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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=白の国 復興編=
87/322

第86話  ~いざ”五行の精”へ~


「ジョージ。。。」

 僕の言葉を遮るように、ジョージは僕を手のひらに乗せた。


「大丈夫だよ。アル。」

 いつもと同じように僕に笑顔を向ける。

 だが、その雰囲気がどこかしら違う気がした。

 何とも表現しがたいが、嫌な感じとかでは全くない。


「アル。懐中時計を借りてもいいかい?」

「うん。」

「ダルガさん、失礼します。」

 そして「解除」と呟いて、オリハルコンの剣も懐中時計に戻す。


「あ。。。力が使えるようになったんだね。」

「”ドラゴンの民”としての力は使えるようになったよ。」


 そして、黄金色した皿のようなアイテムに懐中時計を乗せた。


 黄金色にふわっと瞬いたかと思うと、皿は大きく広がり、柔らかく2つの懐中時計を包み込んだ。

 そして、ゆっくりと光が収まる。


「え?懐中時計が一つに。。。」

 僕は目の前の出来事に理解が追いつかない。


 2つの懐中時計は1つになり、一回り大きくなっていた。

 黄金色の皿が吸い込まれたかに見えたが、銀の懐中時計がその色、黄金に染まっていた。

 

「これで、いつでも使えるようになったよ。」

 そう言って、僕に懐中時計を渡そうとしてきた。

「これは受け取れないよ。もうジョージが使えるんでしょ?それなら、ジョージが持つべきだから。」


「君はいつでも優しいな。」

 憂いを帯びた声だった。

 僕にはその意味が分からないが、あの時、僕が受けた感情とは違う、何かを力と共に受け取ったのだろうか。。。


「結局、あのアイテムはなんだったんだろう?」

 僕はジルとジョージを見る。


「あれは。。。」

 青い顔のジルが小さく言った。

「姉さんの鱗だ。。。。」



「えっ?えっと。。。どういうこと?黄天竜の?」

「うん。いつのかは分からないけれど、間違いないよ。。。」

 ジルは俯き、辛そうに話した。


「君は青魔竜だったんだね。姉弟だったのか。」

 ジョージはジルの肩に手を置いた。


 僕もジルも。。。ジョージの言葉に思考が追い付かず、キョトンとするばかり。


「二人は、黄天竜の鱗から、何を受け取ったのかな?僕は、”ドラゴンの民”としての力と、それに必要な知識を。その中に、竜族が3匹いた、ということも。姉弟とまでの詳細は分からなかったけれどもね。」

「僕は、感情が流れ込んできたんだ。後悔とか懺悔とか。でも愛情も感じられたんだ。誰に対しての気持ちかもわからなくて、とても不思議だったけど、ジルに対してだったんだね。納得したよ。怒りとか恨んでるとかそんな気持ちは全く無かったよ?だから大丈夫。」

 落ちこむジルに優しく言った。


「うん。僕は触った瞬間に、姉さんだと分かって、手を引っ込めてしまったけれど。。。とても優しくて暖かかったんだ。なんだか僕が触れたらいけなかったかと思って。昔の事を思い出して。とても許される事じゃないから。。僕がしたことと、その暖かさの違いが。僕には相応しくないから。。怖かった。」

 ジルは、鱗に触れた手を撫でていた。


「ジル。僕、思うんだけど、3人それぞれ、受け取った物が違うだろ?それはきっと、触れた人へのメッセージだよ。触ることが出来る人は限定されているわけだし。だから、君が”優しくて暖かい”と思ったのなら、君のお姉さんは君の事をそう思ってたんだよ。僕の中に流れ込んだ感情にも愛情があった。後悔や懺悔は、君を止められなかったことへの想いじゃないのかな?」


 ジルは頷きながら、涙を流した。

「姉さんにもう一度会えるのなら、謝りたいよ。。。」


「ジル?黄天竜は皆の幸せを願っていた。もちろん君の事も。僕が受け取った中には、青魔竜を守らなくては。という感情もあったよ?だから、君がお姉さんに対して、謝罪や怖い思いなんて、もうする必要はないんだ。だから、もう心を解いてあげて?君がずっと辛い思いをしているのは、きっとお姉さんも望んではいないし、辛いだろうから。」


 ジョージはジルを抱きしめた。

 腕の中のジルは、子供のようにジョージにしがみつき、しばらく泣きじゃくり、ジョージが抱き上げると、しばらくして安心したように眠ってしまった。


「子供みたいだね。」

「きっと、心だけが成長せずに止まってしまったんだよ。今の見た目くらいの年齢なのかもしれないね。突然世界を与えられて、力を授けられたとしても、心が追いつかなかったんだね。長くかかってしまったけれど、やっと本当のジルとして成長していけるさ。」


 ジョージは、慈しむように眠っているジルの頭を撫でていた。




「そうでしたか。あなたが前魔王殿で。。。」


 その声で後ろを振り向くと、シャドーの姿のダルガと、ガウディ国王が談笑していた。


「お待たせしました。」

 ジョージが二人に言う。


「いやはや。私は目の前の光景が、とても信じられませんな。この部屋は数千年の間、一度も開かれなかった。だが、今日はこの部屋がついに開かれた。そのことすら奇跡であるのに、我が国に伝わる伝説の方々がお揃いになるとは。なんとも幸運に巡り会えました。これだけの方々であれば、”五行の精”への道は開かれるでしょう。」

 ガウディ国王は、まるで僕たちを拝むかのように頭を下げた。


「ははっ。僕たちはただ自分たちの人生を歩んでいるだけですよ。何も特別な事をしているワケでは無いんです。全て偶然が重なりここまで辿り着いただけですから、今まで通りでお願いします。」

 ジョージが丁寧にお辞儀をする。


「そうですか。そう言っていただけると有り難い。では、上に戻りましょうか。」

 ガウディ国王が歩き出す。


 ジョージはそっと振り返り、「ありがとう。」と誰にも聞こえない程の小さな声で呟くと、手を翳し、扉を閉めた。



 ガウディ国王の部屋へと戻って来た。


「ねぇ。ジョージ。早く行こうよ。」

「う~ん。アル?もう日暮れだし、ジルも眠っているし。今から出ると、向こうで野宿することになるよ?」

「でもさ。。。気になっちゃって。少しでも早く行きたいんだけど。。。今日、麓の村にでも到着できれば、明日一日ゆっくりと探せるよ?」

 渋るジョージに僕は何とか食い下がる。


「ほっほ。アル殿は余程行きたいのですな。麓の村も”ドラゴンの民”とあらば歓迎するでしょう。それから、”五行の精”の住まうは”神殿”と呼ばれております。洞穴の中にあるのだとか。どちらに行っても寒空の野宿にはなりますまい。」

 ガウディが僕を援護してくれた。


「う~ん。そうですか?気が乗らないが。。。二人にそこまで言われてはね。仕方ないか。」

 ジョージが渋々納得する。

「あっ!!!ごめん。そういえば、ジルが眠ってるじゃん。最北端の霊峰までの足がなかった。」

 根本的な問題に今更気付く。


「はっはっはっは。アル。。。ジルのことは馬車扱いなのかい?」

「え?違うよ?でもさ~。」


「大丈夫。”ドラゴンの民”として覚醒して、随分魔力も上がったし、使える魔法も増えたからね。霊峰までは問題ないよ?」

「え~~~!!!すごいじゃん!!!」

 僕のことのように嬉しくて、ジョージの顔に飛びついて頬ずりする。


「アル。落ち着いて。戦闘糧食レーションもあるし、時間が惜しいから、行くならこのまますぐに出発しよう。」

「うんうん!!」



 僕はいつもの通り、ジョージの胸ポケットに入る。

「あれ?ジルも連れて行くの?」

 ジョージは眠るジルを抱いている。


「もちろんさ。」

 そして、ジョージが目の前に大きな円を描くように手を動かすと、魔法陣が描かれた。


「さて、行こうか。」

「うん。」


 そして、魔法陣へと足を踏み入れた。



「え?ジョージ。。。。ここどこ?」

 僕たちが着いたのは、山の頂上に近い場所。。。。目の前には洞穴の入り口がぽっかりと口を開けている。


「うん。”五行の精”へ行きたかったんだよね?その入り口さ。」

「え?だって。。。。え?」

 何度も聞き返してしまった。


「”ドラゴンの民”の記憶の中には、ここの座標点があったんだよね。直接来た方が早いかと思ったんだけど。。。アルは麓の村で泊まりたかった?」

「いや。そんなことあるわけ無いじゃん。直接来る方がいいに決まってるし。」


(この場所、知ってたんなら、何で来るのを渋ったんだよぉ。)

 なんとなく釈然とはしないが。。。まぁ結果的には良かった。。。よな?



「さぁ、日も暮れるし、中に入ろうか。」

 ジョージは構わず中へ入っていく。


 

 洞穴の中は、薄暗い中に、いくつもの蛍が飛んでいた。

 その光が道案内するように、床をホンワリと照らし出す。


「蛍が綺麗だね。。。」

 僕はジョージのポケットから顔を出して、辺りをキョロキョロと眺める。


「蛍じゃないのにね。」

「ホントにお客さま?」

「中に入れていいの?」

「追い出しちゃうぅ?」

 キャッキャと笑う声がどこからともなく聞こえる。

 大人とも子供とも。男とも女とも分からぬ声。


「誰だろう?」

 僕は少し怖くて小さく呟いた。

「ふふっ。アル?ここは”五行の精”の神殿へと繋がる道だよ?この子達は、きっと精霊さ。」



「主様を知ってるよ?」

「やっぱり主様のお客さま。」

「ちゃんと案内しないと叱られる。」


 ふわふわとした動きをした蛍のような光が、道に一定距離で整然と並び初め、光が一回り大きく少し強まると、トンボの様なシルエットが見え始めた。


 目を凝らすと、それはトンボの羽根を持った、小さな妖精だった。


「うわ~。すっごい!!可愛い妖精だ。いろんな色してるね~。キレイだなぁ。」

 僕はその美しさに思わず感嘆の声を上げた。



「うふふ。可愛いって。」

「いいお客さま。」

「主様のお客さま。」


 妖精達は、僕の言葉を喜んでくれたらしい。羽根を震わせ、光を強くした。



 少し歩くと、奥が明るくなり、真っ白な途轍もなく大きな扉が姿を現した。

 

「扉が光ってる。。。。」

「”五行の精”は会ってくれるかな?」

 僕とジョージは目を合わせ、意を決して扉を押した。



 ギイィッィィッィ。

 軋む音と共に、扉は左右に大きく開き、僕たちを迎え入れた。


『ようこそおいで下さいました。永劫とも思える年月を過ごし、ようやくお会いできました。我が主”レイラ様”』


 だだっ広いフロアに響く、数人と思える声。

 声は揃い、どこから聞こえたのかも分からない。。。。

 壁一面の美しいレリーフ。扉と同じように白く光を放つ。

 ”神殿”の名に相応しい神々しさと幻想的な雰囲気を醸し出す。



 だがしかし。。。


「レイラって誰?」

 僕はいつものようにツッコミを入れてしまった。

 

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