網戸法廷での審議内容
第X回 網戸法廷での審議内容
以下は被告人Nの当裁判における心象の動きを綴ったものである。
Nの手記による。
今日、私は訴えられた。
容疑は山本の家(A下宿つまり人様の家)の網戸を煙草の火で穴を開けたというのだ。
公務員採用の問題集を私がWに問いかけたところ、横から何やら文句を言いだす奴が現れた・・・山本だ。
彼が主張するには、私がチャンクという人物であると断言した。
チャンクというのは映画「グーニーズ」にでてくる、やらかし小僧のことである。
チャンク3K(壊す、焦がす、こぼす)とやらを主張し、私に謝れというのだ。
私はこの事実に反する彼の主張を何としても覆さねばと思い、表面上はまいったな・・・というそぶりをみせて内心、勝てると判断し唇を軽く歪ませた。
かくして、W家(T田下宿)において、緊急法廷が開廷した。
序盤から私は攻勢にでて、山本にプレッシャーを与え続け、彼に主張の場を与えぬようにした。
しかし、彼もこの機会を心待ちにしていたようで、矢継ぎ早に過去の私が犯した破壊行為とやらを主張した。
彼の主張の一部は、私もその容疑を認めざるをえなく断腸の思いだった。
が、イスを破壊したと主張した時、私は反省の念から一転して彼に懐疑の念を抱くことになった。
「私は潔白だ」と心の中で何度も言い聞かせた。
裁判長のWに、私は今の主張は事実に反すると言ったが、Wは私に対して反好意的であった。
どうやら彼は山本に与しているようだ。
だが、私は正義の名の元に断固として潔白を主張し、言いくるめた山本が狼狽する隙をついて彼の主張をはねのけた。
こうして、私は勝訴したが、ここで思いがけない事態に遭遇した。
なんと、今度はWが山本と同じ容疑で私を起訴したのだ。
なるほど、彼の家の網戸にも確かに穴らしきものがあいている。
が、私は知らない、知ったことではない。
事実無根で全く腹の立つ行為だ。
かくして、第二緊急法廷が開かれたが、Wは山本に比べ少々手を焼く相手には相違なかった。
私の熱弁もWの異議申し立てによって遮られ、裁判長(ここでいう山本)は全く私の考えに同調せず、孤軍奮闘を強いられた。
長期にわたる論争によって時間を失い、結局次回へ繰り越されることとなったが、相次ぐ根拠のない訴えに私は怒りの炎を心の中で燃やしていた。
次こそ・・・私の潔白が証明されると信じつつ・・・。
以降は被告人Nの手書きで書かれている。
その後・・・。
山本「すまない。N、俺が悪かった。本当に悪いと思っている」
W「先生、悪かった。私の勘違いだった。許してくれ。損害賠償金10万払うよ。これで何とか・・・」
N「フン。分かりゃいいんだよ」
ここで被告人Nの勝手な妄想に怒り心頭の原告山本は、
彼は勝訴の紙を高らかに持ち勇んで歩こうとした瞬間、横腹に電撃が走った。
「お、お、お前は!」
と書き、続いて被告人Nは、
神!
と述べた所で、この書簡は終了している。
この法廷内容を記した書簡は、不覚にも感熱紙で印刷した為に、チャンク的行動を知り得る貴重な資料が今まさに消え失せようとしていた。
そこで私はこの貴重な資料を後世に残すため、新たに作成しなおすことを決意することにした。
改めて資料を見直すにあたり、N氏の傍若無人ぶりが窺い知ることができる。
例えば被告人Nは自ら書き記した文面に、一部容疑を認め・・・(中略)・・・反省の念から・・・と罪を認めているのにもかかわらず、急に態度を変え反省の色を見せずに開き直って、理不尽極まりない自分の正統性を主張している。
この資料はNのチャンク的行動を記した資料である。




