捜索は魔術師会に対するルロワの裏切りが発覚する可能性があり、やめたほうが良い。残念だが、ジョンは諦めよう、どこかでのたれ死ぬのを祈るしかない。
塔の仮の主となって二ヶ月がたった今でも塔の全容を知る事が出来ずにいた。魔術師会の持ち物であるこの塔には財宝があるだろうと思っていたが、何処の部屋を探しても祠祭館が再建できる様な金目の物は見あたらない。
二階の武器庫にある武具を金に換えたが、足下を見られたのか二束三文のたたき売りになってしまった。その時の取引相手がジョンだったのだが、その後、自分が生み出した魔族に着せる武具が必要になったので、ジョンに武具を返す様交渉したが、何処かから代わりの武具を持ってきてルロワに売りつけた。
結局、武器庫の武具を不良品と入れ替わっただけという結果で終わった。世間に疎いルロワが狡猾なジョンの手玉にとられてしまったのだ。
魔族に盗賊をさせようとしたが、それも失敗したようだ。塔にはルロワの知らない隠し部屋があるのだろうか。
レグルスに聞きたくても、言葉を失わせた。もはや聞くことはできない。