「魔王の頭より両手の方が強かったかもしれない」【魔王の頭】→【魔王戦終了】
「クアトくん! 大好きよ! ここまで来たら後は任せて!」
僕の横を風が駆け抜けた。
フローリアちゃんが魔王の頭に走って行って、噛みつき攻撃を避けながら斬撃を食らわせている。
「魔王も体力は後ちょっとだしね☆」
「クアトがいないと絶対倒せないってわけでもないし、休んでたら? べ、別にクアトを心配してるわけじゃないんだからね! ハイウインド!」
「ハイシャープ! ハイウォール!」
リゾッタもせっちゃんもベリーちゃんも攻撃の手を緩めてない。
「魔王を倒したら固定職業の縛りは無くなるっ! つまりっ! クアトくんと結婚っ! そして家族でずっとめでたしめでたしっ! クアトくんがそんな反応って事はどうせあなた何かクアトくんを苦しめたんでしょう? いなくなって!」
フローリアちゃんがキリッとした目つきで片手剣を振り回している。
言葉を区切るごとに確実に攻撃を魔王の頭に当てている。
僕はそんなフローリアちゃんと皆に呆然として、体の震えもいつの間にか収まっていた。
さっき落とした剣を無理やり持って魔王に向かう。
「もう君の名前も覚えてないけれど、僕をフローリアちゃんと会わせてくれた人に『魔王』を倒すように言われたんだ。僕を殺したことにお礼は言わない。けれど、きっかけになってくれて助かった。体力が少なくなってきてようやく自由に喋れるなら、いったん、その『魔王』の体を倒して中に入ってる君がどうなるか検証した方がいいんじゃないかな?」
僕はそう言いながら魔王に『疾風剣』を食らわせた。
考えてみれば、『魔王』に僕を殺した奴が入っているのだ。
全力で攻撃することにためらう必要はなかったし、皆と一緒に居るのだから怖がる必要もない。
途中でちょっと計算外が合ったけど、このパーティーなら魔王を倒せると僕が判断したのだから。
そして、僕はフローリアちゃんと結ばれるためなら何でもすると誓ったんだから。
「うがああああ! な、なんで俺がこんな奴に!」
そんな言葉を残して『魔王の頭』は、淡い光の中へクリスタルフラワーと共に消えていった。
後には500枚を超える大量の金貨が入った宝箱と、最強装備を作るために必要な素材『魔王の銅コイン』が5枚落ちている。
「あっ、これ周回前提だった」
初回の魔王を倒すと、魔王はもう街を壊さなくなるけれど、月一回世界のどこかにリポップ(戦える状態で再登場)する。
倒した後に貰えるコインを集めて鍛冶屋に持っていくと、枚数に応じて最強装備が作れるのだ。
ただし、それが結構果てしない作業で……。でも、この後の追加モンスターを倒すには持ってなきゃいけない装備だから……。
僕は遠い目をした。
『良かった良かった。おかしな話だけど、フローリアと力を合わせて自分で自分の仇を取れたみたいだな。魔王に入れて500年は放置しといたこのお前を殺した奴の魂は、私が責任もって捻りつぶしとくよ。あ、固定職業の縛りは解けて、新たに『魔王』を倒した奴は今までの職業に加えて別の職業にもなれるぞ。じゃあな、今度こそ本当にばいばーい』
どこからか僕をこの世界に送ってくれた女の人の声がする。
皆も女の人の声は聞こえているみたいだけれど話の内容は意味が分からないのだろう。
皆は首をひねった後、
「神様?」
とかせっちゃんが呟いていた。
「クアトくーん」
フローリアちゃんが満面の笑顔で僕に駆け寄ってきていた。
手を広げると、そこにフローリアちゃんが上手くはまった。
緑色の目が上目遣いで僕を見つめる。
「えへへっ、クアトくん。好きっ」
とフローリアちゃんが言いながら、タオルを持ってまず僕の顔を拭いてくれて、それから自分の顔を拭いた。
「僕も好きだよ」
うん、二人とも結構汗かいてた。
「僕、汗臭くない? 大丈夫?」
「ううん、クアトくん。落ち着く匂いだよ。大丈夫」
僕たちはニコニコとほほ笑みあう。
フローリアちゃんがタオルで拭いたほっぺたに優しくキスしてくれた。
僕たちは真っ赤になって見つめあう。でも、口元は緩むのを抑えられない。
好きな人といると、それだけで楽しいし落ち着くし幸せなんだ。
それだけで良い。
「おーい、バカップルー。……ん、まあ今日は仕方ないわねー」
「クアト氏、フローリア氏。カップル仲いい。良かった。我、そこそこ喋れる。幸せ」
「踊り子ちゃん、良かったね☆ 自分も一族の仇取れて幸せだよ☆」
皆が遠くで何か言っている。
きっと、皆幸せという事だろう。
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