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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=戦争編=
96/322

第95話  ~海岸線の侵攻~


 赤の国、飛行艇団。

 一際立派な飛行艇が一隻。


「ガルーダはどうした?」

 威風堂々と尋ねるのは赤の国の若き皇帝ケイツ。

 尋ねられた老人は、人間ではないようだ。


「ふおっふおっふおっ。皇帝陛下。ガルーダは一足先に緑の国へ入りました。不要な土地を焼き払い、赤の国がいかに強いかを示しております。」

「そうか。地上からの侵攻は?」


「ガルーダが焼き払えば道ができます。それからでも遅くはありませんぞ?」

「そうか。では報告を待つとしよう。」

 皇帝は玉座に身体を沈める。


(ふおっふおっふお。馬鹿な皇帝め。。。元帥でありながら前皇帝を弑逆してくれるとはな。誑かしがいのあるヤツよ。)

 妖魔の老人は心の中で嘲笑った。



---時は遡ること、アルが魔王就任演説を行った日。。。


 ガルーダはその演説を王城の窓から覗いていた。

(馬鹿か。。。平和主義など魔界には不要。力こそが全てだ。)


 その場を音もなく飛び立つ。


 だがしかし、その奇妙なスライムに監視を付ける。

 自分が付き従うべき魔王ではないが、気になる何かを持っている。

 そう本能が訴える。


 その監視が役に立った。

 まさか”聖”の力を持ちながら魔王になる者がいようとは。


 さらには”世界樹の葉”まで持っていようとは。。。

「あいつは”世界樹”と繋がっている。」


 そう確信した。

 監視を強めたが、どうしても全ての行動を網羅できるわけでは無かった。

 しかし、緑の国の王子と強い繋がりがあることが分かった。

 頻繁に出入りも繰り返している。


「間違いない。あの国に”世界樹”がある。」

 確信に満ちたその顔には歪むような笑顔が浮かんでいた。



「”世界樹”はその姿を現すことは無い。ならば姿を現してもらうまでだ。」

 緑の国を焼き払ってしまえば簡単だ。

 だが、一人では難しい。


 目標も方法も決まった。ならばあとは最善の手段を探すのみ。


 ガルーダは緑の国についての調べ、そして人間界の国々についても調べを入れる。


「赤の国。。。武装国家か。使えるな。」

 ニヤリと笑い、妖魔の元を訪れる。


「久しいな。」

「ガルーダか。お前がワシの元へくるとは珍しい。面白い話が聞けるのであろうな。」

「もちろんだ。」


 ガルーダと妖魔は古くからの友人であった。

 友人と呼ぶのはおかしいかもしれない。

 常に利害関係が一致した時のみ、行動を共にする関係だ。


 その行動というのは、おおかた悪行と呼ぶべきものだ。

 二人は魔王軍の中枢にいたころから、力を誇示してきた。


 だが、ダルガが魔王になると、方向性が一変する。


 昔から”弱肉強食”。”力こそが全て”。”強いものが正義”。

 それが魔界であった。

 しかし、ダルガは無用な戦いを禁じた。無闇な人間界への手出しさえも。


 持て余す力を発散することもできず、軍として出動すれば、遣り過ぎだと責められる。

 魔王に忠誠を誓わない二人に、ダルガの魔王軍は窮屈な場所となった。


 そして、二人は魔王軍を去る。

 魔王軍と衝突しないように知恵を巡らし、力を使う。

 そのあざとい知恵を使うのは、妖魔にうってつけだった。

 妖魔の知恵を最大限に活かし、力を振るうのはガルーダにうってつけ。

 いつしか、二人は悪行を見つけると共闘するために会うのだった。


「”世界樹”がある大陸を見つけた。」

「ほう。」

 妖魔の顔が気色ばむ。

「また、いつものように、お前の下らぬ妄想であろう。」


「今度は違うぞ。」

 そして、スライムが魔王になったことから、この結論に至るまでを説明した。

「ふむ。。。そうか。。。それならば可能性はあるな。」

 妖魔の顔が緩む。


「そうだろう?それでだ。人間界の赤の国。あそこは武装国家だが、それを発揮する紛争が少ない。軍部には、そのことに不満を持つ者もいるようだ。」

「我らと同じ”力こそが正義”と考える国か。。。面白い。。。赤の国を使って戦争をしかけ、それに乗じて我らは”世界樹”を手に入れる。人の心を操るのはワシの得意とするところ。赤の国をその気にさせようではないか。」


「さすがだ。頼りになる。では俺は、自分の手下を集めに行こう。お互い、忙しくなるな。」

「ふむ。好きなことで忙しいのは嬉しい事じゃて。」

 二人はニヤリとした笑顔で頷き合った。


 久しぶりの悪事に二人の心は高鳴った。



 妖魔は赤の国へ近付く。

 惑わしの術も使いつつ、元帥にまで接触することに成功した。


 若き元帥は、武装国家らしく武力が秀でており、その力で元帥まで上り詰めていた。

 妖魔の魔術に耐性は無かった。


 その上、皇帝への不満もある。自分の武力を行使できる場が少ないことにも不満があった。

 騙し惑わし焚き付けるには、あまりにも良い条件が揃っていた。

 その未熟な魂は、妖魔の術にすぐに落ちた。



 若き元帥はそのカリスマ性で、軍では信頼も人気も高かった。

 術に落ちた元帥の言葉を疑う者などいない。


 妖魔は皇帝を拐かし、その間に戦争をしかける程度に考えていたが、心が闇に染まった元帥は、皇帝を手にかけ、その地位を奪った。


「ふおっふおっふお。計算外じゃ。だが、我らの考え以上の良き結果。」

 妖魔は想定外の幸運に舌なめずりをした。




 ガルーダは魔王軍へと向かう。

 同族のガーゴイルを手に入れたい。


 魔王軍飛空隊。

 それは、ガーゴイルはじめ、鳥系モンスターなど飛行能力・攻撃力ともに高く、実戦経験が多くある者だけが所属できるエリート部隊。


 宿舎はそれぞれ生態が違うため、種族毎に宿舎が違う。


 ガルーダは迷い無く、ガーゴイルの宿舎へと入る。

「誰だっ!!」

 ガーゴイルが叫ぶ。


 ガルーダは親しげに笑う。

「たまには同胞と話でもしたくてな。」

「ガルーダ。。さま?」

 ガーゴイル達は警戒心を解こうとはしない。


「ダルガとは馬が合わず軍を去ったが、魔王が交代したらしいな。面白いスライムであった。俺ももう一度、一から出直そうかと思ってな。」

 ガーゴイルの警戒は続く。


「まぁそうは言ってもな。実力は昔とは変わらんが、コネでも無けりゃ、入隊試験すら受けられないだろう?何せ、前科がありすぎるからな。だから、同胞のよしみで、口利きしてもらおうかとな。虫がいい話だろうが、これで話だけでも聞いてもらえないか?」

 そうして、腰に下げた瓶を掲げる。


「そっそれは!!!」

 中には蝶が浮かび、琥珀色した液体が入っている。

「お前達、好きだろう?良い”バードル”があったんで、持ってきたんだ。」


 ”バードル”とは魔界の酒であった。

 それは入手はもとより、それを見ることすら困難な酒。

 魔界でも珍しい”クロウフライ”という蝶のような虫から作られる。


 1匹でも見つけるのが難しいのだが、それを酒にするには1匹で1滴。。。

 その1滴ですら口にすれば、この世のものとは思えないほどの美酒を味わえる。

 それが、ガルーダの持っている瓶はワイン瓶。。。その量の多さにガーゴイル達は色めきだつ。


「ほっ本物ですか?」

「当たり前だろ?俺を誰だと思ってる?」

 その言葉と、それを飲みたいという欲求が勝り、最早疑う者はいなかった。

 ガルーダの今までの軍での功績や、やめてからの裏家業、そういった事を踏まえれば、その酒を手に入れることも可能であろう。


 ガーゴイル達はガルーダを招き入れてしまった。


 ガルーダとガーゴイルは杯を上げる。


「本物だ!!!」

「なんて美味いんだ!!」

「これほどとは。。。」

 ガーゴイル達は口々に驚嘆の声を上げた。


「喜んでもらえて良かったよ。」

 ガルーダは満面の笑みとなった。


 宴は夜が更けるまで続き、ガーゴイル達は美酒に酔いしれ眠りにつく。


「ふっふっふ。良い部下ができた。」

 ガルーダは長い足を組み、椅子にもたれる。

 明かりの蝋燭に向けてグラスを傾け、バードルの琥珀色を輝かせる。


 その目には美酒の色が移り込み、まるで金色のように見えた。



 翌日、ガーゴイル達が目を覚ます。

「ガルーダ様!!」

 ガルーダを崇拝するかのような声。

 最早、そこには飛空隊のエリート達はいなかった。。。




 ガルーダと妖魔が合流する。

「ガルーダよ。”バードル”は役に立ったか?」

「あぁ。我が血の入った”バードル”は良い働きをしてくれた。飛空隊のガーゴイル達3分の2は俺の忠実なる僕となったよ。」


「全員ではないのか?」

「あぁ。緊急任務とやらで、招集があったらしい。残念だが。。。100匹越えだ。十分だろう。。。そっちはどうだ?」


「こちらも想像以上じゃ。惑わした元帥が皇帝を弑逆し、皇帝の座を奪った。戦争も乗り気だ。早くも飛行艇団を整えておる。」

「それはそれは。好戦的な皇帝様か。。。大歓迎だ!!」


 二人はお互いを見つめ、嫌らしい笑みを浮かべあった。




 そして現在、二人の目の前には、緑生い茂る大陸が見えている。


「ふふっ。魔王軍まで出動か。ドラゴンライダーとはな。威勢が良いことだ。ならば挨拶代わりの、開戦の花火をやろうか。」

 そう言って、港町に広角攻撃魔法を放つ。


 ドオォォォオォンン!!!!

 凄まじい光と轟音と共に、港町は消し飛んだ。


「久しぶりで、少々威力が強かったか。。。だがまぁ良しとしよう。どうせ大陸全てが焼き尽くされるのだからな。」

 ガルーダは焼けた街を一瞥する。


「良いか!ガーゴイル達よ!我らの力を示すのだ!」

『おぉ!!!!』

 ガーゴイル達は唸り、それぞれの目的地へと向かっていく。


「ふっふっふ。」怪しく笑いながら、ガルーダも次なる目的地へと羽ばたくのであった。



 その頃、飛行船内では。。。


「港町の火が落ち着いたら、兵を降ろしましょう。他の村々にも同様に。」

 妖魔が進言する。

「だが、焼き尽くせば、我らが領地としては。。。」

 皇帝は難色を示す。


「皇帝陛下、暑い国です。すぐにでも緑は芽吹きます。それに、こういった国々では”焼き畑”という農法がございまして。灰になった植物が養分となるのです。肥沃な大地が生まれます。領土としては、申し分ないのでは?」

 妖魔がそれらしく大地を焼き払う理由を述べる。


「流石、妖魔殿だ。知識が深い。では、兵を動かそう。」

 皇帝は軍への命を発した。


 飛行船は各々、ガーゴイルの後を追う様に出発していった。---




 僕はマロウとの会話を終了し、戦況を見る。


「アル陛下。打ち合わせは終了しましたか?」

「あぁ。ガルーダの目的が分かった。探し物があるみたいだ。見つかるまで、焼き払うつもりだと思う。」

 僕の言葉にシグナルは驚く様子もない。


「やはり。。。港町に赤の国の兵士が降り立ちました。様子を見るためにあえて泳がせましたが、火炎放射器により、森を焼き始めております。」

 シグナルが、港町の画像を指し示す。


「これほどの事をされては困るな。そろそろ、兵を動かそうか。。。」

 ジョージの言葉に、シグナルが返す。

「ジョージ王子。まだお待ちを。海岸線は申し訳ありませんが、諦めていただきたい。動きや戦力を見極めたいですから。他に別れた飛行艇には、ドラゴンライダーとは別に、我が軍の”飛空隊”がぴったりと張り付いております。精鋭部隊ですので、地上に人間の敵兵を降ろすことはさせません。」


 海岸線には、飛行艇から、爆弾も投下される。小さいが焼夷弾。火の手が上がる。


「焼夷弾にしては火の上りが激しい。あれは新型の”ナパーム弾”というやつか!」

 高官の一人が画面を見て叫ぶ。


 朝のマズメ時であるのに、その光景は夕焼けを彷彿とさせた。


「くっっっ!!!」

 ジョージの拳が強く握られている。

「ジョージ。。。”五行の精”を呼べば、直ると思うよ?」

 僕はジョージの拳に寄り添った。


 ジョージは大きく息を吸って整え、「そうだね。」と小さく言った。


 慰めに等ならないだろう。。自分の国が焼かれているんだ。

 例え後から修復したとしても、目の前の光景を無心で見ることなどできるはずも無い。。。

 僕にできるのは、ジョージの傍にいる事だけだった。



 赤の国からの、海岸線侵攻はさらに激しさを増す。

 魔法とは違い、科学力が発展した国。緑の国には無い兵器が次々と使用されていく。

 

 司令室。緑の国の高官達は、自国の領土が焼失していく様を固唾をのんで見る事しかできなかった。



「アル陛下。ガーゴイルとの交戦は良好。現在6割の敵ガルーダ部隊を仕留めました。ガーゴイル隊の後を追ってきた飛行艇は、上空で待機したままです。兵を降ろす動きがあれば、飛空隊が対処します。あとは神出鬼没のガルーダの動きを掴むだけです。」


「シグナル。ガルーダの後を追うばかりでは間に合わない。どうにか先手を打てないものだろうか。。。」

 僕は何とか早く収めたい気持ちだった。


「アル。それは難しいかもしれぬな。あやつ、転移術を使って移動しておる。下調べをしておったと見えるな。」

 ダルガが静かに言う。


「なら、罠を仕掛けたらどうだ?探し物してるんだろ?それっぽく演出できないのか?」

 ジョージの叔父、ダヴィットが聞いてきた。


『それだ!!!』

 僕たちは声を揃えて叫んでしまった。


「ドーム型の結界を張ればいいんじゃない?」と僕。

「魔法だけでなく物理攻撃も防ぐよう多重結界が必要だな。」とジョージ。

「ならば、見た目もいるだろう。拓けた場所の1本木は、無いのか?」とダルガ。


『それならば、我々の出番ですね!!』 

 後ろから、聞き慣れたハモッた声が聞こえる。


「”五行の精”じゃん!!!どうしたの?」

『はい。申しつけられました仕事は終わりましたので、アル様の元に。』


「え?神殿に帰らなかったの?」

『我らはアル様の為に存在するのです。常にご一緒して、その御身の為に生きることが我らの使命。』

 またもや、中々に、わけのわからない事を言い出した。


「え~と。別にそこまでしなくても大丈夫だけどね。」

『・・・・・・。』

「でも、今回は助かるよ。ガルーダを騙したい。人工的に”世界樹”を演出できるかな?」

 ジョージが優しく笑いかける。


『ガルーダごときにですか?』

「ええやん!アルがやりたいっちゅうんやから、手伝ってくれても。」

 いつの間にかホセが来ていた。


『はい。御心のままに。』

 ホセに対しても会話が成立した。

 徐々に、順応してくれているのだろうか。助かる。


『では、どの辺りに造りましょうか?』

 僕たちは”五行の精”も仲間に交え、地図を囲む。


「おい。ジョージ。この妖精たちは?もしかして。。。」

 ひそひそと、ダヴィットが聞いている。

「あぁ。白の国にいた”五行の精”という妖精だよ。アルに従っている。」


「魔王が神を従えるのか。。。いや、それ以前にスライムがなぁ。。。」

 ダヴィットは初めて見る”五行の精”に驚きを隠せない。


 僕と妖精たちを交互に見て溜息をつくのだった。。。


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