(EP1)同級生(サラ)と幼馴染み(ユウリ)
ジン君と呼ばれたのは、実に六年ぶりのことだった。
その前に僕がそんな愛称で呼ばれたのは、二人揃って本当の意味で同じ年齢だった昔、つまり僕もユウリも、まだ十歳だった頃となる。
間宮仁というのが僕の名前なので、ユウリはいつも僕をジン君と呼んでいたのだ。
それはともかく、ふいに目覚めたユウリのお陰で、あの後で病院は大騒ぎになり、たちまちユウリは個室から集中治療室へ移された。
部屋を出る前にユウリが、「じ、ジン君ぅん」となにやら心細そうに呼ぶので、そばについていてあげたかったけど。
さすがに担当の女医さんは、「今はあたしに任せてね」と述べ、僕の同席を許してくれなかった。
事実、高二で十六歳のガキに過ぎない僕に、こんな場面で力添えできることはない。
やむなく、女医さんに「では、面会できるようになったら、連絡をお願いします」と頼み、大人しく帰った。
本当は病院の前で粘りたい気分だったが、明日も学校だしな。
その日は月曜日だったのだが、面会許可の知らせが来るまで、実に週末までかかった。
そしてその間、僕はできるだけなにげない振りをしていたのだけど、そう思っていたのは本人だけで、本当は周囲を心配させていたらしい。
早くも水曜日には、友人の浦辺が「おまえ、なんかいいことでもあった?」と休み時間にさりげなく訊いてきた。
途端に、視界の隅に映った同級生の女子が、さりげなくこっちを見た。単なる偶然だとは思うけど。
「いや……ていうか、どうしてそう思う?」
「そりゃわかるだろ。ここ数日、ずっとうっきうきの顔だもんな」
「僕がかっ!?」
まさか僕も、サッカー部のエースで、いつもモテまくりのこいつに言われるとは思わなかったな。
だいたい、昏睡状態となってから六年……ユウリは肉体こそ、それなりに成長を遂げているが、心は十歳当時のまま――のはずだ。
おまけに、本来昏睡状態に陥った人が、あんなに鮮やかに目覚めるケースは、世界的にも珍しいらしい。
不思議とまだニュース沙汰にはなっていないけど、いつ報道関係者が病院へ押しかけるか、僕は密かに警戒しているほどだ。
他にもユウリをとりまく問題は山積みである。だからまあ、そう喜んでばかりもいられない。身体の方も、まだ完全に本調子じゃないだろうし。
それらを踏まえて、「いや……まあちょっと嬉しい事件があったんだけど、それもこれからどう転ぶかわからないわけで」などと僕は言い訳しかけたのだが、底抜けにあかるい浦辺は早速、「女かっ、女だな!?」などと畳みかけてきた。
「いや……おまえの思っているようなこととは違うって」
「しかしおまえ」
とさらに追及しかけた時、やはりこっそり話を聞いていたのか、さっき気付いた女子生徒が割り込んだ。
「浦辺君、間宮君が困ってると思うわ!」
「う……わかったよ」
肩をすくめて、浦辺が離れていってくれた。
ていうかこの子、栗色のツインテールの髪が似合う、少し眼力がある美人さんなんだけど、見た目通りにハキハキした子だったんだな。
「気を遣わせて悪い」
僕は一応、その子に低頭した。
「ええと――」
うう……名前を思い出せないな。
「やだな、間宮君っ。同じクラスになる前から顔見知りなのに!」
女の子が冗談めかして言う。
ただし、目つきは怨ずるように睨んでた気がするけど。
「そ、そうだったか……いよいよごめん。今度はちゃんと覚えるから」
「本当にそうしてね。……森川沙羅ね!」
「綺麗な名前だ」
感心して呟くと、なぜか森川が少し赤くなった。