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前世が【氷の魔女】だった俺、終末世界でもソロキャンを楽しみたい!  作者: 笠鳴小雨


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6.しーふーど麺

 


 バイクを走らせて十分くらいのところに、いかにもな田舎のコンビニ店を見つけた。

 田中商店と書いてあった。


 でも、望みは薄いだろうな。


 そう思いつつも、近くにバイクを止め……ハーミも一応収納しておくか。

 目を離した隙にゾンビに壊されてたなんてことがあったら、この辺りのゾンビを一掃してしまいそうなほど怒り狂うだろう。


「ワンコ」


【タンス】を呼び出し、引き出しを開ける。


 仕舞うように念じるとハーミが一瞬で消えた。

 そう、これがワンコ。別名【タンス】スキルの使い方だ。いやん、ワンコ便利。


 すぐにスキルを解除し、コンビニへと向かっていく。


 遠くからでも何となくは気が付いていたが、近くに来てはっきりと戦闘痕が分かる。

 銃撃戦でもあったのかと疑いたくなるようなレベルの散らかりっぷりだ。

 窓ガラスはもちろん全てが割られ、店内に破片が散らばっている。飲み物が入っているディスプレイも割られ、商品棚も倒れ、荒れ放題だ。


 そして、匂いも――。


「うっ……腐臭がするな。というか、鉄臭い」


 血の匂いだ。

 ここにはゾンビや人間がいないことはすでに【アラーム】で確認済みだ。

 ただ、辺りにこびりついた血が匂わせているのだろう。それに腐った食品の匂いまで。


「食べられる物あるかなぁ……」


 服の襟もとで鼻と口を押さえつつ、ゆっくりとコンビニ内を物色する。

 しかし、食べられる物を探す以前に、食料自体がほとんど無くなっていた。


 まあ、みんな同じ発想するよな。

 そりゃそうだ、二週間もただ寝ていた奴に食料なんてねぇよってか。ふざけんな。


 悪態をつきつつ、商品棚に八つ当たりをした。


「おぅふ……小指……小指がぁ」


 罰が当たった。

 足の小指に什器の角がクリティカルヒットだ。


 例えむしゃくしゃしたって物に当たってはいけない。

 そんなのはロクデナシだぞ……という特大ブーメランだな、全く。


「腹減ったぁ。まあ、仕方ないか」


 もう陽は暮れ始め、外はオレンジ色の光に染まり始めていた。

 時間はもうない。


 それなりの力を手にしたからって、夜に動くほど俺も迂闊ではない。

 こういうときこそ慎重に。

 Web小説から学んだ教訓だ。


 幸いなことに無事な水を一本発見した。

 それにソロキャンしようとしていた道具もある。

 近くにスーパーがなかった時のためにと、ミニミニカップラーメンも一つだけ持ってきている。


「今日はこれで凌ぐかぁ」


 外に出てさっさと焚火の薪を集めることにしようか。


 アウトドア缶を使えばいいだろって?

 まあ、普通はガスさえあれば簡単だよな。

 でも、俺は家に忘れてきたんだよ!

 最終確認を怠った罰が今振って来ているんだよ!


 でも、まあ薪集めの手際はもう慣れている。

 伊達にキャンプを趣味としてやってきていないのさ。


 裏手に向かうと、人の手があまり入っていない森が広がっていた。

 早速、松ぼっくりを足元に見つけた。


 これは乾燥し、笠が開いているものが着火しやすいのだが……。


 まあ、スキルがあればなんの枝でも火は着きそうな気がするが、こういうのは雰囲気が重要だ。

 慣れない手順でやるよりも、慣れた手順だ。こういう不測の事態の時こそである。気持ちを落ち着かせるためには必要な工程だろう。


 最終的に松ぼっくりを六個ほど手に入れた。

 まあ、十分だろう。

 ちょっと少ない気もするけど、時間も時間だしこの辺りでこれを集めるのは止めておく。


 次に必要なのが「小枝」だ。


 できれば針葉樹の下あたりに落ちている枝が好ましい。


 というのも、針葉樹の枝は火が付きやすいのだ。

 逆に燃え尽きやすいしススも多く出るが、火付け段階ではこの枝の方が火はつけやすい。

 この辺りの見分け方も長年やっていると、何となく見分けがつくようになってくるのだ。


 火付け段階の他の候補として、野菜の皮を剥くように小枝をナイフで切っていくフェザースティックという案もあるが、今回は即席のためそこまで手は掛けたくないのだ。

 要するに、面倒くさいってわけよ。


 そんで火付け段階の次に必要なのは、先ほどよりも少しだけ太い木があれば最高だ。

 今回は長時間の焚火をするわけではないので、直径5センチくらいの枝で十分である。


 中でも広葉樹の太い枝があれば申し分ない。

 広葉樹の枝は燃えにくい分、長持ちする。ついでに言うと、ススも出にくい。


 ちなみに針葉樹と広葉樹の見分け方は……。


 うん、まあ葉が鋭いか広いかでいいよ。

 詳しく語ると全然違うし、葉だけで区別すると例外もあるので何とも言えない。


 まあ、そんなこんなで焚火に十分な枝を拾い集め終えた。


 と、そんな時だった。


 ポツポツポツと雨が降り始めてきたのだ。


 まだ小降りだが、遠くの空を見ればどす黒い雨雲が近づいてきているのが見える。


「はぁ、こんな時に限ってかよ……中、掃除するか」


 俺がソロキャンを好きだと言っても、趣味に当てられるお金には上限がある。


 要するに、何を言いたいのか。


 俺の持つテントはそんなにいい代物ではない。

 加えると、そろそろ買い換えたいなぁと思ってたくらいボロい。

 暴風雨とか来てみろ、一瞬で吹っ飛ぶこと間違いなしだ。


 ということで、色々と臭いこのコンビニを掃除しようと思う。

 もちろん自分の手でわざわざ掃除なんてしない。

 ライフ様の力をお借りしますとも。……なんで自分に様って付けてるんだろ。色々あり過ぎて疲れてるのかな?

 まあ、いいや。


「お掃除ロボット、万能氷ちゃん」


 さあ、出てきましたこの子。

 万能な氷こと、万能氷ちゃんです。

 この子の基本特性は変わりません、触れた物を瞬時に凍らせ、振動を与えると粉々に砕けるということです。

 ただ分別(ふんべつ)という言葉を追加することができます。

 今回の場合はこうです。


「建物は凍らせるな、散らばっている物やゴミ、家具、腐っている食料は全て凍らせて良し」


 あっという間に完了。


 何ということでしょう。

 あんなに臭く散らかっていたコンビニ内が綺麗さっぱり、匂いすら万能氷ちゃんに消滅させられたじゃないですか。


 ついでに『硬氷壁・オートタイプ』を意図的に出現させ、コンビニの古びた壁や天井を補強してあげます。

 もちろん手を当てれば飴のように形を変える氷の壁。


 あっという間に、氷の要塞の完成ですよ。


「さ、火起こそ」


 なんか変なテンションになっていた。


 一面だけ開放的に開けた壁側の外で焚火を起こす。

 とりあえずなんか面倒くさくなってきたので、広葉樹の太い枝を地面に初っ端から組み上げていき……。


「燃えろ」


 スキル【ファイアポイント】を発動、一瞬で焚火が完成したのだった。


 直火NGとか、そういう細かいことは今は気にしないでくれ。

 俺だってここが直火NGか、いいのかなんて分からないんだ。てか、芝生じゃないし、コンクリートの上だから直火でもいいんだよ、たぶん。


 にしてもさ……。


「なんか虚しいな」


 折角のキャンプっぽい感じだというのに、情緒もへったくれもない。


 まあ、今日は疲れたしいい。

 明日に備えてちゃんと食って寝よう。


 焚火の上に網の台を置く、そこに水の入れたコッヘルを準備する。

 あとはお湯が沸くまで、ただジッと待つのみ。


 パチパチパチパチッ。


 ……。

 …………。


 おっと、危ない。

 危うく焚火の魔力に吸い込まれるところだった。


 流石に野ざらしで睡眠とか、いくら強くたってゾンビになりかねない。


 いつのまにかお湯が沸いていたようだ。


 ついでにいうと、数メートル先に女子高生ゾンビがいた。


 店の周りを周回している万氷球独楽に瞬殺されていた。

 うん、ご愁傷様です。


 この辺に女子高でもあるのだろうか?

 やけに女子高生のゾンビが多いな。

 可愛いというよりも、キモイが勝るので嬉しくもなんともない。


 カップ麺にお湯を注いでいき、待つこと二分半。

 俺は固めが好みなのでこの辺りでいつも封を開けてしまう。


 そこら辺に落ちていた割り箸を拾い上げ、


「いただきまーす」


 ずるずるっと麺を啜る。


 美味い……変わらぬ旨さ。

 二週間ぽっちでは質なんて落ちない好クオリティ商品。

 シーフード麺、侮れぬな。やりおる。


 あっという間に食べ終え、残りのお茶も飲み干してしまった。


「ぷはぁ、生き返った気がするわ」


 その場に寝転ぶように、寝そべろうとしたがすぐに体を起こす。


「テント建てようか、一応」


 スキル【消火】ですぐに焚火を消し、黒くなった薪はコンビニから少し離れた場所に放置しておくことにした。


 店内に煙が充満して、翌朝一酸化炭素中毒で死んでましたとかシャレにならない。

 例え火が完全に消えていても、種火はまだ生きているかもしれないのだ。


 火の用心マッチ一本火事の元、である。

 初心忘れるべからず。


 すぐに店内に戻った俺は、わざと開けていた店内の一部を氷で塞ぎ、完全な密室へと変えた。


 そこにボロボロテントをサクッと立てる。

 さすがの俺ともなれば自前のテントを建てるのに十分もいらない。最速で三分だ。カップ麺と同じ速さという自信がある。


 テントに籠り、寝袋へダイブ。

 イモムシとなった俺はすぐさま眠りにつくのであった。


 ふぅ……。

 イモムシ型のモンスターとかもいるのかな?

 できれば遭遇したくないな。


 などと考えていると、いつの間にか深く夢の中に誘われていったのであった。




 ――世界が激動の渦に飲まれて15日目、ようやく逢坂氷一郎は目を覚ました。


 そして、俺の初日は無難に幕を閉じたのであった。




 ******************************




 ――とあるビルの屋上。


 月明かりに照らされる一人の影があった。




「……もうすぐだね、ヒーローさん」


 その男は不敵な笑みを浮かべる。

 そして、上着の内ポケットから一枚のカードを取り出し、何かを操作し始めたのだ。


 数分で彼はそれを仕舞い込んだ。

 不意に、眼下に広がる廃れた街並みを見つめる。


「さあ、始めようみんな。実行の時だ――」


 その言葉を最後に、彼の姿はその場から消えていた。


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