星空探偵部!第3話〈猫を追っかけて回してこその探偵〉
第3話〈猫を追っかけ回してこその探偵〉
校舎の外にでて目的地に向かう先輩の後ろを歩きながらプリントの内容についていくつか聞いてみた。
「この猫を今から捕まえるんですよね。」
「そう、先週から飼い主の元を逃げている猫なんだけどね。ようやく居場所を見つけて今日捕まえるんだ。」
プリントの下には校舎の地図が載っており、複数のバツ印と一つの丸印が付いていた。きっといくつかのポイントから一つに絞り出したんだろう。
「このマル印の所にいるんですね。それにしてもよく見つけられましたね。」
「最近よく雨が降っていたでしょ、それで宙がこの校舎で屋根があって人が来なさそうで上手く隠れられる場所を絞って、あとはしらみ潰しに探していたのさ。」
彼は手を胸にドンと当て、自分のことを自慢するように語っていた。彼、部のことを話す時すっごい嬉しそうにするな。
「そもそもなんで校舎なんですか?」
「この学園の付近はよく猫が出没していてな、生徒が勝手に餌とかあげちゃうから住み着いちゃうんだよ。」
後ろを振り向くと先に部室をでて荷物を取りに行った男が、いつの間にか追いついていた。
男は私の方をじっと見つめ何か考えたかと思うとうん、と頷きカチューシャを渡してきた。カチューシャには猫の耳が付いていて、全く意味がわからない。
「何ですか、これ。」
渡されたカチューシャの意図が分からず尋ねると男は彼に虫取り網を渡し、棒の部分を伸ばしていた。
「ネコミミMT作戦だ、それに書いてあんだろ。」
プリントには【⭐︎ネコミミMT作戦⭐︎】と書いてあった。メイド喫茶のメニュー名か何かだろうか。そんなウキウキもワクワクもしない作戦の下には説明があったので読んでみる。
「えー、一人が探偵アイテム【ネコミミ】を付け、猫を誘き寄せる。その隙にもう一人が虫取り網を使って確保する…ってこれただの囮作戦じゃないですかっ。別に私じゃなくてもいいですよね!」
「元々獅斗がする予定だったが女のお前の方が向いてんだよ。」
この男がただ女の子に猫耳を付けさせたいだけなのでは。若干引いていると横にいた彼が笑顔で補足する。
「この猫ちゃん、女の子が好きみたいでさ。危うく僕が女装させられるとこだったんだよ。」
プリントには(猫 好きなもの サバ缶、柿の種、女の子)と書いてある。これからおっさんでも捕まえに行くのだろうか。親父狩りなんてしたことないと不安に思っているうちに校舎の裏に着いた。
ここには花壇や畑のスペースがあり普段は園芸部が使っている。見学に行った時そう言っていた。
綺麗に整えられた花壇には花は咲いておらず、土だけしかなかった。
「着いたぞ、俺たちはすぐそこの茂みに隠れているからお前はそのカチューシャを着けてそこで待機しててくれ。それと、」
男は「ほら」と言うと小さめのインカムを投げてきた。
「インカム、ですか?」
「ああ、猫が来たらインカムから指示をだす。獅斗、隠れるぞ」
「らじゃっ」
後ろを向き後はインカムでと言うように手を上げて、茂みに行き、彼も手で敬礼のポーズを取り一緒に隠れていく。
私もインカムを耳につけ大人しくその場に座って待機することにした。
「あー、聞こえるか?聞こえてたら返事してくれ。」
インカムから男の声が聞こえてくる。さっきまでぼそぼそ喋っていた男の声が急に大きく聞こえたため、少し驚いてしまった。
「あ、はい。ちゃんと聞こえてます」
念のため隠れている方に振り向いて確認を取ると二人は茂みから顔だけ出していた。観光スポットにある顔出しパネルみたいになっていた。
あれで真面目にやってるんだろうか。猫を待っている間、変人二人組の視線を背に本当に大丈夫だろうかと考えていた。
15分ぐらい待っていると向こうの茂みから何かが飛び出してきた。白と灰色の模様をしている猫が歩いている。あの写真の猫だ!
その猫はこちらに気がつくと警戒しながら少しずつ近づいてくる。本当に来るか心配していた私は突然の来訪に心臓がバクバクいっている。
そんな緊張している私にインカムが飛んでくる。
「よし、今だ。誘惑を開始しろ!」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
緊張してる時にいきなり変なことを指示され大声を上げてしまった。そのせいで猫は驚いて私から離れてしまった。
「静かにしろ、猫が怯えて距離を取っちゃったじゃないか。」
「何でそんなこと急に指示してくるんですか!誘惑だなんて嫌ですよっ、そもそもどうやるんですか!」
猫はまだすぐそこにいたので今度は逃げないよう小声で抗議をする。
「ほらメイド喫茶とかでよくやってるだろ、ニャーンニャーンって。」
「やっぱりそうゆう目的だったんですかっ、絶対に嫌です!」
「宙っ、メイド喫茶なんて今時の女の子に言っても分からないよ。ここは旭山動物園にいるマヌルネコみたいにさ、」
「どっちもよくわからないですよぉ」
頼みの綱の彼もちんぷんかんぷんな指示を飛ばしてくる。メイド喫茶はまだしもマヌルネコなんて今、初めて聞いた。
インカムで二人はまだ揉めていたのでとりあえず猫の真似をして、誘き寄せることにした。
「に、にゃ〜ん、にゃ〜ん。こっちにおいでにゃ〜ん。」
恥ずかしさで顔が真っ赤になる。ここが校舎の裏でよかった。万が一誰かに見られたら恥ずかしさで死にたくなる。後ろの二人は相変わらず揉めていてこっち見てないし。
逃げ出したくなる気持ちを抑え演技を続けた。意外にも猫は再び近づいてくる。
手が届くまであと少し、あと一歩、もう半歩っ、今!
必死に手を伸ばし猫の体を掴む。するとインカムで揉めていた二人が勢いよく飛び出してきた。
「今じゃあああ」 「突撃ーーー!」
虫取り網を上に構えて大声を出し迫ってくる。二人に猫はビックリして暴れてしまう。そのまま私の手から抜けると頭めがけて飛びついてきた。
「きゃあっ」
飛びつかれた私はカチューシャを取られ、その場に倒れ込んでしまう。それと同時に網も飛んでくる。だけど惜しくも網は外れ、猫はそのまま咥えて逃げてしまった。
「くそっ、またしても逃げられた」
「もう少しで捕まえられたんだけどねぇ」
男は悔しそうに渋い顔をし、彼は残念そうに笑っていた。
「あの…これ、早く取ってください。」
努力虚しく猫に逃げられた私の頭には網が二つかかっていた。こうゆうのだけ息ピッタリなのか…
網を被ったまま私は肩をがっくりと落とした。
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土埃を払っていると男は持ってきたパソコンを取り出しておもむろに操作しだした。わざわざここまで持ってきたのだろうか。
「あの、急にパソコンいじりだしてどうしたんですか?」
カタカタと打ち終えるとこちらにパソコンを向けた。黒い画面には白い線と動き回る赤い点があった。
「奴は校舎側に逃げたようだ、追うぞ。」
「なんで位置がわかるんですか!?」
急に話が進むからついビックリしてしまった。
「あのカチューシャ、猫耳はただの猫耳じゃなくて実は我らが探偵アイテム【発信機付きネコミミくんMT】だったのさっ」
彼が両手の指を立て頭にかざしながら自慢げに説明してくれていた。
「もちろんマタタビの匂い付きな。後は追って捕まえるだけだ。ほら、行くぞ。」
先ほど持っていた網を私に渡し、男はパソコンを構えて走り出す。
発信機付きならわざわざあんなことしなくても、それにMTってもしかしてマタタビの略…
「私、演技する必要あったんですかね…」
「あはは、でも可愛かったよ。ほら、僕たちも行こう。」
首を傾げウインクをした彼は私の手を引いて走り出す。様になっていてカッコいいフォローなのだが、今は逆に皮肉にしか聞こえなかった。
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その後もインカムからの指示を聞き二手に分かれて追いかけ回した。30分も走り回ったおかげか、猫の体力が減った隙になんとか捕まえることができた。
「はぁ、はぁ、やっとつかまりましたね。」
「そうだね、猫も疲れて眠っちゃったみたい。」
猫は彼の腕の中で眠りにつき大人しくしている。そりゃあれだけ走り回ったのだから猫も観念して捕まりにきたのかもしれない。
「先輩、走るのも速いのにすごい体力ですね。」
「そうかな?だけど穂花ちゃんがいなかったら流石に厳しかったかな。」
そう言ってくれるけど実際のところほとんど彼が追いかけ、私は挟み撃ちにできるタイミングに合わせて駆けつけていただけだった。
それなのに疲れ果ててる私に比べてまだまだ元気そうだった。
そんなひと段落ついた二人の元へ男が駆け寄り、ポカリを手渡した。
「お疲れさん、依頼主に連絡したから30分後に校門の前に行くぞ。」
「お疲れっ宙、それとホノカちゃんもお疲れ様っ」
彼は私に労いの言葉をかけると受け取ったポカリを勢いよく飲み出した。先輩やっぱりやさしいなぁ。
疲れていても労いの言葉をちゃんとかけてくれる彼に対して男はしてっとしていてどこか冷めた感じだった。
「ありがとうございます。やっぱり猫を追いかけるのってすごく大変なんですねっ」
笑っている彼に私も笑顔を返しポカリを飲んだ。走り回って汗をかいていても5月はまだ少し肌寒く、余計に冷たく感じた。
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約束の時間、6時30分になると辺りは暗くなり始め部活動の生徒たちが帰宅していた。
先輩は猫を抱っこして撫でながら笑っている。男の方は全身黒いせいでよく見えない。
校門の前で待っていると向こうから女子生徒が走ってこっちに寄ってきた。
「はぁはぁ、お待たせしました。あのマロは?」
膝に手をつき息を切らしていた。そんな彼女に先輩は抱いている猫を見せる。
「ああ、マロ!」
安心した彼女は猫を受け取り話しかけてる。
「もう、どこに行ってたのっ!ずっと探していたんだよ、心配させて…」
猫を見つめる彼女の目からは涙が溢れ出ていた。よっぽど大事にしていた猫だったのかな。
「校舎の裏に住み着いていたみたい。怪我はしていないようだけど一応診てあげねてっ。」
「うん、獅斗くんみつけてくれてありがとうっ」
猫を抱いたまま軽く礼をしていた。私の方にも向き同じく軽く礼をする。
「君も、探してくれてありがとうねっ」
急に礼を言われ少し動揺してしまったけど嬉しそうな彼女の顔を見てこっちまで嬉しくなってくる。探偵の猫探しを軽く感じていたけど、今はそんなことはないと思える。
「あ、はい、どうも。無事見つかってよかったですね。」
これだけで今日の苦労が報われる気がする。やっぱり人助けは良いものだ。
「それでは、お世話になりました。本当にありがとねう」
「うん、気をつけて帰ってね。それじゃっ」
二人に礼をした彼女は再び深く礼をして帰っていく。歩きながら時折猫を見て微笑む姿を手を振って見送った。
これにて一件落着なんだろうけど我らが部長はどうしたのだろう?周りを見ると普通に先輩の横にいた。黒いせいでまったく気付かれていなかった。男が猫を追いかけた方が気づかれずにもっと早く捕まえられたのではないだろうか。
気づかれていない男を見てもやっぱりよく見えなかった。けど帽子に手を当て、口元は少し笑ってるように見えた。
「それじゃ、無事依頼も解決したことだし今日はもう終わりにするか。」
「そうだね。初日からこんな遅くまでごめんね?手伝ってもらっちゃって助かったよ。」
先輩は両手を合わせて謝ってきた。別にそんな謝るほど大変だったわけでもない。
「いえ、私も色々とお手伝いできてうれしかったです。それで明日はどうしますか?」
これは気遣いでもなく本当に嬉しかった。昔憧れていたように誰かの人助けになれるとは思っていなかったから。
「明日も同じ時間に部室にいるからぜひまた来てよ!」
正直、アザのことについて知らなかったらすぐ帰るつもりだったけど、これからもこの部で一緒に活動するのも悪くないかもしれない。
「はい!また明日もきます!」
元気に応えた私はアザのことなんて気にしなくてもやっていける。そう思っていた。だって誰かのためにする人助けはあまりにも心地良かったから。
第3話終わり
今回も読んでいただきありがとうございます。3話はやっぱり探偵といえば猫の捜索と思い書きました。それに探偵初心者の穂花にはこのぐらいの依頼から始める方がわかりやすいと思いました。エピソード1はまだまだ続きます。読んでいる中で誤字や文章としておかしいところが出てくるところがあるかもしれないのでぜひ指摘していただければすぐに修正します。自分も不備がないよう慎重に書き進めていきます。
第3話ご精読いただきありがとうございました。