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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=人間との出会い編=
9/322

第9話  ~一難去ってまた一難~

 僕は戻れなかったけど、本体の女の子は無事に回復できた。本体さえ無事なら、元に戻れる可能性はまだあるはず。ゆっくりと考えよう。


 しかし、問題は終わらなかった。少女が目を覚ます気配がない。

 僕がここにいる時点で意識が戻るのか心配ではあった。目を覚ましたら記憶のない少女になるのか、はたまた記憶を共有した人間とスライムになるのか不安ではあった。が、目を覚まさないというのは考えていなかっただけに焦る。

 まだ、傷が治ってから、そんなに時間が経っているわけでもないし、しばらく様子見かな。と安易に考えていると。


 「おかしいな。僕の経験からすると、みんな傷が治った途端に目覚めるんだけど。」

 ジョージも心配する。

 「あーそうだ。おとぎ話なら、眠れる姫に王子様がキスをすると目を覚ますよね?試してみようか。」

 爽やかな笑顔でさらっととんでもないことを言い出す。


 「ダメに決まってんじゃん。」

 「ははっ。冗談だよ。」

 肩をすくめてジョージは否定する。


 だが、僕が止めなかったら絶対やってた。さっきのおでこチューの前科があるからな。こういうことに関してはジョージは悪気すら感じることなく、ナチュラルにやらかすだろう。要警戒だな。


 「まだ、そんな時間も経ってないんやし、休憩しながら、様子みたらええやん。ジョージ働きずめなんやから、少し体を休めてさ。」

 「じゃ、お茶にする?」

 「水やけどな。」

 「じゃ、ちょっと寝床に戻って、準備してくるね。」

 僕はそそくさとその場を立ち去る。

 だって、水。頬袋の中だもん。出すとこ見られる訳にはいかないよね~。


 「ホセ君。ここには水があるのかい?世界樹の雫?」

 「あぁ。なんや、俺が来る前に雨が降ったらしくて、それを溜めてあるんやと思う。」

 「へぇ。雨が降るとは珍しいね。僕がここで生活した半年間では、雨は一度も降らなかったな。」

 「まあ、飲むっていっても、貴重な水やからな。舐める程度の量や。期待すんなよ。」

 「量なんてどうでもいいさ。一緒に誘ってもらえただけで、僕としては嬉しいんだから。」


 「ホセ~。用意できたよ~。こっちに来れる~?」

 寝床からホセを呼ぶ。

 「今行く~。ちょっと待っててや~。」


 スプーン代わりに使っていた、世界樹の葉の欠片の上に頬袋から水を少しずつ出しておいた。

 「ジョージさん。こんな少しでごめんね。」

 そう言って、大きめの葉の欠片を差し出す。

 僕とホセはいつも通りの欠片で。

 「ありがとう。。あれ?これも世界樹の葉の欠片だよね?まだあったんだね。」

 「うん。鞘を作った余りだよ。」


 「じゃ、かんぱーい。」

 僕は、雰囲気だけでもと掛け声をかけた。

 『かんぱーい。』

 ホセもジョージも気さくに合わせてくれる。

 数滴しかない水だから一瞬で飲み干した。


 「いやぁ。染み渡る~。いつもながら、元気になった気ぃするわぁ。」

 ホセが喜んでくれて、僕も嬉しい。頬袋の水だけど。。


 「ん?これは。。。ねぇスライム君。これ本当に雨水なのかな?」

 「なんや。人間様のお口には合わんかったか?」


 「そうじゃなくて。。。これは世界樹の雫ではないのかい?さっき僕は彼女に回復魔法を使ったよね。彼女の傷をできる限り治してあげたかったから、かなり上位の回復魔法を使ったんだ。魔力もそれなりにね。でも、これを飲んだら。。。魔力が回復したんだ。。雨水だったら、こんなことはおきない。」


 うわー。またやってしまったー。まさかまたレアアイテムとは。しかもこれも頬袋にそこそこ貯まってます。また、今さら言えないことだけどさ。


 そこで、仕方なく、入手方法を話すこととなった。

 ホセに笑われた雨水キャッチの話をまたすることになるとは…。そして、食事代わりに朝露を飲んでいることも。


 「僕も朝露が食事代わりだったよ。でも興味深いのは雨水だね。世界樹の上を滑り落ちただけでも、これほどの効能があるんだ。それともその中には本物の雫が混じっていたのかもしれないね。」


 「でも良かったよ。世界樹の葉もまだ残りがあったようだし、世界樹の雫もあるのであれば、一安心だね。大切に使うんだよ。それと、人に知られないようにするんだ。持っていることが分かれば、狙われてしまうからね。」


 めっちゃいい人ー。いろんな情報を教えてくれて、治療までしてくれて、その見返りにアイテムを要求したっていいのに。それもしないとか。その上、僕たちに対する心配とアドバイスって。。。僕は思わず


 「ねぇ。ジョージさん。空の小瓶なんて持ってないかな?」

 「ん?小瓶かい?ちょっと待ってね。」

 そう言って、腰に下げた上品そうなレリーフが型押しされたバックの中を探っていた。

 「これ、どうかな?使えそうかい?」

 小指ほどの大きさの小瓶を取り出した。僕はそれを受け取って、

 「ちょっと待ってて。これ借りるね。」


 僕は寝床の草に潜り込んで、空の小瓶いっぱいに頬袋の水を詰め込んだ。

 「よし。」

 

 ジョージのもとへ行き、小瓶を渡す。

 「もしよかったら、これ。今日のお礼に。」

 「えっ?僕にくれるのかい?でもこれは君たちの物だよ?持っていたって困ることなんてないんだし、限りあるものなんだし。」

 

 「まだ、もう少しあるし、僕たちは身体が小さいから、そんなにたくさんは使わないよ。お礼なんだからもらってよ。」

 「そうや。葉っぱも水も俺のやないから、口挟むのもなんやけど。スライム君の気持ちを汲んでやってや。」


 「では、お言葉に甘えて、もらおうかな。本当にありがとう。」

 キラッキラの笑顔で今日何度目かの、頭なでなでがきた。気持ちがいい。



 話をしているうちに、随分時間が経った。日暮れまであと1時間ほどではないだろうか。

 少女はまだ目覚めない。。。


 「困ったな。ここは安全とはいえ、この季節まだ朝晩は肌寒い。このままこの子をここに置いて野宿という訳には行かないだろう。」

 ジョージが思案する。


 「僕たちが出会った所から、30分ほど歩いた先に、僕のテントがあるんだ。そこなら、食事もあるし、日暮れまでには到着できる。この子のこともあるし、一晩だけでも来ないかい?」


 「・・・。」

 二人で迷っていると。


 「そうだ、美しい容姿と声の小鳥もいるよ。保護してから元気がないから、ノリのいい、ホセ君が来てくれたら、きっとその子も元気が出ると思うんだ。」


 『美しい小鳥』というフレーズに、ハッして二人で顔を見合わせる。


 「ジョ。ジョージはん。その小鳥どうしたんや?色はそれはそれは美しい黄色やなかったか?元気がないって、怪我や病気なんか?」

 矢継ぎ早にホセが質問攻めにする。


 「ホセ君。慌ててどうしたんだい?」

 「ええから、早う答えて。」


 ホセの勢いにジョージが押される。

 「あ。あぁ。僕がこの森に入ったのが一週間前。誰かが狩りをしていたのかな。遠くで銃声がする日だったな。森へ入ってしばらくすると、フラフラと今にも力尽きそうに飛ぶ小鳥が見えたんだ。森では目立ちすぎる鮮やかな黄色の羽だったし、カナリヤなんて飼い鳥だろうから、放っておいたらすぐに野生動物の餌食になってしまうと思って、保護したんだ。」


 ホセが固まっている。


 「それで、足輪があったから、確認したんだけど、ある貴族の紋章が入ってた。足輪には、その子の名前なのか、飼い主の名前なのかはわからないが、ジョセフィーヌとあったよ。まあ、その紋章の貴族っていうのが、あまり評判のいい人ではないから、逃げてきたのかもしれないね。怪我はないんだけど、あまり食事も取ってくれなくて。一度だけ歌を口ずさんでいたんだけど、明るい曲のはずなのに、あまりにも悲しげで切ない感じでね。聞いてるこちらがやりきれなく思ったよ。」


 目を瞑り聞いていたホセが、ジョージの話が終わると、


 「ジョセフィーヌちゃんや。生きててくれたんや。ホンマ、ホンマ良かった。うぅっ。」

 お調子者のホセが泣いていた。

 「良かったな。ホセ。」

 つられて泣きそうになる。


 「なんだ。知り合いだったのか。それは本当に良かった。じゃ、僕のテントへ行こう。この子の事も、ジョセフィーヌちゃんのことも。テントでゆっくり話しをしよう。」


 「ジョージはん。ホンマありがとうございます。」

 ホセは泣きながら、何度もお礼を言っていた。


 ジョージは少女を抱え、僕はホセの背中に乗った。

 イケメンがお姫様抱っこをする姿は絵になる。


 「ホセ君。飛ぶと目立つから、僕の肩に乗って。そこから二人で周囲を警戒してくれないかな?万が一の時、この子を抱えていると、剣を構えるまでに少し時間がかかるから。」

 「僕たちに任せて。」


 そして僕たちはジョージのテントへ向けて出発した。

 

 途中、低俗のモンスターが何度か現れたが、ジョージはお姫様抱っこを崩すことなく、片手を空け、剣で軽く捌いていた。

 モンスターを倒した最後に、汚れを飛ばすために、ヒュッと一振り空を切り、カシャンと剣を納める姿がサマになりすぎている。なんなんだ。このイケメン。カッコ良過ぎて、嫌味すら感じるわぁ。


 そうこうして、日暮れも迫った頃、

 「見えてきたよ。あそこだ。」

 ジョージが指し示した場所を見た僕たちは、絶句した。


 「テント言うてたよな。」

 「うん。でもあれって。」

 そう、モンスター討伐依頼を受けて来たと言っていたし、テントと聞いて、寝るだけの簡易テントを思い浮かべていた。

 だが、そこにあったのは、宿営地並みの立派なテント。10数張りはあるだろうか。


 「ん?どうかしたかい?」


 「いや。あんまり立派すぎて。。。」

 驚きで言葉が続かない。


 「討伐依頼の内容からして、すぐに帰る予定だったんだけど、ここまで来るなら、何日か滞在して周囲の確認もしようかと思ってね。人数が多くなってしまったんだ。」

 「まぁ、牙熊ファングベアは僕一人で片づけられたし、こんなに人数はいらなかったよね。」


 またさらっと爆弾発言をする。牙熊ファングベアを一人で討伐って。。。どんな猛者だよ。


 テントに近づくとすれ違う人々が立ち止まり「お帰りなさいませ。」と頭を下げていく。

 ジョージは軽く「ただいま。」と笑いかける。


 「なぁ。ホセ。ジョージって、すごく強いみたいだし、もしかして偉い人だったのかな。」

 「俺ら、結構、失礼してたかもな。」


 ジョージの肩の上でコソコソ話をしていたが、聞こえていたようで。

 「買い被りだよ?」

 とジョージに言われた。


 「さぁ。着いたよ。ここが僕のテントだ。」

 ジョージが足を止めたのは一番立派なテントだった。テントなのに、金の刺繍が施されていた。


 「俺たち、入ってもええんやろか。」

 あまりの場違い感に涙目になりながら。。。

 深呼吸をして、覚悟を決めた。


 ジョージが「ただいま~。」と入口を開ける。

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