第86話 ~いざ”五行の精”へ~
「ジョージ。。。」
僕の言葉を遮るように、ジョージは僕を手のひらに乗せた。
「大丈夫だよ。アル。」
いつもと同じように僕に笑顔を向ける。
だが、その雰囲気がどこかしら違う気がした。
何とも表現しがたいが、嫌な感じとかでは全くない。
「アル。懐中時計を借りてもいいかい?」
「うん。」
「ダルガさん、失礼します。」
そして「解除」と呟いて、オリハルコンの剣も懐中時計に戻す。
「あ。。。力が使えるようになったんだね。」
「”龍の民”としての力は使えるようになったよ。」
そして、黄金色した皿のようなアイテムに懐中時計を乗せた。
黄金色にふわっと瞬いたかと思うと、皿は大きく広がり、柔らかく2つの懐中時計を包み込んだ。
そして、ゆっくりと光が収まる。
「え?懐中時計が一つに。。。」
僕は目の前の出来事に理解が追いつかない。
2つの懐中時計は1つになり、一回り大きくなっていた。
黄金色の皿が吸い込まれたかに見えたが、銀の懐中時計がその色、黄金に染まっていた。
「これで、いつでも使えるようになったよ。」
そう言って、僕に懐中時計を渡そうとしてきた。
「これは受け取れないよ。もうジョージが使えるんでしょ?それなら、ジョージが持つべきだから。」
「君はいつでも優しいな。」
憂いを帯びた声だった。
僕にはその意味が分からないが、あの時、僕が受けた感情とは違う、何かを力と共に受け取ったのだろうか。。。
「結局、あのアイテムはなんだったんだろう?」
僕はジルとジョージを見る。
「あれは。。。」
青い顔のジルが小さく言った。
「姉さんの鱗だ。。。。」
「えっ?えっと。。。どういうこと?黄天竜の?」
「うん。いつのかは分からないけれど、間違いないよ。。。」
ジルは俯き、辛そうに話した。
「君は青魔竜だったんだね。姉弟だったのか。」
ジョージはジルの肩に手を置いた。
僕もジルも。。。ジョージの言葉に思考が追い付かず、キョトンとするばかり。
「二人は、黄天竜の鱗から、何を受け取ったのかな?僕は、”龍の民”としての力と、それに必要な知識を。その中に、竜族が3匹いた、ということも。姉弟とまでの詳細は分からなかったけれどもね。」
「僕は、感情が流れ込んできたんだ。後悔とか懺悔とか。でも愛情も感じられたんだ。誰に対しての気持ちかもわからなくて、とても不思議だったけど、ジルに対してだったんだね。納得したよ。怒りとか恨んでるとかそんな気持ちは全く無かったよ?だから大丈夫。」
落ちこむジルに優しく言った。
「うん。僕は触った瞬間に、姉さんだと分かって、手を引っ込めてしまったけれど。。。とても優しくて暖かかったんだ。なんだか僕が触れたらいけなかったかと思って。昔の事を思い出して。とても許される事じゃないから。。僕がしたことと、その暖かさの違いが。僕には相応しくないから。。怖かった。」
ジルは、鱗に触れた手を撫でていた。
「ジル。僕、思うんだけど、3人それぞれ、受け取った物が違うだろ?それはきっと、触れた人へのメッセージだよ。触ることが出来る人は限定されているわけだし。だから、君が”優しくて暖かい”と思ったのなら、君のお姉さんは君の事をそう思ってたんだよ。僕の中に流れ込んだ感情にも愛情があった。後悔や懺悔は、君を止められなかったことへの想いじゃないのかな?」
ジルは頷きながら、涙を流した。
「姉さんにもう一度会えるのなら、謝りたいよ。。。」
「ジル?黄天竜は皆の幸せを願っていた。もちろん君の事も。僕が受け取った中には、青魔竜を守らなくては。という感情もあったよ?だから、君がお姉さんに対して、謝罪や怖い思いなんて、もうする必要はないんだ。だから、もう心を解いてあげて?君がずっと辛い思いをしているのは、きっとお姉さんも望んではいないし、辛いだろうから。」
ジョージはジルを抱きしめた。
腕の中のジルは、子供のようにジョージにしがみつき、しばらく泣きじゃくり、ジョージが抱き上げると、しばらくして安心したように眠ってしまった。
「子供みたいだね。」
「きっと、心だけが成長せずに止まってしまったんだよ。今の見た目くらいの年齢なのかもしれないね。突然世界を与えられて、力を授けられたとしても、心が追いつかなかったんだね。長くかかってしまったけれど、やっと本当のジルとして成長していけるさ。」
ジョージは、慈しむように眠っているジルの頭を撫でていた。
「そうでしたか。あなたが前魔王殿で。。。」
その声で後ろを振り向くと、シャドーの姿のダルガと、ガウディ国王が談笑していた。
「お待たせしました。」
ジョージが二人に言う。
「いやはや。私は目の前の光景が、とても信じられませんな。この部屋は数千年の間、一度も開かれなかった。だが、今日はこの部屋がついに開かれた。そのことすら奇跡であるのに、我が国に伝わる伝説の方々がお揃いになるとは。なんとも幸運に巡り会えました。これだけの方々であれば、”五行の精”への道は開かれるでしょう。」
ガウディ国王は、まるで僕たちを拝むかのように頭を下げた。
「ははっ。僕たちはただ自分たちの人生を歩んでいるだけですよ。何も特別な事をしているワケでは無いんです。全て偶然が重なりここまで辿り着いただけですから、今まで通りでお願いします。」
ジョージが丁寧にお辞儀をする。
「そうですか。そう言っていただけると有り難い。では、上に戻りましょうか。」
ガウディ国王が歩き出す。
ジョージはそっと振り返り、「ありがとう。」と誰にも聞こえない程の小さな声で呟くと、手を翳し、扉を閉めた。
ガウディ国王の部屋へと戻って来た。
「ねぇ。ジョージ。早く行こうよ。」
「う~ん。アル?もう日暮れだし、ジルも眠っているし。今から出ると、向こうで野宿することになるよ?」
「でもさ。。。気になっちゃって。少しでも早く行きたいんだけど。。。今日、麓の村にでも到着できれば、明日一日ゆっくりと探せるよ?」
渋るジョージに僕は何とか食い下がる。
「ほっほ。アル殿は余程行きたいのですな。麓の村も”龍の民”とあらば歓迎するでしょう。それから、”五行の精”の住まうは”神殿”と呼ばれております。洞穴の中にあるのだとか。どちらに行っても寒空の野宿にはなりますまい。」
ガウディが僕を援護してくれた。
「う~ん。そうですか?気が乗らないが。。。二人にそこまで言われてはね。仕方ないか。」
ジョージが渋々納得する。
「あっ!!!ごめん。そういえば、ジルが眠ってるじゃん。最北端の霊峰までの足がなかった。」
根本的な問題に今更気付く。
「はっはっはっは。アル。。。ジルのことは馬車扱いなのかい?」
「え?違うよ?でもさ~。」
「大丈夫。”龍の民”として覚醒して、随分魔力も上がったし、使える魔法も増えたからね。霊峰までは問題ないよ?」
「え~~~!!!すごいじゃん!!!」
僕のことのように嬉しくて、ジョージの顔に飛びついて頬ずりする。
「アル。落ち着いて。戦闘糧食もあるし、時間が惜しいから、行くならこのまますぐに出発しよう。」
「うんうん!!」
僕はいつもの通り、ジョージの胸ポケットに入る。
「あれ?ジルも連れて行くの?」
ジョージは眠るジルを抱いている。
「もちろんさ。」
そして、ジョージが目の前に大きな円を描くように手を動かすと、魔法陣が描かれた。
「さて、行こうか。」
「うん。」
そして、魔法陣へと足を踏み入れた。
「え?ジョージ。。。。ここどこ?」
僕たちが着いたのは、山の頂上に近い場所。。。。目の前には洞穴の入り口がぽっかりと口を開けている。
「うん。”五行の精”へ行きたかったんだよね?その入り口さ。」
「え?だって。。。。え?」
何度も聞き返してしまった。
「”龍の民”の記憶の中には、ここの座標点があったんだよね。直接来た方が早いかと思ったんだけど。。。アルは麓の村で泊まりたかった?」
「いや。そんなことあるわけ無いじゃん。直接来る方がいいに決まってるし。」
(この場所、知ってたんなら、何で来るのを渋ったんだよぉ。)
なんとなく釈然とはしないが。。。まぁ結果的には良かった。。。よな?
「さぁ、日も暮れるし、中に入ろうか。」
ジョージは構わず中へ入っていく。
洞穴の中は、薄暗い中に、いくつもの蛍が飛んでいた。
その光が道案内するように、床をホンワリと照らし出す。
「蛍が綺麗だね。。。」
僕はジョージのポケットから顔を出して、辺りをキョロキョロと眺める。
「蛍じゃないのにね。」
「ホントにお客さま?」
「中に入れていいの?」
「追い出しちゃうぅ?」
キャッキャと笑う声がどこからともなく聞こえる。
大人とも子供とも。男とも女とも分からぬ声。
「誰だろう?」
僕は少し怖くて小さく呟いた。
「ふふっ。アル?ここは”五行の精”の神殿へと繋がる道だよ?この子達は、きっと精霊さ。」
「主様を知ってるよ?」
「やっぱり主様のお客さま。」
「ちゃんと案内しないと叱られる。」
ふわふわとした動きをした蛍のような光が、道に一定距離で整然と並び初め、光が一回り大きく少し強まると、トンボの様なシルエットが見え始めた。
目を凝らすと、それはトンボの羽根を持った、小さな妖精だった。
「うわ~。すっごい!!可愛い妖精だ。いろんな色してるね~。キレイだなぁ。」
僕はその美しさに思わず感嘆の声を上げた。
「うふふ。可愛いって。」
「いいお客さま。」
「主様のお客さま。」
妖精達は、僕の言葉を喜んでくれたらしい。羽根を震わせ、光を強くした。
少し歩くと、奥が明るくなり、真っ白な途轍もなく大きな扉が姿を現した。
「扉が光ってる。。。。」
「”五行の精”は会ってくれるかな?」
僕とジョージは目を合わせ、意を決して扉を押した。
ギイィッィィッィ。
軋む音と共に、扉は左右に大きく開き、僕たちを迎え入れた。
『ようこそおいで下さいました。永劫とも思える年月を過ごし、ようやくお会いできました。我が主”レイラ様”』
だだっ広いフロアに響く、数人と思える声。
声は揃い、どこから聞こえたのかも分からない。。。。
壁一面の美しいレリーフ。扉と同じように白く光を放つ。
”神殿”の名に相応しい神々しさと幻想的な雰囲気を醸し出す。
だがしかし。。。
「レイラって誰?」
僕はいつものようにツッコミを入れてしまった。




