「大好きな花売りのNPCにいつか役に立つかもだから遊び人と仲良くなろうかな」
フローリアちゃんとダンジョン都市リリスに帰ることを決める1ヶ月前の事だ。
遊び人のリゾッタが風船を吹いて、風船が割れてフローリアちゃんが倒れた。
やっぱりフローリアちゃんはピエロが苦手みたいだ。
前世にもピエロが苦手な人っていた。
ホラー映画に出てきたり、漫画でなぜか怖いキャラとして描かれていたりすることがあるからだろう。
本当なら遊び人のリゾッタは放置でいいのかもしれない。
だけど、いつか役に立つかもしれないから、僕は1人でリゾッタを連れて行く準備をすることに決めたのだった。
当初の僕の計画としては、昼は学術都市ミンデガルデを観光しつつ、徐々にフローリアちゃんにリゾッタに慣れてもらおうと思っていた。
だけど、フローリアちゃんはリゾッタを見て倒れてから、反応なく、宿屋のベッドの上で動かなくなってしまった。
だから、予定を変更して、昼はフローリアちゃんのお世話をして、夜はフローリアちゃんが寝てからリゾッタに会いに行こうと思った。
そうなると、心配なのはご飯とトイレとお風呂だけれど、トイレとお風呂は結構あっさり解決した。
宿屋の女将さんに相談したら、「リフレッシュ」の魔石を使えばいいと教えてくれたのだ。
リフレッシュの魔石とは、対象の人物や動物や魔獣に使うと、体を清潔な状態にして排泄物を体の中から消してくれるものだそうだ。
この世界ってほんとに不思議だ。
体が清潔な状態ってなんだろ。時間を巻き戻しているんだろうか。
「そんな便利なものがあるんですね」
「そうよぉ〜。お世話の仕方が分からない魔獣とかに使うことが多いけれどね。あたしのお友達がやってる雑貨屋が一番安いわ。なんと一個銀貨5枚なのに、10個で銀貨40枚! 後、その魔石を10個以上買ってくれたら、ウチに泊まる宿泊代のままで、その女の子にたべさせるスープを出してあげるわ。あたしの作るスープは評判いいんだから、匂いを嗅いだら絶対食べたくなるわ」
「とりあえず、その魔石急いで買ってきます。後、とりあえずスープを作っといてくれますか」
「あいよー」
と、ほぼ宿屋の女将さんとの会話で解決した。
この宿屋「綺麗なネズミ亭」は結構当たりだな。
そして、僕はフローリアちゃんのお世話生活を開始した。
学術都市ミンデガルデをフローリアちゃんと観光しながら、遊び人のリゾッタを攻略したかったけど仕方ない。
そう、フローリアちゃんと新しくきた都市ミンデガルデでデートしたかった。
うんまあ、それは置いておこう。
問題は……、
「この前の女の子だいじょーぶー? 後、バナナいるかな?☆」
リゾッタだった。
遊び人リゾッタは夜に会いにきてもミンデガルデの街角にいた。
今は夜の11時だ。
だけど、リゾッタは街角をカツカツと音を立てながら竹馬で歩き回るパフォーマンスをしている。
正直うるさい。
後、竹馬の足を乗せる位置が僕の身長くらいある。
後、歩き回っているのに器用に僕に視線を合わせてくる。
「フローリアちゃんは今は休んでる。バナナはもらう。ありがとう」
「いえいーえ☆」
リゾッタがウインクした後に投げキッスをしてくる。
「君の名前はなーに? 自分の名前はリゾッタ☆」
「クアトだよ。ただのクアト」
「自分もただのリゾッタだよ! 自分達気が合うね☆」
「そうかな?」
「ふふっ☆」
色々リゾッタが話しかけてくる。
ゲームではこんな感じではなかった。
一方的にリゾッタが街角でパフォーマンスをしていて、それを見て銀貨一枚払うというような流れだったはずだ。
頑張って仲良くなろうとおもわなくてもリゾッタはグイグイくる。
おかしい。
それと一人称が「自分」で、男とも女とも取れる声をしている。
ピエロのカラフルな服で体型はよくわからない。
ここはゲームと同じだ。
ゲームの中でもゲーム運営公式は男か女か明かしていなかった。
「昨日の女の子、固定職業の花売りのフローリアちゃんでしょ?☆」
リゾッタが竹馬で歩き回りながら話しかけてくる。
……固定職業? NPCの特殊な職業の事か。
「そうだよ。フローリアちゃん」
「わーお、自分とおんなじぃー☆ 自分も固定職業の遊び人なんだー☆フローリアちゃんと話が合いそう☆なんなら自分の家にだけ代々語り継いでいるお話もおしえたーい☆」
「え、そういうのあるの?」
完全にゲームとは違ったことを遊び人が話している。
僕はちょっと真剣に遊び人のピエロ顔を見返した。
ちなみにこの話の間にもリゾッタは竹馬パフォーマンスを続けている。
あ、今竹馬に乗ったまま宙返りした。
ちょっとすごい。
「自分、寂しいんだ。フローリアちゃんもそうだと思う☆ おなじおなじー☆ じゃあ、今日もこの寂しいピエロが面白いと思ったら帽子にコイン入れてねー☆」
「明日も来る」
リゾッタが竹馬の上からウインクから僕の顔を覗き込んでくる。
顔が近いなぁ。
大好きなフローリアちゃんならともかくこんなに近いの好きじゃない。
僕は横に差し出されている帽子に銀貨一枚を入れた。
「ありがとう☆ 明日は自分の秘密教えちゃう! ダンジョンの方に来てね☆」
「えっ、もう?」
今の台詞はタイムアタックダンジョンでリゾッタと対決する時のものだ。
「自分寂しい☆ クアトくんが来るのをずっと待ってたよ☆ 自分達一族ずっとずっと待ってたー☆ ははっ! じゃあ、また明日ねー☆」
リゾッタは謎の言葉を残して、器用に竹馬でスキップしながらどこかに行ってしまった。
まあ、1ヶ月もかけないでタイムアタックダンジョンに挑戦できるなら良かった。
タイムアタックダンジョンでやりたかった事もあるし。
これは逆にフローリアちゃんに休んでてもらって好都合かもしれない。