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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=戦争編=
95/322

第94話  ~ガルーダの目的~


 僕は戦争の号令をかけたことに押し潰されるかと思うほどのプレッシャーを感じていた。

 この僕の一言で、どれだけの人間とモンスター達が犠牲になるのだろう。。。

 そして、魔王軍が負ければ、確実に緑の国が無くなり、魔界も窮地に追い込まれるのだ。。。

 戦争なんてしたこともないのに、負けることが許されない。。。


 僕は総司令官用の水晶の前に立ち尽くしていた。


「アル。大丈夫?魔王軍のみんなには、敵にも自分たちにも、できる限り被害を出さないように言ってあるから。」

「うん。ありがとう。ジル。。。」

 

「ガルーダの姿が見えないのが不穏だな。。。」

 ジョージが全ての映像を食い入るようにその姿を探す。


「ジョージ様!!地点35の村の索敵ラインが発動しました!!」

 リリィが右端のキャンバスを指さす。


 だが、敵の姿が見えない。。。


「どこだ?どこなんだ?」

 全員がその映像を見つめる。


「アル陛下。ガルーダを発見しました。飛行船団にはおりません。」

「どういうこと?」


「そこの村の映像には映らんよ。ガルーダが魔法を使っておるでな。」

 ウォルゼスが目を瞑りながら話す。


「ドラゴンライダーが追っておりますので、ご安心を。」

 シグナルの報告が僕には遠くに聞こえる。


 村の静止映像が突然揺れた。


「・・・・・!!!!」

「戦闘が開始された模様です。」

 シグナルが冷静に報告してきた。


 暫くすると、突然静止していた画像が動き始めた。

「偵察部隊が合流しました。」

 シグナルの報告と共に、音声も入り始める。


 ドラゴンライダーとガーゴイルが闘いを始めている。

 だが、今のところ、ドラゴンライダーが完全に勝っている。


「はあ。大丈夫そうなのかな。。。」

 僕は少し落ち着きを取り戻し、前のめりになっていた身体を座り直す。

「アル陛下。ガルーダとまだ手合わせしておりませんので、油断は禁物です。」

 シグナルに注意を受ける。


「あ。うん。ごめん。」

 気を引き締め直す。


 圧倒的な強さでドラゴンライダー達はガーゴイルを叩きのめしていく。

 最早、戦えるガーゴイルは2匹だ。

 だが、ガーゴイルの数が足りない。


「他のガーゴイルはどこだろう。。。」

 僕が呟くと同時だった。

『散開!!!!』

 画面の向こうでゼルダの声がした。


 刹那、光と轟音が鳴り響き、画面は消えた。


「何が起こったんだ!!」

 司令室は騒然となる。


「ゼルダ!!!聞こえるか???ゼルダ!!!」

 ゼルダとの通信を行っていたシグナルの声が司令室にこだまする。


 僕は総司令官用の水晶に近付く。

「アル。それを使ってはいけないよ?他の者達も聞いているからね。士気を下げかねない。」

 ジョージに止められる。


「シグナル。ゼルダは?ドラゴンライダーたちは?」

「陛下。。。通信状態が悪く。。。返答が。。。」


「アル?あの通信用水晶は小さいし、試験的なものだから。。。激しい戦闘で、耳から外れただけかもしれないわ。」

 リリィが僕を見る。

「あの人の通信玉は記録してあるから、魔法全開にしよう。壊れたかどうかも分かるよ。」

 マリィが、自分の水晶を取り出し、魔力を注ぎ込み始めた。


「マリィ、あなたそんな事していたの?」

「当り前じゃん!司令官と繋がる隊長クラスの通信玉は記録しといたよ!!万が一の保険が、いきなり役に立つとはね~。」

 マリィは緊迫した状況も関係ないのか、鼻歌交じりに魔力注入を続ける。


「ザザ・・・・くっ。。。すい・しょ・・・は・・こだ・・・ザザッ。」

「お姉ちゃん!!繋がったよ!!」

 雑音交じりで聞き取れないが、確かに繋がり、生存者がいるようだ。


「ゼルダ!!ゼルダかっ???応答してくれ!!!」

 シグナルがマリィ水晶に向かって叫ぶ。


「ザザ・・・・これか?・・・ザザッ。」

 しばらく雑音が続く。


「あぁ。参ったな。。。ヒビが入ってるな。。。」

 その声にシグナルに笑顔が戻る。

「ゼルダ。無事か?」


「あ。シグナル閣下。申し訳ありません。水晶を落としてしまいまして。。。」

「状況を説明しろ。」


「はい。ガルーダを追い、ガーゴイルとの交戦状態に入りました。。。当然ながら優勢でしたが、ガルーダが姿を消したので、気を付けてはいたんですが。。。まさか、ガーゴイルごと消し去ろうとするとは思わず。。。対処が遅れました。。。敵ガーゴイルは全滅。ドラゴンライダー部隊は命を落とした者はおりませんが、偵察兵が見当たりません。あの角度だと多分もろに攻撃を喰らって消滅してますね。」


「その言い方だと、隊の中に、重傷者がいるな?正確に報告しろ!」

「相変わらず細かいな。。。まぁ、一人がさっきまで危なかったのは事実ですが、ジル様からいただいた”世界樹の雫”でなんとか。。。そいつを含め、深手を負った3名は離脱させます。ドラゴン達はみんな大丈夫ですから、ライダーさえ補充できれば、穴埋めできます。」


「分かった。ガルーダはどうした?」

「もうここに気配はありません。」


「では、一旦帰還しろ。」

「はい。」

 通信が終わった。



「まさか、いきなり偵察兵に犠牲が出るとは。。。」

「アル。戦争なんだ。犠牲はやむを得ない。」

 ジョージが僕の背中に手を添える。



「地点26の村、索敵ライン発動です!」

 また、画面が映る。


 だが、今度はガーゴイルの姿が見えた。

 

「ドラゴンライダーが向かいます。」


「地点14の村、索敵ライン発動です!」

「地点03も発動しました!」


「どうなってるんだ?」

 ジョージが考え込む。


「地点19発動!」

「地点03、画面消失です!」


 次々と目まぐるしく状況が変化する。

「面倒だな。。。ドラゴンライダー隊だけでは、網羅できなくなるぞ。」

 シグナルは独り言をつぶやく。


「大丈夫なの?」

 シグナルを見る。

「申し訳ありません。アル陛下。。。敵ガーゴイルは100匹あまり。ゼルダと交戦したガーゴイルが13匹と確認できております。向こうも班を分けているとしても、ドラゴンライダー隊は11班ありますので、なんとか対処できるとは思いますが。。。あまり細々と別れてしまうと、ガルーダに当たった班が壊滅する可能性があり、あまり分班はしたくありませんので。。。後手に回る形になっていますが、しばらく様子見を。」


「ジョージ様。。。画面消失していない村から、火の手が上がってます。」

 リリィが不思議そうに報告する。


 リリィが指さす先を皆が凝視する。

 画面の奥に小さく火の手が上がっていた。


「何故焼き払うのだろう。。。無人のはずだ。」

「えぇ。私はずっとガーゴイルの動きを見ていたのですが、村に興味は示していなかったのです。それに、あの村に行ったことがあるのですが、火の手の上がる辺りは、森の入口ではないかと。。。」

「何が目的なんだ?」

 ジョージの言葉に、司令室の皆が考え込む。


「あっ!!地点19が通信途絶えました。」

 リリィが声を上げる。


「多分、通信が途絶えたところにガルーダがいるんだ。順番に村を消滅させていくつもりなんじゃないの?」

「そうだな。。。アルの言う通りかもしれないが、目的が分からない。力を誇示するのであれば、無人の村に手を出す意味がない。それに、向こうは僕たちが見ていることを知らないはずだから。」


 それもそうだ。誰も見てもいないのに、無人の村を攻撃しても、力を誇示できるはずもない。


≪・・ル?・・・・アル?聞こえぬのか?≫

 誰かに呼ばれてる気がする。。。

 キョロキョロと辺りを見回すが、僕に向けられた視線はない。


「どうした?アル。」

 ジョージが挙動不審な僕に声をかける。

「ん?誰かが僕を呼んでる気がして。。。」

「誰も声をかけていないと思うが。。。」

 ジョージも辺りを見る。


≪俺だ!!!聞こえないのか???魔王はポンコツかよ!!≫

 罵られた。。。だが、声に聞き覚えがある。


「マロウさん?」

 僕の声にジョージとジルがこちらを見る。

≪さっきからずっと呼び掛けてんのに無視しやがって。。。≫

 あぁ。怒って、若かりし頃のマロウさんが出ちゃってる。


「マロウよ。落ち着いてくれないか。。。話があるのだろう?アルだけでなく、ジルとジョージとワシも一緒ではダメか?」

 ジルの影に入っていた、ダルガが出てくる。


「シグナル。という訳で、そのメンバーで打ち合わせするからちょっと待ってて。」

「かしこまりました。」



 そして、マロウ・僕・ジル・ジョージ・ダルガの5人で脳内会議を始める。


(おい!アル!お前何をおっぱじめてるんだよ?)

 ダルガの口が悪い。

(何ってさ。僕もよく分かんないんだけど、何故か、赤の国に攻め込まれてるんだよ。)


(はぁ?戦争か?)

(うん。。。)


(なんで、人間界の戦争に魔王が首を突っ込むんだ?お前、平和主義を唱えておきながら、真逆な事してるぞ!!)

(しょうがないよ。ガルーダが先導してるみたいなんだ。)


(さっきからの高角攻撃魔法はガルーダの仕業か。。。)

(え?気付いたの?)


(気付いたからお前に連絡したんだろうが!あんな魔法使えるヤツはそうそういないからな。)


(ですが、その目的が分からないんです。マロウさん。心当たりありませんか?)

(おう。ジョージ坊ちゃんか。。。”ドラゴンの民”として、完全覚醒したみたいだな。おめでとう。)

(ありがとうございます。それで。。。)


(あぁ。ガルーダって、あのガルーダか?)

(そうじゃな。お前のよく知っておるガルーダじゃ。」

 マロウの質問にダルガが答える。


(それなら、話は簡単だな。多分狙いは”世界樹”だ。)

(え?どういうこと?)


(”世界樹”を探すなら、地上を焼き払うなりすれば、見つかるだろう?結界でその姿が見えなくても、そこだけ不自然に焼け残るもんな。)


(あぁ!!!そんな方法があったのか。。。思いつかなかったな。。。)

(そりゃそうだろうよ。目星も付かないのに闇雲に焼き払ったって、見つからないからな。多分、アルが”聖”の力を持ちながら魔王になったことに目を付けたんじゃないか?それで、頻繁に出入りするこの国に目を付けたと。)


(えぇ。。。僕のせい?・・・けど、なんで”世界樹”なの?)

(あいつは、昔っから”黒魔術”をやっててな。ここにも、その手の本を探しに何度もやってきたよ。もちろん迷宮にもな。かなりの階数を攻略したはずだ。あいつが好んで読んでた本の中に、”世界樹”について書かれた本があった。)


(どんな内容なんですか?)

(”世界樹を手に入れれば、世界のすべてが手に入る。”って子供染みた内容さ。そんなことあるはずないだろ?俺が”世界樹の精”をやってたんだからよ。でもそのことは言えないだろう?だからそれとなく、何度も違うって言ったんだけどな。聞く耳持たなくてな。。。それから何度も世界樹について聞かれたしその手の本も読み漁ってたからな。)


(今回の魔王交代で、手の届くところに”世界樹”を見つけたと思ったのか。。。下らぬな。。。人を巻き込むようなことではない。。。)

 ダルガが溜息をつく。


(とにかく、”世界樹”が見つかると厄介だ。何をしでかすか分からんからな。せめてカルアだけでも保護しないとな。種はアルが持ってるだろう?最悪”世界樹”が無くなったとしてもなんとかなるかもしれない。だが、カルアは”世界樹の精”としての役割を担っているだけだ。何もしなければ”世界樹”の消滅とともにカルアも消滅する。そこまで責任を負わせるわけにはいかないだろう。)


(もちろんだよ。すぐに迎えに行こう。)

 僕が動こうとしたときだった。


(僕が行く。。。カルアにまた会いに行くって約束したから。。。)

 青ざめた顔のジルが部屋を飛び出した。


(え?ちょっ。ジル?)

 止める間もなかった。

(まぁまぁ。カルアの事はジルに任せよう。ただいま初恋の真っただ中だから。)

 からかうようなジョージの声だった。


(え?何それ?いつの間に?え?)

(ま、その話は置いておこうか。今はまだ、戦争の最中だからね。)

 話を振ったくせに、さらりと話題を変える。


(じゃ。カルアが来たら、俺んとこ連れて来いよ。最悪、迷宮ごと封印すれば、しばらくは守ってやれる。それまでに、ガルーダが読んでた黒魔術の本も確認しておくよ。)

(うん。分かった。)


 そうして、脳内会議はひとまず終了した。


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