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前世が【氷の魔女】だった俺、終末世界でもソロキャンを楽しみたい!  作者: 笠鳴小雨


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31.次の街へ

 


 あれから俺は二日間だけ、このグループにお世話になっていた。


 というのも、【零氷壁・キャッスル】をただ発動しただけでは彼らにとって色々と不便なことが起こるからだ。

 俺は今回、一部ではなく周囲をグルっと囲むように氷壁を出現させた。

 そうなるとだ、彼らは一生この外に出られなくなってしまう。

 巨人から逃げているわけでもないのに、一生の壁の中って言うのは些か不便だろう。

 巨人を恐れる彼らだって壁の上には登れたんだ。

 ここに住むサバイバル住人達もそう言った便利さは必要だろう。


 そういうことで、俺は氷壁の所々に細工を施すべくこの街をぐるりと回っていたのだ。


 なぜかチビ森を連れて。あいつ案外足が速いんだよ、恐らく俺よりも。

 たぶんレベルが違うんだと思う。

 俺にはライフの能力はあっても、彼らより出発が十四日は遅かったのだ。それなりのレベル差が有ってもおかしくはないのかもしれない。


 っと、少し話が逸れたか。


 細工というのはいくつかあるが……。


 例えば、城壁に登れるような階段や手摺、命綱を掛けられる第二の手摺などを作ったりもした。

 あとは中からしか開けられないような仕掛けの扉を一つだけ作ったりもした。

 壁の上には落っこちないような手摺を作った。

 外壁からはツルツルで触れられないように鏡面の如く磨いたりもした。

 逆に中側の壁には所々に突起を作り、最悪避難できるような装飾も施した。ここには少しだけ凝ったなんてことは秘密だ。

 外を容易に確認できるように、所々に窓のような透明度の高い氷を配置したりもした。


 と、まあ数え切れないほどの仕掛けを施していたのだ。

 それも二日目でようやく終えた。

 もう俺はここにいる意味がなくなったってわけだ。


 そのことを知っているのは紫森だけ、他のみんなにはまだ言わないようにお願いしてある。

 彼らが知れば確実に俺はどこかに行くのを止められるだろう。

 そうなると、正直気持ちが揺らがない自信がないのだ。


 俺にとってはこの街にいたのはたったの六日。

 彼らと共に行動したのはその内、三日間だけ。


 そんな短い期間でも、彼らは俺に対し驚くほどに良くしてくれた。頼ってくれたし、頼って欲しいとも言ってくれた。

 人生でこんなに頼られたのも初めてで嬉しかったのかもしれない。


 それでも俺には決めた目標がある。


 苦しんでいるのはここの住人だけじゃない。

 それに食料不足はどこだって一緒だ。


 さらに言うとだ。


 俺はここで留まってはいけない気がするのだ。

 理由は分からない。

 ただ記憶の中のアイエリス=ライフがそう俺に訴えかけているような気がしてならないのだ。


 留まるな、先に進め、自由を手にしろ。

 そう、彼女が囁き続けるのだ。


 だから、俺は……。





 ――彼らと共に過ごして三日目の早朝。


 警備の人以外はほとんどの人が就寝についている時間帯。

 俺は階段も扉もない、ただ氷壁がそびえ立っている場所まで歩いてきていた。


 彼らから少しだけ物資を貰っておいた。

 代わりに、俺の要らないような物資を置いてきている。

 物資のトレードだ。勝手だとは思ったが、許して欲しい。


「さあ、ここともお別れだ」


 日が昇りかけている彼誰時。

 俺はゆっくりと氷の壁に手を掛け――。


「私にもお別れの挨拶はなしですか?」


 毎度のことでさすがに俺も慣れたよ。

 いきなり現れて、【アラーム】に引っかかる曖昧な反応。


 俺はゆっくりと振り返る。

 そこにはいつものキャップ帽子を被らずに、ストレートの黒髪をふわりと垂らすチビ森の姿があった。


「別にいいだろう。今生の別れってわけでもないし、チビ森とはそう遠くない日にまた会いそうな気がするんだよな。まあ、確証はないけどな」


 そう言うと、チビ森は驚いたような表情を見せた。


「驚きました。氷一郎はエスパーですか?」


「お前には言われたくないな」


 一拍呼吸を置き、チビ森が口を開いた。


「当分の間は私もここにいます。でも、この街が盤石になった時、私は自分の役割を果たしにここを出なければなりません」


「役割?」


「それは氷一郎でも教えられません。ただ……また会いに行くね」


 それを最後に、紫森ねむはいつも通り姿を消した。

 地面に潜り、住処に帰って行ったのだろう。


 俺は再び氷壁に手を着き、氷を変形させながら上へと昇っていく。

 すぐに頂上へとたどり着いた。


 そこに広がる景色を見て思わず言葉が漏れる。


「すげぇな」


 半分ほど姿を現した太陽が地平線に見えた。

 斜め後ろを見ると、そこには立派に佇む富士山の姿がある。


「行くか、ムキュキュ。次の街へ」


「ムキューッ」


 こうして俺とムキュキュは、この街を後にした。


 目指す街も目的地もない。


 ただ気の赴くまま、道中でキャンプを楽しみながら俺たちはこの終末世界を旅するだけだ。


 静かなこの世界に、一台の独特なバイクのエンジン音が鳴り響いていた。




――――完――――


一度、この作品は『完結』とさせていただきます。

20XX年続編製作決定、とだけ。

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