「大好きな花売りのNPCのヒモかもしれないけれど僕は」
チュンチュン………。
安宿(一応カギがかかる個室。銀貨7枚で日本円で7000円位)の外で鳥が鳴いている。
昨日はフローリアちゃんの家には泊まらなかった。
フローリアちゃんの様子もおかしかったしね。
昨日は色々考えながら寝てしまった。
とりあえず、朝食を食べよう。
この宿には無料の朝食が付いてるから。
宿屋の一階食堂に降りていくと、パンの焼ける匂いが僕を包んだ。
メニューは安い黒パンとマッシュポテトとゆで卵の食べ放題だ。
安い黒パンでも焼きたてなら美味しい事は最近知った。
時々おぼろげな前世であったコンビニとかの複雑な調理パンや実家の白パンが懐かしく思うけれど。
「おい、優男。俺のパーティーに入れよ」
「間に合ってます。もう可愛い「花売りのフローリアちゃん」とパーティーになってます」
「うっ………。それを穏便に抜けてだな……」
ゆっくり朝ごはんを食べていると、横からガチムチの冒険者に声をかけられる。
それをきっぱりと断る。
すると、その冒険者はごにょごにょ言っていたが他の冒険者に引っ張られて去っていった。
この町でフローリアちゃんは有名で何故かちょっと恐れられている。
こんな風に僕の毎日は最近平穏だ。
それもこれもプライドを捨ててフローリアちゃんを「利用することにした」おかげ。
僕はフローリアちゃんの寄生虫みたいなものだ。
フローリアちゃんがいないと、僕はご飯も食べられないし地べたで寝る羽目になるしガチムチの冒険者に追いかけられまくる。
「おい、俺の女になれよ」
「僕は男だし、誰かとどうこうなるなら「花売りのフローリアちゃん」以外とは考えられないので間に合ってます」
「フローリア………ちっ………」
食べている横からまたガチムチ男に声をかけられたのできっぱりと断った。
安宿だからなのかなんなのか、変な奴は多い。
でも、なんとか生活できているのはフローリアちゃんのおかげ。
フローリアちゃんが全てだ。
そう、それが僕の昨日から一晩考えて出した結論だ。
もう一回言おう。
フローリアちゃんが全て。
ダンジョン11階以降のフィールドがクリスタルフラワーが台無しになるから進めない。
だからなんだ。
10階のボスは1か月毎に復活する。それを中心に狩り続けても十分暮らしていけるし、このダンジョン都市「リリス」以外にもダンジョンがある都市はある。
フローリアちゃんが「嫌だ」というなら、「遊び人のリゾッタ」なんて探さなくて良い。
まあ、ゲームの名前「リリスゲート」を一部冠したダンジョン都市「リリス」だから、狩る効率が一番良いのは確かなんだけど。
アイテムがすごいの(語彙力)が出てくるのもこのダンジョン都市「リリス」なんだけど。
好きな子と慎ましやかに生活していけるなら問題ない。
ずっと一緒に暮らして、家族になって子供ができたりして、年取ったフローリアちゃんとのんびりしていければ。
それで良い。
「クーアトくんっ!」
「へ?」
横を振り向くとニコニコ顔のフローリアちゃんが居た。
「来ちゃった」
フローリアちゃんはそう言って、僕の横に腰かけた。
今日も相変わらず可愛い。
テンション高いフローリアちゃんとは裏腹に食堂が静まり返っている。
「あのね、クアトくん。食べながら聞いてくれる?」
「ん、何?」
僕は口の中に入っていた黒パンをゴクン! と勢いよく飲み込む。
なんだろう。
「昨日は変な事言ってごめんね。私ね、遊び人にあまり良い思い出がなくてあんな態度取ったの。正直、遊び人が怖いわ。だけどね、クアトくんと楽しく冒険したい。だからまず、遊び人をこっそり遠くから見ることから始めていい?」
と、フローリアちゃんが上目遣いでおねだりしてくる。
僕はちぎれそうになるくらい首を縦に振った。ちょっとパン出そう。
「もちろん! そうなんだ。遊び人ってピエロだからなんか不気味ってのもあるかもね」
「ん? うーん」
僕がそう言うと、フローリアちゃんが曖昧に首を傾げる。
その気持ち分かる。
僕のおぼろげな前世で、なんかピエロが凶器振り回してるホラーがあったようななかったような。
「じゃ、こっそり見に行こう。今の季節、遊び人は学術都市ミンデガルデに居るかな。貯金は………、うん。多分、大丈夫だね」
財布にもお金がたっぷりあるし、ギルドに預けてるお金もばっちりだったはずだ。
金貨300枚ぐらいは溜まってたはず。レアアイテム狩りまくってたし。
「ありがとう! クアトくん、好きっ!」
「ぼ、僕も………」
フローリアちゃんが笑顔で抱き着いてくるのを、僕はしっかりと受け止めた。
フローリアちゃんは温かくて優しい重みを感じる。
ああ、僕はなんて幸せ者なんだろう。
ゲームの世界に転生して良かったなぁ。
まだまだ楽しく冒険は続けられそうだ。