第89話 ~復興ドームの完成~
建築には詳しくないので、異世界の話として、サラッと流して頂けると助かります。
ジョージが描いた魔法陣を抜けると、王城の中庭に出た。
「ジョージ。いつの間に?」
往路は眠っていたジルは、ジョージの力に目を丸くする。
「”龍の民”の力が覚醒してね。いろいろできるようになったんだよ。結構便利だよね?」
ジョージは軽い感じで答えていた。
王城の中庭に到着した僕たちは、空地へと向かって歩き出す。
「ねぇ。ジョージ。。白の国の人たちとの技術交換の話はどうするの?」
「それは何とでもなるさ。緑の国とは元々外交があるし、魔界とも交流をするのであれば、交換留学生のような形で、双方の技術者が行き来をし合い、勉強すれば済む話だからね。」
そんなことを会話しながら、歩いていると、空地の手前が明々と照らし出されている。
「あら?ジルちゃんじゃないの?こんな夜遅くまで起きてて大丈夫かい?」
あの聞き込みをした食堂のおばちゃんがいた。
「ジョウさん。あんなにたくさんありがとね~。せっかく頂いたから、兵隊さんたちに、料理を作ったのさ。」
「おう!ジョージ様。この人が作るスープ。絶品だな。レシピを聞いたから、帰ってからも作れるぜ。」
コックのガルンさんがホクホクな笑顔で答える。
兵士たちは、遊撃隊も魔王軍も混じり、寒空の下、具沢山の温かいスープに舌鼓をうっていた。
「陛下~~~~。」
手を振りながら、人猫族のペーターが走ってくる。
その後ろには、ディオ、リリィ、シグナルが続く。
「はぁっはぁっ。。。。陛下。立ち退きが必要な住民には了承を得られました。皆さん好意的に受け止めて下さいました。」
息を切らしながら、嬉しそうに話してくれる。
「アル。ペーターが熱心に住民に話をしてくれたんだ。」
ディオが詳細を説明してくれた。
「ペーターありがとう。」
「陛下。。。お役に立てましたでしょうか?」
「もちろんだよ。その図面も見せてもらっていいかな?」
ペーターが握りしめる筒を借りる。
「立ち退きの住民たちの仮住まいへの引っ越しは、皆で手伝えば明日にはできるかな?」
「ジョージ王子。それには及びません。住民たちは自主的にテントへと移っております。取り壊しもこちらに一存してくれるようです。」
シグナルが説明をする。
「え?じゃあ、後は更地にしたら建てるだけなんだね?」
「はい。ジル様。」
僕とジルとジョージは顔を見合わせ、ニヤリと笑い、大きく頷く。
『アル様?その図面の建物をこちらに建造するのですか?』
”五行の精”が口を開く。
今まで、ジルとジョージの肩や腕に人形のように動かずにいた妖精が口を開いたので、皆が驚きを隠せない。。。
「ジョージ様。。。それは本物の妖精????」
リリィも独り言のように呟いている。
とりあえず、説明が面倒になりそうなので、驚きに固まっているみんなは放置する。
「何か問題ありそう?」
”五行の精”の質問に答える。
『寒さ厳しいこの地に、温水のパイプを張り巡らすのは良い案かと思いますが、壁外に別に作りますと、老朽化を早めます。我らの岩を使うのならば、壁の中を通し一体化できます。また、基礎が弱いと思われますので、その増強と、あまりにもシンプルですので、もう少し装飾を施したいのですが。。。』
びっくりする。修正点を上げるだけでも驚くのだが、まさかデザイン性までも指摘してくるとは。。。
かなり余裕が感じられる。
「いや。良くなるなら、その方が良いに決まってるよ。そんな簡単にできるものなの?」
『難しいものではありません。最適解を求めるのでしたら、もう少し手を加えたいですが、神々の住まう神殿を人間界に造るのもいかがかと思いますので。。。』
更に驚くことをサラッという。
「いや。そうだね。ダメだね。神様の神殿を造っちゃね。この国に相応しい建物でいいからね。」
『畏まりました。では少し見て参ります。』
その言葉と共に、”五行の精”が光となり、散り散りに飛んで行った。
「ふぅ。ちょっと疲れるね。思考が変わってるというかさ。ズレてるというか。。。」
汗は出ないものの、どっと汗をかいた気分になった。
「そうだね。でもこの感じだと、とてもいいモノを造ってくれそうで安心だね。」
ジョージは僕の角を撫でながら笑っていた。
「はぁ。。。。すごいのを見せてもらったね。。。」
静まり返った中に、おばちゃんの溜息が響いた。
「それにしても、そのスライムは普通に話せたんだね。。。ジョウさんもどっかの偉い人だったのかい?」
一連の出来事に、おばちゃんが不思議に思ったようだ。
「こちらは我が緑の国の第一王子、ジョージ様。。。こちらは魔界の王、アル様。。。そしてこちらは古代竜のジル様です。」
「はぁ。」という溜息と共に、リリィが僕たちをおばちゃんに紹介する。
ため息の中に、”またか”というニュアンスが、すっごい含まれていたような気がする。。。
『どうも。』
僕たちは、苦笑いをおばちゃんに返す。
おばちゃんは声も出ず、口をパクパクとしていた。
(あはははは。おばちゃん魚みたいだね。。。息できてんのかなぁ。)
ジルは心の中で面白がるだけでは物足りないようで、
「おばちゃん!さらに付け加えるなら、さっきの妖精が”五行の精”だよ。」
「あははは。」と笑いながら話すジルの言葉に、おばちゃんの限界は超えてしまったようだ。
グラっと後ろにのけぞる様に倒れていき、寸での所で、シグナルが抱きかかえた。
「失礼。」
そう言ってシグナルは、おばちゃんの額に爪を立てる。
額には六芒星が書かれ、血が伝う。。。
おばちゃんの目が虚ろだ。
「ちょっ。シグナル!!何してるの?」
僕は慌てて駆け寄った。
「はっ。陛下。この方が卒爾のあまりに気を失いかけておりましたので、気持ちを落ち着かせる術を。。。傷自体は消えますので。」
シグナルが額の血の六芒星を拭うと、傷は跡形もなく消えた。
「どういう術?」
「はい。六芒星は魔法を発動させるきっかけですが、彼女の心を押し潰しかけた感情を血と共に流したのであります。」
「へぇ~。凄いね。」
感嘆の声を上げる。
「一応、ヴァンパイアですので。」
恭しく首を垂れる。
シグナルが片手を上げると、魔王軍の兵士がすぐさまやってきて、おばちゃんをテントへと連れて行った。
『アル様。お待たせをいたしまして申し訳ございません。この国を見て参りました。』
「あ。”五行の精”さん。お帰りなさい。」
『では早速、取り掛かってよろしいですか?』
「え?何を?」
僕の返事を聞いてか聞かずか。。。
”五行の精”は、空地の周囲に5か所に広がると、天を見上げるようにして胸の前で手を組む。
それぞれの妖精の身体から光が溢れ、周囲の人々は空地を開けるように後ずさった。
光はそれぞれの妖精を結び、五芒星となる。
空地に積み上げられた瓦礫や、立ち退き予定の住宅は、空に巻き上がり、キラキラと光の粒となった。
見る間に更地へとなり、
『アル様。岩を。』
僕が口を開けると、僕の意思とは関係なく、岩が取り出されていく。。。
空中に吸い込まれたブロック状の岩は、変形したり、くっついたり、小さく細断されたり、次々と加工されていく。
同時進行で、更地は大きく掘られ、建物の基礎が築かれていく。
地中へ筒のように変形した岩が刺さり、深く深く埋め込まれていった。
しばらくすると、地上に出ていた、その筒から湯気と共に温水が噴き出す。
地下にも岩が積み重なり、地上にも岩は重なっていく。
見る間に多くの部屋が造られていき、外壁ができ、2階、3階と出来ていった。
最後はドーム型の屋根が付き、50分ほどでドーム型の建物となった。。。
その頃には、街中の人々がドームの周りに集まり、その様子を固唾をのんで見守っていた。
静けさが戻ったドームの周囲にいた”五行の精”からの光と、五芒星の光も止む。
『こちらでほぼ完成ですが、いかがでしょうか?必要な部分は修正をいたします。』
僕の前に集合した”五行の精”が跪き、僕に伺いを立てる。
「あぁ。。。凄いね。。。ちょっと中を見てもいいかな?」
目を丸くしながら、僕たちは中へ入る。
状況が分からない為、中へ入るのは最小限の人数に留めた。
中に入ると、冬の気候の外とは打って変わって、暖かい。
『雪の国に相応しく、白を基調としたかったのですが、温かみに欠けますし、外観も雪に紛れるといけませんので、少しグリーンを混ぜました。この国に草木が生えませんので、緑色にしてみました。』
”五行の精”は、説明をしながら案内をしてくれる。
確かに、外壁も内壁も淡いグリーンを基調としている。
中に入ると、当初の設計図通り、円形の広場があり、その周囲を壁に沿う様に店舗が並ぶ。
『商店は何が入るか分かりませんでしたので、看板だけを揃いにしておきました。』
その言葉通り、空の看板が軒先にかかっている。
あとは店名を入れるだけだ。
「ねぇ。よく見ると、枠のレリーフが一つずつ違うよ?」
『街としての統一感も必要ですが、店舗ごとの違いがありませんと、人々が探しにくいかと思います。建物が円形ですので、方向感覚も掴みにくいと思われます。』
そう言ってぐるりと周囲を指し示す。
僕たちもその方向に目を向けると、僅かに違う淡い色で、十字に仕切られたように街並みが4色に分かれていた。
「これなら、住居や店舗も見つけやすいな。」
ジョージが感心している。
広場の中央には、水路が通り、噴水と街路樹があった。
「この噴水、湯気が立っているね。」
ジルが触れる。
『周囲を温めた水の一部は、水路を通し、ここに集め噴水としました。温度を冷ましたのち、街路樹への水としております。』
「うわー!!!凄いな。。。これなら、寒い国特有の乾燥も防げるし、部屋の温度調節にもなってる。しかも、この国にはない街路樹があるなんて、外国に来たみたいだよ!!」
人猫族のペーターが走り回って喜び、感激し、メモを取り。。。。
目まぐるしいほど、動きも感情も表情もころころと変わる姿は、見ていて面白い。
『年中雪雲に覆われるこの国では、太陽光が不足いたしますので、天候が良い日にはできる限りの採光ができるようにいたしました。』
促されるまま、天井を見上げると、岩が透き通っている。その中を温水が美しく一面に流れている。
「え?あれ、どうなってるの?」
『温水の事でしょうか?』
「うん。」
『パイプのように通すことも考えたのですが、水の温度も高いので、採光の点も考え、表面を流れるようにいたしました。光が差し込めば、水の反射で煌きが大きくなります。また、居住空間の窓も同じようにしてあります。こちらは採光の点と、カーテンのかわりにもなりますので。そして、パイプで通すよりも一面を温水を流すことにより、壁自体が保温効果を発揮できます。』
「ほうほう。そうか。そんな風にね。。。」
ペーターが熱心にメモを取る。
「冷水を通せば、熱い地域にも役立ちそうだな。」
ペーターは一人ブツブツと言っていた。
『もちろん、熱い気候でございましたら、冷水のカーテンは逆に遮光の役割を果たすでしょう。』
珍しく”五行の精”がペーターの声に自ら答えていた。
『また、安全性と建物の密閉性の問題で、火を使った調光は極力避けたく、”蓄石”を各所に使用しております。』
「”蓄石”?」
『はい。文字通り、光や音、映像なども貯めておける”石”です。これで、光を貯めて置くことができます。』
『2階・3階の居住空間は、家族構成が分かりませんでしたので、いくつかの種類を用意いたしました。また、地下の温水はかなりの量が確認できましたので、各部屋で直接使えるようにしてございます。』
『あの。。。事後報告で申し訳ないのですが。。。少し設計図の部分を変更しておりまして。。。』
少し言いづらそうにしている。
「え?何?気にしないで、教えて。」
『はい。設計図では3層構造でありましたが、実際には5層にしておりまして。。。』
「え?5層?どいうこと?」
ぐるりと周囲を見渡すが、ここから見える部分は確かに3階建てなのだ。
『基礎を強化するために深く掘りましたので、その土台の隙間部分が活用できるかと思い、地下室を。。。倉庫や貯蔵庫として使えるかと。。。また、天井部分がドームになっておりますので、屋根裏に隙間がありましたので、居住空間3階の上にできた部分をそのままスペースとして残しました。天井が斜めになって低い部分もありますが、子供たちが走り回るには良いのではないかと。。。。事後報告で申し訳ございません。』
僕の顔色を窺う様に話を終える。
「なんだよぉ。申し訳ない事なんて、微塵もないじゃん!!むしろ有難いよ。僕たちでは気付かなかった点とか、できなかった点とか。もうホントにありがとう!!こんな言葉じゃ足りないけどさ~。」
僕はそう言って、一人ずつに「ありがとう。」を伝えた。
『アル様のお喜びが、我らの喜び。。。』
”五行の精”は感激してまた涙ぐむ。
涙腺が弱いのだろうか。。。
「五行≪木・火・土・金・水≫の全てが結集された素晴らしい建造物だ。なんと感謝申し上げたらよいのだろうか。」
後ろから国王ガウディの声がした。
「立ち合いには国王陛下もご一緒がよろしいかと、お連れいたしました。」
リリィが敬礼する。
「ありがとう。リリィ。」
『我らの主、アル様の御意向を形にしただけでございます。』
”五行の精”も恭しく首を垂れる。
「なんと!!アル殿は”五行の精”の主であったのですか?」
ガウディが驚きを隠せない。
それはそうだよね。僕もそう思うもの。。。
「えー。ついさっきそうなりまして。本物の方が見つかるまでの、”仮”なんですけどね。」
苦笑いをしながら答えた。
「アル殿は、いつも謙遜をするが、これほどまでの事が重なると、故意に隠しているのか、ご自身でも気付いていない秘めたる力を持っておるのだろうな。」
国王ガウディは、顔を近づけ、僕をじっくりと見てくる。
「あの~。そんなに見られると、恥ずかしいんですが。。。」
「いやはや。申し訳ない。ついな。」
国王ガウディは頭を掻いて笑った。
その後も僕たちは、”五行の精”の説明やこだわりを受けながら一通りを見て回った。
終わるころには深夜となっていた。
「一般公開は明日にして、今夜は王城にお泊り下さい。」
国王ガウディが勧めてきた。
「え?僕はせっかくだし、ここで寝ようかな?スライムなんで、床で十分だし。」
「それは。。。」
国王ガウディが言いかけたところで、
『アル様!!!そのようなことはなりませぬ!!』
何故か”五行の精”に叱られた。
「え~。でもさ、君たちが造ってくれたこの場所が素敵だからさぁ。」
『えっ?そう仰っていただけると嬉しいですが。。。高貴なお方を床に寝かせるなど。。。』
褒めたことで、モジモジと嬉しそうに顔を赤らめる。
『それならば。。。ベッドをお作りいたします!』
「そんなのいいよ。。。あ!そうだ。それならさ、ハンモックできる?」
『そんなものでよろしいのですか?』
「うん!世界樹の下で寝起きしてた時、草のベッドが気持ちよかったんだよね~。」
『それでは。』
木”五行の精”が、目を瞑り手を組むと、その場に木が生え、ツルの植物が枝を伝い、あっという間にハンモックができた。
「やった~!」
と喜び勇んで、僕が乗り込もうとした瞬間に、ジルが飛び乗る。
「うん。いいね。」
「ちょ。ジル。それ僕のだよぉ。」
口を尖らせて抗議する。
『では、他にも作りましょうか?撤去もできますから、いくつでも。。。他に必要な方はいらっしゃいますか?』
「じゃ。我々も。」
ジョージがリリィやシグナルを見てお願いをした。
「ハンモックか。私も体験してみたいな。」
以外にも国王ガウディも所望する。
「いいなぁ。」
遠くから小さな子供の声がした。
振り向くと入り口から、子供が覗き込んでいた。その後ろには大人の影も見える。
僕は入口へと走ると、兵士も街人も、代わる代わる入り口から中の様子を窺っていたのだという。
「ねぇ、これってたくさんできる?」
『ここを埋め尽くす程度の事は些事でございます。』
「じゃあさ、プレオープンってことでさ!今日はみんなでここで寝ようよ?ハンモックだけどいい?」
中のみんなと入口に集まっていた人々に聞いた。
「おぉぉぉぉ~~~~!!!!」
地響きのように歓声が上がる。
シグナルが入り口を開けると、皆がなだれ込んでくる。
兵士たちは、臨機応変に誘導作業を行い、”五行の精”は次々と木を生やし、ハンモックを作っていく。
「うわー!!!お母さん!これ本物の木?すごいね~!!!」
子供のはしゃぐ声で、初めて気づかされた。
「そっか。この国は寒冷地だから、樹木が無いのか。。。」
”五行の精”が壁の色や街路樹にこだわったのをそんなに気にもせず、聞き流していたが、大切なことだった。
まだまだ、僕は未熟で、勉強することも思慮深くなることもしていなかなくてはいけない。と心に誓う。
「僕はそれぞれの国の事に対して、考えが甘かったよ。君たちがいてくれて、本当に助かった。これからも僕が至らない事がたくさんあると思うけど、よろしくね。」
”五行の精”の横に行き、そう声をかける。
『我らの力をお戻しすれば、そのような杞憂も消えましょう。』
「ううん。それはいいんだ。みんながいて、みんなで助け合えばいいんだから。君たちが君たちでいることの方が大切さ。」
僕は街の人々が喜びに疲れ、寝静まるのをそっと見守って、ジョージのハンモックで眠りに落ちたのだった。




