2015.04.01 道中×お話
家族や友人に見送られた後私は車の全面部にでかでかと防衛省などと貼りつけてある、いわゆる商用車然とした車に揺られていた。車は高速道路をかけて行くが、まだ県内から出ていないところであった。ふと林曹長は「川居くん、君はどうして嘘が上手いようであるね。」と私に話をふった。どう云った訳であるかと聞けば「君は彼女がいないと宣っていたではないか」宣っていたも何も、現に彼女ができた試しなどないと返せば「では、先ほどのお嬢さんは一体何なのだね」と方眉を挙げて尋ねたものであるから、只の幼馴染みであると云えば「またまた、そう云ってはぐらかさずともよいよ」と云って聞く耳を持ち合わせない。そもそも、私は主有るものに手を出すような酔狂者ではない。私はどうも極りが悪いので、話に聞いていた教育隊とはどういう物かと話題を反らさんとした。林曹長はいたくつまらなそうな顔をしたが、これ以上の追及は無駄と思ったのか私の質問に答えた。
「以前にも話したこと思うが、教育隊と云うものは新人教育の部隊であって航空自衛隊では埼玉県の熊谷基地と山口県は防府南基地の二ヶ所である。ここに、全国の採用者が集まると云うわけだ。では、この間に何をするかと云えば登録であるとか、訓練やら教育やらであるよ。」
林曹長の話を聞いていると、いよいよ車は県境を跨ぎ埼玉県へと入っていった。
「まあ、最初は制服や迷彩の戦闘服の採寸からはじまるがね。おっと、川居くんは航空自衛隊であるから戦闘服ではなく作業服と呼んでいるな、迷彩ではあるが。また一番気になるのは訓練であると思うが、なに陸上自衛隊の様に小銃片手に山中駆けずり回るであるとか、海上自衛隊の様に短艇漕いで海上を泳ぎで帰る等と云うことはしないから安心したまえ。」
幾度聞いても全く想像の埒外である。
気づけば車も、高速道路から抜け出して住宅地へと突入していた。車窓から見る風景は麗らかな春を体現せんとする果てない桜並木が続いていた。到着まであと如何程かと問えば林曹長は「いよいよもう直ぐであるから、覚悟を決めるように。」と云った。覚悟などは試験のときより決めておるよと申せば、「ならば良い」と優しく云った。