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「大好きだった花売りのNPCを利用する事にした」  作者: ひとみんみん


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「大好きだった花売りのNPCと結ばれる為なら何でもします」【前世】→【?】

※本日、3回目の更新です。最新話のリンクから飛んでいる方はお気を付けください※

※今回の話、人間同士の暴力行為があります※

※クアトの回想回です※

 ……あれ? 目の前にパソコンがある。

 僕はフローリアちゃんが居る世界に転生したはずなのに。


 僕の戸惑いは置いておいて、手はいつものように自動的に動く。

 お客様から頂いた情報を整理整頓して、また引き出しやすいようにしてからデータベースとして蓄積していく仕事だ。


 誇りを持っている仕事という訳ではないけれど、フローリアちゃんにふさわしくなる為に、一生懸命やっている。


 ゲーム中でも、フローリアちゃんは『花売り』の仕事にあれこれ言いながらもちゃんとやっていた。小さい頃から仕事をしている、と。

 僕も与えられた仕事、自分にできる仕事をフローリアちゃんのように懸命にこなしていきたい。


「お前、アニメキャラ好きとかマジキモいな! 現実を見ろよ現実を」

「アニメじゃなくて、ゲームだよ。現実は見てる」

「何でもいいけど、二次元好きとかコワキモいだろ。うぜぇ〜」


 同僚にパソコンの横に置いてあるフローリアちゃんのアクリルスタンドを見て、笑いながら頭を小突かれる。

 普段なら笑ってやり過ごすのに、その微妙な言い方がちょっとイラッとして言い返す。

 すると、同僚は言い返されるとは思ってなかったのかギョッとした顔をした。捨て台詞を吐いて、僕の隣に着席する。

 僕は気にしない事にした。


 また、場面が切り替わる。


 同僚の女性に給湯室に呼び出された。

 行ってみれば、同僚の女性が頬を染めて待っていた。


「好きなんです。■■さんに告白されたんですけど、私は●●さんと付き合いたくて。仕事に一生懸命なとことか、パソコンに向かってる横顔がかっこいいとことか、本当に好きです」


 告白を言い切った同僚は、キラキラした目をしてこちらを見ている。

 ■■さんてこの前、僕のアクリルスタンドに文句言ってきたあの人か。

 かっこいいとか初めて言われた。

 やっぱりフローリアちゃんにふさわしくなる為に頑張っているからだろうか。


 ……どうしよう。

 なんて言ったら良いんだろう。


 ……その後、同僚の女性は何とか分かってくれた。


「他に好きな人が居るから付き合えない」


 と言ったら名前を教えてと食い下がられたけど、それって教えるメリットはない。

 僕を好きだと言ってくれる人を信じない、という事は悲しいけれど。


『現実』はちゃんと見ている。


 女性に好きな人の名前を教えてと言われて、トラブルの元だから教えるわけにはいかないし、


「ゲームキャラクターのフローリアちゃん」


 とは答えるわけにいかない事。


 パソコンの周りには皆、好きな人の写真とか好きな芸能人の写真とか好きな物を飾っている。

 でも、ゲームキャラを飾るとキモいと言われる事。



 ……でも、僕は、フローリアちゃんが真剣に好きだからその気持ちを大事にしていきたいという事。


 ……フローリアちゃんが好きだ。

 仕事を毎日頑張ってる所が好きだし。

 最初の猫かぶりなとこも好き。

 仲良くなってからちょっとぶっきらぼうになるけど、優しいとこが大好き。

 ワゴンを押して危険な戦闘に着いてきてくれるのも大好きだし、『絶対花売り』のスキルがかっこよくて好き。

 金髪に緑の目で、ちょっとそばかすがあるのも好き。


 世の中は『好き』の気持ちで溢れている。

 街にはラブソングが流れているし、テレビでは芸能人がしょっちゅうくっついたり離れたり。

 同僚の女性だって、自分の『好き』の気持ちを大事にして、僕の『好き』の気持ちを大事にしてくれたんだろう。


 皆、同じ。


 僕はいつまでもいつまでもフローリアちゃんだけを好きで居たい。

 僕の初恋で最後の恋だから。


 ……

 …………

 ………………


 そう思っていた。

 皆、好きという気持ちを尊重できているはずだって。


「……え? いた……い」



 同僚の男、■■に呼び出されて会社の非常階段に来た。

 ニヤニヤしてたから、もしかしてこの前の僕に告白してきた女性と付き合う事ができたのかな、って思った。

 くじけずにアタックを繰り返して、『好き』の気持ちを受け入れてもらったのかなって。

 だから、僕に気を遣って報告してくれるのかなって。


 ……それが。それが。


「オタクのくせに気にいらないんだよっ!」


 脇腹や胸に熱い塊を感じた。

 視界の端に何かきらめくものが見える。


 それって? まさか。


「痛い! 痛い痛い! やめてっ!」

「いっちょ前に女振りやがって! 俺を見下してるんだろっ! なぁっ?」


 僕は必死で首を振った。

 暴力を振るわれている。


 痛い痛い痛い。


 このままでは死んじゃう。

 死んでしまう。


 僕は、僕はまだフローリアちゃんにふさわしくなる為に……。


 同僚から逃れようと後退り、ふわっと体が気持ち悪く浮いた後、何かに体が叩きつけられて……。


 ---


 気づくと僕は、ギリシャの神殿みたいな所にいた。



 ……ああ、これは、忘れていた。


 僕は『何か』と約束してフローリアちゃんの世界に来た。




「お前、死んだろ? 死んだな」

「え、僕、やっぱり死んだんですか?」


 目の前にはいつの間にか、黒い角が生えた女性が立っていた。

 見たこともないほど顔が良くてスタイルが良くて、見たこともないほど目つきが鋭かった。

 ゲーム「リリスゲート」で出てくる悪魔のようだった。


「おお、死んだ死んだ。安心しろよ。お前を殺したあいつも錯乱して階段から落ちて死んだから。まあ、お前を殺した奴は全然面白くないから放置だけど」


 ニヤリと笑った女性に、僕は何と言っていいか分からなくて黙る。

 僕は、まだまだフローリアちゃんにふさわしくなってはいないのに、死んでしまったのか。


「『ふさわしくなる』とかそんなの必要か? そんなのお前のありのままを受け入れてくれるかもしれないのに。言い訳だろ。いつまでたっても架空の女となんて会えないから、いつまでもいつまでもそんな言い訳繰り返してる」

「僕の中には居る!」

「ははっ、必死だねー。神は心の中にいて、あなたの神を試してはならないってか? ウケるー」


 女性が楽しくてたまらない、とでもいうように笑いながら手を叩いた。


 生きてても死んでても僕の気持ちは馬鹿にされる。

 どういう事なんだろう。


「まあ、怒るな怒るな。そんなお前にいい話がある。そのゲーム? 「リリスゲート」の元になった世界にフローリアとかいう奴がお前の事待ってるから」

「えっ?」


 女性の言葉に、僕の胸が痛くなった。


 フローリアちゃんが? 僕を待っている?

 フローリアちゃんが『居る』?

 存在するって事?


「ふふっ、食いつきやがって。サービスなんだぞ? 実はな、そのゲーム「リリスゲート」の世界。中途半端にゲームみたいに作ったせいで、ゲームに似てたり似てなかったりして、途中で飽きて放置してたら魔王が無意味に暴れるし、固定職業の……ああ、NPCって言うんだけ? が目的見失って惨殺されてるしでめちゃくちゃになってきちゃって」

「フローリアちゃんは?」

「まあ、急ぐな急ぐな。フローリアは比較的無事だよ。ちょうどお前の好きなフローリアが居る時に送るから。魔王を倒してあの世界を安定させてくれないか?」

「分かった!」


 僕は『フローリアちゃんに会える』という蜘蛛の糸をぶら下げられて、すぐに頷いた。


「流行りの異世界転生なんだから面白くやれよ。お前の運命楽しくいじっとくから。フローリアと会えれば満足なんだろ」


 僕は、今まで望むこともできなかった事が急に叶うことになって、全く女性の話を聞いてなかった。

 頭の中がフローリアちゃんで一杯になって、叶わないはずの思いが叶うかもしれないってなって。


 もう、何でも良かった。

 よく考えたら、女性の言うことの大部分が不審な事で一杯だったのに。


「僕が好きなフローリアちゃんと会わしてください。何でもしますからお願いします」

「よしよし。そんな風にお願いされたら聞かないわけにはいかないよな。人間だって想いが報われないとな」


 女性の言葉に、フローリアちゃんへの気持ちで完全に頭がいっぱいになった僕は、ほとんど自動で頷く。


 女性が僕に向かって手をかざすと、僕は黒い黒い闇に包まれ始めた。


「人間って本当に馬鹿で面白いなぁ。ま、フローリアが何百年も昔から花を買ってくれる奴を待ってるのは本当だし。多分、フローリアもお前の事は好きになるだろう。嘘じゃないし、私ってば親切だな。中途半端に作った世界でフローリアと助け合って頑張れよ。ゲームと大体同じだからうまくやれ。あ、しまった。人間の脳ってちゃちいから、ここでのやりとり忘れるかも。魔王を必ず倒しに行くように運命をいじっとこう。ばいばーい」


 女性が見えなくなっていく視界の中で手を振るのがかろうじて見えた。

 僕は神でも悪魔でも、フローリアちゃんと会わせてくれることに感謝して頭を下げ続けたのだった。

読んで下さってありがとうございました。

もし良かったら評価やいいねをよろしくお願いします。

また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。

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