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「花を買ってくれる美少年が少し不思議だけど好きなの」

「今日は君にお願いがあるんだ」


「そうね、そろそろ言われると思っていたわ。で、何? と言っても私には花を売るくらいしかできないけど。色を売る意味で花は売れないから」


 私はとうとう言われた。そろそろ言われると思っていた。

 だけど、私は花を売るしかできない。

 傍らに止めている商売道具の花売りワゴンを横目で眺める。

 一体、どんな無理を言われるんだろうか?


「ダンジョンで花を売って欲しい」


 身構えていた私の耳に届いたのは、不思議な言葉だった。


 ダンジョンで花売り?



「え? どういう事? 私は戦闘職じゃないし、花売りだから花を売るしかできないけど」

「それでいいんだ。ダンジョンで怪我はさせない。僕についてきて花を売って欲しい」


 目の前の黒髪黒目の少年は、とても真剣な目でこちらを見ている。

 まるで、とてつもない重大な事を決意しました! とでもいうような目だ。


 どういう事かな? 意味わからない。


 ---


 退屈でどうしようもない話の始まりはこうよ。

 ウチは代々『花売り』の家。

 かと言って、別に大きな家とかではない。

 細々とクリスタルフラワーを家の前の大きな花畑で栽培して、それをダンジョン都市「リリス」の広場で売る。

 それだけをやっている家。


 なんでそんな事をやっているかよね?


 別に花ならクリスタルフラワー以外を売っても良いだろうし、花以外の仕事をやっても良いのに、って。

 私も小さい頃そう思った。

 だけど、物心ついた時から始まった『教育』が、そんな疑問を吹き飛ばしたの。


 この世界「リリスゲート」には、職業と名前を代々受け継いでいる家がある。

「魔法使い」や「盗賊」や「商人」ならまだしも、中にはおかしな事に「踊り子」とか「遊び人」とかいうのもある。

 その家に生まれる特定の例えば女だったり男だったりあるいは両方だったりは、3歳の時の鑑定の儀で必ず特定の職業につく事になる。

 そして、その血筋は必ずどんな事が起こっても絶えることがない。

 そんな不思議な法則があった。


 ウチはその家の一つだった。


 ウチの家は必ず『花売り』が生まれる。それも金髪で緑の目で。

 私も生まれた時に、金髪で緑の目だったから、もう生まれた時から確定だった。

 私の3歳の鑑定の儀では、職業『花売り』になった。

 何かすごい職業につけるのかとかそういう期待は一切なかったし、両親もやっぱりかという目で私を見てきた。


「次の『花売りのフローリア』ね」


 現在の『花売りのフローリア』のお母さんが、空虚な目で私を見た。


 次の日から、ダンジョン都市の公立学校に行きつつ、『花売りのフローリア』の教育が始まった。

 教育が進んで、どんどん年が経つと、私も色々わかって来る。


『花売りのフローリア』はダンジョン都市「リリス」の広場で必ず「クリスタルフラワー」を売らなくてはならない。


 運命に抗って変な行動を取ろうとしても、必ず花畑でクリスタルフラワーを栽培したくなる気持ちになる。

 良いにおいでキラキラしてて色んな色があって綺麗な花だとは思うけれど、それだけの花だ。

 何故「花売り」に私がなったのだろうか。

 なかなかクリスタルフラワー自体には興味が持てない。


 けれど、クリスタルフラワーの栽培の仕方はお母さんから丁寧に教わった。

 お母さんの空虚な目が怖くて、すぐに栽培の仕方は頭に入った。


 特に8歳が過ぎて、一人で広場でクリスタルフラワーを売るようになってからは得体のしれない強制力を感じた。

 学校に行ってる時も何か体がムズムズして、花を売りに行きたくなる。


 お母さんから「フローリア」の名前を受け継ぎ、お母さんは自分の好きな名前になってどこかへ消えた。

 お父さんもどこかへ消えた。

 小さな家に女の子供1人だけれど危なくない。

『花売りのフローリア』は絶対安全の強制力に守られている。

 町の人もそれを知っていた。


 ……そして、私は気が付くと広場にて花を売っている。


「花は要りませんか? 一輪銅貨50枚です」

「花は要りませんか? 摘みたてのキラキラなクリスタルフラワーです。良い匂いでキラキラ。運も小さくアップするアイテムです」


 笑顔で花を売る言葉を言っている自分に気づく。


「銀貨3枚のを貰おう」


 どこかの貴族の使いなのか、身なりの良い男の人が花を買っていった。

 こんな高い花を誰が買うのかと思いきや、意外と買っていく人が居る。

 私はそのおかげでそこそこの生活ができていた。

 自由や贅沢はないけれどそこそこだ。


「ありがとうございます!」


 銀貨1枚以上の花には上等な赤いリボンを付ける。

 ワゴンの中には虹色のリボンもあるが、一体何の時に使うのかは分からない。

 お母さんから受け継いだ話としては、


「その時が来れば分かる、そうよ」


 との事だ。

 お母さんはちなみに虹色のリボンを使うことはなかったそうだ。


 そうそう。さっきの絶対安全を裏付ける昔話がある。


 昔、「怖いもの知らず」が職業固定の一族を絶やしてみようと思ったことがあり、「遊び人」の家系を根絶やしにしようと、その時の「遊び人」を殺したそうだ。目ぼしい親戚から何から。

 すると、どこからか「遊び人」の遠縁の親戚が現れ、遠縁の親戚の前で「怖いもの知らず」はバラバラに弾けて死んだらしい。同時刻に「怖いもの知らず」のほとんどの親戚も弾けて死んだそうだ。

 いきなり怖い話で、小さい頃にお母さんからこの話を聞いた時、私はマジで夜にトイレに行けなかった。

 率直に言うと、漏らした。


 それはともかく。


 今日も花を売りに行かなくては、それが『花売りのフローリア』の使命だから。

 そういえば、昨日13歳の誕生日だった。

 誰からも何からもお祝いとかはない。当たり前だ。

 帰りにケーキでも買って帰ろう。


 -----


「花は要りませんか? 摘みたてのキラキラなクリスタルフラワーです。良い匂いでキラキラ。運も小さくアップするアイテムです」


 決まっている台詞を言いながら、広場を歩く人に笑顔を振りまく。


「花は要りませんか? 一輪銅貨50枚です」


 うーん、売っている私が言うのもなんだけれど、何で銅貨50枚もするんだろう。

 この花。普通のちょっと固い黒パンが5枚なのに、その十倍もするのよね。


 それでも時々買う人が居て、花を渡したり、お金を受け取ってお釣りを渡したりと結構忙しい。


 そんな事を考えているときに、


「すみません、銀貨1枚の花をください」


 と後ろから声をかけられた。


 銀貨一枚の花?

 貴族の使いか何かだろうか。


「まあ、ありがとうございます!」


 お礼を言いながら振り返ると、そこには異様な少年が居た。

 笑顔が崩れなかっただけ自分を褒めたい。


 まあまあ珍しい黒髪黒目の少年?(胸がないし、様々なお客を見ているから私の判断は多分間違ってない)だけれど、しっとりとした雰囲気のある美人だった。

 それが、冒険者の革鎧を着て、腰に片手剣を下げている。

 冒険者の格好をしているのに、顔も体にも傷は付いていなくて、手だけが少し荒れていた。


 一言で言うと、華奢な美少年がいた。


 そして、私は分かった。

 手が虹色のリボンを掴んで、少年が差す花を飾ろうとしている。


 私は控えめな微笑みを浮かべる少年に見守られながら、花にリボンをかける。

 お金を貰い花を渡すときに、少し手が触れてドキッとする。

 しかし、『花売りのフローリア』のプライドにかけて完璧な笑顔を浮かべた。


「ありがとうございました!」

「また来ます」

「お待ちしております」


 少年は何事もなく、花を受け取るとすぐに広場を去っていった。

 少年は広場に続く、長いまっすぐな道をダンジョンに向かって歩いていく。

 それを見送っていると、ふと途中で少年が振り返る。

 目が合ったが、また何事もなく少年は去っていった。


 私は少年が見えなくなるまで見送る。


 私は確信していた。

 今までの何人もの『花売りのフローリア』は、あの少年の為に居たのだ。

 そして、私だけがあの少年に出会えた。


 きっとあの少年は姿に似合わず、ダンジョンを攻略する冒険者なのだろう。

 冒険者が花を買っていくことは今までもあった。


 明日も来るだろう。


 明日もあの少年が来るときに、最大限に可愛い私でいたい。

 私は早々に、リボンやセロファンを雑貨屋で仕入れてから帰ることにした。

 特に虹色のリボンの在庫はたくさん必要だ。


 そして、花売り半ばで広場から帰ることに、何のひっかかりもなかった。

 何の強制力も感じない。

 私はそれで私の在り方として合っているのだろう。


 ーーー


 それから黒髪黒目の美少年は毎日花を買いに来てくれるようになった。

 必ず判で押したように銀貨一枚の花を買っていく。


 ある程度日が経つと、ダンジョン都市「リリス」のおしゃれなカフェに誘ってくれたり、服屋に連れてってくれてかわいいワンピースや靴を買ってくれたりした。

『花売りのフローリア』としてはエプロンドレスが基本の服で、それ以外は着る気が起きないものだったのだけれど、美少年に買ってもらったものは抵抗なく身につけられた。

 というか、美少年の名前は「4」を示す「クアト」という名前だった。


 デート中(?)に、


「クアトくん」


 と呼ぶと、はにかみながら嬉しそうに笑うのが堪らない。


 後、せめてデート中には花売りのワゴンは家に置いておきたいとこだけれど、何故かこれは持っていかないと落ち着かなかった。

 安定の職業の強制力だ。


 それでもクアト君といると、広場に花売りに行かなくてもいいし、可愛い服を買ってくれるし、おいしいケーキも奢ってくれるし、私のくだらない話も笑顔で聞いてくれる。


「クリスタルフラワーの世話が本当に大変で大変で。葉っぱにつく虫を一つ一つブラシで落としている時とか、あれ? 私何でこんな事してるんだろうって。なんだろう、魔法でどうにかできたらいいのにできないんだよね」

「今度僕も手伝っていいなら手伝わせて欲しいな。本当にいつもお疲れ様」


 カフェで長々と話を聞いてくれるクアトくんに甘えて、仕事の愚痴も喋ってしまっている。

 最初は結構猫をかぶっていたけど、早々に剥がれてどっかに行った。


 そう、クリスタルフラワーはキラキラして綺麗だな、とは思うけれど、私は花の栽培とかには興味がない。

 仕事としてやってるだけだ。

 結構手間暇かかって毎日様子を見ないと、すぐキラキラの輝きが薄れるし。

 お金になるからやってる。職業の強制力でやってる。


 職業の強制力がなかったらやってなかったし、横目で見る冒険者の人達にいつも憧れていた。


 自由に生きてるなぁ、って。


 もちろん、仕事の強制力によって生活が保障されている私がそう思うのは贅沢なんだろう。

 でも、私には冒険者を選んで失敗する、という選択肢もなかった。


 そんな私に。


 クアト君みたいな美少年が、ニコニコして話を聞いてくれて、ケーキ奢ってくれて服も買ってくれる。

 そして、私を広場で花を売るという日常の檻からも解き放ってくれる。

 更には私をどうやら好きみたいだ。(これはもう早い段階で態度で分かった)


 欠点といえば、ふわふわと時々どこを見ているのかわからない視線をして考え込むことがある不思議な人。

 クアト君自身の話を聞くと、どうも冒険者家業はあまりうまく行ってないみたい。


 そんな欠点を補って、私はクアトくんを好きになり始めていた。


 いや、もう好き好き大好きだ。


 最悪、私がクリスタルフラワーを売る仕事を続ければ、クアト君を養える。

 16歳成人になったら、結婚したい。

 王都ではたまに聞くヒモとかいうやつになってもらえば良い。


 でも、多分そんな簡単な話じゃない。

 きっとこんなうまい話には裏があるだろう。

 何か特大の裏が。


 と、そんなふうに思っていた時もありました。


 ある時、冒頭のようにクアトくんに、


「ダンジョンについてきて花を売って欲しい」


 と切り出されたのだ。

 これは予想外だった。

 てっきり、切り出し方から言って『色を売る意味で花を売れ』ぐらいの話はくると思っていた。

 そこはもちろん、クリスタルフラワーをぼったくり価格で売りまくるから勘弁してというつもりだったけど。


 でも、そうね。

 クアトくんに関してもう短い付き合いだけれど、なんとなく分かっていた。

 こんなに良くしてくれているのだから、せめて子供の付き合いとは言え(あれ? 私たち付き合ってる?)、手ぐらいは繋いでも良いと思うのだけれど、何もしてこない。


 というか、指一本触れてこない。

 そんな事を切り出すような人じゃないわ。

 この人、どっかの貴族の坊ちゃんも超えるレベルの天然だ。


 あれ? それにしてもクアトくん私に金貨50枚以上は使ってるけど、借金とかはしてないよね?

 大丈夫よね、この街で借金なんてしたらすぐ分かるし。

 冒険者ギルドでも貸してくれるしね。


 この前も商業ギルドに借金持ちの奴が張り紙されてたから、ちょうどクアトくんの周りをウロチョロしてるの見つけて通報したんだよね。

 クアトくんを狙ってるっぽかったから。

 一般人につきまとって迷惑かけようとしてますって。


 商業ギルド、一応この街で商売しているから時々行くのが役に立ったわ。

 商売維持費、商売保護費も私、結構納めてるし。(商業ギルドは代々『花売りのフローリア』で登録されている。私の年齢とかは関係ない)

 私が言ったら、金貸の商人がすぐ男を回収して行って、ちょっと面白かった。


 ーーー


 さて、それから私はすぐにダンジョンに連れて行かれるかと思ったら、そうでもなかった。

 冒険者登録をした後、仮のパーティー登録をした。

 それからまず、金貨20枚の守護のローブという防具を買ってもらった。

 意味わからなくて、率直に、


「クアトくん、お金大丈夫?」


 って聞いたら、


「うん。お金は掘り出したお金がまだあるから大丈夫」


 って意味不明な事言われた。


 え、お金って掘り出すものじゃない……よね?


「こんな高いもの買ってもらっちゃって良かったの?」

「うん、こんなお願いを聞いてもらうんだ。当然だよ。僕に力がないばかりに申し訳ない」

「ん……? そんな、うーん」


 明らかに何かおかしいんじゃないかな、と思うけど。

 出会って1ヶ月ぐらいでそこまで突っ込んで良いのか。

 後、こんな高いものもらって良くないと思うけど、これからダンジョンに行くのに、装備してて欲しいみたいだし。


 クアト君は私が真っ白いローブを着ている様子をうっとりとした目で見ている。

 自分の方が美少年なのに変な人だなぁ。


 ダンジョンの門番に二度見されてから、ダンジョンの入り口をくぐる。

 クアトくんに促されるままに、ダンジョンを進んだ。


「それじゃ、フローリアちゃん。お願いします」

「はぁい、それにしてもこんなの初めて……」


 小さいワゴンを持ったままダンジョン入るなんて世界で私だけなんじゃないんだろうか。

 このダンジョンが床も天井もレンガだったから良いようなものの、土とかのリアルタイプのダンジョンとかだったら絶対無理。


「花は要りませんかー? 一輪銅貨50枚です」


 事前に言われた通りに、いつもの花売りの掛け声をする。

 いや、私ちょっと頭おかしい人だよね。

 クアト君の頼みじゃなきゃ絶対やらないんだから。


 というか、初めてダンジョン入ったけど、こんな感じなのね。


 恐る恐る、クアト君とと一緒にダンジョンを進む。

 どこまでも光るレンガでなんか迷いそう。


 そうこうしている内に、道を曲がった時にグニャグニャする半透明の塊が現れた。


 こ、これが?


「あ、あっ、モンスター! クアトくん!」


 どうしたらいい?

 ばたばたと手を動かすと、


「フローリアちゃん、スライムだ。言ってた通りにお願い!」


 と、冷静な指示が飛ぶ。

 あ、えっと。


「え、あっそうか。花は要りませんか? 一輪銅貨50枚です」


 いつも言っている事だから、すんなりと掛け声が出てくる。

 すると、私の視界に、


『絶対花売り発動!!』


 という文字が何秒か表示された。


 私は胸がいっぱいで固まる。

 なんなら、ちょっと目が湿っぽくなった。

 本とかでは見たけど、スキルの発動を初めて見たわ!


 文字の向こうでは、スライムが固まっている。


 クアト君が透けて見えるスライムの魔石に向かって、剣を突き立てた。

 剣があっさり刺さって、魔石を残してスライムが消えた。


 実際にモンスター倒すってこういう事なのね。

 私のスキルでモンスターが止まるっていう話だったけど。

 私、『花売り』なのに、こんなに戦闘向きのスキルを持ってたなんて知らなかった。


 後、魔石と一緒になんかスライムの塊みたいな変な物も一緒に残った。

 クアト君が、


「レアドロップ品だ!」


 と歓声を上げて自分のリュックにしまおうとするのを花売りのワゴンに入れるように促す。


 後でこの花売りのワゴンが『花売りのフローリア』に代々受け継がれるマジックアイテムだと言って良いだろう。

 でなきゃ、この調子だとクアト君が荷物でいっぱいになっちゃう。


 花売りのワゴンは見た目よりもいっぱいものが入る。

 これにいつも肥料とか農薬とか花のタネとか栄養剤とかブラシとかたくさん詰めているのを今日は家に置いてきたのだ。

 こういうマジックアイテムもないと、女の子供1人で花売りなんてやってられない。


「この調子でじゃんじゃんやってこう。成功報酬はもちろんフローリアちゃんに相談の上で分けるから、今日はフローリアちゃんに協力してもらいたい。だめかな?」


 気を良くしたらしいクアト君が、小首をコテンと傾げて私を見た。


「だめかな?」も何もないと思う。

 こんなズルみたいなスキル聞いた事ないし、あまり大っぴらにできない。

 なんでクアト君が私のスキルを知っていたのかは後でじっくりはっきり聞くとして、もうここまできたら協力しかないだろう。

 このスキルを知っているクアトくんと組むしかないって事。


「あのね、そんな首傾げながら「だめかな?」とか言ってこないでよ。私のこのスキルはあなたが知ってるから発動したんでしょ。という事はあなたは私の恩人と言っても言い過ぎじゃない。それに色々な人に知られるとまずそうなスキルだなってのは自分でも分かるわ」


 私は頬を膨らませながら腰に手を当てる。

 クアト君がそんな私の言葉に「やっぱり……」みたいな顔をした。


「ありがとう。絶対フローリアちゃんの取り分多くするし、僕がモンスターを倒すから」


 そう言って、私に頭を下げてくる。なんか私を勘違いしているんじゃないんだろうか?

 とにかく、不思議な人だ。


「クアトくんって、面白い人ね。良い意味で」


 でも、全然危なそうじゃなくて信頼できる、そう思う。

 その時、私は多分満面の笑顔だったと思う。


 その後は、順調にスライムなどの狩りをした。


 レアドロップ品? がバンバン落ちて、面白かった。

 冒険者ってこんなものなら本当に面白い。

 なんで皆冒険者をやらないのかなぁ。


 後、世間知らずの感があるクアト君には、拾ったアイテムを分散させてギルドに売ることを提案した。

 いきなりドカンと売ったら、物の価値が下がるし、多分私たちは怪しいとマークされてしまうだろう。

 クアトくんの成長に合わせて、そこは私が管理していきたい。


 でも、私がそう言うと利益を独占されるもしくはネコババされると警戒されるかと思った。

 まあ、実際にはクアト君は私の提案に食い気味に賛成してきた。

 なんか私の事拝んでた。


「クアトくん。警戒心もってね」


 と注意すると、


「ごめんなさい」


 とクアトくんから謝られた。


「理由が分からないのに謝らないで。私が盗るかもとか考えないの?」

「え?」


 鳩が豆鉄砲食らった、みたいな顔をしている。

 クアト君はマジでそんな事考えた事なかった、みたいだ。


「こうしてダメな僕の生活が一歩踏み出せたのはフローリアちゃんのおかげだよ。なんでもしていい。でも、盗るかもとは考えなかった。フローリアちゃんに対してはともかく、僕には確かに警戒心がない。ごめんなさい。フローリアちゃんの言う通り警戒心、しっかり身に着けていくね」


 クアト君が長文を言ってくる。

 まるで無垢の赤ん坊みたいな目をしている。


 一応は反省したみたいだけれど、何か信用できない。

 私が気をつけてあげなきゃな、と思う。

 ついててあげなきゃダメなんだ。


 私がクアト君を守る!


 ---


「えっ、フローリアちゃん。それって短剣?」

「そうよ?」


 翌日、クアトくんと冒険者ギルド前で待ち合わせした。

 昨日の帰りに買った短剣を腰にぶら下げていたら驚かれた。


 花売りから冒険者になったのだから、このぐらい普通だ。

 私がクアト君を守るのだから。


 今日は、昨日仮登録していたパーティーを正式登録しに来た。

 パーティー名とメンバーの職業、成果配分など細かいことを登録するためだ。


「今のままじゃ、職業『花売り』なばかりか手に何も持ってないのは不自然でしょ? 後、雑魚狩りを効率的に進めたいから」

「なるほど。僕、何も考えてなかった」

「しっかりして。クアトくんてば何故か『花売り』なんてマイナーな職業のスキルに詳しいのに、なんか世間知らずだよ」

「ごめん……」


 クアト君も読み書きはできるけれど、警戒心的な意味で書類を書かせると不安なので、私が書いた。

 商業ギルドでも色々書類は書いてたからこういうのは得意なのよね、私。


 決まって登録したこととしては、


 パーティー名


「クリスタルフラワー」(私が決めた)


 メンバーの職業


 剣士「クアト」(13歳):武器は片手剣


 花売り「フローリア」(13歳)武器は短剣


(後、結婚まで3年だわ)


 成果配分


 クアト:4

 フローリア:4

 パーティー共通財産:2


 とほぼ私が決めた。


「ごめん。本当にごめん。ありがとう」

「クアトくん、本当に警戒心持ちなよ。私だから良いけれど、なんかそのうち騙されそうだよ」

「うん。自分でもなんかそう思う」

「何かあったらすぐに私に相談する事だよ。分かった?」

「分かった」

「んもう。そういうとこだよ」


 とか書きながらやりとりした。

 だって、クアトくんは放っておくと成果配分で私が7でクアトくんが1とか平気で決めようとするから。

 なんだろ、この人本当にやばいわ。


 他にもダンジョンに向かう道で色々注意した。

 ちょっと自分でも口うるさいかな、とは思ったけれどクアトくんは時々私に怒られながら嬉しそうにしているから大丈夫だと思った。


 ーーー


「はい、止まって!」


 ダンジョンに着いて、まだモンスターが出ない浅いところでクアト君に声をかける。

 クアト君は素直に止まって、少し首を傾げながらこちらを見た。


「今日から、サクサクと私のスキルを利用して雑魚狩りするわ。私のスキルはパーティーのレベルプラス3までの敵を止めることができるのよね?」

「うん、そう」

「という事は昨日みたいに闇雲に浅い層で雑魚狩りしてちゃ非効率だわ。上限ギリギリで狩ったほうがいいわね」

「ん? ああ、なるほど。そうだね、気づかなかった」


 クアト君がなるほど! みたいな顔をする。

 一体、どうするつもりだったんだろう、クアト君。


「かと言って、私のスキルで止まらない敵に遭遇したら、この2人で逃げ出すのもリスクがあるわね」


 クアトくんが傷ついたら嫌だし。


「うん」


 コクコクとクアト君がこれまた素直に頷く。


「それでね、このダンジョンってちょっと進んでもいきなりレベルが跳ね上がったりしないみたいなのよ。昨日の内に銀貨3枚のダンジョン指南の本を買って読んだけど」

「読んだんだ」


 クアト君が変な所に引っかかっている。

 え、知らないことは勉強するのは当たり前よね?

 本当、クアト君の中途半端なダンジョン知識はどこで身につけたのかなぁ。


「うん。基本でしょ。花の世話だってちゃんと色々調べて研究しないとうまくいかないんだから。でね、昨日行った所は最短距離で通り抜けて、先に進みましょう。ゆっくり進んでって、止まってる状態で攻撃が通りにくくなった辺りで狩って、さくっと倒せるようになったら、また先に進んでを繰り返すのよ」

「なるほどなるほど。レベルが同じレベル辺りだと、そこまでさくっと倒せないしね」

「そうね。それで、武器はそこまで攻撃力のあるものに変えないで、今のグレードのものぐらいにしときましょう。お互い。防御力はどんどん上げて良いけど」


 そこで、クアトくんが首を傾げる。

 え、マジなの?


「首を傾げちゃう? 攻撃力ある装備に変えたら、レベル差が分かりづらいでしょうが」

「あっ、ごめん」


 素直にまた謝るクアト君。

 妙な所で世間知らずで貴族の大事にされてた隠し子とかじゃないわよね?


「後、お金が貯まったら武器の予備はどんどん買った方がいいわね。止まってる敵を倒すにしても切れづらくなったら困るし」

「そうだね」


 素直なクアト君に、私は決意をみなぎらせた。

 クアト君と共に、お金を稼いで楽で楽しい生活を送るんだ。

 クアト君と居たら、花売りじゃなくて冒険者ができるし。

 良いことづくめだわ。


「では、レッツゴー!」

「ごぉー?」


 私が拳を突き上げると、クアト君も釣られて拳を突き上げた。

 なんだろう、この素直な美少年。

 神様がくれたプレゼントかなぁ。

 私、なんか知らないうちに良いことしてたのかしら。


 まあ、いいわ。


 そうこうしているうちに視界の隅にスライムが動くのが見える。


「あっ、敵発見! 花は要りませんか? 一輪銅貨50枚です!」

「ま、待って! フローリアちゃん!」


 私はワゴンを押して、モンスターの横に急ブレーキで止め、短剣を横なぎにする。

 後はクアト君に任せているから何も心配は要らなかった。

 体が軽い。

 こんなにも冒険者が楽しいなんて。


 私はその日から、ダンジョンを高速で攻略する日々が始まった。

 クリスタルフラワーを育てるけれど、広場ではダンジョンから帰ってきて夕方に叩き売るだけで飛ぶように売れる。

 クアト君と組んだダンジョン攻略を、多分、強制力が肯定しているんだと思う。私はそれで合ってるんだって。


 ダンジョン攻略の途中から、短剣は効率が悪くて片手剣を買った。

 本当は両手剣か斧かにしようと思ったけど、クアト君にゴリラと思われたくない。

 ある程度は可憐な私でいたいからだ。


 まあ、片手剣は片手剣で振り回しやすい。


 そして、モンスターをどんどん倒していくと、私たちはどんどんレベルが上がっていった。


 ーーー


 そして、クリアしたら中堅になれる地下10階のボスの扉の前まで来た。(本で読んだ)

 ここを超えたら初心者は卒業、という事らしい。

 冒険者ギルドでもここを超えると中堅者として登録してくれると聞いた。


 ここまでは3週間ぐらいだっただろうか。

 ダンジョンは縦だけでもなく横にも広いから、探索に時間がかかるのかな。

 進んだところまでを記録してくれるダンジョンの不思議なシステムで、進んだところまでが無駄にならないのが良い。


 後、階層ごとにそこそこある綺麗なお手洗いが良い。

 綺麗な鏡もあって、お化粧を直せるのが嬉しい。

 クアト君は待たしても、ずっとニコニコしながら待っててくれるし、なんなら、


「可愛いのがより可愛くなったね」


 って言ってくれるのだ。

 ああ、もう好き好き。


「銀貨6枚のダンジョン10階のボス攻略の本読んだけど」


 ボスの扉の前で私は振り返った。

 手に分厚い本を持っている。もう一回ボス戦について確認はしておきたい。


「うん、木のボスだよね?」

「そう、クアトくん。事前に何か調べている感じしないのに、本当によく知ってるよね」


 クアト君の七不思議だ。


「いや、それほどでも。というか、フローリアちゃんのスキルは効かないけど。大丈夫かな」


 そうなのよね、ボスだといくらレベルを上げても私のスキルが効かないそうなのだ。

 今まで、クアト君の情報は間違ってなかったから、多分確定だろう。


「大丈夫よ。本によると、初めてのボスらしく火と斬撃に弱いんだって」

「うん。まあ、でもフローリアちゃん、動いているモンスターを倒すのって初めてだよね?」

「そうね、でも動いている植物は初めてじゃないわ。私、花売りだもの」


 そう、お母さんに色々教えてもらってた頃、一通り植物については教えてもらってたから。


「分かった。まあ、回復アイテムも僕が結構持ってきたし、ボスに当てる火炎瓶もたくさん買ってきたし、多分大丈夫だね。後、モンスターに買われてもいいから、フローリアちゃんはいつものように花を売ってくれないかな?」

「え、なんで?」

「ボスを購入確認ウィンドウが出て買うまでの時間、動きを止められるから。運が小アップするくらいボスなら誤差の範囲内だ」


 新情報をこんな直前で教えてくるクアト君にびっくりする。

 まあ、ボスが少しでも止まるなら良かったけれど。


 私ははしたなくも足でボスの部屋の扉を開け放った。

 ワゴンを押しながら突入する。


「この為だったのね。花は要りませんか? 一輪銀貨9枚です!」


 なんでか知らないけれど、微妙な価格の花を重点的に持ってきて欲しい、と今日はクアト君に言われていたのだ。

 銅貨でもなく、金貨でもなく、微妙な金額の花が今、火を吹く!


 開け放った両開きのドアの向こうに、でかい木のモンスターがいた。

 木のモンスターは表情はわからないけれど、動きを止めて、手のような枝を自分の後ろにある宝箱に伸ばした。

 銀貨は持ってるのかしら、このモンスター。


 クアト君が遠慮なくボスに火炎瓶をぶつける。

 私は金貨を渡してくるボスモンスターにゆっくりとしかし不自然ではない速度でお釣りを用意した。

 後、銀貨9枚の花だから赤いリボンをかけなきゃね。


 ……。


 ………。




 そして私たちは、結構楽勝で木のボスモンスターには勝った。


 私たちのレベルが上がっていたからなのか、在庫の花を微妙な価格に設定したからなのか、まあまあ、私のスキルで止まっている時間が長かった。

 あまり長引かせると、職業『花売り』の強制力で素早く体が動いてしまったけれど。


 ボスモンスターの攻撃は、大体守護のローブが跳ね返したから痛くなかった。

 ただ、少し汚れたからクリーニングに出したい。

 濁った樹液とか多分私じゃ落とせないわ。


 ボスモンスターのドロップは、ボスの持っている宝箱に金貨が49枚と銀貨が1枚(銀貨9枚の花を買ったため、中途半端な残金)銅貨がたくさん、レアドロップの『生命の片手剣』(クアト君が何故か名前を知っていた)、木の魔石大サイズだった。


 2人で山分けしてもそこそこの収入だ。

 というか、山分けしてもいいのかという……。


 これって、ほとんどクアト君の儲けにしてもいいような。

 私は今までだいぶお金もらったし。


 と、思ったらクアト君が警戒心ゼロで戦利品を全部渡してくる。

 仕方なく、いつものように私が管理することにした。

 もう私たちの「共有財産』という事にするしかない、と思う。

 そうと決まったらまず一歩。


「はーい、クアトくん。一旦、ギルドに帰るよー」


 ボスモンスターを倒した後に出てくるセーブ兼帰還の魔法陣の前で、私はクアト君に手を振った。


「うん、分かった。って、え?」


 魔法陣に乗る前に、私はクアト君の手を握った。

 クアト君の手は今やすべすべしてやわらかいばかりで、少しも剣だこがなかった。


 心底意外、という顔でクアト君は私をみる。

 なんでそんなに驚くのだろう。

 一体、何に驚いているんだろう。


「どこ見ているの。私は目の前にいるし、クアトくんと付き合ってるつもりだけれど」

「ど、どこって?」


 反射的になのか、逃げようとするクアト君の手を更に強く握り込んだ。

『花売りのフローリア』は代々クアト君を待っていた。

 それが真実だろう。


 だとしたら、歴代の『フローリア』の為にも絶対にクアト君を逃さない。

 それにだってだって、こんなに好きなんだから。

 私を『フローリア』の檻から解き放ってくれて、冒険者にしてくれて楽しませてくれる人。

 いつも私の話を聞いてくれる人。

 優しくて美少年。

 なかなか居ない。好きになってしまってOKだろう。


「クアトくん……」

「は、はいっ」

「今日、私のうちで一晩中、ボスクリアのお祝いしよ、2人っきりで……」

「ひゃ、ひゃいっ」


 まずは、私の手料理を食べさせるわ。

 ほとんど1人でやってきたから、料理には自信があるし。

 毎日お弁当もつくってあげる。


 そして、これからどこへだって着いてくわ。


 だから、16歳になって結婚できる歳になったら、今度こそクアト君と2人で温かい家庭を作るの。

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― 新着の感想 ―
[一言] 肉食系女子だった!(笑)
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