「大好きな花売りのNPCが困ってるから遊び人を探さないとかな」
昨夜は、一晩中フローリアちゃんと二人っきりで楽しんだ。
もちろん、あれやこれやだ。
「クアトくん。また何考えてるの?」
少し遠い目をしながら歩く僕を、フローリアちゃんが不審げに覗き込んでくる。
もちろんダンジョンを歩きながら。
昨日の続きからの階層から始めて11階だ。
昨日、10階の木のボスモンスターを倒したけれど次の日は休みを取らなかった。
そう。
一晩中異性と一緒に居たからって特に何も起こらない。
「昨日のフローリアちゃんの手料理美味しかったなって思い出してた」
「もう、クアトくんってば!」
フローリアちゃんがワゴンを押したまま器用に僕を小突く。
そう、手料理だ。
13歳の男女は微妙過ぎて何も起きなかった。
フローリアちゃんが、
「クアトくんが美味しいって言ってくれたら嬉しいなぁ」
って次々出してくれる手料理をあれやこれやと堪能しただけだ。
フローリアちゃんの手料理は普通に感動しながら美味しく頂きました。
だってすごいんだ。
ゲームキャラの手作りの料理だよ。
ケチャップでハートマークが書かれたオムライスなんか、やばいほど美味しかった。
フローリアちゃんの愛とケチャップの甘酸っぱさと、薄焼き卵の包容力が………!
うん、それはともかく、美味しいご飯をたらふく食べたらソファで寝た。
美味しいものを食べると眠くなるよね。
フローリアちゃんの家はコンパクトでとても居心地が良い。
朝も早い時間にすっきり目覚めた。
特にどこも痛くないし、疲れも取れている。
フローリアちゃんが作った朝食を二人で食べて、合間合間にフローリアちゃんはクリスタルフラワーの面倒見てた。
僕もクリスタルフラワーの面倒見るのを手伝ったら、(雑草とったり水やりとかだ。クリスタルフラワーはすごく水を吸収して驚いた。)結構いい感じで早く支度が終わり、
「ダンジョン行こうかなっと」
って流れになったのだ。
ちなみにもう冒険者ギルドには行って、昨日の報告はしてきた。
ギルドカードも到達階数が「地下10階」に更新された。
ギルドカードはどういった仕組みなんだろう。
ギルドカードには、
なまえ:クアト
パーティー:クリスタルフラワー
しょくぎょう:けんし
かいすう:ちか10かい
とだけ書かれている。
レベルの記載は無いし、ギルドカードは前世にはなかったアイテムだ。
ひらがなとカタカナのみなのは、学校へ行っていない冒険者へも配慮してだろうか。
レベルの代わりに到達階数が実力を示す指標としてあるんだろう。
実際、10階に到達したら中堅冒険者と言われているくらいだし。
「クアトくん、なんか暑くなってきたね。やっぱり本に書いてあった通り11階からは火のステージなのかな」
横を歩いているフローリアちゃんが心細そうにする。
11階からは下はアスファルトで壁はやっぱり少し光る石壁だ。
ちょっと気になるくらい暑い。
まさか、異世界転生してもアスファルトの熱さに苦しめられるとは。
「うん………、こんなに暑いとは思わなかったな。体調とかクリスタルフラワーとか大丈夫?」
「そう………私は大丈夫だけれど、クリスタルフラワーがやばいかも」
いや、フローリアちゃんも額から汗が出てるし、クリスタルフラワーは心なしか「しなっ」となってきてる。
というか、洗い替えで買った守護のローブは(木のボスモンスターの儲けを突っ込んで買った)攻撃じゃないから暑さは防がないのか。
そうかそうか、汗が出たり「しなっ」となったりこれはゲームと違うな。
うん、大変だ。
僕の推しキャラが苦しんでいる。
素早い決断が必要だ。
僕はパァンと手を打ち合わせた。
「いったん引き返して引き上げよう。ここから近い転移陣はどこだっけ?」
「えっ? あっ?」
「さぁ、行こう。ちょっとくらいなら花のワゴンを僕が押しても大丈夫かな?」
「う、うん………あぅ、手ぇ」
幸いにもさっき転移陣を横目に見た気がする。
善は急げだ。
僕は片手でフローリアちゃんの手を引き、片手で花のワゴンを押して転移陣に急いだ。
フローリアちゃんの顔が赤い。熱中症だろうか?
ダンジョン出たら一番近いカフェに行こう。
ボスも倒したし、貯めといたお金もあるし。
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「あ、すみません。アイスカフェオレ2つください。あ、フローリアちゃん、ケーキ頼む? この宝石苺のタルトが美味しそうだよ」
「うん、ありがとう。……って、クアトくん! ダンジョンから引き返しちゃったけど、何か解決する方法あるの?」
手近なカフェの店内は涼しい。
すぐに運ばれてきたアイスカフェオレを前にフローリアちゃんが身を乗り出した。
緑の目が少し潤んでいる。
その焦った様子もキラキラかわいい。
「そうだね。心当たりがあるんだ。ここだけの話だけどね」
「うん」
僕はアイスカフェオレを少し飲んでから、フローリアちゃんに耳元に囁く。
「『遊び人のリゾッタ』がフィールドを変えるスキルを持ってる」
「え、遊び人……っ」
フローリアちゃんは僕の言葉を聞くと、顔色が一気に白くなった。
「遊び人、いや、怖い。関わると弾けちゃう。飛んじゃう……っ」
「え? はじけ? え?」
訳がわからない。
「あ……ごめん、ちょっと私。お手洗い行ってくるね」
フローリアちゃんはハンドタオルを引っ掴んでトイレに走っていった。
「失礼します。宝石苺のタルト、お待たせしました〜」
店員さんが入れ違いにタルトを持ってきた。
フローリアちゃんはお手洗いに行くと長い。
女の子はお化粧直しとか色々あるからね、きっと。
「あ、すみません。世界樹栗のモンブラン一つ」
僕は自分の分のケーキを頼んで、考えることにした。
フローリアちゃんを11階より下の階層に連れて行くには「遊び人」のスキルが必要だ。
と、僕は思っている。
「遊び人のリゾッタ」は見せ物をしながら、都市を点々とするNPCだ。
「大好きな花売りのNPCが困ってるから遊び人を探さないと」
と僕は呟いた。
そう思っているのだけれど、なんだかフローリアちゃんの反応がおかしい。
さあ、どうしようか。