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ずっとずっとなかよし?

 クラスメイトのことは置いて、一番気になっていた面会の件は、ようやく木曜日の夜に連絡が来た。

 顔見知りの女医さんが「最初は一時間くらいにしてね」と念を押されたが、許可が出たのだ。 


 密かに僕は、マスコミが病室に押しかけることを心配していたが、ユウリがまだ肉体的にも内面的にも未成年のせいか、幸いにして地方紙にちょろっと小さな記事が出ただけだった。

 数年後に突然目覚めるというのはかなりレアケースのはずなんだが、飛行機墜落事故と旅客機行方不明事件が一気に重なり、そっちの話題で新聞もニュースも忙しいらしい。


 ……ただ、問題はなにもマスコミの件ばかりじゃない。


 実はユウリの父親は早くに亡くなっているし、お母さんはユウリを病院へ預けたまま、ここ数年は見舞いにも来なくなった。

 憤慨した俺が居場所を突き止めて母親の現住所を急襲したら、既に再婚して男と暮らしていたという……あれほど腹が立ったことはなかった。


 もしかするともうユウリはその話を聞いた後かもだが、どうやって本人を慰めようか、頭が痛い。

 一応、まだ父方の祖母が保護者として残ってはいるが、ユウリはやっぱりショック受けるだろうな。

 

 いろんなことを考えながら、何度も通い詰めた病院へ着き、そして個室の501号室へと足を運ぶ。

 ノックすると、「はぁい」という懐かしい声がして、僕はもうこの時点で涙ぐみそうになった。この六年、返事なんて期待できなかったから。


 中へ入ると、今までよりふんわりとよい香りがして、ユウリがパジャマ姿で上半身を起こそうとしていた。


「うんしょ、うんしょっ」


 なんて可愛い呟きを洩らしながら。





「おいおい、無理しちゃ駄目だろ、まだっ」


 慌てて駆け寄り、僕は上半身を支えてあげた。


「寝てなくていいのか?」

「いいの。少しは身体を動かしたいもの……今まで眠っていたらしいから」


 不思議な言い方をした後、なぜかユウリは僕をじっと見つめた。それこそ、大きな瞳を見開き、じっくりと。

 ある年齢に達するまでは、子供はだいたい見つめる相手が戸惑うほど無垢な瞳をしているものだが、今のユウリがそうだった。


 到底、したたかな今日びの女子高生の目つきではなく、嘘みたいに透き通った瞳であり、こんな女子高生、見たことない……やはりこの子の魂は、まだ十歳のままなのだ。

 ただ、感動して見つめ合ううちに、ユウリの瞳にじんわりと涙が滲み、僕はひどく狼狽した。


「な、なにさっ」

「ん~ん」


 昔と同じ言い方で首を振り、ユウリはパジャマの袖で目を擦った。


「ただ……主治医さんの八重子先生から、ジン君のお話を聞いたの。ずっとお見舞いに来てくれてたんだよね……ジン君だけは」


 その言い方で、既にユウリが母親のことを知ってしまったと悟り、僕は顔色を変えないようにするのに、苦労した。


「そりゃまあ、幼馴染みだからな」

「ずっとなかよし?」

「ああ、ずっと仲良しだ」

「ずっとずっとなかよし?」


 この尋ね方で、僕はユウリが、たまにひどく心配性になることを思い出し、そっと微笑んだ。


「そう、ずっとずっとさ」

「……わたしがまだ、十歳でも?」

「僕は元々ガキっぽい奴だったから、今ちょうど釣り合いが取れたかもしれないさ」

「そんなことない……ジン君、なんだか立派になってるよ……わたし、困っちゃう」

「困ることないと思うけど」


 ようやく僕が椅子を引き寄せて座ると、ふいにユウリはふわりと僕の胸に身を預けた。あまりに自然とそうされたか、受け止めた僕は押し留める暇すらなかった。


 昔と違ってユウリは年齢相応の膨らみがあり、目を逸らすのに苦労した。


「ジン君、わたしがどうしてずっと眠ってたか、知りたい?」

「そりゃまあ。でも、無理しないでいいよ」


 ユウリは六年前、学校から戻った直後にお使いに出ようとして……そのまま屋内で倒れ、昏々と眠り続けた。

 担当になった女医さんが言うには、「これほど原因不明な昏睡状態には、お目にかかったことがないわ」ということらしいが、幸いなことに、身体へのダメージはほとんど見られなかったらしい。


 実際、こうして目覚めているわけだから、本当に幸運だったのだろう。

 ただもちろん、こうなった原因は知りたいさ。

 

「あのね、多分わたし、ずっと夢の中にいたんだと思う」

「え、どういうこと?」


 僕は思わず身を乗り出した。  



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