新たな事件
夜の八時過ぎ。
新たな事件の一報が捜査本部に飛び込む。
場所は研究所のふもとにある小さな集落で、被害者はその村に住む老人男性であった。
現場は集落のはずれにある畑。
被害者は心臓を刺され、やはり大量の血液が抜かれていた。
死因は警備員と同じ失血死である。
現場が畑であることから、犯人は足跡などを残していると思われたが、その痕跡はひとつとして発見されなかった。さらに周辺の検問でも、怪しいと思われる人物は浮上しなかった。
ただそうしたなか、前回の事件との共通点がいくつか判明する。
肌の変色といった変死であること。
死因が失血によるものであること。
凶器は鋭利なものであること。
にもかかわらず……。
前回の事件と同様、捜査は暗礁に乗り上げ、またしても行きづまってしまった。
マスコミ各社は連日、この不可解な事件を大きく報道した。ただその内容は、県警の捜査が行きづまった状況では推測や憶測の範囲でしかなかった。
日時が経過するにつれ、根も葉もない情報がひとり歩きを始める。吸血鬼など無責任なうわさまでが、どこからともなく湧いて出る始末だ。
うわさは人々の不安をあおりながら、またたくまに周辺の地域に広まった。犯人像が見えないことも、あらぬうわさにいっそう拍車をかけたのだった。
第一、第二の事件が解決しないまま、またしても次の新たな事件が発生する。
やはり夜だった。
場所はバイオ研究所に近い集落にある民家で、そこには幼い男の子と母親の二人が暮らしていた。
時刻は夜の十時過ぎ。
大きな音で目をさました男の子は、居間に入ったところで一瞬にして体をこわばらせた。テラスにいる怪獣のようなモノを見たのだ。
そのモノは倒れた母親にのしかかっていた。
母親はピクリとも動かない。
数分後。
ソイツは母親から離れると、テラスから上空へと飛び去って消えた。
しばらくの間……。
動かない母親を前にして、男の子はただ茫然と立ちつくしていた。
――夢なんだ。
そう思っている。
だが男の子の悪夢は、いつまでもさめることはなかった。
早朝から捜査本部室があわただしい。
新たな三番目の事件が発生し、県警本署内のほかの部署や他の警察署から応援の捜査員が動員されていたのだ。
今回の事件。
被害者の女性は、テラスで洗濯物を干しているときに殺害されたと思われた。そして死因だが、これまでの被害者と同様に失血死で、彼女も肌の色を茶褐色に変えていた。
一方、難を逃れた子どもだが、今は署内の一室で女性警察官につき添われている。
男の子は少し落ちつくと、自分が見たモノのことをポツリポツリとしゃべり始めた。
「それって、怪獣みたいだったんだね?」
「うん」
「でもね……」
怪獣が現実にいるはずがない。女性警察官は次に問うべき言葉を探した。
「ほんとだよ、ボク見たんだ」
男の子が声を大きくする。
――夢でも見たのかしら?
女性警察官はそう思いながらも、男の子がウソを言っているふうには思えなかった。
「わかったわ」
男の子の頭をなでてやる。
それから念のために捜査本部室に出向いて今の話を伝えた。
「怪獣だって?」
話を聞いた刑事が笑う。
「夢を見たのかもしれませんが」
「そうに決まってるよ。母親が殺されたんで、こわい夢でも見たんだろう」
「でも、ウソを言ってるようにも」
「ちまたじゃ、なにしろ吸血鬼が犯人だ。それで、そんな話を信じたんだよ」
この二人のやりとりを……。
近くにいた刑事たちはあきれ顔で聞いていた。
だが、このとき。
ただ一人、とっさに顔色を変えた刑事がいた。
吉村刑事である。




