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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=白の国 復興編=
83/322

第82話  ~感染源と海賊~


 皆のお茶が終わる頃。


「陛下。ありがとうございます。御陰で、力も定着しました。」

 手を握ったりして、感触を確かめながら、シグナルが御礼を言う。


「具合が良くなったなら、いいよ。けどさ、これからは、何かするときに先に教えてもらえると助かるかな。君が苦しみ始めて、気が気じゃなかったから。」

「陛下。臣下の身を案ずることにそのお心を費やすなど、不要でございます。一度忠誠を誓った魔界の者は、”魔王”のためだけに存在するのです。」

 シグナルは恭しく跪く。


「いやいやいや。。。そんなのいいよ。重いよ。自分たちの幸せを一番に考えてよぉ。」

 シグナルの熱い告白に、僕はたじろぎ後ずさる。


「あははっはは。良いじゃん。愛されててさ。」

 ジルが僕の姿を見て笑っている。

「やめてよぉ。ホント、困るんだってば~。僕、みんなの命が大切だもの。心配くらいさせてよぉ。」


「あはははは。”魔王の力”覚えてる?あれは、魂に刻まれるんだ。だから、君を認識した魔物たちは、その気持ちとは関係なく、君を”魔王”と分かる。そして、その心で、君を認め忠誠を誓えば、シグナルのように、揺るぎない臣下となるのさ。たまに裏切るようなヤツは、その忠誠を誓わない心が悪い意味で相当強いヤツだね。」


 そう言うことか。。。なんか急にシグナルが陛下。陛下って懐いてきたと思った。。。


「分かったよ。そこは諦めよう。けど、みんなを心配することくらいは、許してほしいんだ。これだけは止めろって言われても、どうしてもできないからさ。」

 シグナルに、お願いをした。


「はっ。承知いたしました。なんという優しきお心。。。そのお心を傷つけることのないように、兵士達をより一層鍛え上げてみせます。」


「あ。うん。戦いがないのが一番なんだけどね。」

 困り果てて、ジョージを見る。

「ふふっ。アル。軍はシグナル君に任せれば大丈夫そうだね。牛魔王みたいな事もあるから、兵士達が強くなって、犠牲者が出ないに越したことはないよ?」

「そうだね。」




「あの。皆様。よろしいでしょうか?」

 その言葉に後ろを振り返ると、ドレスに着替えた王女ジェーンが立っていた。


 寒い国特有の厚手の肌を覆い隠すドレス。

 だが、その厚い生地でも、やせ細った身体は隠しきれない。


 王女に相応しく、皆に向かって小さく膝を曲げ、会釈する姿は、優雅で品があった。


「皆様に助けていただきまして、心より感謝申し上げます。明日の朝を迎えられるかと毎日眠るのが怖かった事が嘘のように、身体が健やかであるのが実感できます。」

 小さく首を傾げ笑った笑顔は、途轍もなく可愛かった。


 王女ジェーンも僕たちの輪に加わる。

 その姿を何も言わずにただただ頷く国王は、今は父親の表情をしていた。


「お話が途中になっていましたけれども、私が、その虫に付かれたとする話の続き。よろしいでしょうか。」


「もちろんだよ。聞かせてくれる?」

 僕がお願いをすると、机の上の僕をそっと手で掬う。


「ねぇ?スライムさん?ちょっと私の膝の上にいてくれるかしら?あなたを触っていると、なんだか心が落ち着くの。」

「うん。いいよ。」

 僕はなんのためらいもなく答える。


「ジェーン。そのお方は。。。魔界の王。”魔王”アル殿じゃ。不敬であるぞ?」

 国王ガウディが止める。

 その言葉に、ジェーンは身体を強ばらせた。


「あぁ。国王陛下。気にすることありませんよ。触った者の心を癒すという力をアルは持っているんです。その力は”聖”の力ですから、ご安心を。僕も仲間達も、皆、アルをよく撫でていますよ。」

 ジョージがフォローする。


「ジョージの言うとおりです。僕、撫でられるの好きだから、気にしないで大丈夫です。あと、”魔王”って一応やってるんですけど、中身はただのスライムですし、人間界にいた頃と何にも変わってないんで、あんまり畏まられると困ってしまいます。」

 ジェーンの手の中から、彼女を見上げ、笑いかけた。


「まぁ。魔王というのは恐ろしい者と教えられましたが、とてもかわいらしいのね。それとも、魔界にも王様はたくさんいらっしゃるのかしら?」

 僕に対する警戒心を解いたように、指で僕を撫でながらジェーンが不思議そうに小首を傾げる。


「え?どうかな?魔界に他の王様って。。。聞いたこと無いけど。。。とりあえず、交代とかあるかもしれないんで、”魔王は怖い者”って認識を持ってた方がいいと思います。僕は人間界に手出しをするよりは、仲良くやりたい派なんですけど、いつその座が変わるかも分かりませんし。気をつけてくださいね。」


 一応、僕の意向も説明し、魔界の危険さも伝えてみた。


「本当に変わってらっしゃるのね。でも、あなたを怖いとはどうしても思えないわ。」

 口に手を添え、ふふっと笑う姿も愛らしい。



「そうだわ。あの虫のことをお伝えしなくてはいけませんわね。私も気付かなかったのですから、”たぶん”としかお伝えできませんけれども。」


 そうして、王女ジェーンが話を始めた。




---私、病気になる前までは、お忍びで街へ出ることがたまにありましたの。


 お城ではお金なんて使わないでしょう?だからこっそり侍女と私の髪飾りを売ったりして、ご飯を食べたり、洋服を買ったり。とっても楽しかったの。


 同じ世代の侍女と歩いていると、誰も私の前に傅く者なんていないわ。

 たまにね、「邪魔だ。」なんて怒られたりすることも嬉しかったの。


 侍女にあまり迷惑も掛けられないから、本当にたまの楽しみでしたわ。


 そんな時、青の国から見世物小屋がやってまいりましたの。

 この国にはいない動物たちが見られると聞いて、どうしても見たくて。。。


 けれど、見世物小屋は街よりも危険が多いと言われて、一度は諦めたんですけれど。。。

 侍女の一人が、「兄は騎士団の兵士ですから。」って護衛をつけてくださる事になりましたの。


 不自然にならないようにと、そして護衛者は一人の方が守りやすいという理由で、私と騎士の二人だけで出掛けることにいたしました。

 恋人同士を装った方が、混雑した場所でも離れることがないからと、ダンス以外で初めて男性の手を握って。。。とてもドキドキして楽しかったですわ。


 見世物小屋に入ると、いろいろな動物がいました。青の国に相応しく、水に濡れた動物が多くて。。。

 大きなテントの真ん中には、プールが作ってありました。

 それを取り囲むように観客席がありまして、動物たちが、芸を見せてくれたりするんです。


 ワザと水をかけてきたりして、皆さん悲鳴を上げたりするんですけれど、笑顔で。。。

 私もやってみたかったのですけれど。。。はしたないと我慢しておりました。


「姫?今日は私しかいませんから、どうぞ心ゆくまで羽目を外してください。他言はいたしません。」

 って耳元でこっそり私に言ってくださったの。


 私とても嬉しくて。。。

 皆さんと同じようにキャッキャと声を上げてみました。

 それは楽しかったですわ。


 その中で、水兎ウォーターラビットという、水の中で生活するという兎が出て参りまして。。。

 とてもかわいいんですの。

 そして、観客の中から誰か一人、触らせていただけるというので、私も思わず立ち上がって手を挙げてしまいましたわ。


 運良く、司会者の方の目に止まりまして、私、舞台の上で触らせていただけることになりましたわ。

「お忍びじゃ無くなってしまいましたね。」

 ってちょっと呆れたように言われてしまいましたけれど、それでも、彼の手を離さずに舞台に上がって兎を抱かせていただきました。


 ずっと彼の手を離さないから、司会者の方が私と彼をからかうんです。とっても恥ずかしかったですけれど、お客さま達も楽しそうに笑ってらしたし。。。でも彼を見ると、とても困ったような笑顔でしたわ。


 その時、プールの動物が跳ねた水が、私にかかって。首の後ろがチクっとしましたの。

 少し痛かったのですけれど、会場の雰囲気を壊してはいけませんでしょう?

 そのまま我慢いたしました。


 席に戻るときに、そっと首の後ろを触りましたら、ほんの少し、血が出ておりました。

 きっと、石でも当たったのかと思っておりましたけれど。。。


 今日のお話を聞いて。もしかしたらと---



 王女ジェーンが楽しそうなデートの話を終えた。



「その水は、真水?それとも海水?覚えていないかな?」

 ジョージが質問をした。


「何度も顔にも水がかかりましたけれど、塩水とは思いませんでしたから、真水だったのではないでしょうか?」

「その兎は、淡いブルーの兎ではなかったかい?」


「えぇ。とっても美しい淡いブルーの毛並みでしたわ。」

 ジョージの質問に、手を合わせ、楽しそうに答える。


「それは海兎シーラビットだな。確か、海兎シーラビットが淡水で生活すると、身体の維持のために、毛の中に乳魔蛭ミルクリーチを飼うと聞いたことがある。」

 ジョージがため息混じりに頭を振った。


海兎シーラビットでしたら、確かに。しかし、あのモンスターを飼い慣らすような人間がいるのでしょうか?」

 シグナルが訝しがる。


「僕も噂でしか聞いたことないんだが。。。国が離れているからね。。。こちらの海域の海賊が、たまにモンスターで興行していると聞いたことがあるんだ。船で飼っているモンスターを使ってね。」

 

「それだったら、海水で良いじゃん。どうして真水にするの?」

 僕は不思議に思った。


「あぁ。自分たちの飲み水をモンスターに作らせるんだよ。たぶん寄港した際に真水を仕入れて、足りない分を海水からモンスターに作らせる。真水で飼い慣らされたモンスターの中には、海水を真水にするヤツがいるんだよ。」

 ジルが応える。


「それで、偶然、王女様の首に乳魔蛭ミルクリーチが?」

「たぶんそんなとこだろう。」



 運が悪い。。。そんな言葉では表せないだろうな。。。



 長い沈黙を破ったのは、王女だった。


「ふふっ。皆様。そんなに難しい顔をなさらないで。私のワガママから始まったこと。自業自得ですわね。それに、こうして助けて頂き、皆様と巡り会えましたもの。楽しかった思い出も、苦しかった思い出も、全て今に繋がっているのですわ。私、今とても心穏やかですの。それってとても幸せな事ですわ。」


 僕を優しく撫でるその指からは、穏やかな感情が伝わってきた。




「ねぇ。その海賊って取り締まれないの?危ないじゃん。」

「アル?君は運良く7つの海を越えてきたかもしれないが。。。海にはモンスターもいる。危険なんだ。海賊の中には魔人がいたりして、どの国も海軍を作ることもしない。海上で起こる揉め事は目を瞑っているのが、現状なんだ。だから、海賊も港ではあえて揉め事を起こさない。暗黙の了解だ。」

 ジョージが渋りながら話をした。


 ガウディも力なく首を振っている。


「えぇ?ダメなの?シグナルはどう思う?」

「まぁ、我々に海軍を作れということでしたら、問題はありませんが。。。人間界への干渉をしないとお決めになったのは陛下です。それでもお望みになるのでしたら、人間界の国々を説得する必要があるかと。」

 もっともな回答が帰ってきた。


「そうかぁ。そうだったーーー!!自分で言ったよね?いきなり約束を自分で破るとか。。。ダメだよな。。。それにな。他の国の王様とか知らないしな。。。地道にまわってみようかな。」

 僕が一人ブツブツと身体を揺らして考え込んでいると、


「ふふっ。くすぐったいですわ。」

 王女ジェーンが手を震わす。


「ごめん。ごめん。王女様の手の上だった。。。つい考えごとしちゃうと忘れちゃうんだよね。」

「うふふ。構いませんわ。」

 ジェーンが僕の角をつついて遊ぶ。



「まぁ、緑の国としては、海上は不可侵領域としているから、魔王軍が海軍を出しても、何も言わないかな。もし、それを足がかりに攻め入るのであれば問題だが、海賊を取り締まる側だろ?願ったり叶ったりまでは行かないまでも、助かることは認めるよ。」

 ジョージは真面目な顔で話をしてくれた。


「白の国としても、有り難いと言わざるを得ないであろうな。海上の揉め事は何も海賊同士だけではないからな。当然、商船や旅客船も狙われる。敵はモンスターだけではない。それ故に海の発展がなかったのであろうからな。」

 ガウディも賛成してくれた。



「じゃ、魔界に戻って、みんなとも相談してみるね。船が造れるかどうかも分かんないし。。。人間界にいる海のモンスター達にも話を聞いてみたりしてさ。もし、海軍を作るかもってなったら、真っ先に相談にくるね。」

「あぁ。分かった。」

「何とも行動的な魔王殿であるな。」



 非公式ながら、二国の了承を貰うことができた。


 

(なんだかんだいって、好き勝手に”魔王”やり始めてるな。)

 そんなことをふと思ったのであった。

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