ヒキコモリ魔法使いは勇気がほしい:第1幕
――こちら雛。ターゲットを発見した。――
妙に格好をつけた雛の声が、携帯から響いた。
「おーけー。アタックを開始する」
ぼくらは今、お仕事まっ最中だった。
「・・・すいませーん、貴方もしかして不幸じゃないですか?え?宗教勧誘?ちがうちがう、僕はちゃんとした、あ、おーい・・・・まってー・・・かなしいよー・・・・」
これで何度目のアタックだろうか?僕はさっきからフラれ続けていた。100回はフラれた。このままだと、僕はコワレてしまう。夏の暑さでじゃなくて、精神的ダメージによって。
そもそも何で僕はこの暑い中、ダークスーツなんか着ているんだ?仕事の格好?冗談じゃない。今度からはクールビズを取り入れてアロハにしてほしい。あつい、あーつーいーよー。えーんえーん。
「大の大人が道端で泣くなんて情けないのです。・・・・ほら、アイスおいしいですよ」
人の通行を阻みながら泣いていると、雛が見かねてアイスを持って来てくれた。
「ふむ・・・・。これ、さっきまで雛がくわえてたよな」
「それがどうかしたのですか?」
「間接ちゅーだな」
「返してください」
とりあえず、華麗にスルーをしてアイスをくわえた。む・・・・いちご味。
「初めてのキスの味はイチゴでした」
「やめてください」
詩的な表現をしたが、却下されてしまった。残念。
それはそうと、さっきの願望を話してみよう。
「クールビズを我が社では取り入れたいと思うのだが・・・、どうだね?雛くん」
「特に必要がないと思います。汗水流して働けばいいのです」
あまりの言葉に僕は (∵)← 呆然とした表情、をしてしまう。最近分かったのだが、雛はS属性なんだと思う。僕がさっきから仕事に失敗しているのも、雛のSっ気によるものだと分析している。
はっきり言おう。僕らの仕事で一番重要なのは、運と勘だ。
今のところツンツンツンツンとしている雛の言うことを聞いても、仕事が来ないだろう。
かといって、言うことを聞かなければ、仕事は一向にやって来ない。
僕には、忍耐が必要。耐える事が最初の仕事なのだ。
「ちなみに、雛には優しさが必要」
「何か、言いましたか?」
にこやかに笑う雛。間接をバキボキならす。額の青筋が怖い。
さすがに怯えた僕は後ずさりをした。
しかし少々うっかり癖がある僕は、無駄にそのうっかりを発揮する。うっかり後ろの人にぶつかって、うっかりその人を押し倒してしまった。
反射的に、その人が地面にぶつからないように、カバーをする。
大地に背中を砕かれた。かなり情けない声で、僕はその人の無事を確認する。
「あの・・・大丈夫ですか?」
「はい・・その、おかげさまで」
とても小さな可愛らしい声だった。女の人らしい。納得する。それにしても身長が小さいのに・・・・。
・・・この大きさは・・・・F・・・かな?
とりあえず、一旦その事を頭から切り離し、僕は彼女に謝った。
「誠に申し訳ございません。私のこのような不注意で貴女に危害を加えてしまって・・・」
「あのあの、本を読みながら歩いてた私の方が悪いから、それに、怪我しないように助けてくれたし・・・」
だんだん声が小さくなり、顔があかくなる。
彼女は恥ずかしがりやなのだろう。何か・・・・いい。今まで僕が出会ってきた女性は変な人ばかりだったから、彼女がすごく良い子に見えた。
「その、ありがとうございましたっ!」
そう最後に大声で言うと、彼女はパンパンになったでかい紙袋6つをひょいっと持ち、足早に去っていった。
・・・・6つ!?でかい紙袋6つ!?やはり、僕は変な女性とご縁があるらしい。
驚愕している僕に、一部始終を見ていた雛は尻キックをした。
目は、さっきの彼女を追っている。
「ターゲット」
「は?」
「次のターゲットはあの娘なのです」
「・・・・なんだって?」
「あの娘、魔法使いの匂いがする」
びっくりしている僕に、追い討ちをかける驚愕の事実。
とどめに雛は言った。
「何カップ?」
「たぶん・・・F?って、何をいわせるのさっ!」
「・・・・・変態」
冷ややかな目が突き刺さる。
僕に大ダメージ