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時を隔てた再会



 何が残酷って、時の流れほど残酷なものはない。


 少なくとも、僕はそう確信している。

 特に、幼馴染みの女の子が六年も意識不明のままと来れば、日々の絶望感も増していくというものだ。




 今日も、放課後に見舞いに来ているが、もちろん相変わらずユウリ(優里)は寝たきりだった。見た目はちゃんと成長しているけれど、さすがに六年も昏睡状態となれば……いつなにが起こっても不思議ではないだろう。


 だいたい、健康状態良好のままなのは、奇蹟どころの騒ぎじゃないって話だし。




「いかんいかんっ」


 僕は慌てて首を振り、弱気を振り払った。

 僕にとっちゃ、もう唯一の幼馴染みだしな……希望を捨てるわけにはいかない。見舞いに来る人も、もう僕だけになっちまったし。


 点滴の管に手が当たらないよう、僕はそっとユウリの髪をなでる。

 週一の洗髪日が昨日だったせいか、記憶にあるそのままの、綺麗な髪だった。つやつやした触り心地に、僕も多少は慰められたかもしれない。


 こうして撫でていると、今にも目覚めそうな気がするんだけどな。


「……ぅ」

「えっ」


 髪を撫でる手が、思わず止まった。

 今、なんだか声が聞こえたような……?

 しかし、固唾を飲んで注目しても、特に動きもなければ、呼吸の乱れもなかった。相変わらずユウリはすやすやと眠っている。



「い、いや……でも目覚めたら」


 僕はその先の言葉を飲み込んだ。

 今の僕は高二に進級したばかりの十六だし、幼馴染みのユウリだって、同じ年月を生きてきたのは同じだ。


 しかし――彼女の時間は十歳のあの日を境に止まっている……いかに、見た目が同じだろうと、心は違うのだ。

 当時の僕と比べりゃ、今の僕が大きく変わったように。


 つまりだ、本当に目覚めたとして……ユウリが僕を認識できないって可能性は、十分にあるわけだ。

 そうなったら、僕は耐えられるだろうか?

 などと――今までに何百回も想像したことを、またしても気に病んでしまい、僕は我ながら気が差した。




「なんだっていいんだよ、別に忘れられてたって。ただ無事に目覚めてくれたら――」


 言いかけ、相変わらず動きのないユウリを見て、僕は肩を落とした。

 やはり、気のせいだったか。

 窓の外はそろそろ夕暮れだし、そろそろ面会時間も終わりだ。


 これ以上、この病室で粘るわけにもいくまい……いかに個室とはいえ。

 僕はため息をついて椅子から立ち、眠れるユウリに声をかけた。


「また明日ね。ちゃんと来るから」


 布団を肩まで引き上げてあげ、僕はベッドから離れた。

 点滴の交換はまだだいぶ先だから、そこは心配しなくて大丈夫だろう。

 しかし、ドアに手をかけた途端、今度こそ間違いなく、聞こえた。

 ……背後で、ため息のような声が洩れるのを。





「――っ!」


 振り向いた刹那、僕は見た。

 震える瞼を持ち上げ、僕に目を向けたユウリを。

 その瞳は……既に当時の無邪気さを失った僕とは大違いで、あくまで澄み切った、まるで幼女のような瞳だった。


 僕がすぐに声をかけなかったのは、先程の恐れが一気にぶり返していたからだ。

 もう昔の僕とはだいぶ違う。

 もしも……もしもユウリに、「だ、だれですかー?」とか訊かれて、あまつさえ怯えられたら……僕がどっと落ち込むことだけは、間違いないだろう。


 しかし、次の瞬間、僕は不覚にも泣きそうになった。


 なぜなら、長い長い時間をかけて、ゆっくりと笑顔を広げたユウリが、僕を無垢な瞳で見つめてこう言ったからだ。




「じ……ジンくん……大きくなっちゃったの……ね」


 話すのも辛そうだったし、声は掠れていた。でもでもっ、間違いなくそう声に出していた。しっかり聞こえた!

 僕は大きく息を吸い込み、次の瞬間、ナースコールのボタンに飛びついた。


 夢ではなく、幻想でもなく――。

 今日確実に、ユウリの時間は再び動き出したのだ。



 ……ただし、年齢は僕と同じ十六歳だけど、心は十歳当時のままで。


デレ妹の空美ちゃん設定が、意外と書いてて楽しかったので、新たに違う物語を。

ヒロインは空美ちゃんじゃないですが。


意識が戻らないまま、数年……というのはかなりのレアケースで、しかもなんの障害も起きないまま目覚めるとなると、さらに低確率――らしいです。


でもまあ、確率的に皆無でもないでしょうから、あえて目覚めるところから……よろしくお願いします。


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