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夜の侵入者  作者: keikato
18/19

奇跡の日

 その夜。

 夜半から強くなった風が、ひと晩じゅう近隣一帯で吹き荒れる。公民館の建物にも音を立て、風はようしゃなく吹きつけていた。

 朝、七時前。

 公民館の中は、空気が凍るほど冷え切っていた。

 三人とも目をさましていたのだが、この寒さになかなか起き出せず、寝袋の中で風の音を聞いていた。

 迎えのヘリが九時に来る。

「そろそろメシにしませんか」

 坂下刑事が一番に寝袋からはい出した。さっきから空腹をがまんしていたのだ。

「じきに暖かくなりますので」

 さっそくストーブに火を入れ、水の入ったヤカンを乗せる。

「お湯がわいたらコーヒーをいれてくれんか」

 本部長が寝袋の中から注文する。

「オレも頼むよ」

 吉村刑事も寝袋から手を出し、タバコと灰皿をたぐり寄せた。

「ところで、夕べはどうしたんでしょう? 巨大蚊の羽音、夜半になってピッタリやみましたけど」

 坂下刑事が問うように、二人に話しかけた。

「オレも不思議に思っていたんだ」

「早くに明かりを消したんで、森に帰ったんですかね?」

「いや、昨日は明け方まで聞こえてたじゃないか」

「ですよね。ヤツら、わたしたちがいたのはわかっていたはずですからね」

「あきらめたとは思えんしな」

 吉村刑事は朝の一服を終えると、寝袋からのそのそと起き出した。それから窓辺に立って、外のようすをうかがうようカーテンを引いた。

 外は吹雪き、見渡すかぎり真っ白だった。

「おっ、雪だ!」

 吉村刑事の声に、本部長と坂下刑事も窓辺にやってくる。

「どうりで冷え込むと思ったよ。夜のうちに、かなり降ったようだな」

「いやあ、おどろきましたよ。こんなに初雪が積もるなんて、わたしも初めて見ます」

 吉村刑事は地元の警察署に勤めて長い。それでもこの地域で、この時期、このような大量の初雪は経験したことがなかった。

「うん? 今、何か動きませんでしたか」

 坂下刑事が目をこらすようにして、窓の外の一点を指さした。

「どうした?」

 本部長が坂下刑事の指さす先を見る。

 かなり吹雪いており、遠くの山々は白くかすんでいた。すぐ近くの木々でさえ、降りしきる雪にぼやけて見える。

「ほら、あの木のあるところ。その下です」

 そこには黒く細長いモノがあり、それはまわりの雪景色とはアンバランスに感じられた。

「おっ、動いた。あれだな」

 吉村刑事も指さす。

 積もった雪から突き出た、細長くて棒切れのようなモノ。それがかすかに動いている。

 それはすぐに動きを止めた。

「あれって、巨大蚊の足では?」

「まちがいないな。夜のうちに落ちて、雪に埋もれたんだろう」

 本部長も確信するようにうなずいた。

「そうか! ヤツら、飛べなくなったんですよ。夜半に羽音がピタリとやんだのは。この大雪のせいだったんです」

 吉村刑事の顔つきが、疑問から解き放たれたようになる。

 三人はさっそく防寒着をはおると、積もった雪を踏みしめながら黒いモノのある場所へと行った。

 黒いモノ。

 それはやはり巨大蚊の足だった。息絶えているのかピクリとも動かない。

 さらにおどろくことに、付近を捜索してみると、巨大蚊の死骸が転々と転がっていた。

 三人からの報告により。

 毒薬の散布は、決行寸前でからくも中止されたのだった。


 昨夜。

 冬の始まりを知らせるかのように、自然はこの北国に大量の雪を降らせた。

 木枯らしが、吹雪が、ひと晩じゅう巨大蚊を攻め続けた。人類が作り出し、人類最大の敵となった巨大蚊を、自然はあっけなく滅ぼしたのだ。

 それからも、自然は人類に味方をしてくれた。

 寒風が吹き荒れ、雪が断続的に降り続く。

 こうして皮肉にも……。

 人類から破壊されようとしていた自然が、破壊しようとしていた人類を救ってくれたのである。


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