「大好きな花売りのNPCが後ろに居るけど振り向いちゃだめだ」
ようやくちょっとだけ普通に戦っている……。
翌朝、僕たちは火のダンジョンに居た。
気力はばっちりだ。
最近はお金も潤沢にあるので、一泊銀貨7枚(日本円の価値で言ったら7000円)の宿『羊の背中亭』に泊まり続けている。
毎夜ぐっすり眠っている。
朝食無料サービスでお腹いっぱいに食べた。
魔女のせっちゃんとリゾッタも同じところに泊まっている。
個室で鍵もかかるし異論はないみたいだ。
せっちゃんは朝食で、黒パンとマッシュポテトをブラックホールみたいに食べ続けていて宿の人に引かれていたけれど。自分で追加料金として宿にお金を渡していたみたいだし大丈夫だろう。
異世界は前世と違って厳しいところもあるし柔軟な所もあるんだなぁ、と思う。
ちなみに夕食は外食かフローリアちゃんの家に招かれて夕飯を食べるかが多い。
せっちゃんの持ち込みの食材でフローリアちゃんが安くて美味しいご飯を作ってくれる。
まだまだパーティーメンバーになって短い間過ぎるけど、せっちゃんは完璧にフローリアちゃんに胃袋を掴まれている。
という事で改めて、
「気力はばっちりです!」
「クアト、いきなりどうしたのよ?」
「クアトくんの気持ちわかりすぎちゃって怖いねー☆」
僕の宣言にせっちゃんが首を傾げ、リゾッタが竹馬の上からウインクを送って来る。
「クアトくん……」
フローリアちゃんが僕をじっとり……と見る。
「皆の位置を確認してから自分が口笛吹いちゃうねー☆」
リゾッタが指さし確認でパーティーメンバーの立ち位置を確認する。(竹馬から手を放しても倒れない不思議)
一番前が僕で、その後ろに「絶対花売り」を使うフローリアちゃん。
その後ろに二人並んでリゾッタとせっちゃんだ。
「もちろん、僕は絶対振り返らない。この前は本当にごめんね、フローリアちゃん」
「う、ううん……」
そう、火のダンジョンで後ろのフローリアちゃんが水着でも絶対に見ない。
いいんだ、僕は。
推しキャラが後ろで水着になっているという事実だけでご飯が進むんだ。
気力はばっちりだし、フローリアちゃんに良いところを見せたい。
フローリアちゃん、僕の背中を見ててくれ!
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「うわっ、火の玉! あつっ」
僕は叫びながら火の玉を切りつけた。
フローリアちゃんのスキル「絶対花売り」が発動していなくて、ふよふよ浮かびながらこちらに向かってきていたのを真っ二つに切る。
顔に火の玉の熱気を感じた。
「ごめんなさい、クアトくん。足音が聞こえないから」
「ん、大丈夫大丈夫」
フローリアちゃんが後ろから謝ってくる。
でも、別に普通に倒せた。魔石も落ちたし。
火のダンジョンと言ってもまだ11階だ。
木のダンジョンの1階から10階で十分に僕たちはレベルが上がっている。
フローリアちゃんの「絶対花売り」はあった方がいいけれど、まだ絶対になきゃならないという程でもなかった。
ちなみに僕は片手剣をダンジョンの属性分用意するのは費用がかさむので、木のボスでレアドロップした「生命の片手剣」を使っている。
攻撃力もそこそこで強すぎもしないからちょうどいい。火の玉でわずかに減った体力もすぐ片手剣の「HPが微量ずつ回復する」能力で回復するし。
フローリアちゃんの「絶対花売り」はパーティーメンバーのレベルからプラス3レベルまでのモンスターが停止する能力だ。
自分のレベルもモンスターのレベルもよく分からないし、武器を強くし過ぎて、いつの間にかダンジョンを進み過ぎてフローリアちゃんのスキルが効かない相手に会ったら怖い。
「花は要りませんか? 一輪銅貨50枚です」
フローリアちゃんはモンスターの姿が見えなくても花売りの言葉を言う事にしたみたいだ。
それがいいかもしれない。
火のダンジョンは曲がり角が多く、木のダンジョンの時より少しダンジョンの難易度が上がるから。
「さっきフローリアに聞いたけど、この火のダンジョンはバックアタックする火の玉もいるのよね?」
後ろからせっちゃんが皆に話しかけてくる。
「そうそう☆ でもバックアタックは自分たちにまかせなさーい☆」
「アタシの水魔法で一発よ」
「リゾッタさん魔女さん、よろしくね」
「よろしく」
僕は涙を呑んで返事する。
せっちゃんとリゾッタに後ろを振り返る機会は完全に奪われた。
こうして僕たちはNPCの特殊能力のおかげで危なげなくダンジョンを進んでいったのだった。
あ、ちなみにリゾッタの能力「パラダイスリゾッタ」発動中は、僕は上半身裸のトランクス型水着になっていてちょっと恥ずかしいです。
防御力は変わらないのだけれど、ダンジョンで上半身裸ってなかなかないよね。
後は、せっちゃんは紺色のスクール水着みたいなタンクトップと半パンの上下の水着でした。
ゼッケンに「魔女」って書いてあって、笑ったら箒で小突かれたのは秘密です。
読んでくれてありがとうございます。




