第91話 ~作戦会議~
緑の国に戻り、ジョージが国王の元へと走る。
全員はジョージについてはいけないので、僕だけがポケットの中に忍び込む。
ジョージは国王へ白の国からもたらされた情報を報告する。
だが、赤の国の挙兵の情報はもちろん、突拍子もないような武装飛行艇団など、信じてもらえない。
「父上、真偽を確認するためにも、上層部の者の招集を願います。」
ジョージはひたすら頭を下げる。
「そこまで言うのであれば、よかろう。招集を行う。だがしかし、偽の情報であったのならば、その責を取るつもりはあるのだろうな。」
為政者らしく、威圧感のある言葉を発する。
「もちろんです。万が一の際には、司令官の座を降ります。一軍人として出直すか、それ以上の失態であったならば、国を出る事も厭いません。」
ジョージは跪き、頭を垂れる。
「よし。では30分後に軍事会議を始める。」
僕たちはジョージの部屋へと戻り、打ち合わせを行う。
「ジョージ。。。良かったの?あんな啖呵を切っちゃって。」
「仕方ないさ。我が国の歴史上、他国が攻めてくることが無かったんだから。ガウディ国王陛下の情報が間違っていたとは思えない。」
「陛下。よろしいでしょうか。」
シグナルが話に入ってくる。
「もちろんだよ。みんなも気付いたことは何でも言ってよ。時間が無いから。」
「では、こちらを。」
その言葉と共に、小さな水晶を取り出す。
中には映像が浮かぶが、大勢では小さすぎて、上手く見えない。
「投影しましょう。」
リリィがベッドの天蓋のカーテンを閉め、水晶の映像を投影した。
「これは。。。」
ジョージが絶句する。
映し出された映像には50隻はあろうかという武装飛行船団が映し出される。
「これ、どこ情報?」
どこから入手したのか、映しているのか、確認をする。
「はい、魔王軍偵察部隊からの報告です。飛行艇団とのことでしたので、ガーゴイルと妖魔を中心に構成させました。また、地上部隊からはこの映像が。。。」
そう言って、もう一つの水晶が取り出され、リリィが、隣に投影する。
赤の国の、軍施設の映像のようで、完全武装の兵士や、大砲などの重火器を運び出す様子が映し出される。
言葉を失う僕たちを余所に、さらにもう一つの水晶が取り出され、投影をする。
「一番の問題は、これです。」
最後の映像を指差し、シグナルが続ける。
「ガルーダです。」
シグナルの声が低い。
その映像には飛行船団の先頭にガルーダが飛び、その後ろにガーゴイルの群れが飛んでいる。
総数100頭にはなりそうだ。
「ガルーダとは神と言われるほどの魔獣ではないのか?なぜ戦争を先導しているんだ?」
ジョージがシグナルに詰め寄る。
「ジョージ王子、落ち着いてください。確かにその昔、人間を助けた”ガルーダ”がおりました。その為、人間界では、”ガルーダ”は神のように崇められておりますが、元々、ガルーダに進化する個体は気性が荒く、神とはかけ離れている魔獣なのです。」
シグナルが話を続ける。
「そして、あいつは魔界でも有名でして。一時はその力で軍人としても活躍しておりました。ですが、前魔王ダルガ様の、戦を好まないスタイルに反感を覚えたようで、軍を離れています。魔王の交代劇で、また復活を企んでいたようですが、アル陛下がさらに平和路線を掲げたことで、憤慨していたとガーゴイルから報告がありました。」
「そんなことがあったの?教えてくれれば良かったのに。」
「それまでも、問題を起こしてはおりましたが、全て魔界でのことでしたし、軍が出動するほどのことでもありませんでしたので。。。まさか人間界にて挙兵するとは考えも及ばず。。。申し訳ありません。」
シグナルが謝罪する。
「そうか。。。そうだよね。」
「そして、軍国主義の赤の国に目を付けたというワケか。。。たぶん相性的に一番落としやすい、この国が目を付けられたんだね。」
「おそらく。」
最早、人間界だけの問題では無くなっている。
「ジョージ、軍事会議に僕とシグナルも参加させて。ガルーダを止めたい。」
「あぁ。我が国の軍だけでは、陥落は間違いない。魔王軍の協力を仰ぎたい。」
「ところでシグナル?初歩的な質問で申し訳無いんだけど、ガルーダの戦闘力はどれくらいなんだろう?」
「はっ。そうですね。。。ガルーダは統率個体。先の牛魔王と並ぶと考えて良いのですが、あいつは戦闘に関してはかなりの経験値がありますので、それ以上と考えて間違いないでしょう。」
もうホント、マジで勘弁してほしい。。。
牛魔王でも手を焼いたのに、それ以上とか。。。
「ジル。どうしよう。。。」
「アル。申し訳ないんだけど、最近、力の加減が上手くいかない事があるんだ。牛魔王の時にハッキリとした。本来の僕であれば、牛魔王に触れさせることも無かったはずなんだ。それがあれほどの失敗をするなんて。。。今回もどこまで力を維持できるか自分でも分からない。その事だけは報告しておくよ。」
ジルが項垂れるように話した。
「うん。分かった。よく考えれば、永い封印が解けたばかりだもんね。僕がいつも頼りすぎてたんだ。ごめんね。」
「できることは今まで通り、全力で協力するから。」
「緑の国の戦力はいかがでしょうか?」
シグナルがジョージに聞く。
「そうだね。これでは、空中戦だろ?地上戦ならば、自信があるんだが、空中戦はできない。そもそも飛行船をもっていないからね。この国にあるのは気球くらいさ。」
「そうですか。偵察隊からの映像を見る限りでは、地上戦の武器も用意していることから、あの飛行艇団に地上部隊も乗っているとみて間違いないでしょう。緑の国の軍には、地上戦をお願いするとして、魔王軍は空中戦に集中してもよろしいでしょうか?」
「ありがとう。そうしてもらえると助かるよ。」
ジョージが安堵のため息を漏らす。
「それでは、陛下。我が軍は”ドラゴンライダー”の出撃を許可いただきたいのですが。」
「シグナルがそう判断するなら、それが一番だと思う。」
「じゃがな。アル。”ドラゴンライダー”達は、ガルーダよりも気性が荒いぞ?キレたら、緑の国ごと、消滅させるやもしれぬ。」
静かに聞いていたダルガが口を開く。
「え?わざわざ僕に許可を取ったのはそう言うこと?」
「え。えぇ。まぁ。。。しかし、確実に勝利を掴むのであれば”ドラゴンライダー”達の出撃が理想です。」
シグナルが言葉を濁しながら答えた。
「それは間違いないな。であるならば、アルよ。出撃前に”ドラゴンライダー”達に忠誠を誓わせるのだ。さすれば、暴走が起きそうになった際に、止めることができるやもしれぬ。」
「分かった。ダルガさん。なんとか取り付けるよ。」
僕はダルガの提案に乗ることにした。
「それには及びません。」
知らない声に、後ろを振り返る。
「ゼルダ!!」
シグナルに呼ばれた青年を見ると、うっすらと身体に鱗が見え、肘の辺りには小さな鰭があった。
「陛下。我々”ドラゴンライダー”隊は、陛下に忠誠を誓っております。古代竜であらせられるジル様、そして竜族のオーラを纏うアル陛下。。その派生種族の龍族である我らが、忠誠を誓わないはずがございません。我らの命は陛下の為に。此度の戦、命に代えてでも勝利をもぎ取ります。」
ゼルダと呼ばれた龍人族の青年は、僕の前に跪き語った。
「盛り上がっているところ申し訳ありませんが、お時間です。」
リリィがいつも通りの冷静さで伝える。
「よし、まずは、この国を説得しないとだな。」
ジョージが気合いを入れるように、軍服の襟を直す。
「ダメならその時は僕たちだけでいいさ。」
僕はジョージの肩に乗る。
「魔界の問題は我らで決着を。一般人に被害をもたらさぬように。」
シグナルが自分に言い聞かせるように頷く。
『さぁ。行こう!!』
僕たちは戦場に赴くかのように、軍事会議場へと歩き出した。
「失礼します。」
ジョージを先頭に部屋へ入ると、すでに皆が揃っており、僕たちが最後だった。
「言い出した王子が最後とはね。やる気があるのかないのか。」
バカにしたような笑いと共に、いかにもくせ者そうな中年の男性が葉巻をくゆらす。
だが、その胸には勲章が多く付けられている。
「ソウゼフ閣下。申し訳ありません。」
ジョージが頭を下げている。
態度だけではなく、一応は軍として偉い人なのだろう。
「ジョージ司令官。望み通り招集をした。今一度チャンスをやるが、軍事会議を開いて良いのだな?」
国王が問う。
「はい。この胸に誓って。」
ジョージが胸に手を当てその場に跪き、王に誓いを立てる。
「良かろう。では、軍事会議を始める!」
国王の低い声が、部屋に響く。
「では、ジョージ王子よ。まずはその珍客を説明せよ。」
出席者の一人が、声を荒げ、僕たちを指さす。
「こちらは、魔界の王、アル陛下です。こちらが魔王軍のシグナル閣下。この方は子供に見えますが、古代竜のジル様です。そして僕は”龍の民”として覚醒したことも、合わせてご報告申し上げます。」
ジョージは凛然と答える。
「魔王が列席するなど聞いておらぬ!!」
前回、白の国に出発する前の会議に参加していない高官が立ち上がる。
「その点は問題が無いことを保証しよう。」
ジョージの叔父、ダヴィットが反対意見を制す。
「私もリリィから白の国の件で報告を受けたが、一晩で復興を成し遂げたそうだ。しかも伝説の神”五行の精”を従えたと聞く。この場に列席する資格はあるように思うが。」
大賢者ヴォルガが僕を擁護し、隣に座るおじいちゃんも頷く。リリィの祖父、大賢者ウォルゼスだった。
立ち上がった高官はばつが悪そうに椅子に座る。
「そうであるか。では、ジョージ司令官。お主の発言を許そう。」
国王が静かに言った。
「はい。では、まずは映像を投影することをお許し下さい。」
そう言って、ジョージはシグナルとリリィに目配せをする。
ジョージからの合図に二人は頷き、先ほどの映像を壁に投影させた。
三面に映し出された目を疑う光景に、会議室は静まりかえる。
「これはいつのものだ。」
国王は動じずに問う。
「こちらは、現在進行形の映像です。魔王軍偵察部隊から、直接送られています。」
シグナルが答える。
「なんと。」
「本物なのか?」
次々と疑問の声が上がる。
「信じる信じないはお任せしますが、2日ほどで到着すると予想されることだけ、お伝えしておきます。」
シグナルが付け加える。
「まさか。この国が狙われているとは。。。歴史上でも他国の進軍を許しておらぬのに。」
国王の声が曇る。
「僕たちの意見を申し上げてもよろしいでしょうか?」
僕は意を決して発言する。
「ふむ。この映像の真偽も分からぬが、聞くだけ聞くとしよう。」
国王が迷いながらも僕たちの話を聞くことにしたようだ。
僕たちは、ジョージの部屋での作戦を話した。
ジョージは緑の国の軍備を。シグナルは魔王軍の空中戦を。リリィは魔法での援護を。
それぞれが、各々の役割を熱く語る。
「このように、魔王軍としては、空中戦を。緑の国の方には地上戦を。この線でいきたいと思っています。足りない点があれば、魔王軍はさらに兵を追加させることもできます。」
僕が話を纏める。
「だが、ガルーダがいるとなると、魔王軍が仕掛けたのではないか?あわよくば、赤の国と緑の国の2国が手に入る。」
疑うことを止めない高官がいる。
「だがしかし、何もしなければ我が国が陥落するのは間違いないでしょうな。」
年老いた大賢者ウォルゼスが静かに口を開いた。
「私は若き頃”五行の精”の元へと行った事がある。まさに神と呼ぶに相応しい神々しい”聖”の力に溢れておった。それを従えるのであれば、例え”魔王”であっても、心美しき者であろう。そうでなければ、神の力を従えることなどできもしまい。今回の件は、正しく現実の事であると考える。そして、ジョージ王子は”龍の民”として覚醒をされた。しからば、2日しかない限られた時を、下らぬ疑義を唱える時間に裂くことは徒爾である。」
ウォルゼスが反対意見を唱える者に語る。
「そうであるか。。。ウォルゼスも魔王の意見を尊重するのであるな。ならば余もその言葉を信じることとしよう。」
国王は静かに立ち上がる。
「皆の者!!自衛措置をとる!!急ぎ軍を編成せよ!!」
国王の声は力強く、緑の国としての命が発せられた。
もう、後戻りはできない。
戦争が始まろうとしていた。




