1.彼は依存系男か否か
人の悪意と好意を感じ取ることができたら、ちょっとは生きやすくなるだろうか。
なんて、誰しも一度は思ったことがあるに違いない。
気になるあの人も、取引先のおじさんも、お局さんな直属の上司にも、必要以上に煩わされずに済むかもしれない。
今日はそんな稀有なケースをご紹介しよう。
幸か不幸か匂いで感情を察知する力を持ったある女性のおはなし。
・・・・の後日談
紆余曲折あり、洗濯洗剤の彼とやり直すことになった。
ざっと言ってしまえば、私が仕事で参っていたところに、彼もまた順調ではない就職活動に参っていた、参っていた者同士が傷のなめあいを始めたといったところだろうか。
彼の就活が頓挫した原因については完全に自業自得と言えるのだが、今回その話は割愛する。
そうこうしているうちに一年たち、職務内容、人間関係、労働環境、諸々劣悪でまあ有体に言えばブラック企業の様相を醸し始めた職場。心身ともに消耗した私は結婚の予定があると建前を述べて職を辞し、実家へ居候の身となった。
ほんの2、3ヶ月の出来事は交際期間1年を遥かに凌ぐ密度で過ぎ去っていったことに戸惑うばかりだ。
「旦那さんどんな人?」
少しグレードアップした飲み屋で女2人。相手はお決まりの柚果だ。
「んー。動けるデブ?」
「もうちょっといい表現してあげてよ」
柚果は3か月前に結婚したばかりの新婚さんだ。ちょうど前職の業務と引継ぎが佳境を迎えており、碌なお祝いができなかった。結婚式は家族で内々に行いたいようで、今のところ声はかかっていない。
そんな彼とも落ち着くまでには浮気や浮気相手から婚約不履行で訴えられて慰謝料やそれはもういろいろあったようで、穏やかならない幕開けであった。冒頭の「どんな人?」には、そんなのと結婚してしまって大丈夫?という言葉が隠れているのだが。
とうの本人がこれは捕まえておかなきゃと思って頑張った、とケロリとしているのだから全く人間とは不思議だ。
「で、どうなの?依存系の彼とは?」
ふむふむと頷いていたら、こちらへもブーメランがやってきた。
「そろそろ潮時かなと思ってる。」
「その心は?」
「すべてにイライラするようになってきたんだよね。今その原因を考えてるところだけど・・・」
「それはもう嫌いになっちゃったんじゃない。そいで?」
「ざっと紙に書いてみたのだよ。ただ嫌いというのは簡単だけど、私に原因があるなら直せると思って。」
真面目だねえ・・・無意味だと思うけど。と極々小さな声が聞こえたが、まずは事のあらましを説明した。
そもそも何故やり直すことになったかというところから、彼が働き始めてから半年の猶予を設けたこと、デートの頻度や日々の会話、私の意思はほとんど無視、要らないと言っているのに、独りよがりのプレゼントを贈ってくるなど思いつく限りつらつら話していった。
「もう別れちゃいなよ、そいつ」
「ズバリ言ってくれるね・・・」
「そりゃね。要約すると、1宗教、2生活習慣、3依存体質の3つてところ?宗教に関しては日々の生活にも食い込んでくるだろうし、下手したら親戚の葬儀に行けない可能性もあるわけだ。」
おっと、冠婚葬祭については考えてなかった。
「依存については私がそう思うだけでは?主観でしかないから確証がほしいところなんだけど・・・」
「紛うことなく依存体質だし。大体、半年の猶予を設けたことの意味すら分かってないようじゃ、今後の意思疎通すら危ういと思うけどね。
だいたい、宗教と煙草をよりどころにするのは弱い人間だと相場は決まっている。」
まあ、その通りだ。半年過ぎたら無条件で結婚しようという話はしていないし、むしろ半年の期限は彼自身の経済的、精神的自立のために用意したとも言える。
私がいくら言葉を尽くしたところで、その言葉のもつ意味を理解していないようでは伝わらない。いや、試験に出るような表面な意味としては理解していたのだろう。
1+1=2となる法則を独自解釈で1+1=3にしてしまうから、同じ言葉から得られる意味が恐ろしいほど異なっていた。意思を伝える最も初歩的で強力な共通認識のはずが、その共通認識すら形成できていなかったのだ。
「まあ話を聞くに、結婚することは決定事項で付き合うのはそのための準備期間と思っている彼と、あくまで結婚するかどうかジャッジするために付き合おうとするあんたとじゃ、スタート地点から大きく違うのよ。」
これじゃ、ゴールどころか給水スポットだって同じはずがないじゃない。
「あんたもさ、頭の出来は悪くないのに、恐ろしいくらい男運無いよね。」
「あ~ん。柚が冷たい~~。」
渾身の泣き真似もなんのその、頭を叩かれ、ため息が降ってきた。
「馬鹿なこと言ってないで、真面目に考えなさいよ」
一度別れた男とやり直すのはお勧めしませんよ。
当人たちは忘れていてもお別れに至る理由がちゃんとあったわけですから。