第90話 ~不穏~
「うぅん。。。」
肌寒くて布団に潜り込む。
「はぁ。あったかい。。。」
なんだか周りが騒がしい。
被った布団の隙間から覗くと。。。
「あれ?どこだ?ここ。。。」
「ふふっ。おはよう。アル?」
ジョージの声だ。
「あっ!!そうだ。昨日。。。」
ようやく目が覚めてきた。
もぞもぞと布団と思っていた場所から這い出ると、それはジョージの上着だった。
「ごめん。寝ぼけてた。」
「いや。いつも通りさ。アルと一緒だと安心するよ。いなくなる度に、問題が起きるからね。」
そう言われると否定できない。。。
いろいろあったからな。。。
短い期間に濃縮したように、様々な出来事が起きた。
毎日が分刻みで目まぐるしく変わっていく。
「たまにはゆっくりしたいなぁ。」
「ふふっ。そうだね。僕たちが出会ってから、毎日、何かしら起きてたね。」
僕たちが思い出に耽っていると。。。
「おはよ~さ~ん!!早よせんと、朝飯なくなるで~!!」
聞きなれた声が聞こえて来た。
「ホセ!!!どうしたんだよ?」
「なんやアル?こんな面白い事になってるのに、教えてくれんと。つれないなぁ。」
羽根でつつかれる。
「という訳で、見学に来たんや。で、ジョージの雰囲気がちょっと違わへんか?」
「あぁ。”龍の民”の力が覚醒したんだ。僕のスペックにさらなる磨きがかかって、”サクラ”ちゃんをお嫁にもらう条件も整ってると思うんだけど。ホセはどう思う?」
「ええんちゃうか?本人次第やな?アル?」
「なんでそこで僕が出るんだよぉ。サクラが目を覚ましたら聞いてみればいいじゃん。寝てる間は絶対許さないけどね!」
強めに釘を刺しておく。
僕たちがハンモックから立ち上がると”五行の精”がやってきて、木に手を翳す。
木は見る見る小さくなり、種に戻った。
その様子に、ふとアイデアが浮かぶ。
「ねぇ。それってさ、どんな植物でもできるの?」
『はい。我らの知りうる植物であれば。知らぬ植物であるならば、種や葉などから再生できます。』
「すごいな。。。だったらさ、”レイマンゾ”って花を知ってる?」
『もちろんでございます。』
そう言って、木の”五行の精”が手のひらの上に、レイマンゾを作り出す。
「すごい!すごい!!これならさ、いつでも薬ができるじゃん!!」
僕は興奮して言った。
『アル様。。。お喜びのところ、大変申し上げにくいのですが。。。レイマンゾの薬効をお求めなのですか?』
「そうだけど。」
『それでしたら、我らの力では無理でございます。』
「え?なんで?そこにあるのは幻影とかなの?」
『そうではございません。一般的に強い成分を含む特殊な植物を”魔草”と呼びますが、それらの成分は、生育する過程の条件が揃って、初めて植物に含まれるのでございます。このレイマンゾは我らが強制的に作り出した物。本物のレイマンゾではありますが、その薬効成分は含まれていないのです。』
「そっかぁ。そうだよねぇ。そんな上手い話なんて、そうそうあるわけないか。。。」
がっくりと項垂れる。
「なんや。そう気を落とさんと。ちょっと商売が上手くいかへんかて、次を考えたらええやん。」
ホセが慰めてくれる。
「ジョージ王子。アル殿。お目覚めですかな?」
ガウディが歩いてくる。
『おはようございます。』
「いやぁ。私はこの”ハンモック”というものも初めてでしてね。このような大勢の中で眠るのも。。。」
「すいません。僕がワガママを言ったから。」
「いやいや。アル殿。違いますぞ。私は童心に返ったようで、とても愉しみました。娘も連れてきてやれば良かった。」
よかった。クレームかと思って、少し身構えてしまった。
「そこで、私のワガママを聞いてもらってもよろしいか?」
ガウディが僕を見る。
「僕ができることなら。。。」
「この、ハンモックという物を、この広場に少し設置していただきたい。それと、このツルを調整すれば、ブランコにもなると思うのだが。。。無理だろうか?」
『容易いことにございます。』
”五行の精”が答える。
「いいみたいですね。」
『ですが、アル様。今回は一晩眠るためだけでしたので、寝心地を優先し、柔らかい生の葉を使用したのです。恒久的に設置するとなると、蔓性の植物で枯れても良い物を使用しなくてはなりません。寝心地や座り心地が悪くなってしまうのですが。。。』
”五行の精”は常にハイクオリティを求めるようだ。
子供の遊具に安全性は必要だが、そこまでの心地よさは、求めなくてもいい気がする。
「ハンモックとかで、昼寝くらいはするかもしれないけど、今日みたいに一晩寝る事もないだろうし、ブランコは遊具だから。。。壊れないように安全性を最優先してくれれば、いいと思うよ?設置場所とかは住民の人の意見を聞かないと、だけどさ。」
『かしこまりました。』
そう言って、”五行の精”が散り散りに飛んでいってしまった。
「大丈夫かな。。。」
「我が国の守り神様ですぞ。なんと感謝したら良いのだろうか。」
ガウディは”五行の精”の後ろ姿を拝むように見ていた。
「おう!アル!ジョージ様!朝飯はこっちです。」
遊撃隊料理長のガルンがこちらに向かって手を振っている。
今朝の朝食は遊撃隊の料理人達が担当したようだ。
行列ができていた。
その上をホセが優雅に飛んでいく。
「おい!ホセ。ちゃんと並べよ?」
ガルンに叱られている。
「なんや。冷たいな!!俺は野菜かフルーツしか食べられへんのや!マンゴーとっといてや!!!」
捨て台詞を吐いてUターンしてくる。
それを見てガルンがニヤリと悪い笑顔をした。
「みなさ~ん!今日のおすすめは緑の国の特産”マンゴー”ですよ~。」
ガルンが大きな声で宣伝する。
「ちょっ。俺の話、聞いてたやろ~!!」
そんな遣り取りに、行列の人々から笑い声が上がる。
僕たちも行列に並んだ。
「国王陛下。。。あちらに席をご用意しております!!」
あわてて、兵士がガウディに駆け寄る。
「私だけが優遇されて良い謂われがない。皆と同じように並び、立食なり、床なりで食すこととする。」
「しかし。。。」
困り顔の兵士の肩にジョージは無言で手を置き、優しい笑顔で頷く。
兵士は諦めたように静かに下がった。
ようやく僕たちの順番がきた。
ガウディは行列に並んでいる間に、興味津々に観察していた通りに、お盆を持つ。
スープや野菜を手際よく注文し、最後のデザートの前に来た。
「では、その最後の”マンゴー”を頂こうかな。」
ニヤリとホセを見た。
「ちょっと。王様、さっきの俺の言葉、聞いてたやろ?」
「あいにく、私もマンゴーが好きだ。そして、行列には私が先に並んだ。私には選ぶ権利がある。」
正当な主張になおもホセは食い下がる。
「なんや。王様やろ?心狭っ!!!いたいけなオウムに愛の手を差し伸べてや~~!!」
「あははっは。ホセ。君の方が心狭いよ。。。しかもその不遜な態度で”いたいけなオウム”って無理あるよ~~!あはははは。」
すでに朝食を手に入れ、少し離れた場所にいた、ジルがお腹を抱えて笑っている。
「ホセ。君の負けだよ。ガウディ国王陛下に失礼な態度はいけないよ?せっかくなので、緑の国の城でも、今の罰として、暫くマンゴーを出さないように言っておくよ。」
ジョージが笑顔で、ホセの肩を叩く。
「うわーん。そんな殺生な~~~~。」
床に寝そべり、駄々をこね始めた。
「オウムさん。僕のマンゴー食べる?」
3才くらいの男の子がホセの口に、マンゴーの小さな欠片を放り込む。
その光景に、笑いを堪えていた周囲の人たちから、どっと笑いが起きた。
もうそうなると止まらない。
笑いは伝染し、ドームの中は笑いの渦が巻き起こり、身分も関係なく、愉しい朝食の時間を過ごしたのだった。
リリィの敷いてくれた、ピクニックシートにガウディやジョージも座り、食後のまったりとした時間を過ごしていた。
”五行の精”が、様々な人の意見を聞き、要望されたのだろうか、所々に遊具を設置していた。
「なんだかんだ、”五行の精”も上手くやってるみたいで良かったよね。」
「あぁ。伝説の妖精が動くんだ。この国の人々にとっては夢のようだろうね。」
そんなのんびりとした空気を破るかのように、白の国の兵士が、真っ青な顔で走ってきた。
ガウディに耳打ちをする。
「なんだと?それは本当か!」
「はい、先ほど確認をいたしました!」
「ジョージ王子、すぐに城に戻りましょう。」
ガウディの顔は険しく強張る。
その様子にただならぬ空気を感じ、僕たちはその場を後にする。
王城へ戻ると、兵士達が完全武装し、広間に集合していた。
「何が起きたんです?」
その緊迫した雰囲気に、ジョージが険しい顔でガウディに聞く。
「赤の国が挙兵したようです。目標は”緑の国”!!!」
「それは。。。」
ジョージは事態が飲み込めないようだ。
「赤の国との海峡には、主と呼ばれるモンスターがいて、あの海域を通り抜けることすら不可能。迂回すれば、黒の国を通らざるを得ない。どういうルートなのか。。。」
ジョージが考え込む。
「兵は、空を使っているようですぞ。飛行艇団を確認したと。」
ガウディに言葉に、シグナルが不審がる。
「飛行艇団を組むとなれば、それだけの科学力がいるでしょう。武装国家と言われる”赤の国”ですが、戦争用の飛行艇団を用意できるとは思えない。魔法で扱うのであれば、あの国の魔術者にそれらしい者がいないはずだ。」
シグナルも分析を始めた。
「とりあえず、緑の国に戻りましょう。状況を確認しなくては。」
リリィが発言する。
「我が国は、このように緑の国に協力する意志がある。力は弱いが、多少は魔力が高い。いつでもお力になれるよう、準備しておきますから、いつでも声をかけて下さい。」
「ガウディ国王。感謝いたします。遊撃隊を一旦引き上げさせていただいて、よろしいでしょうか。」
「もちろんです。これまでのご協力に感謝します。」
「ならば、魔王軍を置いておきます。何かあっても、彼らは第一線の兵士としては使わない者達です。しかし、防壁とはできましょう。この国に飛び火した際には、なんなりとお使い下さい。」
シグナルは、白の国への配慮も忘れない。
「じゃ。僕たちは一旦、緑の国へ戻ります。いろいろお世話になりました。また来ますね。」
ガウディに挨拶し、僕たちは緑の国へと引き返した。




