「大好きな花売りのNPCをお世話しながら通うタイムアタックダンジョンがずっとおかしい」
「ねえ、そこの魔女ちゃん!」
突然、リゾッタの鋭い声が響いた。
いつの間に戻ってきてたんだろう。
「あ、アタ、アタシ……その」
セイイのせっちゃんがビクリと肩を震わせる。
ゲームじゃない現実には色々な事が発生する。
もちろん、リゾッタがせっちゃんに話しかけるなんてイベントはなかった。
「もう、だめだよ☆ 時間切れになると魔女ちゃん来ちゃうね☆ なかなか対決うまくいかなーい☆ じゃあ、今日は特別に自分が魔女ちゃんを引き留めるから自分には勝てないけどゴールしてね☆ 特別だよ☆ ゆっくりと金貨も拾えちゃう☆」
「え、本当に!」
リゾッタがピエロっぽく笑って、僕にサービスを提案してきた。
そんなことできるんだ?
あ、でもリゾッタが居ないとここはタイムダンジョンにならないから、リゾッタとせっちゃんって連動する仕掛けなのかもしれない。
という事は、ダメかなと思ったけれどこの状況は歩いてクリアできるって事?
まあ、時間内にリゾッタに勝たなければご褒美のイベントアイテムは貰えないんだけど。
金貨30枚は全部集められる。
「じゃ、じゃあ、僕はちょっとだけ散歩してくるね」
なんとなくタイムダンジョンの中なので金貨を貰ったせっちゃんぽく言って、二人を置いて歩き始めた。
後ろで何事か二人は喋っているけれど、タイムダンジョンの中の打合せしているのかもしれない。
考えてみれば、ゲームだけれどゲームじゃないんだからNPC同士にも話し合いが必要な時だってあるだろう。
……多分。
とにもかくにもフローリアちゃんが調子が悪い今は、いくらお金があってもいい。
金貨30枚を集めなきゃ、だよね。
…
………
……………歩いてでもタイムアタックダンジョンは疲れる事が判明した。
だって妙なアスレチックはあるし、罠もある。
「ふぅ……」
ため息をつきながら金貨30枚を鞄に入れて、ゴール地点に着くとそこにはいつの間に移動したのかリゾッタとせっちゃんが居た。
リゾッタがピエロメイクでニコニコしていると妙に不気味だ。
ピエロが苦手なフローリアちゃんの気持ちがわかる。
対して、お邪魔女セイイのせっちゃんは、こちらを見て複雑そうな顔をしている。
まあ、そうだろう。リゾッタに丸め込まれて(?)冒険者から貰える『誠意』という名の金貨が貰えなかったのだから。
同情してしまう。
「あの、なんか誤解してるっぽいけど違うから。アタシはっ」
「魔女ちゃん! このクアトくんは優しい人なんだよ☆」
「っ……あ、はい。そう、そうだね」
せっちゃんがリゾッタに肩を叩かれて、またビクンッと跳ねた。
「クアトくんはここのゴール賞品が欲しいのかな?」
「そうだよ」
後は、リゾッタをいつでも使えるようにしたいという事だけれど、これはわざわざ言わなくてもいいだろう。
なんかもう結構ついてきそうな雰囲気だし。
そう、僕はリゾッタを使えるようにしておきたかったというのもあるけれど、ここのゴールのイベントアイテムも欲しかった。
勝つと、リゾッタがゴール地点の床から唐突に出してくれるアイテムだ。
その名も、「星流れて天翔ける靴」。
手に入れると移動速度が劇的に早くなって、他のタイムアタックダンジョンに挑戦するときは必須ともいえるアイテム。戦闘でも結構有利になる。
ゲームでよくあるあるだよね。
ここをクリアするにはこの特定のアイテムを持っていると有利なんだけれど、この特定のアイテムはもっていない状態でここを頑張ってクリアしなきゃならないとかさ。
タイムアタックダンジョンをクリアするには、「星流れて天翔ける靴」があったら有利なんだけれど、「星流れて天翔ける靴」を手に入れるにはどうしても最初にミンデガルデのタイムアタックダンジョンをクリアしなきゃならない。
どうしてなんだろう。
ゲームの理不尽さだよね。
「じゃあ、明日から皆で体を鍛えて、制限時間内に頑張ってゴールしようね☆」
「アタシも『誠意』を見せてもらわなくても見守っててあげる」
リゾッタがニコニコして、せっちゃんが箒を手に持ったまま腰に手を当てている。
せっちゃんはちょっと威張っているつもりみたいだけれど、こういうキャラだったのか。
「あれ、制限時間をどうにかしてくれたりは……?」
「ざんねーん☆」
あ、仲間として連れて行かなかったときの台詞ここで言うんだね、リゾッタ。




