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誰が一番恐ろしいか?

 さすがに僕が真剣な表情を見せたせいか、浦辺は嫌そうな顔で説明を続けてくれた。


「もちろん俺は、隠れつつも『多分、ただの脅しだよな?』と思ったさ。でも立ち去らずに聞いてたわけだ。なにしろ相手は話題のストーカー男だし、おまけに見た目もかなり粘着質タイプに見えたからな。目に妄執が宿るというか、森川を今にも押し倒しそうに見えたというか」


「わかったわかった、嫌そうな奴に見えたんだよな? 真面目に聞くから続けてくれ」

「……了解。けど、おまえに話すのは、あくまで警告のためだからな」


 妙な念押しをして、浦辺はその時漏れ聞いた会話を再現してくれた。

 森川が脅し? を口走った途端、ストーカー男は真面目にこう述べたらしい。


「僕は君と添い遂げるためなら、なんだってする。もう会社も辞めたし、君と結婚する以外の道はないんだ」


「……あたし、まだ中三ですけど?」

「わかっているとも!」


 目をぎらつかせた男は、大仰に手を広げて言った。


「だから、今すぐじゃなくてもいい。僕だって、君が結婚できる年齢に達するまで、バイトでもしてがんばるさ。そりゃまあ、その分、君を見る時間は減るけど、婚前に手を出すことだけはない。その程度の自制心はあるんだ」


 浦辺曰く、棚の隙間から見る限り、この辺でもう、森川は果てしなく冷徹な目つきだったらしい。

 まあ、相手がそんな奴なら無理もないが……ただ彼女の場合、そこら辺の女の子みたいにガタガタ震えたりキモがったりはしなかった。


 いや、内心では大いに引いていたのかもだが、その場できっぱりと申し渡したのだ。


「貴方がどんな行動を取ろうと、そしてどんなにあたしを好いていてくれようと、あたしは絶対に貴方を好きになれない自信があります。なぜなら、密かに好きな人がいるから。これも、前に言ったはずですけど!」

「ははは。肉体的接触がないなら、過去は問わないさっ。僕は寛大だよ」


「話は終わりです……これ以上つきまとうなら、あたしはおそらく実力行使に出るでしょう。そうならないように、どうか自重してください」


 ――最後通告を叩き付け、森川はそのまま足早にコンビニを出て言った。





 問題の男は、その場では追いかけなかったが。それはなぜかしきりに、周囲に向かって鼻をスンスンいわせていたせいだ。


「んんんんぅ……いい香りだ。君は残り香まで素晴らしい。感激だなぁ」


 それを聞いて、浦辺はその場で昼食を戻したくなったという。


「た、確かにそれはちょっと……アレだな。気持ち悪い人だな」


 僕も渋々頷いた。


「しかし今まで聞いた限りでは、森川はやっぱり被害者――」

「俺さ、そいつが外へ出てからようやくほっとして、店を出たんだよ」


 僕を遮り、浦辺が難しい顔で続けた。


「いやぁ、余計な聞き耳立てたなぁとか思いながらさ。で、スポーツバック持ったまま十歩ほど歩いた途端、後ろから呼び止められた。『不思議な場所で会うわね、浦辺君?』とか言われてな。振り向いたら森川が笑顔で立ってて、腰が抜けそうになった」


 その時のことを思い出したのか、浦辺はデカい図体してぶるっと震えた。


「おまえの方がよっぽど大柄なのに」

「あのな、覚悟のある奴が相手となると、体格なんて関係ねーよっ。あいつの目を見た時、あの場で刺されるかと思ったぞっ」


 からかわれたと思ったのか、顔をしかめる。


「笑顔とさっき言ったけど、目は全然笑ってなかったし! しかも俺が硬直していたら、『店で誰かの気配を感じて、知人が出てこないか少し見張ってたの。ちょっと意外だったけど、浦辺君、途中から隠れたのかしら?』とか言われてなっ」


「う……いや、別に悪気は」


 なんて言い訳をしようとした浦辺を、森川は完全に無視したらしい。

 その代わり、なにげなくこう言ったそうだ。


「うちの学校、未だに生徒の連絡名簿なんてあったわよね、そういえば」


 聞かされた浦辺は、暗に「あんたの居場所は知ってるから!」と釘を刺されたように感じ、ぞっとしたのだと。


「本当だからな!? あのセリフをいざ聞いたら、おまえだって絶対に震えるって。冗談だなんて、微塵も思えなかったっ」

「わかったわかった。それで、問題の人死にの話はどうした?」


「今教えるよ……気は進まないが……けど、教えなかったせいで、おまえもああなったら、ちょっと後味悪いしな」


 意味不明なことを言うと、浦辺はようやく「で、その三日後だったかな、近所の駅で――」と肝心な部分を話そうとしたのだが、ふと目線を僕の背後にやった途端、大きく息を吸い込んだ。


「……なにさ?」


 僕が眉をひそめると、慌てて何度も後ろを指さす。


「う、後ろ見ろ、うしろっ」

「後ろがどうしたって?」


 振り向いたが、相変わらず人影はない。

 そろそろ昼休みが終わりかけなので、校庭でドッチボールしてた連中が引き上げるのが見えただけだ。


「誰もいないけど?」

「いたんだよっ。今、確かに校舎の影にあいつがいて」


 言いかけた後、浦辺はふいに大きく喉を鳴らした。


「悪いが、話は終わりだ。あと俺から言えることがあるとしたら、あいつには気をつけろってだけだ。くれぐれも、俺が余計なことを吹き込んだなんて言わないでくれっ」

「言わないから教えてくれ――」


 せっかく約束したのに、浦辺は「もう戻ろうぜっ」とだけ言い置き、自分だけさっさと歩き始めた。

 まあ、確かに昼休みも終わりだけど。


 それにしても……後ろから見てるだけでも、やたらきょろきょろして、不審だったな。


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