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第二話 落下系ヒロインさん

 

「食べた食べたっ。貴女は命の恩人だよっ。ありがとねっ」


「いえ、そんな」


「あっ!? そういえば貴女ってばセルフィー=アリシア=ヴァーミリオンとか呼ばれていたっけっ。かんっぜんにお姫様じゃんっ。馴れ馴れしすぎたかなっ?」


「気にする必要はありませんよ。今時王族なんて何の意味も持ちません。アリシア国を含めて、ほとんどの国家が崩壊している有様なのですから」


「そう? まあお姫様がそう言うなら私も特に気にしないけど」


 セルフィーからもらった干し肉でお腹を満たしたミリファルナはふひいと一息つき、じっとセルフィーを見つめる。正確にはアリシア国の王族の証である中央から端にいくにつれて薄くなっていく蒼のグラデーションに染まった瞳を。


「お姫様の目、綺麗だね」


「えっ。きゅっ急に何を!? そ、そんなことありませんよっ」


「いやいやそんなことあるって。私のような真っ黒な味気ない目に比べて、こう、海のような鮮やかさがあるよねっ。というわけでもっとよく見せてよっ」


 ぐいっと距離を詰めてくるミリファルナ。鼻と鼻とが触れ合うほどの距離にてじわあっとセルフィーの頬が赤くなる。


 いきなりのことに反応できないお姫様の前で小柄な少女はというと──ふわあ、と欠伸が漏れた。


「むにゃ。お腹いっぱいになったら眠くなってきちゃった。そろそろ寝よっと」


「あわあわ……あわ? あれ、ミリファさまっ、寝るって、あれ!?」


「私はミリファルナだから。そんなことより、もうダメ眠いー」


 ぱたん、と。

 お眠なミリファルナがセルフィーの胸に飛び込むように倒れる。完全に寝る気満々であった。


「あ、あの、ミリファさま、近い、全体的に近いですう!!」


「むにゃー。ミリファルナだよー」



 瞬間。

 ドッゴォンッッッ!!!! と焚き火の真上に何かが降り注いできた。



「きゃあ!?」


「うわぁっ!? なっなになにまさか魔女っ子女が復讐にやってきたとか!? って、あれ???」


 それは純白の翼を背中から生やした金髪碧眼の女であった。右の翼は根本から引き千切れており、左腕は半ばよりあらぬ方向に曲がっていた。


 何より。

 ごばっ、と盛大に吐血が漏れる。


「わっわわっ、なんか落ちてきたんだけど、なにこれどうすればっ!? こんな怪我応急処置じゃどうにもならないって! と、とにかく焚き火でこんがり焼ける前になんとかしないとっ」


 ずるずると焚き火の上から引きずり、とにかく肌が焼けることだけは阻止したミリファルナはざっと純白の翼の女を眺めて、ぱんっと両手を合わせた。


「うん、これはもう無理だね。なむなむ」


「みっミリファさまっ。諦めるんですか!?」


「だーからー私ミリファルナだって。っと、そんなことより、諦めるも何も助ける手段ないしね。出来ることと言えば楽に殺してほしいか、野垂れ死ぬかを本人に選んでもらうくらいかな。ねーえーどうしてほしい?」


 ツンツンと落下してきた翼の女の頬をつつくミリファルナ。絵画にでも描かれそうな『憧れはするけど、生物学的に不可能なプロポーション』を持つ女は小さく苦笑を浮かべる。


「は、はは……。大天使ともあろうわたしがこのような無様を晒すなんて。ファクティスやキメラガール、エンジェルミラージュまで撃破されては、ちくしょう。誰にも託せないじゃない……」


「おーい無視しないでよ寂しいじゃーん。というか天使って、妄想は大概にしてよねー」


「な、ん……? 貴様、もしやっ!?」


「あっ、やっとこっち見た」


 何やらもそもそ言っていた自称大天使がミリファルナへと視線を向ける。そこで目を見開いた彼女は何を思ったのか右手に光の剣を構築、ミリファルナへと斬りかかろうとして──


「うわっ、危なっ」


 すんなり避けられ、そのまま焚き火へと顔から倒れた。


「ふぎゃあああ!? 熱い、熱いいいっ!!」


「もお。錯乱するのは勝手だけど初対面の相手巻き込むのはどうかと思うなー?」


「くそ、よくもやってくれたわねっ」


「えー? 自滅を私のせいにしちゃう?」


「不遜なる魂めっ。今ここに引導を渡して……ぐっぶう!?」


 べちゃっ!! と自称大天使が血の塊を吐き出し、焚き火を鎮火する。鎮火できるくらい多量の血が吐き出されたとも言える。


 見てみれば彼女の身体には無事な箇所が見当たらないほどであり、どうしてまだ生きているのか不思議なほどだ。普通の人間ならとっくに死んでいるだろう。


 膝をつき、口元を押さえた自称大天使は荒く息を吐き、今にも倒れそうな様子でミリファルナを睨みつける。


「目の前に不遜なる魂が存在しているというのに、この手で始末する力さえ残っていないなんてっ」


「魔女っ子女といい自称大天使といい、気軽に命狙うのはやめて欲しいんだけどなー」


 ミリファルナがそうぼやいたと共にであった。



 ずっ……、と。

 更なる影が夜の闇の中から踏み込んでくる。



 正面。自称大天使のさらに奥。

 鮮血のような赤髪に赤い瞳。かの魔女が霞むほどに濃密な死の匂いを纏う女がそこにいた。


「チッ、もう追いついて……ぐぶべぶっ!?」


 吐血を繰り返す自称大天使を追いかけてきたらしい赤髪の女は侮蔑を込めて息を吐く。


「情けない。あの程度で虫の息だなんて。ちょっとはワタシの経験値稼ぎのために頑張ってよね」


「ほざく、んじゃない、わよっ、『魔の極致』第二席キアラっ。平和を願う我らが百合ノ女神の意思を踏みにじる悪党め!!」


「きひひ☆ 平和だなんてくっだらない。闘争こそ最強へ至る道というのに」


 言下に赤髪の女が間合いを詰める。そばで見ていたセルフィーには視認すらできない挙動でもって膨大な()()を秘めた拳が飛ぶ。


 自称大天使の顔に向けて放たれた拳は、しかし、



「まったく、『相性』悪かったら仕方ないってことで見捨てる理由になったんだけどなー」



 ばっぢぃん!! と。

 ミリファルナの掌が赤髪の女の拳を受け止める。


「なっ!?」


 ブォッワァッ!! と吹き荒れた余波だけで木々が根本から引っこ抜かれ、地面がひび割れる有様であった。それだけの威力を秘めた一撃を、しかしミリファルナは軽々と受け止めたのだ。


 チリッ、と。

 掌から溢れるように金色の光があった。


「ふっふっふう。私に魔力は通用しない。というか、魔力を吸収しないと本領発揮できないんだよ、ねっ!!」


 ゴッッッ!!!! と。

 逆の手を拳と握り、赤髪の女の胸板へと叩き込む。たったそれだけで猛烈な速度で赤髪の女が薙ぎ払われていった。


「よし、こんなものかなっ」


「いや、いやいやっ。なんですか、今の!?」


 ぱんぱんっと両手を叩き合わせるミリファルナへと詰め寄るセルフィー。そんな彼女に全身が金色に染まりつつあるミリファルナは軽い調子で、


「私、魔力を吸収する体質みたいでね。ついでに魔力を吸収すると吸収した魔力量に応じて金色パワーが湧き上がってきて無双し放題っ。まあ吸収できるのは魔力だけで、自分の魔力ではどうこうできないから、敵が初手で魔力以外を使ってきたら呆気なく負けちゃうんだけど」


「も、もしかしてそのせいで魔女を退ける実力がありながらあまり知られていなかった、とかですか? 魔法使い以外が相手だと本領を発揮できず、実力にばらつきがありすぎるから……」


「その辺は知らないしどうでもいいかな。別に有名になりたいわけでもないし。そんなことよりさっさと寝よ──」



「経験値取得。ステータス展開。スキルに割り振りレベルアップ」



 するり、と。

 その声はミリファルナの懐深く、至近も至近から響いた。


 赤髪の女。

 その不気味に光る指先がミリファルナの額に押しつけられていた。


「スキル『永久凍土』獲得」


 ()()()()()()()()()()()()、それだけを突き詰めに突き詰めた結果、生命が対象であれば生命活動を完全に停止させる力を得ることとなったスキルが炸裂した。


 指先はミリファルナの額に当たっていた。すでに条件は満たされており、後はスキルの猛威がミリファルナの命の時を止めるだけである。



 ばぢんっ!! と。

 ミリファルナの顔が弾かれるように後ろに吹き飛ばされ、そして、



 ーーー☆ーーー



 ドゴォッ!! と。

 跳ね上がった蹴りが赤髪の女の顎をぶち抜く。



 ーーー☆ーーー



「が、ぶ!?」


「そうそう、言い忘れていたけど」


 よろめき、後方に下がる赤髪の女。そんな彼女にミリファルナは拳を握り締め、


「金色パワーは超常の性質を無効化する。まあ込められたパワーそのものは無効化できないから金色パワーが防ぎきれない力が込められていたら普通にダメージ受けるんだけど──スキルは性質重視、技能でもって特異な力を発揮するから込められる力の総量そのものは大したことないんだよ、ねえっ!!」


 ゴッドォンッ!! と赤髪の女の顔面にミリファルナの拳が突き刺さった。

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