巨大蚊との戦い
翌日の正午前。
緊急会議から吉村刑事がもどってくる。現場の沼に派遣されていた調査隊が帰り、その調査結果の報告があっていたのだ。
その吉村刑事に、坂下刑事が歩み寄って問う。
「どうでした?」
「このとおりだ」
吉村刑事は会議で配布された資料を渡した。
写真の中の怪獣は沼のあちこちに浮いていた。もとより黒いのか、重油で黒く汚れたのか、それからでは判別がつかなかった。
「でかいですね」
「二メートルは超えてるらしいぞ」
「そんなに……」
「何匹か沼から引き上げてみたが、すべて死んでいたそうだ」
「卵の方は?」
「写真じゃ油で見えないが、たとえふ化しても、すぐに死ぬだろうと話していた」
吉村刑事は会議で聞いたことを話し、それから専門家がしていた指摘を言い添えた。
「だがな、安心はできんらしいぞ。ほかの場所でも産卵している可能性があるからな」
「じゃあ、そいつらがまた巨大蚊に?」
「そういうことだ」
「あんなに探して見つからなかったんです。ほかにないことを願いたいですね」
「ここらには地図にない沼が多いそうだ」
「では、まだ全部を調査してないと」
「ああ、それで継続してやることになった」
「で、バイオ研究所との関係は?」
「それについては、政府の専門チームが別に調査をやってるそうだ。結論は出てねえらしいがな」
「やはり関係してるんでは?」
「オレもそう思ってるんだが、薬品で蚊を巨大にするのは不可能だとよ」
「そのことはあの所長も話してましたね。ありえないことだと」
「だが、別のことも言ってたじゃないか。万にひとつの可能性ってのをな」
「突然変異を誘発したってことですね。では、当然そのことも?」
「ところがな、突然変異ってヤツは、そんなものでは起こらんそうだ。遺伝子上の偶然によって、たまたま発生するらしい。まあ、神様のちょっとしたイタズラみたいなもんだな」
「そんなものなんですか」
「だから結論が出んのだろうよ」
そこでまで話すと、吉村刑事は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「とにかく、できることをやるしかねえ」
バイオ研究所周辺の集落は四方を高低の山々にかこまれ、日暮れの早い地形の一帯にある。
太陽が山の裏に沈むと、今日も真っ黒な闇にのみ込まれた。
時をおかず。
上空に重低音がひびく。またしても巨大蚊が、人間の暮らす領域に侵入してきたのだ。
サーチライトが巨大蚊を探し、何本もの光線が何度も上空で交差する。その光の筋に、巨大蚊の羽が反射して銀色に輝く。
下降する巨大蚊に向け、地上部隊の一斉射撃が始まった。機関銃の発射音が夜空にとどろき、それと同時に数匹が地上に落下した。
だが爆音におどろいたのか、巨大蚊たちはすぐに空高く舞い上がると、一匹残らず闇の中に姿を消してしまった。
やがて羽音も聞こえなくなる。
隊員たちは付近を捜索した。
その結果。
数匹の巨大蚊が見つかった。
それらは羽を銀色に輝かせて空を飛んでいた面影はみじんもない。羽はボロギレのように、体は朽ち木のようになっていた。
さらに捜索を続けていると……。
一匹、二匹と、巨大蚊が舞いもどってきた。それは生まれながらの習性――明かりがあるかぎり明かりを目ざすという、蚊の本能であった。
その夜。
巨大蚊は幾度となく繰り返し飛来した。
地上部隊は辛抱強く待ち続け、断続的ではあったが射撃を続けたのだった。
夜が明けた。
巨大蚊が姿を見せなくなる。深い森の奥へと帰っていったのだ。
地上には、撃ち落された巨大蚊が無残な姿で残っていた。胴体から粘り気のある白い液体を流し、羽はボロボロになって……。




