(EP2)昔の友達に会いたい
まあそんな風に僕の周囲でも問題は起こっていたが、その時の僕は、ユウリのことで頭が一杯だった。
しかも、入念な検査を何度も重ねた結果、「後遺症もないし、びっくりするほど健康体!」と主治医の八重子先生が太鼓判を押してくれ、このまま退院……とはいかなかったが、外出許可が下りることとなった。
僕はユウリの回復を喜んだが、ユウリ自身もひどく嬉しかったようで、僕がいつものように見舞いに訪れた時、こんなことを言った。
「ジン君……あのね、昔のお友達に会いたいの」
「友達? 小学生の頃の?」
「うんっ」
大きく頷くと、ユウリは詳しく説明してくれた。
当時、倒れる寸前に、友達が引っ越してしまったのだとか。
隣のクラスの生徒で、合同授業の時に仲が良かった、ルリちゃんという子らしい。
ただ、引っ越し先の住所は倒れる前に聞いてるし、もしまだそこにいるなら、また会いたいの……とのこと。
「あー、なるほど」
僕は頷きつつも、ちょっと警戒していた。
この僕ですら、今のユウリにはやっぱり違和感がある。
心は当時のままだけど、なにしろ見かけは普通に年齢相応なのだ。僕はもう慣れつつあるけど、大抵の人はそうは行くまい。
ルリちゃんとやらは、確かにユウリと何度か話しているところを見たことがある気がする。ユウリは当時から人見知りする子であり、僕を例外とすれば、数少ない友達の一人ということだろう。
そりゃ、気になって当然だ――けど。
「だめ……かなぁ?」
上半身を起こしたユウリが、心配そうに僕を見る。
こんな顔されたら、よせなんて言えない。
「いやいや、駄目ってことはないよ。もちろん会いに行けばいいけど……俺も付き添いとして同行するよ? そうしなさいって先生に言われてるし」
「うん」
幸い、ユウリは嬉しそうに了承してくれた。
「わたしも、その方が嬉しい。ジン君にそばにいてほしいもの」
「そ、そう……そりゃよかった」
素直な物言いのユウリに、僕はまだ慣れずにいる。
翌週、ユウリの望み通り、僕らは連れ立って病院を出た。
さすがに外の空気を吸うのは久しぶりもいいところのようで、ユウリはひどく落ち着かない様子だった。
おまけに、今の身体にサイズが合う服がないので、八重子先生から借りたジーンズとブラウスという格好だった。
「あとは病院の売店で買った、パジャマと下着しかなかったから」
恥ずかしそうに言うユウリに、迎えに来た僕は自分の頭を殴りたくなった。
「ごめんっ。僕が気付いて考えるべきだった」
「ううんっ」
慌てた様子でユウリが首を振る。
「ジン君はいつもお見舞いに来てくれるし、それだけでわたしは嬉しいもの」
「……まあ、今度一緒に買い物に行こう」
照れ隠しにそっぽを向き、僕は先に立って歩き出す。
まあいくら健康状態がよいとはいえ、バスで行くのが順当だろう。
ただ、歩き出した途端、ユウリが横に並んで手を繋いで来たのには参った。
いや、昔から「なかよしだものねっ」などと言われ、外を歩く時は手を繋いでいたが、六年のブランクは大きく、掌に汗をかきそうで困った。
「久しぶり! なかよし、なかよしっ」
「……そ、そうだねっ」
我ながら引きつった笑いだったと思う。
ユウリの笑顔は、昔のままだというのに。
願わくば、当時のルリちゃんとやらが、以前とそう変わらない態度で迎えてくれればいいけど。
先に電話したら留守電であり、「正午過ぎに戻るからっ」と本人らしき声で入っていたのだ。
あの声を聞く限り、あまり今のユウリと合わない気がしたりするが……僕の勘など当てになるまい。