巨大なトマト
新緑に染まった林と森。その山肌をくねりながら続く、一本の専用道路。
吉村刑事は坂下刑事を引き連れ、第一の事件があったバイオ研究所に向かっていた。
「オマエも見ただろ。イチゴだって、あんなにでかくなるんだからな。ありえる話だと思わんか?」
研究所で事件があった日。
県警の捜査員が到着するまでの間、ほんの一部ではあったが、両刑事は所員に研究所内を案内してもらった。そのとき二人は、とてつもなく大きなイチゴを見せられ、それはなんとミカンほどもあったのだ。
「ですが、なんかこじつけみたいで。怪獣なんて、それこそ映画の中の話ですよ」
「いや、そう考えた方がつじつまの合うところが多いんだ。これまでの事件のことを考えるとな」
「ですが……」
「あの事件にしたって、いまだにわからんだろう。犯人がどうやって研究所に侵入したのかな。だがな、上からやってきたとすればどうだ?」
「上からですか?」
「ああ、上空からだ。怪獣がテラスから飛び去るのを見たと、あの子はそう言ったんだろう。つまりな、犯人は空を飛んできたんだ」
「怪獣って飛びますかねえ?」
「飛ぶだろう、コウモリのようなものなら。それに血も吸うしな」
「そうか! それでは血が抜かれたというのも」
「そういうことだ。その怪獣が異常にでかくなったものなら、つじつまが合うだろ」
「ええ、たしかに」
「どうせ捜査は行きづまってるんだ。ダメでもともとじゃねえか。とりあえず調べてみる価値はあるんじゃないか、そう思ってな」
「急ぎましょう」
坂下刑事がエンジンペダルを踏み込む。
早朝の専用道路には一台の対向車もなかった。朝露に濡れた路面を、二人を乗せた車がタイヤの音をきしませながら登っていく。
白い建物は森の中で静かにたたずんでいた。怪奇な事件のことは、とうに忘れたかのように……。
二人の刑事は所長に面会し、研究している野菜を見せてもらえるようお願いした。
所長がいぶかしげに問う。
「あの事件と何か関連でも?」
「いえ、そこまでは何も。ただ、ひとつ気になることがありまして」
「何だね?」
「見ながら説明したいと思います」
「なら、わたしが案内しよう」
所長じきじきに連れられ、機密にさしさわりのない研究室を見学させてもらえることになった。
最初の研究室。
そこには数種類の野菜が栽培されていたが、それらのどれもがごく一般的な大きさである。
「ここでは害虫に対し、抵抗力のあるものを開発しておる。せっかく育っても、虫に食われてはだいなしだからね」
「まったくです。ところで、これには薬を使うこともあるんでしょうか?」
「ああ、虫に作用するものをね」
「虫ですか」
吉村刑事が小さくつぶやく。
「すでにいくつか開発し、市場に出まわっているのもあるんだよ。もしかしたら君たちも口にしてるかもしれんな」
「何ともないでしょうね、人の体には」
「そこはまちがいなく保証するよ」
所長は断言し、それから「君たちが虫じゃなければね」と、二人の顔を見て笑った。
次の研究室に移動する。
その部屋では暑さや寒さといった、それぞれの気候に適応できる野菜作りを研究していた。
さらに次の部屋に移動する。
三番目の研究室に入ったとたん、両刑事はそろっておどろきの声をあげていた。
「おうっ!」
「すごいな」
その部屋の中央には、高さ五メートルほどのトマトの木があった。
根元に近い幹の太さは大人の腕ほどもあり、四方八方に広げた枝には、赤く熟した実を鈴なりにつけている。
実の数はゆうに百は超えるであろう。そして、そのひとつひとつがメロンほどもある。
「おどろいたかね」
どうだと言わんばかりに、所長がトマトの木を見上げる。
「いや、たいしたもんですね」
「将来の食糧不足に備えてなんだよ。大きくすることにより、量の確保が容易になるんでね」
「それにしても……」
「今のところ、味と香りがいまひとつでね。それもいずれ良質のものにと、こうして全員一丸となってがんばっておるんだ」
「で、ここでも薬を?」
「ああ、野菜に応じて使い分けるんだよ。あれなんだがね」
所長が勝手知ったるように、壁に取りつけられた保管庫に向かう。
保管庫のガラス越し。
そこには大小の薬ビンが所狭しと並んでいた。




