第96話 ~偽世界樹~
『この辺りはいかがでしょうか?避難をしたという村々のちょうど中心部。敵は海岸線から手を出しておりますから、ここに到達するまでもう少し時間がかかると思われます。その間に準備してしまいましょう。』
”五行の精”は、結構乗り気のようだ。
「だが、どうやって行くのじゃ?あそこまで行こうとすれば、必ず見つかるぞ。」
ダルガの心配をよそに、”五行の精”は答える。
『我らの力を軽んじてはおりませんか?土の妖精がおります。地下を移動するのは容易いこと。』
ドヤ顔。とまではいかないが、余裕の態度を見せる。
「じゃ、すぐに行こうよ!!」
「アル陛下。お待ちください。総大将がここを離れるなど言語道断であります。」
「シグナルぅ。固い事言うなよぉ。地下を行って帰ってくるだけ。もしガルーダに見つかっても、逃げるから。」
シグナルの袖を引っ張りながら、お願いをする。
「本当に約束ができるんでしょうね?魔界でも暴走気味ですが、人間界でも相当、暴走してらっしゃると窺っておりますよ?本当にガルーダに会っても戦わない約束はできますか?」
なんか。2回も念を押された。僕は子どもかっ!!まぁ心当たりもたくさんあるけども。。。
しかも実際ガルーダに会ったら。。。分かんないじゃんよ。
臨機応変って言葉があるくらいなんだからさ。
だが、約束をしなければ先には進めない。
「うん。。。大丈夫だから。。。」
「ふて腐れ気味に聞こえますがね。しかも言葉を濁してらっしゃる。ちゃんと戦わないと仰って下さい!」
なんか。。なんだかな。。。先生に叱られてる気分なんですけどぉ。
「はい。暴走しません。ガルーダに会っても戦いません。なので、”五行の精”に付いて行ってもいいですか?」
「そこまで仰るのでしたら、仕方ありません。制限時間は10分です。よろしいですね?」
”そこまで仰るの”だとぉ?お前が言わせたんだろうが!!!と心でツッコミを入れたが、口には出さない。
万が一にでも口に出せば、さらに面倒くさいことになるだろうから。
僕は大人なんでね!!と子供染みたことを思っていた。
「ふふっ。僕がいなくても、魔界にはちゃんとアルを見てくれる人がいて安心したよ。シグナル君。ありがとう。」
何故かジョージが嬉しそうにシグナルにお礼を言っている。
「私が命を懸けてお仕えしているのです。何かあっては困ります。陛下には自覚を持っていただくよう、今後もお仕えしてまいります。」
もう。。。お仕えしてないよ。。。そういうの指導係っていうんだよぉ。
心で涙ぐむ。
「じゃあさ。時間が10分しかないから、チャチャッと行って、パパッと造って、さっさと帰ってこよう!」
僕は”五行の精”を促す。
これ以上いては、針の筵だ。心が持たない。
『では、5分で戻ります。』
「え?」
僕の声が届くかどうか。。。一瞬で連れ去られた。
いやいやいや。。。10分と言われて、なにゆえ5分という時間が出て来たんだろう。。。
僕は連れ去られる刹那に考えていた。
”五行の精”の地下通路は想像以上のクオリティ。
穴が開き、一瞬うねったかと思うと、目的地までの道が掘られていく。
同時進行で、妖精の移動魔法がかかり、1分とかからず、目的地に到着した。
『この辺りですね。どのような樹がお好みですか?』
「えっと。。。。樹の種類とかは。。。考えてないけど。。。」
『では、私たちにお任せいただいてよろしいですか?』
「うん。よろしくお願いします。」
”五行の精”は胸の前で手を組み、祈りのポーズ。
瞬時にドーム型の多重結界が張られ、内部の植物が種へと戻る。
そして、木の精が両手を広げると、芝が生え、その中心部に大きく横に枝を張った巨木が生えた。
今の”世界樹”とはまた違った雰囲気ではあるが、知らない人が見れば、それっぽい。
『では、帰りましょう。』
「え?」
またも、僕の声をかき消すように移動が始まる。
『ただいま戻りました。』
「・・・・・・!!!!!」
司令室がどよめく。
そりゃそうだろうよ。正味3分強で戻ってきたんだからさ。
「上手くいったのかい?」
『当然でございます。』
ジョージの質問に、”五行の精”が答える。
『”それっぽく”というご指示でしたので、そのように。また、多重結界はガルーダの渾身の一撃で何とか壊れるようにしてあります。そして、結界内部は外から薄っすらと見えるようにしました。ガルーダが食いつかねば罠になりませんので。』
あの一瞬で、至れり尽くせりの物ができあがっていたのか。。。。
目の前で見ていたが、よく分からなかったな。。。
「ジョージ。ちゃんと世界樹っぽいよ。かなりの出来だと思う。」
一応言っておく。
「では、魔王軍は、村の上空に待機している飛行艇たちを潰すとしましょうか。。。そうすれば、海岸線からの侵攻に力を入れるでしょうから。」
シグナルも飛空隊に攻撃開始の合図を送る。
「ちょっ。シグナル待って。それじゃあ、赤の国の兵士たちが。。。」
「アル陛下。心得ております。飛行艇はできる限り無傷の状態で捕獲をする予定です。」
えーと?人間を殺さないでって言ったつもりが、まさか、飛行艇まで奪うつもりとは。。。。
まぁいいか。犠牲が少ないに越したことは無い。
「人間の”科学力”というのは、中々に興味深い。あの飛行艇団に技術者も乗っていると助かるんだが。。。”爆弾”というのも使用前の物が欲しいな。。。」
一人ブツブツとシグナルが言っているが、放っておこう。
シグナルはどこを目指すつもりなんだろうか。。。
海岸線侵攻から、飛行艇への攻撃開始命令まで時間があったので、偵察部隊もそれぞれの場所に到着しており、手の空いたドラゴンライダーが護衛に付いていた。
初回のガルーダ攻撃の時のような犠牲が起きる心配も少なくなった。
偵察隊から送られるリアルタイムの画像を見る。
飛空隊が、それぞれに攻撃を開始する。
飛行艇は、突如として現れたモンスターに、ガトリングガンで応戦する。
一瞬、見たこともない銃火器に、銃弾を浴びた者もいたが、そこはモンスター。その程度では命は落とさない。
そして、そのガトリングガンの理屈さえ知ってしまえば、精鋭部隊の名の通り、翻弄されることは無くなった。
飛行艇へ直接乗り込み、肉弾戦を行う班があれば、
飛行艇の動力を止める班もある。
中には、魔法に長けているのか、飛行艇丸々、魔力の網で捕獲する班もあった。
交戦とは呼べないほどの一方的で、圧倒的な力を持って、魔王軍は戦闘を終了した。
「アル陛下。各班任務完了の報告が入りました。残るは、ガルーダとそれに随行するガーゴイル1班だけです。」
司令室はシグナルの言葉を聞き、溜息が漏れる。
安堵のような。驚愕するような。様々な感情が含まれていた。
「残すはガルーダだけだね。」と僕。
「海岸線の地上部隊は捨て置けばよいな。」とダルガ。
「だが、皇帝の乗る飛行艇がある。」とジョージ。
「そうか。。。忘れてた。妖魔もいるんだよね?そっちもなんとかしないと。」
「問題ありません。戦闘力に長けているのはガルーダのみ。こちらは悪魔族も連れてきておりますので、妖魔の魔術など取るに足りません。赤子の手をひねるようなものです。」
妖魔なんて。と、鼻で笑うような、ちょっとバカにしたような、そんな言い方だった。
「ゼルダ。そちらはどうだ?」
「はい。先ほど”五行の精”の妖精たちが掘りました穴で、待機完了しております。」
いつの間に。。。
「でもさ、あの道だと、偽世界樹のテリトリー内だよ?結界に守られてて、攻撃に移れるの?」
素朴な疑問を投げかける。
『味方は結界を外からも内からも、素通りできるようにしてあります。ドラゴンライダー達にもその旨、連絡してございますので、ご安心下さい。』
”五行の精”が答える。
「ん~と?・・・どういう作戦?」
『はい。ガルーダは、世界樹を目の前にして、なんとしてでも近付きたいでしょう。それも結界は”多重”で、しかも壊れない。きっと本物と錯覚を起こすはずです。ならばと、渾身の一撃を放ってでも中にと考えると思われます。その力を感知し、結界に穴が開きます。そして、内部にはドラゴンライダー。ガルーダは殆どの力を使い果たしているはずですから、勝利も容易いかと。しかし、永きに渡り生きてきた者。何か我々の知らない技などを有している可能性もあります。その場合には、結界ごと、ガルーダを閉じこめます。という作戦を立案したところ、ドラゴンライダー達は快く、了承してくださいました。』
”五行の精”は細かいところまで、良く気がつく。
一を聞いて十を知る。。。そんな言葉がぴったりだ。
仲間で良かった~。敵であったら、なんと恐ろしいことか。
つーか。僕の知らないところで、打ち合わせまで終わっているとは。。。
抜け目ない。
僕の存在価値っていったい。。。いなくてもそれなりに何とかなっていきそうだ。
そして、僕たちの思惑通り、殆どの飛行艇団を失った「赤の国」軍は、残りの地上部隊を海岸線へ投入する。
もう、形振り構ってはいられないようだ。
銃火器・重火器。。。種類など問わず、全投入してくる。
火炎放射器・ロケットランチャー・バズーカに大砲などなど。。。もちろんナパーム弾まで。
よくもそんなに持ってきたなと思う品揃え。
海岸線は、一気に5キロほど内陸まで焼き尽くされた。
『いよいよですね。もう一発、あの”爆弾”とやらを打ち込んでいただけると、結界に当たります。』
”五行の精”はなんだか愉しそうな雰囲気まで出し始めていた。
司令室の中は、食い入るように画面を注視する者で、熱気を帯びていた。
ドゴオォォォォォオォォン!!!!
凄まじい爆音が鳴り響いた。
炎の渦が、周辺を飲み込む。
左端に当たる部分が、不自然に半円球の炎となっている。
「やった!!」
「結界に炎が当たっているぞ!!」
「あれほど不自然であれば、ガルーダも気付くな。」
僕たちは、予定通りに進む光景に興奮すらしているのだった。
皇帝艇。
「おい。妖魔!なぜ、他の飛行艇と連絡が途絶えたのだ?まさか敵にやられてはおるまいな!!!」
若き皇帝の威圧の声に、妖魔が怯む。
「まさか。そんなことはありますまい。深いジャングルの中。通信状態が悪いのでしょう。ですが、念のため、海岸線からの侵攻を強めましょう。」
皇帝の顔色を窺いながら、作戦を提言する。
ガルーダからの「海岸線を燃やせ」との指示。
妖魔は自分の焦りを皇帝に見透かされまいと笑顔を作る。
(何をしておるんじゃ。まだ始まったばかりではないか。)
妖魔には、状況が分かっていた。
ガーゴイル隊が壊滅状態。そして飛行艇団もことごとく敵の手に落ちたと。。。
(ガルーダが”世界樹”を見つけるのが先か。我らが負けるのが先か。)
窓から海岸線に向けて降下する部隊を眺めながら、今後の身の振り方まで考え始める妖魔であった。
「”世界樹”はどこだ!!」
ガルーダは焦り始めていた。
自分の配下としたガーゴイルも”飛空隊”のエリート。
それがまさかこれほど早く、ドラゴンライダーに沈められるとは。
予想はしていたが、もう少し持ち堪えるものと計算していた。
上空から、俯瞰する。
魔王軍は人間に手出しをしようとしていないようだ。
海岸線に至っては、モンスターさえ寄り付かない。
(人間の兵器に対応できないのか。。。)
ガルーダは間違った答えを出す。
(妖魔!さっさと海岸線から全てを燃やしてこい!)
そう妖魔に指示をし、自分はガーゴイルの前に立つ。
「お前たちに力を授けよう!」
ニヤリと笑い、自分の羽を抜く。
そして。。。。
11匹のガーゴイルにその羽根を突き刺していく。
薄い青みがかったガーゴイルの身体は筋肉が盛り上がり、黒っぽく群青色へと変化していく。
そして、その青い瞳は、赤へと変化し、ルビーのように光りを放つ。
黒い闇の衣をまとったかのような群青色の身体に、赤いルビー色の目がより一層怪しげな雰囲気を出していた。
禁忌とされている黒魔術の力で、ガーゴイルたちは桁外れの戦闘力の肉体を有することとなった。
だがそれは片道切符。肉体の限界を超える力を使うのだ。死へのカウントダウンが始まった。
決して戻ることのできない戦闘マシーンへと変えられたのだった。
「ふっふっふっふ。これで少しはマシになっただろう。」
ドゴオォォォォォオォォン!!!!
凄まじい爆音が鳴り響いた。
炎の渦が、周辺を飲み込んだ。
右手前方が、不自然に半円球の炎となっている。
「見つけたぞ!!!!」
ガルーダは満足気な笑みを浮かべ、ガーゴイルと共に、世界樹へと急ぐのであった。
次回 ガルーダ討伐戦




