使ったカップはシンクへ置きましょう
『晩御飯が終わった後で、各自使ったマイカップはシンクへ置きましょう』
ある家の主婦が、家族に提案している事柄だ。
その家庭では、旦那が飲みっぱなしでコップやカップをテーブルの上に放置するので、彼の遺伝子を受け継ぐ、今は成人している子供達もそれに習うのは言うまでもない。
食事が終わってからのテーブルの上に、その後で使ったコップ達をそのままにすることで、この家庭では、度々悲劇が起きておるにも関わらず、皆気楽な者だと台所を預かる、母であり、妻である主婦は何時もそう思う。
ミルクのお茶とか、ヨーグルトのお茶とか、飲めない液体作りやがって!すすぐかシンクへ置け!と哀れな、カップやコップの中身を見るたびにそう思う。
そして、その悲劇を避けるべく目につけば、コップ達をを洗い、片付けてを繰り返し、早結婚してから二十数年、そろそろめんどくさくなったので、今回、家族に提案をしたのだった。
わかったー、と返事は良い家族の者達、しかし、その後、状況は変わらない。そう彼等はこうしたことは返事だけで、行動はしないタイプの人間だからだ。育て方を間違えたとつくづく後悔しているのは、言うまでもない。
それから夏場は主婦は諦め、それらを片付ける。己ら涼くなったら、覚えてろと念を込めて寝る前ギリギリ迄、洗う。
主婦も日中は、仕事に出ている為に、休みの前日以外は、夜でもバタバタとした時間を過ごしていた。
朝の仕事を減らす為には、前夜どれだけやっておくかにかかっているのだ。コップ一つと言えど、増えるとそれだけ手間となる。
そして季節は待ちに待った涼しい秋がやって来た。
とりあえず主婦は、再び最終通告を行う。これにも、素直な返事だけで終わってしまう家族に対し、放置すると貴方たちはどうなるのか、身をもって思いしれ!と行動にでた。
主婦の家は年中、冷蔵庫にスポーツ飲料が冷えている。家族は、お風呂上がりにマイカップでそれを飲み、そして再び、寝る前には作りおきの緑茶を飲んでいる。
このスポーツ飲料からの緑茶、各自すすいでから飲めばいいものを、子供たちは、風呂から上がると、ドドドドっと急いで部屋へと階段を昇り、しばらくすると
ダー!と部屋から降りてきて、そそくさと飲んで、バタバタと部屋に行くので『すすぐ』という言葉を教え忘れたらしいと、主婦は少し後悔をしている。
そして!お風呂上がりに放置されたマイカップで、とうとう惨劇が起きる日がやって来た。
風呂から上がった息子が、何時もの様にスポーツ飲料をカップに注いで飲んでいると、友人から電話がかかって来た。
席を立ち、部屋へと向かいながら会話中の息子。何時もならここで彼が使用した『それ』を洗い、片付けるのだが、涼しい秋なのであえて放置。
戻ってくるかと思っていたが、その様子もなく、放置中の彼のマイカップ。
そしてすっかり忘れた頃に、降りてきておもむろに『それ』に緑茶を注ぐ無頓着な彼。
中を確認しないのか?飲み残しがあったらどうするのやら、とほくそ笑みながら、その様子を伺う『鬼母』
そして案の定、彼のマイカップにはスポーツ飲料がのこっていたらしく、一口飲むなり
「うぐぉぅわぁぁあー!やってもたぁー!」
雄叫びが台所から上がっている。そう、彼の飲んだ液体は『スポーツ飲料緑茶割り』とでも称する飲み物。
これは、この世の物とは思えない、エグい飲み物になるらしい。彼は母がいないときに何回かやってしまっている。
経験から出た雄叫びだった。彼には行動から学ぶと言うのは通用しないらしい。
「せめて確認してからいれましょう」
涙目の息子に『鬼母』の愛の言葉が贈られる。
そして、その魔の手は、次々と家族を襲う。何故なら旦那はどういう訳か、一口分残すのが彼の癖。
「おぇぇぇー!入っとったかぁー!」
せめて飲み干せばいいものを、一口残すのがいけません、あ、な、た。
ふ、ふ、ふ、と『悪妻』は旦那を眺めつつ、冷たく笑う。
勿論、主婦はそんな液体飲んだ事はありません。
なので、どんな味かは表せませんが、彼等の様子からすると、凄まじいモノかと……
さぁ、我が家の皆様、声を合わせて言ってみましょう。惨劇を繰り返さないためにもね。
「使ったカップはシンクへ置きましょう」
「終」