星空探偵部!第2話〈コーヒーが香る部室は狭く暗い〉
前回に引き続きヒロインの穂花時点で話は進みます。
第2話〈コーヒーが香る部室は狭く暗い〉
廊下はこれから部活動に行く生徒や帰宅しようとしている生徒で混み合っている。奥に進むにつれて人だかりは減ってゆき、少しずつ静かになっていく。
この学園はコの字型になっていて入り口がある方の本館に自分たちの教室などがあり別館は文化系の部室が多くなっている。どうやら探偵部はその中でも隅っこの方にあるらしく部室の前に着くと完全に静まり返っていた。
「ここが探偵部の部室、何か入り辛いな。」
ドアの前でノックをためらっていると後ろから声を変えられた。
「ドアの前で立ち尽くしてどうしたんだい?お客さんかな?」
後ろを振り向くと今朝あった白髪の男性が同じように微笑んで聞いてきた。
改めて見る彼は再び惚れてしまうほどにカッコよく白い髪は御伽の国を想像させ京子が言っていた白の王子様ってのも納得できる。
そんなイケメンに急に話しかけられたものだから緊張して焦ってしまった。
「いえ、あの何かあったとかではなくて、少し興味があったといいますかなんといいますか…」
自分でも下手だと思う言い訳を言い終わる前に彼が手を取ってくる。
「もしかして!体験入部に来てくれたのっ。ぜひ見学したいってよ!」
言い訳を聞き嬉しそうに笑顔になった彼は私の手を取りそのまま部室へと引っ張って行った。
入ると中はまだ夕方にもなっていないのに仄暗く埃っぽかった。思っていたよりも狭くカーテンは閉まりきっており、ぎっしりと棚に詰められた本や机の上に積まれた書類などがなおのこと圧迫感を感じさせる。
見渡すとパソコンの前に黒い男が座っていた。黒いコートに黒のレザー手袋、探偵と厨二病を連想させる男は画面を見たままキーボードを打ち込んでいる。
「おう、獅斗。先生どうだった?まだ怒ってたか?別にあんなに怒んなくてもいいのにな。」
不機嫌そうな声の男は椅子を倒し身体をぐでっと預けていた。こちらを見ると私と目が合う。
「あ?誰だそいつ、新しい依頼人か?」
前にいた彼が部屋の電気をつけ腰に手を当てている。
「もう、また暗い所で作業してる。ちゃんと電気つけないと身体に悪いよ?それと先生にはとりあえず許してもらえたよ。まだだいぶお怒りの様子だったけど。」
母親が息子に叱るようなポーズを取った後こちらに向き私に手をかざす。
「そして、この子はこの部に見学に来てくれたんだ。えーと、」
「一年の早乙女 穂花です。」
こちらに手をかざしていたので流れに合わせて自己紹介をした。
私が軽く一礼をすると彼が部屋の中央に移動して手を広げる。
「僕は獅斗、そっちに座っているのが宙。そして、ようこそ!我らが探偵部へ。今は2年の二人で活動しているんだ。」
意気揚々と語る彼をよそに男は以前不機嫌そうなままこちらを訝しんでいた。
「見学ってあれか、先生に言われてちゃんと部活動してるか確認するよう頼まれたのか?この部ももう存続が危ういのか…」
変に卑屈な疑いをかけられていた。先生たちにあまり良く思われていないのだろうか。
「そんなんじゃないですっ、昼に何かしているのを見かけて…」
私がオドオドしていると男は立ち上がり、給湯場らしき所へ行き水を沸かし始めた。
「宙、変なこと言って困らせたりしたらダメだよっ。どうぞそこに座って。」
彼が男に軽く注意した後奥の来客用だと思うソファと机がある場所に勧めてくれた。
「はい、ありがとうございます。」
私がソファに座ると彼も椅子を持ってきて私の前に座った。
「あの、私昼に何かしてるのを見かけて友達に聞いたらなんでも不可思議現象を調べてるって聞いたので、それで少し気になりまして。」
私がこの部に興味を持った経緯を簡単に話すと彼が不可思議現象という言葉に反応し頷いていた。
「ああ〜その事ね。もしかして君も不思議な力とか持ってたらするのかな?」
不思議な力もしかしてあのアザのことを言ってるのかな。まだわからない、もう少し話を聞いてみよう。
「あの、不思議な力とは?」
彼は顔を近づけると人差し指を立ててまるで秘密の会議をするかのように小声で話し始めた。
「この学園には稀に力を持つ生徒がいて現実では想像もつかないような事件が起こったりしているんだ。それぞれある生徒たちには特徴があってね。ほら僕みたいなこうゆう…」
「話すぎだ、バカ野郎。初対面の人にそうベラベラ秘密を教えるな。」
手をかざそうとした彼の頭に男が軽くチョップをした。彼は頭を押さえながらジロっと見ていたが男はそんなこと気にせず手に持っていたマグカップを机の上に置いた。
「コーヒーしかなくて悪いな。砂糖とミルクは好きに使ってくれ。」
マグカップに続いて二つの瓶が置かれた。「どうも」と軽く一礼をすると前の彼は口をとがらせてマグカップを見ていた。
「僕もうコーヒー飽きたんだけど、ジュースとかないの?」
不満を言いつつスティックシュガーとコーヒーフレッシュを3つずつ取り出し入れている。男の方は特に何も入れることなくそのままマグカップを持ち机に腰をかけていった。私は1つずつ取り出して出されたコーヒーに入れた。
「ジュースなんてうちにはない、文句あるなら購買で買ってこい。それよりさっきこいつが言ってたことだが…まぁあれだ、ちょっとした特殊能力みたいなもんだ。機密事項って程のもんでもないがあまり周りには話さないでおいてくれ。」
「わかりました、覚えておきます。」
別に話すつもりも無かったので素直に答えると男は二本指を顔の前にかざし否定してくる。
「いや、むしろ忘れてくれた方が助かる。こんなこと言っても周りは何言ってんだとしか思わないだろうからな。この部も大体の生徒から紛い物扱いされてるからな。ま、変に目立つよりは探偵、として動きやすいから楽なんだけどな。」
何言ってんだはこっちのセリフだった。いちいち探偵ぶった仕草とかしていて話しづらい。今も手に持っているマグカップを見つめて決め込んでいた。
「あの、昼休みに桜に何かしていたのもその不可思議現象と何か関係があるんですか?」
質問すると男は手元にあった書類を取り出し難しそうな顔で見ていた。その代わりに彼がコーヒーを勢いよく飲み干し机に置き答えてくれた。
「その通り!毎年この時期には咲いているはずの桜が今年はまだ咲いていなくてね、それで昼休みに咲かせようと試みていたのさっ」
「単にまだ気温が上がってないだけだと思うけどな。ただ何としても桜を今週中に咲かせてほしいって依頼が来ただけだ。」
「ちゃんと依頼とか来たりしてるんですね。」
そりゃ探偵なのだから一応依頼という形で進めているのだろう。
「他には何かあるんですか?」
「もちろん、男子生徒の二股疑惑調査に迷い猫の捜索、物理科の島崎先生の年齢詐称の件にあとは校内が寒いから暖房をつけてくれってゆうのも来てるかな。」
「最後のはただの苦情じゃないですか!」
普通に探偵とは関係ないことまで来ていた。やっぱりアザのことなんて気のせいで私の思い違いだったかなぁ。
「そういうのって普通、生徒会や職員室に行くものなんじゃないですか?」
「普段はもっとちゃんとした依頼とかが来るんだけどたまにこういうのも来たりするんだ。」
あははと頬をかきながら苦笑いをしていた。が急に顔付きが変わり頬をかいていた手で拳を作り見つめている。
「けど本当に困ってる生徒たちもいるんだ。どんな依頼でも本気で取り組むさ。」
そう言う彼は真剣な目をしていて誰が見てもカッコよく思えるだろう。この人はこう言う人だから周りにもモテまた尊敬されているのかもしれない。実際に聞いたわけじゃないけど。
「そんなわけで探偵部をしているわけなんだけど、どうかな。興味持ってくれたかな?」
真剣な顔つきから笑顔に戻った彼は笑ってはいるけど真っ直ぐな目をしていて、そんなの相談なんかなくても気になってくる。それにアザのことも分かるかもしれないなら、分かることができたらもう悩まなくても良くなるのなら、そのためにも…
「はい!ぜひ私も人助けをお手伝いしてみたいです!」
私も手を握って拳を作り改めて意思を伝えた。その言葉に嬉しそうにした彼は男に確認をとる。
「本当!ならさっそく今日の依頼から手伝ってもらおうかな。いいよね、宙。」
あっちが部長なのだろうか。てっきり彼が部長だと思っていた。男はマグカップを机に置くと持っていた書類をこちらに渡してきた。
「別に人手が増えても依頼には差し支えないしな。とりあえずこれが今ある依頼リストと先に進めている桜の件についての詳細だ。」
数枚のプリントを渡され受け取ると前にいた彼が立ち上がり、私の横に移動する。そのまま座るとプリントを覗き込んでくる。
「僕にも見せて見せて。えーとね、こっちのプリントが今やらなきゃいけないやつね。」
「お前、コピー渡したろ。自分のはどうした。」
「無くしてどっか言っちゃった、またコピーしてよっ」
笑って誤魔化す彼を男は目を細めて睨んでいる。確かに彼は周りからの評価とは違いあまり部長には向いてるタイプではないのかもしれない。
「まぁいい、それでその桜の件なんだが園芸部員からの依頼でさっきも言ったが今週中に原因を見つけて咲かせなければならない。」
渡されたプリントに目を通すと依頼人 園芸部員 園田 彩と書いてある。
「この園田さんって人はなんで桜を咲かせようとしてるんですか?」
「なんでも同じ園芸部の子が引っ越しちゃうらしくてね、それで最後に一緒に桜を見たいらしいんだ。」
彼がプリントに指を差す。その先には依頼対象 伊藤 紗夜と書いており横には引っ越し予定日が今週の日曜日、5月8日と明記されている。
「でも今日が5日だからもうそんなに時間ないですよね?」
「そうなんだよ〜、でも全然上手くいかなくてね。今日も最終手段の花咲か爺さん作戦をやってみたんだけど失敗しちゃって、もう打つ手が無いんだよぉ。」
彼がもうお手上げといわんばかりに両手を上げて机に突っ伏していた。にしても最終手段が童話の真似事とはよほど追い込まれていたのだろうか。
「そもそも桜を咲かせるなんて無理なんじゃないですか?何か他の方法を考えた方がまだいいんじゃないでしょうか。」
疑問を投げると彼は突っ伏したままで男が困ったように頭に手を当てて話を続ける。
「そんな事言われてもなぁ他の物で代用つっても桜じゃ無いと意味ないんだよ。」
「ならわざわざ学校の桜じゃなくても、近くの平岡公園の桜なら咲いてますよ。」
今度は机から起き上がった彼が答える。
「僕たちも考えたんだけどね…どうしても学校の桜じゃないとダメみたい。」
よほど学校の桜に思い入れでもあるのだろうか。でもそれが厳しいのは私でも目に見えている。二人がうーんと悩んでいるのを見て私も顎に手をやり考え込む。考え込んでいると男がもう一枚のプリントを渡してくる。
「その件は置いといて今日はまず先にこっちの依頼から片付ける。」
渡されたプリントを見ると上の方に池崎さんの猫捜索と書かれている。てか探偵が依頼を片付けるとか言っちゃっていいんですかね。一応生徒の依頼なわけだし。
その疑問は飲み込んでプリントを読んでいると下の方に猫の写真を見つける。白と灰色の柄の猫に見覚えがある。
「あ、そういえば私今朝ぶつかった時に写真を拾いまして。」
カバンの中から写真を取り出すと彼が指を差して嬉しそうに驚いている。
「あ、無くしてたやつ!君が拾っててくれたんだ、よかったぁ。」
「お前…もういい、また今度話す。とりあえず俺は荷物を取ってくる。目的地に移動するから歩きながら軽く目を通しておいてくれ。」
男はコーヒーを飲み干すとマグカップをシンクの中へ入れ壁にかけてあった黒のハットを被り部室から出て行った。帽子まで黒なんだ…
「それじゃあ僕たちも行こっか。」
彼も立ち上がると上着を取り私の分のマグカップと一緒にシンクへ入れドアへ向かう。私も上着を着て彼の後を追った。
第二話終わり
第二話も読んでいただきありがとうございます。部室は自分の想像の中の探偵らしく狭く暗い雰囲気にしてみました。その方が宙の性格にあってそうでしたが獅斗が少しかわいそうでしたね。
TwitterなどのSNSは今のところ考えておらずもう少ししたらそっちでも宣伝してみようかなと考えています。
それでは引き続き3話の方も読んでみてください。
今回もご精読いただきありがとうございました。