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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=戦争編=
94/322

第93話  ~開戦~


「ジル?結界を強化するから、ちょっと力の加減を試してみたら?」

 カルアが提案する。

「そうだな。いきなりでは、危険かもしれないな。」

 ジョージもカルアの提案を汲む。


「うん。分かった。」


 カルアが世界樹の結界を強める。ドーム型に張られた結界が目に見えるほどに強化された。


「よし。じゃあいくよ?」


「んんっっ!!」ジルが拳に力を込める。

 オーラを纏い、拳から炎が上がる。


「お?人型でも簡単に力が使えるよ。」

 炎の塊を空に向かって投げつけ、ドームの結界に当たり派手に弾ける。

「ん。いいね。」


「うぉぉぉぉぉ!!」

 ジルは竜の姿へと戻る。


「身体が軽いよ!」

 そして、空に雷雲を呼び結界の外から雷を落とす。

 それに合わせて、氷の槍を結界へ向けて放つ。


 雷と氷の槍の場所は寸分違わず、結界を挟む。


 ビキビキビキィィィッ!!!!


 凄まじい音が鳴る。


「ちょっ。ジル、ダメダメダメぇぇぇ!!!それ以上やったら、結界が壊れちゃう~~~!!!」

 カルアが慌てて叫ぶ。


 パアァァァァァン!!!

 軽い音と共に、槍が弾けた。


「ごめんごめん。いつも通りの感じでいったら、想像以上の力だったから。。。今度は力が溢れすぎて加減が難しいな。。。」

 そういいながら、人型へと戻る。


「ジル。。。。その姿。。。。」

 ジョージが絶句する。


 4才ほどの体型だったジルの姿が、10才くらいまで成長をしていた。


「あっ!良かった。力が戻った証拠だよ。封印前の力まで戻れば、大人の姿になるはずなんだけどな。まだまだだね。」

 ジルは手を握ったり緩めたりしながら、力加減を感じている。


「そうか。。。だが、加減が不十分であるのなら、作戦通り、ジルの力は万が一の時まで出すのはよそう。予想外の被害が出かねない。」

「そうだね。そうするよ。」


「じゃあ、そろそろ行こうか。時間がない。」

 ジョージがジルを促す。


 ジルはカルアへ歩み寄ると、突然抱きしめた。

「カルア。。。本当にありがとう。。。」

 そして、カルアの頬にチュッとキスをした。

「え?」

 カルアは頬に手を当て、目を丸くする。


「あれ?間違えたかな。。。人間式のお礼をしたつもりだったんだけど。」

「ははっ。間違ってはいないよ?」

(普通はやらないけどね。)と心で思いながら、ジョージがジルの頭を撫でて笑っている。


「じゃあ。カルア行くね?戦争が無事に終わったら、今度は”世界樹に”じゃなくて、”カルアに”会いに来るよ!」

「う、うん。待ってる。。。。って、戦争するの?」

「そうだよ。」


 カルアは懐から小瓶を取り出す。

「これ、”世界樹の雫”少しだけど、持って行って。」

「ありがとう。助かるよ。」

 ジルは小瓶を受け取った。


「じゃあ、行ってくるね。」

 ジルが手を振る。

「気をつけてね。」

 カルアは心配そうに見送った。



 ジルとジョージは緑の国の王都へと戻り、軍の編成を急ぎ行うことになった。




「アル?朝よ?」

 身体を揺さぶられる。

「うぅん。。。もう少し。。」

「もう時間だから。起きて?」

 角を摘まれ、僕の身体が持ち上がる。


「もう。ジョージはどうやって起こしてるのかしら?」

 角を摘んだまま、ぷるぷると揺らされる。

「ちょっ。リリィ。起きた。起きたから。。。」


 ようやく机の上に置いてもらえた。

 僕たちは司令室を作るのに没頭しすぎて、会議室でそのまま眠ってしまったのだった。


 出来上がった司令室をもう一度ぐるりと見回す。

「これ、かなり良い感じだよね。」

「えぇ。自信作だわ。」

 僕とリリィは目を合わせ、自信ありげに二人でニヤリと笑う。


 そして僕たちはジョージの部屋へと向かった。



「おはよう。アル?君で最後だよ?」

 ジョージが僕に声を掛ける。


 部屋に入ると、

 シグナル・ゼルダ・ダルガの魔王軍チーム。

 ジョージ・ジル・ダイキの緑の国チーム。

 それぞれが椅子に腰掛け、僕たちを待っていた。


「ごめんごめん。つい頑張っちゃって。」

「じゃあ、みんなほぼ徹夜だったんだな。。。無理をさせて悪いね。」

 ジョージが謝った。


「いや。僕とリリィはのめり込んじゃっただけだよ。」僕が答える。

「闘うのであれば、万全の準備を整えるのが仕事ですから。」シグナルが答える。

「ありがとう。みんな。」ジョージは微笑んだが、目は真剣だった。


「では、昼に正式に軍としての招集がかかるわけだが、その前に、僕たちの最終作戦を決めておこう。実際、この国の軍が、初めての対人間の実戦で、どこまで使えるか分からないからね。」

 

 ジョージの言葉に、僕たちは真剣な面持ちで円卓を囲む。


「けどさ、そもそも、なんで急に挙兵したんだろう?ガルーダに唆されたからって、今まで殆ど、国と国の争いなんてなかったじゃん。」

 僕は思ったことを口にする。


「そうだな。ガルーダの血の気の多さがあったからといって、人間がそれに乗るとは限らないからな。。。他にもモンスターが絡んでいると考えるべきか?」

 シグナルも顎に手を添え考え込む。


「とりあえず、我が軍の地上戦としては、地の利を活かし、ジャングルに誘い込みます。向こうの重火器が映像に映っているのを見ましたが、視界が悪ければ、大砲などの命中率は悪くなるばかりか、発射すらできなくなる可能性がありますから。我々は常にジャングルでの行動を主にしているので、誘い込むことさえできれば、有利に運べると考えます。」

 ダイキが発言する。


「魔王軍としては、ドラゴンライダー隊を主力部隊とし、ガーゴイル・キメラ・ヘルコンドルなどの鳥系モンスターを配置します。主力部隊は対モンスターに。鳥系モンスターは地上部隊の降下を阻止するように。あとはそれぞれ臨機応変に対応するでしょう。」

 ゼルダが説明する。


「ゼルダ、魔王軍にまだガーゴイルはいるの?」

「はい。陛下。かなりの数がガルーダに付きましたが、魔王軍に残った者もおります。この反乱に乗らなかった者たちは、陛下への忠誠心が強く、信頼できます。ですので、参戦を許可願います。」

 ゼルダが頭を下げる。


「いや。ダメって事じゃないんだ。ガルーダの同族に対する支配力がどの程度なのか気になって。完全に同族を従えることができるわけじゃないんだね?それなら、つけいる隙もあるかもしれない。」

 僕がガルーダとガーゴイルの関係性について考えていると、突然扉をノックして飛び込んで来る者がいた。


「ジョージ様。大広間にお越し下さい。赤の国の使者が参りました!!」


 僕たちは大広間へと走る。

「どういうことだろう。」

「緑の国への侵攻が間違いであって欲しいな。。。」

 ジョージの小さな希望はすぐに打ち砕かれることになる。


 大広間へ到着すると、高官達も慌ただしく走り込んでくる。

 全ての高官が数分で揃い、赤の国の使者が通される。


 赤の国の使者は完全武装をしており、国王の前に出ると、跪く。


「赤の国より命を受けやって参りました。」

 そうして、懐から書状を出す。

 側近が受け取り、国王へと渡された。


「ふむ。我が国へ宣戦布告をするというのであるな?皇帝の名が違う気がするのだが、どういうことだ。」

 国王は真っ直ぐに使者を見る。


「はい。前皇帝はその地位に相応しくないと判断され、現在はケイツ皇帝陛下になりました。」

「ケイツというのは、若き元帥の名であったと記憶しておるが。」


「その通りでございます。」

「クーデターでも起こしたか。」


「いえ。あくまでもその地位に相応しい方がついたまでの話。」

 赤の国の使者が冷たく言い放つ。


「良く分かった。期日までに国を明け渡すつもりは無いと、ケイツ皇帝に。」

「残念です。では、こちらは宣戦布告をいたしましたので、3日後に開戦ということで。我が皇帝陛下は心が広い方ですので、戦争を回避する意志はいつでも受け付けてくださいますことを付け加えてお伝えしておきます。」

 赤の国の使者は丁寧にお辞儀をすると、大広間を去っていった。




「父上、書状の中身は。。。」

 重苦しい空気の中、ジョージが口を開く。


「うむ。2日後には緑の国の国境へと到着するが、我らに考える時間を与えてくれるようだ。国を明け渡せば、攻め入ることは無いが、そうでなければ3日後に侵攻を開始するようだ。」


「無条件降伏をしろと?」

 ジョージの叔父、国王の弟のダヴィットが眉間に皺を寄せる。


「侵攻の理由は書いてないんですか?」

 僕が尋ねる。


「う~ん。書いてないな。。。本当に宣戦布告だけだ。。。」

 みんなで書状を覗き込む。

「はぁ。本当に戦争が始まるのか。。。」

 リリィの父、大賢者ヴォルガがため息混じりに言った。



「余は無条件降伏をするつもりは無いが、皆の意見はどうだ?」

 国王が問う。


「国王陛下のお気持ちと同じです。」

 高官の一人がそう発言すると、全員がそれに同意する。


「では、3日後に開戦とする。皆の者、辛い思いをさせるやも知れぬが、付いてきてくれ。」

『はい!』


 そしてまる2日間、慌ただしく軍備が整えられ、開戦の朝を迎えた。



 

 夜明け前、司令室に国王以下、緑の国の高官と、魔界からは、僕とシグナル、ジルが座る。

「中々に凄いね。」

 ジョージが司令室を眺め感嘆の声を上げる。


 それはそうだろう。僕とリリィと、さらには何故かやってきたリリィのおじいちゃん大賢者ウォルゼスやらの力作だから。


 絵画用の白いキャンバスが9枚、壁に弧を描くように並べられ、上空、地上、海上がリアルタイムでクリアに映し出されていた。


 その脇には無地のキャンバスが両脇に6枚ずつの計12枚予備として掲げられていた。



---あの司令室を作る命を受けた日に遡る。。。

 

 3つだった魔王軍偵察隊からの映像を見たウォルゼスからの提案で、敵の進軍を洩れ無く見る必要性に気付く。

 急遽、偵察部隊を強化し、9班を作る。


 リリィは9個の水晶の投影に戸惑うが、ウォルゼスが、特殊な魔石をくれる。

「これを水晶の下に置くがよい。わしの魔力が貯められておる。投影程度であれば、数ヶ月はもつじゃろうて。」

 その魔石を敷くと、安定した魔力な上に、映像がクリアに写し出されたのだ。


「凄いですね!!さすがは伝説の大賢者!!」

 僕は興奮気味に言うと。

「そうじゃろう?こう見えて、結構凄いのじゃよ?」

 ほっほっほ。とウォルゼスは笑う。


 そして、マリィまで混ざり、偵察部隊にも小さな魔石が渡される。

 その中には、マリィの魔力が石の限界まで詰め込まれていた。

 さらには、リリィ達の父ヴォルガまでもが参加し始める。


 これで、偵察部隊は映像を送る為の魔力が確保され、敵からの攻撃を受けた際に、映像を送りつつも、自分の魔力を攻防に使うことができる。


 偵察部隊には、映像の安定供給に対しての技術や、隠密活動の為に必要な魔法や技術をウォルゼスが教え込む。

 

 王都までの赤の国の進軍ラインの村々はヴォルガの魔法扉マギーゲートにより避難がなされ、無人と化していた。


 マリィはその村々に索敵ラインを敷いて、敵の侵入を感知する。

 感知された敵が現れたときには、自動で司令室の予備キャンバスへと映像が転送される。

 モンスターからの映像では無いために、固定画面とはなるが、あるに越したことはない。


 全員分の極小の通信用水晶をリリィがせっせと作る。

「それどうするの?」

「えぇ。上手く行くかは分からないけれど、片耳に填めるの。そしたら、全員といつでも通信できるでしょ?耳に直接填めれば、音量もいらないし、この小ささでしょ?魔力も殆ど使わないと思うの。」

「お姉ちゃん。ナイスアイデアじゃん。通信魔法は私がかけるよ。」


「全員分とならば、我々も手伝いましょう。父上もよろしく頼みますね。」

 ヴォルガも手伝い始める。

「よいぞ。かわいい孫娘の頼みじゃて。」

 ニコニコとウォルゼスも手伝う。


 そして、僕とリリィ一家の趣味。。。いや、技術が盛り込まれ、たぶん地上で最も優れているだろう司令室が完成したのだった。---




「ウォルゼスよ。そなたもこの司令室の作成に携わったのであろう?」

 国王が問う。

「ほっほっほ。老いぼれは手伝うことくらいしかやることがありませんでな。」



「アル陛下。海岸ラインの偵察隊より、目視できる距離まで到達したと報告がありました。」

 シグナルが言う。

 

 

 皆で、画面を注視する。

「あっ。これだね。」

 ジルが指を差す。うっすらと飛行艇団の影が見える。

 ガルーダ達は見えないが。。。

 日の出前の暗さに上手く紛れている。


「いよいよだな。。。」

 ジョージの言葉とともに、各部隊へ通信水晶により、連絡がなされた。



 飛行艇団の辺りがチカッと光った。

 そして、

 ドオォォォンンンン!!!!!

 という爆音と共に、火柱が上がる。


 港町が壊滅した。


「大砲か?」

「いきなり無差別攻撃とは。」

「大砲よりも威力があります。爆弾?」

「あれほどの爆弾を作る技術まで。。。武装国家の名は伊達ではないな。」

「いや。ガルーダがいるんだ、魔法かも知れない。」

 口々に声が出る。



「アル陛下、魔王軍に出撃許可を。」

「うん。」

 僕は総司令官用の水晶の前に立ち、息を整える。

「総員、出撃を許可する!!!決して命を無駄にするな!!!」

『はいっ!!!』


「緑の国の兵士達よ。魔王軍が戦闘状態に入る。第一種戦闘配置に付け!!!」

 ジョージが号令する。



 僕は初めて戦争の号令をかけてしまった。

 その責の重大さに押しつぶされそうになりながら。。。

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