第5話:親友の言葉(中編)
中編と言っても短いです。後編とまとめたら、ちょっと長いかなと思って。
後編も連続投稿しております。
腕がちぎれそう……!
ハードルってこんなに重かったっけ。しかも持ちにくいし。 ここまで運んでくる間に何回足をぶつけたことか。
中学時代は三年連続100メートル走に抜擢された(じゃんけんで勝っただけ)私にとって、ハードルに触れるのは小学生以来となる。
奥にしまってあった、あの黄色くて柔らかいやつがよかったな……。
「南、ハードルの向き逆。」
「ひっ。」
「……そんな警戒されるとちょっとへこむんだけど。」
「ご、ごめん……なさい。」
教えてくれたのはクラスメイトの男子。
そうだった。今日は男子も一緒なんだった。男女混合リレーだっけ? それがあるから合同なんだって。堂々と女子の授業に混ざってきた変態さんかと思った。
「まぁいいけど。これ戻しておくから高さの調整よろしく。」
「あ……男子の高さってどのくらいにすればいいの?」
「一番上でお願い。」
「わ、わかった。」
全てのハードルを調節し終えて、その出来栄えを見渡す。
うん。綺麗にできた。
それにしても男子のハードルの高さにはびっくりした。私のおへそぐらいだったから……え、もしかして1メートルくらいあるんじゃない? いつの間にこんな差が。
ふと辺りを見回すと、人が少なくてどうも寂しい。この様子だと2レーンくらい用意すれば十分だったかも。
個人種目を選んだのは、私と同じで運動が苦手な人ばかり。全員とまではいかないものの、体育祭のモチベが低く、やる気ない人達ばっかりだった。きっと私以外の女子も、日陰でガールズトークに花を咲かせているんだろう。
まぁ、気持ちは分からなくはないけどね。リレーならまだしも、授業中の練習量で個人種目の順位が変わるとは思えないし。
とはいえ、サボる玉でもないから練習するんだけど。
あ、夢羽とディズニーに行くのはノーカウントでお願いします。もし実現するなら、私にとってサボりというより一大イベントだ。それこそ体育祭なんか目じゃないくらいの。
スタート地点に立つ。
今でさえ少し緊張してるのに本番大丈夫かな。
「……よし。」
意を決して足を動かす。無理そうだったら止まればいい。
迫ってくる一つ目のハードル。
や、やっぱり高くない?
「きゃっ。」
私にしては度胸を決めたと思う。なんとか一つ飛び越えることができた。
後ろを見てみると、ハードルは私が設置した時の状態を維持している。
「ふぅ……。」
助走なしでは二つ目を飛べそうになかったので、再びスタート地点に戻る。レーンを独り占めしてるからできることだ。
今度は一つ目、二つ目、そして三つ目まで飛ぶことができた。
全部飛んでからにしろよって感じだけど、私の中では十分感動モノだ。
それから私は何度か繰り返し飛び続けた。
速さなんてどうでもいい。最下位でも、穏便に本番を乗り越えるためだけに頑張った。
「次終わったら休憩しようかな。」
確実に初めより上達していて、その嬉しさからつい独り言をいってしまう。
「よしっ。」
———六個目、七個目、八個目……やった、次で……次で最後だ———
そこで油断したのがいけなかった。
「あっ———」
私が最後に記憶しているのは、抜足がハードルとぶつかった感覚。
あとは重力とか諸々の物理法則に身を任せて、気づけば地面に手をついていた。