変貌した元友人
世間では休日とはいえ、そこは都心から遠い郊外である。
バス内は、客が半分も乗ってなくて、余裕で座れた。
しかし……僕が忘れていた事実が一つ。
一番後ろに並んで座ったのはいいが、とにかく男女に限らず、やたらと振り返ってこちらを見るのである。
今更だが、ユウリは明らかに人目を惹く美人さんなので。
つややかな長い黒髪や、透明感のある肌、それに印象的で大きな瞳は、文字通り幼女のごとく澄んでいる。
年齢に似合わない地味な服装を補い、有り余るほどの魅力を放っているのだ。
やはり本人も気になるのか、しまいにはユウリ自身が僕に「みんなこっちを見るんだけど……どうして?」と尋ねてきたほどだ。
『まあ、アレだよ。ユウリが綺麗だからだよ』
僕は正直に囁いてあげたのに、ユウリは素っ頓狂な返事をしてくれた。
『えー、ジン君に女の人が見とれているんじゃないかなぁ?』
なんて囁き返してくれた。
まあ確かに客には女性もいるが、あいにくそこは勘違いのような気がする。
いずれにせよ、チラチラ振り向いてこっちを見る人達のお陰で、僕らはようやく目的地のバス停に着いた時、二人してため息をついてしまった。
「二十分くらいしか乗ってなかったけど、やたら緊張したなあ」
「う、うんっ」
既にルリちゃんのことを考えているのか、ユウリは新たに緊張し始めているらしい。返事もそぞろだった。
「昔の友達だったら、そこまで素っ気ない対応じゃないと思うよ。なんなら、もう一度電話してみたら? もう昼過ぎだし」
「そ……そうね……そうよね」
ぎちぎちに緊張した笑顔で、ユウリは新たに購入したスマホを出した。
登録したばかりのルリちゃんの番号にかけたが、相変わらず同じ留守電が流れているらしい。ちなみに、携帯の番号ではなく、固定電話である。
今は知らないが、当時のルリちゃんは、携帯など持っていなかったようだ。
「まだ留守みたいだなあ……正午はだいぶ過ぎたと思うけど」
でも、僕らは足を止めず、そのまま歩き続ける。
留守の場合、手紙を入れてから帰ると決めてあったからだ。
「ごめんね、無理してきちゃって」
「いやいや、別にいいさ。気になるのも当然だし」
それに……住所を確かめる限り、もう目的地は目前だった。昔の新興住宅地……と言えばいいのだろうか。
画一的な建て売り住宅が並ぶ場所へ、あっさり着いてしまった。
道路を前に、十軒くらい横並びしている隅っこの家で、他との区別はつかない。ただ、二階のベランダに、膝のところが擦れたジーンズが干してある。
女性のものに見えるので、ルリちゃんとやらのかもしれない。
ためらうユウリの代わりに、僕がさっさとチャイムを押してやった。
「あああああっ」
「いや、こういうことは、素早く確かめた方がいいって」
口元を押さえてふいにあわあわし出したユウリに、僕は言い聞かせる。
まあ、どうせ留守だろうからと思ったのもあるが。
しかし……まさにその瞬間、背後から声がした。
「うちになにか用?」
「わっ」
意表をつかれ、僕は思わず声を上げた。
慌てて振り向き、二度びっくりである。
……ハスキーな女の子の声だったので、もしかしたらこの子がルリちゃんかもしれないと思いはしたが。
なんというかこう……ある意味では予想外だった。
ガムを噛んでいるのは別にいいとして、肩から提げた大きなバックには、どこかのロックグループの缶バッチが、二桁以上は飾られている。
親が見たら泣きそうなミニスカと、これもバッチで飾られたセーター姿で、髪はショッキングピンクである。
あと、その髪もパーマがかかりまくった、クルクル髪なのだが。
「はわわぁ」
ユウリが目を丸くして、ポカンとその子を見ていた。
「……なんなの、あんた?」
あまりにも見つめるので、ロックな少女は眉をひそめたほどだ。
「る……ルリちゃん?」
おそるおそる声に出すユウリに、ようやく少女が目を瞬いた。
「あたしがルリだけど? なに? ていうか、あんたどっかで会った?」
一応、記憶を刺激されるのか、首を傾げていた。
横で見ていた僕は声もかけらずに、はらはらしていた。
これはもう……年齢差がどうのという以前の問題じゃないだろうか。
いや、心はともかく、二人とも同じ年齢なんだが……体格はおいて、とてもそうは見えない。