「大好きな花売りのNPCと一緒に遊び人を見てみよう」
学術都市ミンデガルデにはその後余裕で着いた。
着いたらフローリアちゃんが小切手みたいなのにサインして商人に渡して旅費の支払いを済ませていた。
スマートだった。
「ん? どうしたのクアトくん。あ、ちゃんとパーティーの共有口座から支払いは済ませたから」
「ありがとう。ごめん、僕あまり役に立たなくて」
「え、やだ。クアトくん、私たちそれぞれ自分ができる事をやるのよ」
「うん……」
そう、僕が役に立つこと。
NPCのスキルを知っている事。
この時期はこの都市ミンデガルデの街角に目指す「遊び人」は立っているはずだ。
僕ははりきってフローリアちゃんの先に立って歩き始めた。
フローリアちゃんは僕の後ろに隠れるようにして着いてきてくれる。
この時間はこの街角にいるはず!
と歩いていると、前方に人だかりと大きな風船が見えてきた。
大きな赤い風船だ。
いわゆるバルーンパフォーマンスを遊び人がしているのだろう。
風船がちょっと大きい。僕の身長よりも大きいし、人だかりはザワザワしてる。
「え、ちょっとどれだけ大きくなるのよ」
「あ、ちょっとこれはフローリアちゃんは……初回これはやばいんじゃ、え、あれ」
フローリアちゃんが僕の後ろから顔を出して風船を見ている。
興味津々の顔はかわいいけれど、これは。
風船は僕が「まさか」とか言ってる間にみるみるうちに大きくなる。
「さあさあ、どーんどん大きくなるよ⭐︎」
風船の後ろからふざけたような声が聞こえる。
遊び人だ。
「やば、おっきい……」
「風船てこんなに?」
「遊び人て意外と面白いな」
みたいな人だかりの人たちの声も聞こえてきた。
僕は立ち止まる。
あまり近づかない方がいい。むしろこれは引き返した方が………。
「え、クアトくん。どうして止まるの? 遊び人って結構すごいのね。こんなに大きくなる風船見た事ないわ。もっと近くで見たいの」
「フローリアちゃん、そろそろやばい。引き返そう」
「ええー」
もう、間に合わないかもしれないけれど引き返した方が。
確か前世のネットゲームでも遊び人の風船は画面いっぱいに大きくなってた。
そして、
「あぁー!! 不思議! 吹くのをやめたのに、勝手に風船が大きくなーる⭐︎」
遊び人がおどけた声を出した。
パァァァアンン!!!!!
「きゃーっ!!」
「うわっ!」
大きな弾ける音が響く。
フローリアちゃんが悲鳴を上げた。
口から心臓が飛び出るかと思った。
とっさにフローリアちゃんを抱き込んでいた。
つぶった目をゆっくりと開けると、辺りにキラキラした紙吹雪と紙おもちゃが舞っていた。
石畳の地面の上に紙風船や紙の人形が転がる。
人だかりの人たちの大人は口々にびっくりした事を口にしている。
けれど、子供は舞い散るおもちゃに群がっている。
ああ、びっくりした。
ゲーム画面でしか見なかったけど、遊び人のバルーンパフォーマンスって実際見るとこんな感じなんだ。
抱きしめていたフローリアちゃんを見ると、目をまん丸に見開いて固まっていた。
「皆、面白かったらこの哀れなピエロの帽子にコイン入れてね☆」
破裂した風船の向こうにはまんまピエロの「遊び人」が立っていた。
目には赤と青の星のメイクと鼻は丸い鼻を付けている。
髪だけは何故か紫のストレートボブだ。
大きな黄色のボールに乗っかっていて、常にバランスを取りながら立っている。
僕はとりあえず必要なことだから銀貨一枚をピエロの三角錐の帽子に入れた。
「ありがとうございま~す☆」
リゾッタがおどけた節でお礼を言う。
……これから一ヶ月、遊び人のリゾッタの帽子に銀貨一枚を入れ続けることはできるのだろうか。
フローリアちゃんはまだ固まっている。
ピエロが苦手だったぽいから仕方ない。
明日から休んでてもらって、僕だけがリゾッタのパフォーマンスに通おう。
まず、リゾッタを仲間にするには一ヶ月リゾッタのパフォーマンスを見て銀貨を入れないといけないから。
今日のノルマは終わった。
帰ろう。
「フローリアちゃん、とりあえず予約してある宿屋に向かうね」
返事が返ってこない。
僕はフローリアちゃんの手を引いて、地図を見ながら今日の宿に急いだ。