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看守兵が彼らの元に来た翌日のことである。
「……んで、どうだ、結論は出たか?」
「ええ、何とか」
あの後、看守の言う事を信じるか、それを信じるとして、実際に頼みを聞き入れるかを決めかねた彼は、一晩置いた今朝、朝食の配膳当番が宣言通りに昨日の看守兵だった事を確認して、ようやく腹を決めた。
「罠かもしれませんが、信じてみようと思います」
「……ふぅん、なるほど」
「手数は多い方が良いですからね」
まぁな、と男も頷いた。
「それでは、これからの大雑把な動きを説明します。これから、といっても実際に動くのは昼になってからですが」
「……作戦、ってやつか」
男は身を乗り出しながらニヤリ、と笑った。
「作戦、と言えるほどのものでもありませんけどね」
苦笑いしながらも、彼は話し始めた。
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魔法銃の魔法石をなぞり、感覚を確かめてから持ち手を握り締め、それを前方に突き出す。
「……どうだ、終わったか」
「まぁ、もう時間もないですからね」
「……そうだな」
彼は、部屋を軽く見回した。
「……今日で終わりなんですね」
「まぁ、この鬱陶しい監獄暮らしからな」
「それもそうですけど……」
言葉を詰まらせながら、彼はしばらく天井の方を見上げた。
「何か、寂しい気もして」
「マジかよ」
「……あぁ、そうでしたね。ごめんなさい、不謹慎だったかもしれないですけど」
少し伸びをして、その場で軽く飛び跳ねてから、彼は続けた。
「この時も休息だと思って楽しむようにしているんです。何と言っても、旅の本質は休息にあり、ですからね」
「……スゲェな」
「いえ、一ヶ月も居たら、そんな事も言えなくなっていると思いますが。……これがあったのも大きかったですけどね」
そう言って、ショルダーバッグを軽く叩いた。
「それと、最後に一つ、聞きたいのですが」
「何だ?」
「いえ、大した事では無いのですが。何でこの国の国王は人を力づくで支配しようと思ったのかなぁ、と思いまして」
「……知らねぇ、というよりどうでも良い」
興味なさそうに、男はそっぽ向いたまま答えた。
「どっちかの親に似てしまったとか?」
「それは無いな。一応両方会ったことがあるが、どちらもそんなんじゃ無かった」
「となると」
そう言って、彼は顎に手を当てて首を傾げた。
「何でそんなにこだわる、どうでも良いだろ、正直」
「いえ、今までにそういう人に会ったことがないので」
「……意外といるぞ、そんな奴」
「そうですか」
扉を叩くような音が聞こえる。もうすぐ昼食の配膳の時間だ。
「それでは、始めますか」
「だな」
彼は、銃を構えてから扉の脇の壁に体を沿わせるようにして立った。
「……ブースト」
扉が開く。それと同時に、彼は一気に看守兵との距離を詰めた。そして銃口が顔に触れるように飛びかかり、ゼロ距離になったところで引き金を引いた。
狭い牢屋に銃声が響く。兵士は崩れるように倒れていった。
「……やったか」
男が看守兵の持ち物を漁ると、胸ポケットの中から魔法銃が出てきた。
「これか? ……おーい、聞いているか?」
銃を握ったまま突っ立ったままの彼を、男は回収した銃で突いた。
「はっ、はい!」
「……どうしたんだ、ぼけっとして」
「いえ、ただ……、本当に抵抗して来なかったな、と思って」
「まぁ、当然だろうよ」
そう言って、男は小瓶を彼の目の前でちらつかせた。
「毒薬だ。コイツが持っていた」
そして、男は看守の持っていた銃を彼に見せた。その用心金には、鍵が紐で括り付けられていた。
「……この鍵は?」
「アイツの妻の牢屋の鍵なんじゃねえの、全く。あんなとこに付けたら、何かにひっ絡まって発射される危険もあるだろうに。……それと、何かあった時のためにこの銃も借りたいんだが、いいか?」
「良いですが」
彼は、少し考えてから続けた。
「ただ、その銃は扱いが難しいので、気をつけてください」
「大丈夫だ、そういう銃には慣れている」
「なるほど。それなら弾の切り替えの説明は省きますが、良いですね」
「ああ」
男は、頷きながら答えた。
「では、一つだけ。その銃は弾の加速にドレインが使われいているので、魔力消費には気をつけて下さい」
「……マジか」
苦い顔をしながら、男は、その銃の持ち手の部分に打ち付けられた金色のプレートを見た。
「L-231 Aか、初めて聞く名前だな。……まあ良い、俺がここに閉じ込められていた間に時代は進んだのだろうよ」
そう言って、男は自嘲的に笑った。
「それじゃあ、賭けに勝ってこい」
それだけ言って、男は部屋から走り去っていった。
「賭けじゃないです! ……ってもう無駄か」
彼は、小さく呟いた。




